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「父」現る(ユーリ視点)
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「ランドール殿っ!話を聞け!」
前方から絶え間なく光球が向かってくる。
私の放つ、魔力を帯びた氷の礫で霧散しているが、お互いに魔力を削り合うだけの不毛な戦いだ。
早く止めさせて、話し合いをしたい。
◆
ミツリくんが突然、窓に開けられた大穴から連れ去られ、部屋に残された私たちは顔面蒼白になった。
連れ去った相手はミツリくんの父親ランドール。
名の知れた最強魔術師、敵に回すと最悪な魔術師だ。
彼がこちらの様子を全て知っているかのようなタイミングで現れた事も、驚きだった。
「ご、ごめんね。ランドールからミツリの事を頼まれていたから、僕と一緒にいる時は、大抵、会話は彼に筒抜けなんだ。」
「リチャード、どういう事だ?!」
「だからさ、ランドールはミツリと離れて暮らしているから、彼女の成長が分かるように僕が昔、提案したんだよ。僕との会話をランドールが聞けるように、収音して流すんだ。」
そういうとリチャードは、首から下げているロケットを取り出した。
「この中が集音装置で、僕とミツリの声が聞こえる場所だけで反応するようになっている。僕が久しぶりにミツリと一緒にいるから、気になったんだろうね。イシュタニアに居たら、僕らの会話は聞こえないし、ランドールは慌てて日本に来たんじゃないかなぁ。」
「それでは、この辺りをランドール殿がいつもウロウロしていたと言うことか?」
「そうなるかな。でも、距離が離れていても、異世界でなければ結構聞こえるから、意外と遠くに居たかも知れないけど。」
さっきのあのタイミングで現れるなんて、いつも近くにいたに違いない。
こっちの様子が、あの魔術師に全て把握されていたなんて。
「僕はさぁ、早くランドールにミツリと会って欲しかったから、こんなタイミングでも良かったとさえ思っているよ。ミツリは連れ去られたけど、ランドールと居たら絶対に無事でしょ。心配ないよ。」
「それは、このままずっとシードが居なくても良いと言うことか?」
「僕はそんな事言ってないよ。もー、ユーリ殿下は記憶を無くしたら急に話しづらくなったね。王宮の役人みたいだよ。」
「私は‥シードを失いたくない、だけだ‥。」
シリルがリチャードを止めに入っている。
流石にこれ以上言い合いが続くのは、お互いの立場的に良くない。
「ユーリ、追いかけたかったら追いかけろよ。遠くに行かれたら、それこそ取り戻せなくなるぞ。」
カイゼルの声に我を取り戻す。
そうだ、追いかけないと失ってしまうかも知れない。
ずっと、待っていたシードだと言うのに。
「どっちだ?‥どこへ行った‥?」
集中して、使い魔を出来るだけ多く操れるよう、意識を整える。
!!!
何故か使い魔ではない、私の魔力の名残を感じるものが、そこにはある。
私は、何かに力を込めたのだろうか?
気になる、それを手にして、見てみたい。
「行ってくる。」
私は惹かれるままに、その魔力の名残を目指して部屋を後にした。
◇◇◇
魔術で身体機能を上げ、ビルの谷間を飛び越えながら移動していく。
夜の暗闇をこうして高い場所から眺めると、煌めく街の色彩が私の足元で移り変わり、自然と心は高揚する。
街明かりに、心が弾むようになるとは、この世界に来たときには考えられなかった。
沢山の人、薄汚れた空気。
私利私欲に溢れた街の明かりを、目障りだと感じた。
今は、こうして眺めていると、小さな頃に読んだ絵本を思い出す。
星から星へと渡り、旅する少年の話を。
星の数だけ、命の輝きがあるのだと教えてくれた、あの本の事を。
経験が、思い出が人の心を変えるなら、記憶を無くした今の私は、不完全と言えるのではないか?
私という人間は変わらない筈なのに、何故か不安なのは、忘れた過去に、大切な何かを得ていたからなのか?
