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ギルド
スライムがいない
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オスカーさんが立ち上げるギルドの拠点、バルツァー公爵領都のギルドハウスで最初の一夜が更けようとしています。
あれから、ひととおりお屋敷の中を見終わると、日が傾き空がオレンジジ色に染まり始めました。
とにかくこのお屋敷には、価値のある物どころか日用品もほぼ残っていないし、お掃除道具もありません。
オスカーさんと一緒に暫しの間途方に暮れて、とりあえず今日の晩ご飯と明日の朝食を屋台で買い求め、二階の広いお部屋に野営用のテントを張ることにしました。
「まさか、今日もテントの中で寝袋の世話になるとは……」
オスカーさんが『アイテムボックス』から、さっき買った肉串と丸パン、温かい芋のスープを取り出して渡してくれます。
「しょうがないです。箒もモップも雑巾すら見つかりませんでした」
「クルト。すまない。まさかこんなことになるとは思わなかった」
オスカーさんは大きな背中を丸めて、ご主人に叱られた大型犬みたいな顔でぼくに謝りました。
「いいえ。オスカーさんには感謝しています。ぼくみたいな身元不明な子供を引き取ってくれたことも、クルトという名前を与えてくれたことも」
フーフーとスープを冷まして一口コクリと飲むと、優しい味が口いっぱいに広がります。
オスカーさんは、自分のギルドに誘ってくれただけでなく、ぼくに新しい名前を付けてくれました。
ただ……その由来はまだ納得できてません!
ぼくの茶色の髪の毛がクルクルとした巻き毛だから、クルトだなんて安直すぎます。
でも、顔に散らばるそばかすをもじって名前を付けられるよりはマシかもしれない。
「明日は、必要な日用品と掃除道具を買いに行こう」
「はい! ぼくも頑張ってお掃除します」
明日一日で、お屋敷全部掃除するのは無理だから、キッチンとトイレ、そしてぼくたちが寝泊まりしているこの部屋を綺麗にすることにします。
馬車の移動が続き、やっと辿り着いたギルドハウスの惨状にぼくたちの心身の疲労はピークを迎え、寝袋に入った途端爆睡してしまいました。
ピチピチと小鳥が鳴く声で目が覚めました。
「ううーん」
ぼくの体には大きな寝袋の中でゴロリと寝返りをうって、上半身をググーッと伸ばして起き上がります。
ゴソゴソと寝袋が脱出して、隣で寝ているオスカーさんを起こさないようにテントからモゾモゾと這い出ました。
「……トイレ」
まだ、寝ぼけたままで扉を開けてペタペタと靴も履かずに埃だらけの廊下を歩き、昨日のうちに確認しておいたトイレの扉を開けて中に入りました。
「……」
「……」
「……あれ?」
用を足した後、トイレの魔道具にかろうじて残っていた魔石に手を当てて水洗機能を作動させたけれど、なんか違和感があったような?
ぼくは、顔をくちゃっと顰めてトイレの中を覗き込んでみました。
「……」
「……うわわわわあああああっ!」
ぼくはトイレから飛び出して、ズダダダダンと大階段を走り降り、一階のトイレの扉を開け放ちその中を覗き込み……。
「そんな……」
あまりな事態に頭を抱え込んで唸っているところを、オスカーさんに見つかった。
「いったい朝からどうしたんだ、クルト? ああ、足の裏が真っ黒だよ」
オスカーさんがぼくの足に生活魔法の【清潔】をかけてくれ、そのままひょいと抱き上げてしまった。
「わわわ! オスカーさん」
「とりあえずテントまで戻ろう。この汚い廊下を歩いたらまた足が真っ黒になってしまうよ」
オスカーさんは爽やかな笑顔でぼくの体を立て抱きにすると、階段を軽々と昇っていった。
嬉しいけど……ちょっと悔しい。
テントの中でオスカーさんが『アイテムボックス』からお茶とパンを取り出して、朝ご飯の準備をしてくれる。
「さあ、食べよう」
「……はい」
丸パンをひとつ手に取り、真ん中から割ってバターと果実のジャムを塗ってあーんと齧る。
オスカーさんは、細長いパンにお肉と野菜の葉っぱとお芋が挟んであるボリューミーなパンを大きな口で咀嚼していた。
お互いお腹を満足させて、ゆっくりとお茶を啜りだす。
「ところで、朝からクルトは何を騒いでいたの? 怖い夢でも見た?」
「ち、違いますっ。そんな子供じゃありません! あ、そうだ! たいへんですよ、オスカーさん」
「ん?」
「このお屋敷には……スライムが一匹もいないんです!」
「!」
オスカーさんは驚きのあまり口に含んでいたお茶をブーッと吐き出した。
ええーっ、汚いですよ、オスカーさん。
口からダラダラ溢れたお茶をタオルで拭いて、オスカーさんはぼくを連れて二階、一階のトイレを確認し、そのまま外に出て裏庭に回り井戸の中を覗き込む。
「うーん。ここはそもそも使われていなかったのかな? 水はあるみたいだけど」
木板の蓋も朽ちてボロボロだったし、水を汲む桶に穴も開いている。
「ここにもスライムはいないな」
オスカーさんが沈んだ声を零して、ノロノロと裏庭の端に設置されている浄化槽へと歩いていく。
待ってください、ぼくも行きます。
トテトテとオスカーさんの背中を追っていくと、浄化槽の蓋を開けて中を覗き込んでいた彼が膝から崩れ落ちた。
「いない・・・。やっぱり・・・いない」
どうやら、このお屋敷にはスライムが一匹もいなかったみたいだ。
え? どうするの?
