悪役令嬢は推しを愛でるのに忙しいので婚約破棄して構いません!~『推し活工房』を作って聖遺物を販売中!

水月

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16 悪役令嬢、未来の自由を宣告される

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 中庭の奥まった場所に呼び出された私は、かつてない戦慄を感じていた。  
 目の前に立つのは、王太子エドウィン殿下。

 アルマデリアの婚約者で、原作通りだと私を処刑台へ送るはずの男。 

「アルマデリア、正直に話してくれ」  

 殿下の金色の瞳には、怒りではなく、どこか哀愁に満ちた静寂が宿っていた。 

「お前は……私との婚約を、心から望んでいるのか?」 

 ――来た。
 ついに断罪のターン!? 
 ここで嘘をついたら、即バッドエンド直行かもしれない。  

 沈黙が広がる中、私は覚悟を決めた。偽りの愛は、もういらない。

「……いいえ、殿下。私は、貴方を一国の主として尊敬しております。けれど、それは男女の愛とは違う色をしています」  

 殿下は一瞬目を見開き、そして――憑き物が落ちたような、清々しい笑みを浮かべた。 

「やはりな。実は私も……同じなんだ」
 
「えっ?」

 殿下は私の隣に立ち、同じ空を見上げた。 

「私たちは、家という名の鎖で繋がれた戦友だった。だが、お前が自分の道を見つけ、輝き始めてから気づいたんだ。……私も、自由になりたい、と」  

 殿下が告げた提案は、私の宇宙をひっくり返すような衝撃だった。 

「一年後の婚約披露パーティ。あの場を、私たちの関係を、円満に解消する場にしよう。残りの一年で、周囲を納得させるための地盤を固める。お前と、私の自由のために」 

「殿下……」  

 私は思わず、彼の制服の袖を掴んだ。 

「お前は、自分の幸せを掴め。私も、お前のような情熱を注げる相手を、自らの手で探してみたい」  

 それは、原作の断罪よりもずっと残酷で、ずっと美しい救済の宣告だった。 
 
 ああ……これが本当の破滅回避。
 お互いを憎み合うのではなく、尊重し合うことで、運命の歯車が全く別の旋律を奏で始めたんだわ……!

「殿下。私たちは恋人にはなれませんでしたが、互いの自由を最も尊重し合う、最高の共犯者にはなれましたわね?」



 事務室を、夕暮れの斜光が赤く染め上げた。
 ペンを置く音さえもが、ひどく場違いに響くほどの静寂の中、 レイナルドは相変わらず、隙のない姿勢で書類を点検している。

 一年。あと一年で、私は自由になる。

 その時、私は彼に、公爵令嬢としてではなく、一人の女として向き合えるのだろうか。 

「アルマデリア様。……また、上の空ですね。もしや、仕事に疲れが?」 

「あ……ごめんなさい。あまりにレイナルド卿が仕事熱心なもので」  

 誤魔化す私に、レイナルドはふっと視線を落とし、小刻みに揺れる声で言った。 

「……貴女に、認められたいと思っているのは、私の方かもしれません」 

「え?」 

「貴女の事業、貴女の強さ。それらを間近で見ているうちに……私も、それなりにふさわしい監督役でありたいと願うようになったのです。一人の、人間として」

 その言葉は、どんな甘い愛の囁きよりも深く、私の心臓を貫いた。 
 何、今の殺傷能力高すぎるセリフ!? 
 自覚のない推しからの直接攻撃を受けたら、魂が昇天する!

「……期待、していますわ。レイナルド卿。私を、もっと厳しく、そして優しく見ていてください」  

 一年後の自由に向けて、私の恋および推し活は、もはや制御不能の熱狂へと突入しようとしていた。
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