私なのに私が分からない。
私はいつか‥、私を取り戻せるのだろうか?
前方から絶え間なく光球が向かってくる。
私の放つ、魔力を帯びた氷の礫で霧散しているが、お互いに魔力を削り合うだけの不毛な戦いだ。
早く止めさせて、話し合いをしたい。
◆
ミツリくんが突然、窓に開けられた大穴から連れ去られ、部屋に残された私たちは顔面蒼白になった。
連れ去った相手はミツリくんの父親ランドール。
名の知れた最強魔術師、敵に回すと最悪な魔術師だ。
彼がこちらの様子を全て知っているかのようなタイミングで現れた事も、驚きだった。
「ご、ごめんね。ランドールからミツリの事を頼まれていたから、僕と一緒にいる時は、大抵、会話は彼に筒抜けなんだ。」
「リチャード、どういう事だ?!」
「だからさ、ランドールはミツリと離れて暮らしているから、彼女の成長が分かるように僕が昔、提案したんだよ。僕との会話をランドールが聞けるように、収音して流すんだ。」
そういうとリチャードは、首から下げているロケットを取り出した。
「この中が集音装置で、僕とミツリの声が聞こえる場所だけで反応するようになっている。僕が久しぶりにミツリと一緒にいるから、気になったんだろうね。イシュタニアに居たら、僕らの会話は聞こえないし、ランドールは慌てて日本に来たんじゃないかなぁ。」
「それでは、この辺りをランドール殿がいつもウロウロしていたと言うことか?」
「そうなるかな。でも、距離が離れていても、異世界でなければ結構聞こえるから、意外と遠くに居たかも知れないけど。」
さっきのあのタイミングで現れるなんて、いつも近くにいたに違いない。
こっちの様子が、あの魔術師に全て把握されていたなんて。
「僕はさぁ、早くランドールにミツリと会って欲しかったから、こんなタイミングでも良かったとさえ思っているよ。ミツリは連れ去られたけど、ランドールと居たら絶対に無事でしょ。心配ないよ。」
「それは、このままずっとシードが居なくても良いと言うことか?」
「僕はそんな事言ってないよ。もー、ユーリ殿下は記憶を無くしたら急に話しづらくなったね。王宮の役人みたいだよ。」
「私は‥シードを失いたくない、だけだ‥。」
シリルがリチャードを止めに入っている。
流石にこれ以上言い合いが続くのは、お互いの立場的に良くない。
「ユーリ、追いかけたかったら追いかけろよ。遠くに行かれたら、それこそ取り戻せなくなるぞ。」
カイゼルの声に我を取り戻す。
そうだ、追いかけないと失ってしまうかも知れない。
ずっと、待っていたシードだと言うのに。
「どっちだ?‥どこへ行った‥?」
集中して、使い魔を出来るだけ多く操れるよう、意識を整える。
!!!
何故か使い魔ではない、私の魔力の名残を感じるものが、そこにはある。
私は、何かに力を込めたのだろうか?
気になる、それを手にして、見てみたい。
「行ってくる。」
私は惹かれるままに、その魔力の名残を目指して部屋を後にした。
◇◇◇
魔術で身体機能を上げ、ビルの谷間を飛び越えながら移動していく。
夜の暗闇をこうして高い場所から眺めると、煌めく街の色彩が私の足元で移り変わり、自然と心は高揚する。
街明かりに、心が弾むようになるとは、この世界に来たときには考えられなかった。
沢山の人、薄汚れた空気。
私利私欲に溢れた街の明かりを、目障りだと感じた。
今は、こうして眺めていると、小さな頃に読んだ絵本を思い出す。
星から星へと渡り、旅する少年の話を。
星の数だけ、命の輝きがあるのだと教えてくれた、あの本の事を。
経験が、思い出が人の心を変えるなら、記憶を無くした今の私は、不完全と言えるのではないか?
私という人間は変わらない筈なのに、何故か不安なのは、忘れた過去に、大切な何かを得ていたからなのか?
私なのに私が分からない。
私はいつか‥、私を取り戻せるのだろうか?
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