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国を出ましょう
運に見放されました
しおりを挟むポテン・・・テンテン、と転がるボールもどき。
それにじゃれつく可愛い子猫・・・ではなく子虎・・・ではなくリオネル。
私とルネは馬車で移動中、タオルを丸めたボールもどきで、リオネルとコミュニケーション中です。
別に現実逃避しているわけじゃないもーん!
それより、ボールに集中して飛び掛かるリオネルが怖い。
このまま獣化が解けなかったら、本物の子虎になってしまうのでは?と疑います。
しかし、困ったことになったな・・・。
荷台でアルベールとふたり、地図とにらめっこ。
「この村であの子を下りょして、こっちの道を通りゅ?それとも、森に戻りゅ?」
「森に入るのを見られたら疑われますからね。このまま街道を通り国境を目指しましょう。村では、あの少女がリシュリュー辺境伯の身内だと言わないまま、知らんふりで離れた方が得策ですし」
うん、あの子のことは「鑑定」済です。
紋章が刺繍された鞄を持っていても、辺境伯の家族とは限らない・・・と僅かな希望を持って見たあの子の「鑑定結果」は、リシュリュー辺境伯の3男の長女でした。
「辺境伯の孫娘か・・・。いりょいりょと謎のことはありゅけど、にゃんであんにゃ所にひとりでいたんだりょうね?」
「そういうところですよ!変に首を突っ込まないでください。私たちは通り過ぎの善人でいいんです」
だって、気になるじゃない。
あの子の持っていた紋章入りの鞄は「魔法鞄」だったし、着ているワンピースの生地もレース飾りも一級品だし、髪飾りや耳飾りは小さくても宝石が使われている。
貴族子女として平均的な身なりをしていて、護衛も付けずにひとりで行動して、森に向かう途中で魔獣に襲われるって、どういうこと?
「ほらほら、ここにシワが」
「癖にゃのよっ」
「今までは・・・あっ、もっさり前髪で見えませんでしたからね」
クツクツと意地悪そうに笑うアルベール。
私は自分の両手で眉間を撫で擦りながら、馭者席へと目を向ける。
「辺境伯自身と関わりゅよりは、マシよね?」
辺境伯と対面するなんて、悲惨な状況だけは勘弁してほしい。
私、トゥーロン王国第4王女の存在を覚えているかどうかは不明だが、貴族の中にはクシー子爵のような王族スキーもいるからな。
「どうでしょうかね?いっそ辺境伯自身と向き合うほうが、楽だったかもしれませんよ?」
「にゃんで?」
「んー、私もトゥーロン王国の貴族には詳しくないのですが、辺境伯という役目に合った方で、武人そのものであれば、如何様にも言葉で翻弄できましょう」
あー、脳みそ筋肉、脳筋って奴ね。
辺境伯が脳筋なら、こ狡いアルベールの敵じゃないもん。
「しかし、交渉事に長けた狡猾な方が矢面に立ったら・・・面倒なことになりますね」
「うっ、うーん。街道を旅しゅれば、いくつかの街を通らにゃきゃいけにゃいもんね。人と会って話しゅ機会も増えりゅから、気を付けておかにゃいと」
「そうです。街を通るならば、場合に依っては宿を取り留まることもありますしね。注意しなければいけないのは、この辺りの地域ブルエンヌを治める実力者たちです」
ん?他領とこのリシュリュー辺境伯の領地の境目にある、ブルエンヌ地方を治める実力者たちの何に注意するの?
私が、話のほとんどを分かっていないのに気が付いたアルベールは、片目を眇めてみせた。
「リシュリュー辺境伯の周りには武人が多いでしょう。だからといって全員が頭仕事が苦手な訳じゃないと思います。特にここは。他領と接するブルエンヌ地方は、国境沿いを守る兵士とは別の意味で、守りを固める兵士が必要な場所ですから」
「何に対して?」
「王国内部からですよ。国境は武力で守ればいいですが、王国内の貴族とのやりとりや、怪しい商会との取引、王家からの無理難題とかもありそうですしね。そういった厄介事を持ってきた連中を、ここ、ブルエンヌで篩にかけるんです」
「?別にここでにゃくても、辺境伯の屋敷でしゅればいいじゃん」
「はーっ。辺境伯の厳しい目は、国外に向けられているべきで、中に向けるものではないでしょう。ただでさえ、国軍と匹敵する戦力を有するのですから。下手に辺境伯が対応したら反逆を疑われるだけですよ。だから、いわゆる玄関口で厄介な輩にはお引き取り戴くのです。それも、やんわりと」
「だかりゃ、狡猾にゃ人物で交渉事に長けた人ね・・・」
そんな危ない人には、近づきたくない。
こちとら探られたらボロボロ出まくる、脛に傷を持つ身なのだ!
ふむ。ではあの子をどこかに預けたら、すたこらさっさっと逃げよう。
せめて、ブルエンヌ地方を抜けるまでは休みなく馬車を爆走させよう!
ポーンとリオネルにボールもどきを投げながら、密かに拳を握ってそう決意していた私の耳に、不穏な言葉が入ってきた。
「お嬢。3~4人の馬に乗った騎士がこっちに来るぞ」
「セヴラン!馬車を止めなさい。・・・ああ、お嬢様は本当に運がない・・・」
「うりゅさいっ!あと、ヴィーって呼んでよね、お父さん!」
アルベールが覗いている窓に駆け寄り、外を確認する。
「あーっ、大凶だわ・・・」
こちらに向かって疾走する騎士の鎧には、リシュリュー辺境伯の紋章が輝いていた。
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