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冒険しましょう
囚われた人たちを発見しました
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次から次へと湧き出るゴブリンたちに、最初はやや怯えそのうち嫌気に顔を顰めて奴らを倒していた私でしたが・・・そろそろ感覚が麻痺してきてスンッとした真顔で、黙々と鞭を振るいゴブリン退治をしています。
最奥の手前の分かれ道で、ルネと私は囚われた人たちがいるであろう方へと足を進める。
リオネルは粗方のゴブリンを、特に上位種を片付けたあと、軽い足取りでアルベールの後を追って最奥へと消えていった。
「・・・ルネは私と一緒にいてくださいね」
「はい」
可愛いルネの黒い艶やかな毛がべっとりとゴブリンの体液で汚れているが・・・この子もリオネルと同じで嬉々としてゴブリンを葬っていたっけ。
一見、今のやりとりは大人な私が子供を庇護するようなセリフだったが、本当は逆で、最弱な私のフォローをするために彼女は私と行動を共にしてくれている。
どうか、リオネルのように戦いに夢中になって、ルネが私の側から離れませんように!
決して声には出さずに、私はそう祈りました。
ゴブリンのいない洞窟の中をそろりそろりと進んでいく。
いい加減臭過ぎて、鼻がバカになったのか、ゴブリンの匂いは気にならなくなっている。
先導してくれているルネの周りには、アルベールが出した灯り玉がふたつ、ふよふよと浮かび湿っぽい洞窟の道を照らし私の歩行を助けてくれていた。
「・・・っ」
「・・・ひぃ」
今・・・、奥から呻き声が聞こえましたよ?
ええ、私たちはゴブリンの巣に囚われた人たちを救出に来ているのだから、人の声が聞こえるのは当たり前・・・でも、怖い。
すすっと先を歩くルネの背中に近づいて、必死に悲鳴を嚙み殺す。
なんで、ルネは動揺もしないで平然としているのですか?
むしろ、助ける人を見つけた!とばかりに足を早めるのをやめてください。
怖いんです、まだ心の準備ができてないんです。
あ、待って!先に行かないで!
私は怯えて竦みそうになる足を頑張って動かして、ルネの後を追いました。
「こ・・・これは・・・」
咄嗟にルネの目を両手で隠しましたよ。
何人もの女の人が、それこそ人族も獣人も亜人も関係なく、年齢もまちまちな女性たちが・・・死んでいました。
腹が破れて血だらけだったり、両足の間から流れた血が黒く変色してたり、どの遺体も悲痛な表情で顔を涙で汚していた。
ゴブリンの苗床。
知識としては知っていたけど、こんなに悲惨なんですね・・・。
ルネに背中を向けているように諭して、私は折り重なっている遺体の間をゆっくりと歩く。
彼女たちの遺品を集めながら、生きている人を探していると、山の一角がもぞもぞと動いた気がした。
「誰かいますか?私たちは冒険者です。助けにきました」
こんな状態の女性に男性の私が声を掛けるのはどうかと危惧したけれども、ルネに任せるつもりはない。
この子と外にいるあの子はこんなことを知らなくていいのだ。
「・・・っ、・・・」
もぞもぞと動いているのは、黒いメイド服を着たルネと変わらないぐらいの年代の少女と・・・白いお包みに包まれた赤子だった。
「・・・けて・・・くだ・・・い」
「ああ。ああ、大丈夫ですか?水を飲みますか?あと・・・その赤ちゃんは?」
ゴブリンの子供なのか?生きているのか?
