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初級ダンジョン 探索編
ミアさんの悩み
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そんなこんなでぼくたち「白い輪」ギルドは、しばらく初級ダンジョン攻略を主軸に動いていた。
でも、ダンジョン攻略は地下十階までで足止め状態になっています。
というのも、ぼくがダンジョンでの戦闘に慣れるまではお預け状態なのです。
「なんでよっ。クルトだって魔法で攻撃はできてるんだし、このまま最下層まで進んでもいいじゃない」
「ダメだ。まだクルトは魔法を撃つとき、対象から目を離しているどころか、目をしっかりと瞑っているからだ」
あ、バレてました?
ビアンカさんが「信じられない」と目を剝きだしてこちらを見ている気がするけど、ぼくは死んでも目を合わせません!
「ビアンカ。お前はハズレドロップでうまいメシを食いたいだけだろ? 違う階層で拾うハズレドロップが目的だな?」
ビアンカさんは幼馴染のディータさんにジロリと睨まれて、首をひょいと竦めた。
「だってぇ、あの黒いしょっぱい液体で、あんなに美味しいものが食べられるなんて……じゅるり」
うんうん、和のおじさんご教授のショーガ焼きもから揚げも美味しかったですよね!
最近では、オスカーさんのご実家が贈ってくれた鶏が産む卵を使った目玉焼きにタラリと垂らしてますもんね。
「目的が違うだろ? とにかくもう少しダンジョンに慣れてから最下層に行こう。それに、少し気になることがあるんだ」
最初にダンジョン地下十階のボスモンスターを倒してから十日以上が経ち、すでにボス部屋には三回も挑戦しましたが、ぼくたちのギルドはまだできたてほやほや。
「クルトの戦闘もそうだが、ギルドに一人残るミアのことも考えなければ」
ミアさんはぼくたちがダンジョンに潜っている間は、ギルドハウスで一人で留守番です。
まぁ、発足したてのギルドなので来客者はいないのですが、ギルド職員が訪ねてきたり、ポーションや魔道具を売りに行商人が来たりもしますから。
「そうなんだけどな……ちょっと気にかかることがあって。なぁ、ビアンカ。ミアから相談を受けたりしていないか?」
「相談? いいえ」
ビアンカさんはフルフルと頭を振って答えた。
「ミアとは休みの日もよく一緒にでかけるけど、何も聞いてないわよ。あ、あぁ、でも。ちょっと気になったことはあったわ」
「なんだ?」
「あの子、いつも町では洋服屋とかスイーツとかアクセサリーとか気にするのに、武器屋で足を止めたのよね。ふざけて一緒にダンジョン潜る? て聞いたらすごい考えちゃってて」
ミアさんが武器に興味を持ってダンジョン攻略に誘われて断らなかった?
「変ですね」
ぼくも首を傾げてしまう。
ぼくの知っているミアさんは、年頃の女の子でキレイなものやかわいいものが大好きで、甘いお菓子を食べては「太っちゃう」と体型を気にする人で、冒険者になりたいなんて聞いたことないですけど?
「ギルド職員になって、わざわざ冒険者ギルドの受付になるぐらいだから、まったく興味がないわけじゃないだろうけど、ミア自身が冒険者になるつもりはないと思ってたが……」
オスカーさんも、うむむと眉間にシワを寄せて考えちゃいます。
「そもそも、オスカーはなぜミアのことが気になったんだ?」
ディータさんとビアンカさんが、今もギルドスペースの受付ブースにいるミアさんを気にしながら小さな声で尋ねました。
「……。それが、大したことじゃないんだ。ただ、私たちが順調にダンジョンを攻略しているのに反して、ミアの元気がなくなっていくのに気がついて。まさか、私たちのダンジョン攻略の成功を疎んでいるわけじゃないだろうし」
オスカーさんの言葉にビアンカさんが「当たり前でしょっ!」と即座に反論する。
四人プラスレオで顔を合わせて「ううむ」と唸るけど、答えなんてわかるわけはない。
「ミアさんに直接、尋ねてみたらどうでしょう?」
本人に聞くのが一番早いと思うのです。
ビアンカさんがミアさんを呼んでくる間に、オスカーさんが紅茶を淹れてディータさんがテーブルの準備。
ぼくは、ヨウ、洋のおじさんとお喋りしながらお茶菓子の用意を始めました。
食事の時間でも休憩の時間でもないのに食堂へと連れて来られたミアさんは、不思議そうな顔でぼくたちを見回します。
オスカーさんたちは自然な態度を取っているつもりなのでしょうか?
