「異世界レシピ」スキルで新人ギルドを全力サポートして、成り上がります!

沢野 りお

文字の大きさ
53 / 85
初級ダンジョン 探索編

ここに住みませんか?

しおりを挟む
ミアさんのお父さんがお仕事をクビになったそうです。

「そ……それは、大変だな」

オスカーさんがへにょんと眉を下げてミアさんに同情した。
孤児院で逞しく育ってきたビアンカさんとディータさんは、「ふーん」と頷くだけ。

「そう……そう大変なんよ。今、住んでいる家は、従業員用の借家だから出ていかないとあかん。そもそも、なんで父ちゃんがクビになるんよ? マジメに働いとったのに!」

バンッと、ミアさんがテーブルに両手を叩きつけた。
ぼくとレオがその大きな音にビクンと体を跳ねさせる。

「ちょっと、聞いてくれる?」

目が血走ったミアさんの勢いに、思わず「はい」と返事をしてしまったこと、ぼくは後悔しました。
怒ったミアさんは、ビアンカさんよりも怖かったです。

ミアさんの話によると、昔かなり腕のいい冒険者だったお父さんは、ある商会の護衛中に護衛対象を守り大怪我を負った。
そのときすぐにポーションや治癒魔法を受けていればよかったのだか、運悪く護衛をしていたギルドパーティーに治癒士はおらず、ポーションは護衛対象に使ってしまっていた。
近くの町まではかなりの距離があり、教会に設置されている治療院に運ばれたときには血が多く流れ、命も危ぶまれるほどだったらしい。

「結局、足の怪我は治ったけど感覚が狂ってしもうた。強い魔物と戦うときには致命傷や。父ちゃんは冒険者を引退することにしたんよ」

ギルドのメンバーには引き留められたらしいが、ちょうど妻が亡くなりまだ幼い娘一人になることに心苦しさを感じていた本人は、スッパリと冒険者を辞めた。
次の職もあちこちで声をかけられたが、問題の護衛をしていた商会の会頭が是非にと申し出て、その商会の倉庫番となった。

そもそも、商会の馬車を襲ってきた強盗は数は多いが、強さはそれ程でもなかった。
なのに、高ランクのギルドだったミアさんのお父さんたちが苦戦したのは、その会頭の息子が、恐怖でパニックになり一人で逃げ出したからだ。
そのせいで、護衛を二手に分けることなってしまったし、乗れない馬に無理やり乗ろうとして馬までパニックになり、散り散りに走ってしまったため、こちらの足が無くなってしまった。

なんとか強盗を倒し、商会の馬車を次の町まで送り届けることができたが、そのバカ息子は自分の行動で勝手に怪我を負ったのにギルドにいちゃもんまでつけたらしい。
その父親の会頭は、このバルツァー公爵領地でも三本の指に入る大豪商で、王都の高位貴族や王族の耳にまで評判が届くほどの傑物だったが、平民であるミアさんのお父さんに頭を下げ真摯に謝罪したらしい。
でも親バカなのは治らず、死ぬまでそのバカ息子の尻ぬぐいをしていたとか。

「そう。そのおじいちゃんが先日亡くなってしもうて。あのバカ息子、これ幸いと商会を好き勝手にしているらしいわ」

本当なら商会の跡を継ぐのは別の人物だったのでは? と噂されているが、急死した会頭の長子であるバカ息子が主張し跡を継いだのだと。
そして、自分にとって目障りな人物は端から解雇しまくっていて、その一人がどうやらミアさんのお父さんだった。

「うちの父ちゃんが命を助けたったのに、それに感謝するどころか、疎ましく思っていたなんて、ちっちゃいやっちゃ!」

それは同意しますけど、問題はこれからのことです。
まず、住んでいるお家は商会の持ち家なので返さなければならない。
つまり、ミアさんたちは住む家を探さないといけないんです。
次にミアさんのお父さんの新しい職探しです。

「それも困ってん。父ちゃんに今さら書類仕事なんて無理やし。かといって客商売に向かん人やし」

とうとう、ミアさんは頭を抱えてしまった。
ぼくたちは、じーっとオスカーさんを見つめる。
ねぇ、どうしますか?