言いたかった言葉を飲み込んで、メイド服の少女の体を両膝を付いて支えてやり、革袋から水を少しずつ口に含ませてやる。
ひと口、ふた口を死に物狂いの形相で飲み込んだあと、深く息を吐いて彼女は話してくれた。
なぜゴブリンの巣に赤子を抱いて囚われているのかを。
お屋敷の偉い人から家族の命を盾に脅されて、奥様の大切な坊ちゃんを屋敷から連れ出し、指定された小屋まで移動していた彼女。
夜遅く街の外を徒歩での移動で、森の近くを通ったとき、魔獣に襲われ気が付いたらゴブリンの巣に閉じ込められていた。
そんな劣悪な中で、自分のせいで罪のない赤子が害される恐怖に怯えながら、命をかけてその子を守ってきたのだ。
でも、もう何日も食べさせてあげてない。
そのうち泣き声もあげなくなり、目も閉じたまま・・・細い呼吸と微かに上下する胸だけが、赤子が生きていることを教えてくれた。
「でも・・・もう・・・。これを・・・これを、坊ちゃんの・・・おうちの・・・」
セヴランは少女から差し出された懐中時計を受け取る。
パカリと蓋を開けると、時を刻む魔道具と蓋の裏に紋章が刻まれている。
「ああ。確かに受け取りました。その赤子もこちらに。外に仲間がいるから、大丈夫です。助かりますよ」
ポンポンと彼女の頭を撫でて、少女の状態にひきつりながらも笑いかける。
「・・・いいえ・・・」
少女は力無く首を左右に振ると、腕に抱いていた赤子をそっとセヴランに。
セヴランが赤子を両手で受け取ると、少女は安心したように笑い、自分のやや膨らんだ腹を撫でた。
「行って・・・。早く・・・」
セヴランは戸惑う。
少女のお腹の膨らみから想像できることは最悪なことで・・・。
でも、少女をここに置いていくわけにはいかないと思う。
「ちょっと待っててください」
赤子をルネに託し、少女は自分が抱いて洞窟を出よう。
そう思い、やや離れたところにいるルネに赤子を頼もうとその場を離れたそのとき・・・。
「・・・っ!あっ・・・ぅぅぅ」
振り向いたセヴランの目に、少女が自分の胸に短剣を突き立てている姿が飛び込んできた。
「いや・・・。うみ・・・くない・・・ゴブ・・・リン・・・こども・・・」
涙を流しながら、震える両手で短剣を握り、少しずつ胸に沈みこませていく少女の慟哭に目を剥きながらルネに赤子を押し付けた。
「ルネ、こっちを向くなよ!いいな!」
常にないセヴランの乱暴な言葉遣いに、耳も尻尾もピーンと立てて、「わ、わかった」と頷くと腕の中の赤子を抱きしめた。
セヴランは、苦しみもがく少女へと足を向ける。
最奥の手前の分かれ道で、ルネと私は囚われた人たちがいるであろう方へと足を進める。
リオネルは粗方のゴブリンを、特に上位種を片付けたあと、軽い足取りでアルベールの後を追って最奥へと消えていった。
「・・・ルネは私と一緒にいてくださいね」
「はい」
可愛いルネの黒い艶やかな毛がべっとりとゴブリンの体液で汚れているが・・・この子もリオネルと同じで嬉々としてゴブリンを葬っていたっけ。
一見、今のやりとりは大人な私が子供を庇護するようなセリフだったが、本当は逆で、最弱な私のフォローをするために彼女は私と行動を共にしてくれている。
どうか、リオネルのように戦いに夢中になって、ルネが私の側から離れませんように!
決して声には出さずに、私はそう祈りました。
ゴブリンのいない洞窟の中をそろりそろりと進んでいく。
いい加減臭過ぎて、鼻がバカになったのか、ゴブリンの匂いは気にならなくなっている。
先導してくれているルネの周りには、アルベールが出した灯り玉がふたつ、ふよふよと浮かび湿っぽい洞窟の道を照らし私の歩行を助けてくれていた。
「・・・っ」
「・・・ひぃ」
今・・・、奥から呻き声が聞こえましたよ?
ええ、私たちはゴブリンの巣に囚われた人たちを救出に来ているのだから、人の声が聞こえるのは当たり前・・・でも、怖い。
すすっと先を歩くルネの背中に近づいて、必死に悲鳴を嚙み殺す。
なんで、ルネは動揺もしないで平然としているのですか?