みなさん挙動不審すぎませんか?
「えっと……仕事中なのに、何かな?」
「まあまあ、座ってください。あ、これお茶菓子です。摘まんでくださいね」
ササッとミアさんの前にお菓子が並べられたお皿を差し出します。
「ありがと……」
キョロキョロ。
ミアさんと視線を合わせないように不自然に逸らすのはやめてくださいよっ。
もう、ぼくがストレートに聞いちゃいますね。
「あの、ミアさん!」
「え? えっと、何?」
猫耳をイカミミにして尻尾をピーンと立てたミアさんは、驚いた顔でぼくへと視線を向ける。
「何か悩み事でもありますか? それとも体の調子が悪いのでしょうか? この頃、元気がないようだとオスカーさんが心配しています」
「ばっ、ちがう! 私じゃない……いや、そうだが……う、うーん」
あれ? 何かぼく、間違ったこと言いました?
「ハハハ。ごめん、ミア。でも、この頃ミアの様子が気になって。何かあるなら相談にのるわ」
ビアンカさんが、ミアさんの隣りの席に座って、優しく肩を抱くと、向かいに立つディータさんが深く頷いた。
「ビアンカ……」
ミアさんは目を大きく見開いてビアンカさんとディータさんを見つめたあと、しおしおと項垂れてしまった。
猫耳もしょんもり、尻尾もだらーんとしてしまった。
「ミア。何かあるなら言ってくれ。なるべく力になるから」
「ギルマス。そ、そうよね。みんなのサポート役のうちが心配かけたらあかんわ」
少しウルウルしていた目を手でゴシゴシと乱暴に擦ったあと、ミアさんは無理にニカッと笑い言い放った。
「実はな、うちの父ちゃん、仕事を……クビになってしもうたんや」
いやいや、ミアさん。
そんな大事なこと、笑って報告するのはやめてください。
ぼくたちの間に微妙な空気がサアーッと流れていきました。
でも、ダンジョン攻略は地下十階までで足止め状態になっています。
というのも、ぼくがダンジョンでの戦闘に慣れるまではお預け状態なのです。
「なんでよっ。クルトだって魔法で攻撃はできてるんだし、このまま最下層まで進んでもいいじゃない」
「ダメだ。まだクルトは魔法を撃つとき、対象から目を離しているどころか、目をしっかりと瞑っているからだ」
あ、バレてました?
ビアンカさんが「信じられない」と目を剝きだしてこちらを見ている気がするけど、ぼくは死んでも目を合わせません!
「ビアンカ。お前はハズレドロップでうまいメシを食いたいだけだろ? 違う階層で拾うハズレドロップが目的だな?」
ビアンカさんは幼馴染のディータさんにジロリと睨まれて、首をひょいと竦めた。
「だってぇ、あの黒いしょっぱい液体で、あんなに美味しいものが食べられるなんて……じゅるり」
うんうん、和のおじさんご教授のショーガ焼きもから揚げも美味しかったですよね!
最近では、オスカーさんのご実家が贈ってくれた鶏が産む卵を使った目玉焼きにタラリと垂らしてますもんね。
「目的が違うだろ? とにかくもう少しダンジョンに慣れてから最下層に行こう。それに、少し気になることがあるんだ」
最初にダンジョン地下十階のボスモンスターを倒してから十日以上が経ち、すでにボス部屋には三回も挑戦しましたが、ぼくたちのギルドはまだできたてほやほや。
「クルトの戦闘もそうだが、ギルドに一人残るミアのことも考えなければ」
ミアさんはぼくたちがダンジョンに潜っている間は、ギルドハウスで一人で留守番です。
まぁ、発足したてのギルドなので来客者はいないのですが、ギルド職員が訪ねてきたり、ポーションや魔道具を売りに行商人が来たりもしますから。
「そうなんだけどな……ちょっと気にかかることがあって。なぁ、ビアンカ。ミアから相談を受けたりしていないか?」
「相談? いいえ」
ビアンカさんはフルフルと頭を振って答えた。
「ミアとは休みの日もよく一緒にでかけるけど、何も聞いてないわよ。あ、あぁ、でも。ちょっと気になったことはあったわ」
「なんだ?」
「あの子、いつも町では洋服屋とかスイーツとかアクセサリーとか気にするのに、武器屋で足を止めたのよね。ふざけて一緒にダンジョン潜る? て聞いたらすごい考えちゃってて」
ミアさんが武器に興味を持ってダンジョン攻略に誘われて断らなかった?