「うん。とりあえず、ミアさえよければ、ここに引っ越してこないか?」

そうです、そうです。
部屋はまだいっぱい空いてますし、三階には家族で住める間取りの部屋もありますよ?
しかも、ぼくが『異世界レシピ』で作る三食おやつ付です!










ミアさんはお父さんをクビにした商会のバカ息子……ああ今は会頭さん? に腹を立てていたのに、ギルドハウスに引っ越しておいでと誘われた途端、目を白黒させて慌てだした。

「ええーっ。そ、それは、うちはただの受付やし。こんなすごいギルドハウスに住むなんて、そんな……そんな……」

「いや。受付でも私たちのメンバーには変わらない。三階の部屋がいいと思うんだが、御父上の足の具合はどうだろう?」

「へあっ? いやいや。父ちゃんの足は生活するのに不便はないんです。ただ、魔物討伐に難があるって本人が言ってるだけで、走れるし階段の上り下りも平気です」

だったら三階の部屋がいいですね。
シャワールームもあるし、ミニキッチンも付いてます。
家族で住んで、ちゃんとプライベートも守れます。

「……でも、父ちゃんまで一緒になんて……。父ちゃんはもう、冒険者できへんのに」

「かまわないよ。元々、メンバーの誰かが家族を持ったら使えばいいと思ってた部屋だし。引退した冒険者を無理やり働かそうなんて思わないよ」

オスカーさんはニッコリ慈悲深い笑顔で、打算なんて一切ありませんって顔をしてます。

「いいじゃない、ミア。そうしなさいよ。もし気になるならお父さんの職が決まって別の家を借りられるまでの間でもいいし」

隣りに座ったビアンカさんがミアさんの背中を押すと、ディータさんもうんうんと頷く。

「しかも……クルトのメシ付きだ」

ディータさんの呟きにミアさんの三角耳がピクピクと反応して、キラーンと瞳が輝きだす。

「そ、そうやね。父ちゃんに相談してみるわ」

「ああ。もう今日はいいから。早く家に帰って御父上の意見を聞いてきてほしい」

ミアさんはガタンと椅子を鳴らして立ち上がると、帰り支度のためいそいそとギルドスペースへと戻っていった。
ちゃっかり、出したお茶菓子を手に持って。

「大丈夫かな? ミアさん」

カチャカチャとカップやお皿の後片付けをしながら、ミアさんの決意に満ちた背中を思い出す。
ミアさんは素早く身支度を整えると、オスカーさんに「必ずここに舞い戻ってきます」と謎の言葉を残して帰っていった。
舞い戻るって、明日また出勤しますよね?
ビアンカさんが大爆笑していたけど、ミアさんの気合の入れ方がすごかったです。

「いやいや。クルトのご飯が食べたいだけよ、あの子」

そうですか? なら、正式にここに住むことになった日は少し頑張ってお料理しますね!

「え? それ、ほんと?」

なんで、ビアンカさんが食いつくんでしょう?

「ちょっと、オスカー。やっぱりハズレドロップ目当てでダンジョンの最下層まで攻略に行こうよーっ」

ああ……また話が振り出しに戻ってしまいました。
でも、ぼくもダンジョン最下層にあるかもしれない、まだ見ぬ新しい調味料や食材が気になります。

オスカーさん、ちゃんと魔法を撃つときに目を開けておくよう努力しますから、ダンジョンに行きませんか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

社畜の異世界再出発

U65
ファンタジー
社畜、気づけば異世界の赤ちゃんでした――!? ブラック企業に心身を削られ、人生リタイアした社畜が目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界。 前世では死ぬほど働いた。今度は、笑って生きたい。 けれどこの世界、穏やかに生きるには……ちょっと強くなる必要があるらしい。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました

たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。 「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」 どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。 彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。 幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。 記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。 新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。 この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。 主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。 ※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。

処理中です...