未完成のビリーフ

紫苑色のシオン

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幕間 とある夜

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 今日は月が細い三日月になっている。あの時の夜に比べて外は暗い。夜なのだから暗いのが当然といえば当然なんだけども、あの時の夜は満月で夜にしては明るすぎたのだ。
 さて、今日も私は夜の街に散歩に出かける。公園の方とは逆の、前回行かなかった方角に行くことにした。こっちの道は普段通学するときに使っている道で、通いなれた道だ。しかしこの道を歩く時は決まって日中だ。精々、買い物で遅くなった時の太陽が沈みそうな黄昏時ぐらいだ。今日はそんな道も暗く、普段とは全く違う顔を私に見せる。何だか違う道に見えてくる。
 鼻歌交じりに夜道を歩く。こちらの方角には交番といったものはないので、見回りしている警察に見つかる以外は心配する必要もないだろう。どこかで鈴虫の鳴き声やよくわからない鳥の鳴き声がする。これもまた夜道ならではなのだろう。
 今日は恐らくだが、父は朝まで帰ってこないはずだ。であれば家に居たところで私に何も影響などはないのだが、父が家に居るとこんな時間に外を出歩くことは許されない。鬼のいぬ間に洗濯ではなく散歩。ちょっとした私の反抗期だ。
 先日の散歩では予想外に父が早く帰ってきたために目的だった公園の池を断念したわけなのだけど、あの後がまぁ、大変だった。父に家を抜け出したのがバレたものだからそれはそれはもう、こっぴどく怒られたものだ。父は一度怒ると手を付けられないから、困ったものだ。今日だって、夕食に醤油差しを調理に使った為にキッチンに置いたままで、テーブルに置き忘れただけで怒るもの。短気って怖い。
 その点彼はどうだろうか。彼が怒るところというのを想像できない。どんなことで彼の琴線に触れることが出来るのだろうか。
 そんな妄想をしていた時だ。藍色のロングスカートのポケットの中でスマホがブーッと振動した。まさか父が家に帰ってきたのかと思ったけど、見てみると篠崎部長からの連絡だった。

『夏休み中の部活は平日の十三時からにします。一年生の沢藤の連絡先を知らないので沢藤への連絡をお願いします』

 部長なのに部員の連絡先を知らないとはこれ如何に。そして何を根拠に私が沢藤君の連絡先を知っていると考えたのだろうか。知っているけども。
 そこで私は年端も行かない少女の様な悪戯が思いついた。この連絡を彼にしないというものだ。根本が真面目な彼のことだ。きっと夏休み初日の午前中に部室に来ることだろう。意図的に連絡しなかったとなると彼も怒るのではないだろうか。
 そんな悪戯を考えている時間が非常に楽しかった。妄想に耽っているといつの間にやら普段は入らないような道に入ってしまっていた。街灯が少なく、人通りも少ない。非常に犯罪に向いてそうな道だった。それでも私はお構いなしに進む。
 ここで何かしらの犯罪に巻き込まれるのならそれはそれで構わない。と考えていた。私は自己防衛本能が弱いのかもしれない。
 まぁ、それも仕方ないか。そうなったらそうなったで、その時はその時だ。それよりも夏休み初日の彼の反応を楽しみしていよう。

 幕間 とある夜 終
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