あれから、ひととおりお屋敷の中を見終わると、日が傾き空がオレンジジ色に染まり始めました。
とにかくこのお屋敷には、価値のある物どころか日用品もほぼ残っていないし、お掃除道具もありません。
オスカーさんと一緒に暫しの間途方に暮れて、とりあえず今日の晩ご飯と明日の朝食を屋台で買い求め、二階の広いお部屋に野営用のテントを張ることにしました。
「まさか、今日もテントの中で寝袋の世話になるとは……」
オスカーさんが『アイテムボックス』から、さっき買った肉串と丸パン、温かい芋のスープを取り出して渡してくれます。
「しょうがないです。箒もモップも雑巾すら見つかりませんでした」
「クルト。すまない。まさかこんなことになるとは思わなかった」
オスカーさんは大きな背中を丸めて、ご主人に叱られた大型犬みたいな顔でぼくに謝りました。
「いいえ。オスカーさんには感謝しています。ぼくみたいな身元不明な子供を引き取ってくれたことも、クルトという名前を与えてくれたことも」
フーフーとスープを冷まして一口コクリと飲むと、優しい味が口いっぱいに広がります。
オスカーさんは、自分のギルドに誘ってくれただけでなく、ぼくに新しい名前を付けてくれました。
ただ……その由来はまだ納得できてません!
ぼくの茶色の髪の毛がクルクルとした巻き毛だから、クルトだなんて安直すぎます。
でも、顔に散らばるそばかすをもじって名前を付けられるよりはマシかもしれない。
「明日は、必要な日用品と掃除道具を買いに行こう」
「はい! ぼくも頑張ってお掃除します」
明日一日で、お屋敷全部掃除するのは無理だから、キッチンとトイレ、そしてぼくたちが寝泊まりしているこの部屋を綺麗にすることにします。
馬車の移動が続き、やっと辿り着いたギルドハウスの惨状にぼくたちの心身の疲労はピークを迎え、寝袋に入った途端爆睡してしまいました。
ピチピチと小鳥が鳴く声で目が覚めました。
「ううーん」
ぼくの体には大きな寝袋の中でゴロリと寝返りをうって、上半身をググーッと伸ばして起き上がります。
ゴソゴソと寝袋が脱出して、隣で寝ているオスカーさんを起こさないようにテントからモゾモゾと這い出ました。
「……トイレ」
まだ、寝ぼけたままで扉を開けてペタペタと靴も履かずに埃だらけの廊下を歩き、昨日のうちに確認しておいたトイレの扉を開けて中に入りました。
「……」
「……」
「……あれ?」
用を足した後、トイレの魔道具にかろうじて残っていた魔石に手を当てて水洗機能を作動させたけれど、なんか違和感があったような?
ぼくは、顔をくちゃっと顰めてトイレの中を覗き込んでみました。
「……」
「……うわわわわあああああっ!」
ぼくはトイレから飛び出して、ズダダダダンと大階段を走り降り、一階のトイレの扉を開け放ちその中を覗き込み……。
「そんな……」
あまりな事態に頭を抱え込んで唸っているところを、オスカーさんに見つかった。
「いったい朝からどうしたんだ、クルト? ああ、足の裏が真っ黒だよ」
オスカーさんがぼくの足に生活魔法の【清潔】をかけてくれ、そのままひょいと抱き上げてしまった。
「わわわ! オスカーさん」
「とりあえずテントまで戻ろう。この汚い廊下を歩いたらまた足が真っ黒になってしまうよ」
オスカーさんは爽やかな笑顔でぼくの体を立て抱きにすると、階段を軽々と昇っていった。
嬉しいけど……ちょっと悔しい。
テントの中でオスカーさんが『アイテムボックス』からお茶とパンを取り出して、朝ご飯の準備をしてくれる。
「さあ、食べよう」
「……はい」
丸パンをひとつ手に取り、真ん中から割ってバターと果実のジャムを塗ってあーんと齧る。
オスカーさんは、細長いパンにお肉と野菜の葉っぱとお芋が挟んであるボリューミーなパンを大きな口で咀嚼していた。
お互いお腹を満足させて、ゆっくりとお茶を啜りだす。
「ところで、朝からクルトは何を騒いでいたの? 怖い夢でも見た?」
「ち、違いますっ。そんな子供じゃありません! あ、そうだ! たいへんですよ、オスカーさん」
「ん?」
「このお屋敷には……スライムが一匹もいないんです!」
「!」
オスカーさんは驚きのあまり口に含んでいたお茶をブーッと吐き出した。
ええーっ、汚いですよ、オスカーさん。
口からダラダラ溢れたお茶をタオルで拭いて、オスカーさんはぼくを連れて二階、一階のトイレを確認し、そのまま外に出て裏庭に回り井戸の中を覗き込む。
「うーん。ここはそもそも使われていなかったのかな? 水はあるみたいだけど」
木板の蓋も朽ちてボロボロだったし、水を汲む桶に穴も開いている。
「ここにもスライムはいないな」
オスカーさんが沈んだ声を零して、ノロノロと裏庭の端に設置されている浄化槽へと歩いていく。
待ってください、ぼくも行きます。
トテトテとオスカーさんの背中を追っていくと、浄化槽の蓋を開けて中を覗き込んでいた彼が膝から崩れ落ちた。
「いない・・・。やっぱり・・・いない」
どうやら、このお屋敷にはスライムが一匹もいなかったみたいだ。
え? どうするの?
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