「変ですね」
ぼくも首を傾げてしまう。
ぼくの知っているミアさんは、年頃の女の子でキレイなものやかわいいものが大好きで、甘いお菓子を食べては「太っちゃう」と体型を気にする人で、冒険者になりたいなんて聞いたことないですけど?
「ギルド職員になって、わざわざ冒険者ギルドの受付になるぐらいだから、まったく興味がないわけじゃないだろうけど、ミア自身が冒険者になるつもりはないと思ってたが……」
オスカーさんも、うむむと眉間にシワを寄せて考えちゃいます。
「そもそも、オスカーはなぜミアのことが気になったんだ?」
ディータさんとビアンカさんが、今もギルドスペースの受付ブースにいるミアさんを気にしながら小さな声で尋ねました。
「……。それが、大したことじゃないんだ。ただ、私たちが順調にダンジョンを攻略しているのに反して、ミアの元気がなくなっていくのに気がついて。まさか、私たちのダンジョン攻略の成功を疎んでいるわけじゃないだろうし」
オスカーさんの言葉にビアンカさんが「当たり前でしょっ!」と即座に反論する。
四人プラスレオで顔を合わせて「ううむ」と唸るけど、答えなんてわかるわけはない。
「ミアさんに直接、尋ねてみたらどうでしょう?」
本人に聞くのが一番早いと思うのです。
ビアンカさんがミアさんを呼んでくる間に、オスカーさんが紅茶を淹れてディータさんがテーブルの準備。
ぼくは、ヨウ、洋のおじさんとお喋りしながらお茶菓子の用意を始めました。
食事の時間でも休憩の時間でもないのに食堂へと連れて来られたミアさんは、不思議そうな顔でぼくたちを見回します。
オスカーさんたちは自然な態度を取っているつもりなのでしょうか?
みなさん挙動不審すぎませんか?
「えっと……仕事中なのに、何かな?」
「まあまあ、座ってください。あ、これお茶菓子です。摘まんでくださいね」
ササッとミアさんの前にお菓子が並べられたお皿を差し出します。
「ありがと……」
キョロキョロ。
ミアさんと視線を合わせないように不自然に逸らすのはやめてくださいよっ。
もう、ぼくがストレートに聞いちゃいますね。
「あの、ミアさん!」
「え? えっと、何?」
猫耳をイカミミにして尻尾をピーンと立てたミアさんは、驚いた顔でぼくへと視線を向ける。
「何か悩み事でもありますか? それとも体の調子が悪いのでしょうか? この頃、元気がないようだとオスカーさんが心配しています」
「ばっ、ちがう! 私じゃない……いや、そうだが……う、うーん」
あれ? 何かぼく、間違ったこと言いました?
「ハハハ。ごめん、ミア。でも、この頃ミアの様子が気になって。何かあるなら相談にのるわ」
ビアンカさんが、ミアさんの隣りの席に座って、優しく肩を抱くと、向かいに立つディータさんが深く頷いた。
「ビアンカ……」
ミアさんは目を大きく見開いてビアンカさんとディータさんを見つめたあと、しおしおと項垂れてしまった。
猫耳もしょんもり、尻尾もだらーんとしてしまった。
「ミア。何かあるなら言ってくれ。なるべく力になるから」
「ギルマス。そ、そうよね。みんなのサポート役のうちが心配かけたらあかんわ」
少しウルウルしていた目を手でゴシゴシと乱暴に擦ったあと、ミアさんは無理にニカッと笑い言い放った。
「実はな、うちの父ちゃん、仕事を……クビになってしもうたんや」
いやいや、ミアさん。
そんな大事なこと、笑って報告するのはやめてください。
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