むしろ、助ける人を見つけた!とばかりに足を早めるのをやめてください。
怖いんです、まだ心の準備ができてないんです。
あ、待って!先に行かないで!
私は怯えて竦みそうになる足を頑張って動かして、ルネの後を追いました。
「こ・・・これは・・・」
咄嗟にルネの目を両手で隠しましたよ。
何人もの女の人が、それこそ人族も獣人も亜人も関係なく、年齢もまちまちな女性たちが・・・死んでいました。
腹が破れて血だらけだったり、両足の間から流れた血が黒く変色してたり、どの遺体も悲痛な表情で顔を涙で汚していた。
ゴブリンの苗床。
知識としては知っていたけど、こんなに悲惨なんですね・・・。
ルネに背中を向けているように諭して、私は折り重なっている遺体の間をゆっくりと歩く。
彼女たちの遺品を集めながら、生きている人を探していると、山の一角がもぞもぞと動いた気がした。
「誰かいますか?私たちは冒険者です。助けにきました」
こんな状態の女性に男性の私が声を掛けるのはどうかと危惧したけれども、ルネに任せるつもりはない。
この子と外にいるあの子はこんなことを知らなくていいのだ。
「・・・っ、・・・」
もぞもぞと動いているのは、黒いメイド服を着たルネと変わらないぐらいの年代の少女と・・・白いお包みに包まれた赤子だった。
「・・・けて・・・くだ・・・い」
「ああ。ああ、大丈夫ですか?水を飲みますか?あと・・・その赤ちゃんは?」
ゴブリンの子供なのか?生きているのか?
言いたかった言葉を飲み込んで、メイド服の少女の体を両膝を付いて支えてやり、革袋から水を少しずつ口に含ませてやる。
ひと口、ふた口を死に物狂いの形相で飲み込んだあと、深く息を吐いて彼女は話してくれた。
なぜゴブリンの巣に赤子を抱いて囚われているのかを。
お屋敷の偉い人から家族の命を盾に脅されて、奥様の大切な坊ちゃんを屋敷から連れ出し、指定された小屋まで移動していた彼女。
夜遅く街の外を徒歩での移動で、森の近くを通ったとき、魔獣に襲われ気が付いたらゴブリンの巣に閉じ込められていた。
そんな劣悪な中で、自分のせいで罪のない赤子が害される恐怖に怯えながら、命をかけてその子を守ってきたのだ。
でも、もう何日も食べさせてあげてない。
そのうち泣き声もあげなくなり、目も閉じたまま・・・細い呼吸と微かに上下する胸だけが、赤子が生きていることを教えてくれた。
「でも・・・もう・・・。これを・・・これを、坊ちゃんの・・・おうちの・・・」
セヴランは少女から差し出された懐中時計を受け取る。
パカリと蓋を開けると、時を刻む魔道具と蓋の裏に紋章が刻まれている。
「ああ。確かに受け取りました。その赤子もこちらに。外に仲間がいるから、大丈夫です。助かりますよ」
ポンポンと彼女の頭を撫でて、少女の状態にひきつりながらも笑いかける。
「・・・いいえ・・・」
少女は力無く首を左右に振ると、腕に抱いていた赤子をそっとセヴランに。
セヴランが赤子を両手で受け取ると、少女は安心したように笑い、自分のやや膨らんだ腹を撫でた。
「行って・・・。早く・・・」
セヴランは戸惑う。
少女のお腹の膨らみから想像できることは最悪なことで・・・。
でも、少女をここに置いていくわけにはいかないと思う。
「ちょっと待っててください」
赤子をルネに託し、少女は自分が抱いて洞窟を出よう。
そう思い、やや離れたところにいるルネに赤子を頼もうとその場を離れたそのとき・・・。
「・・・っ!あっ・・・ぅぅぅ」
振り向いたセヴランの目に、少女が自分の胸に短剣を突き立てている姿が飛び込んできた。
「いや・・・。うみ・・・くない・・・ゴブ・・・リン・・・こども・・・」
涙を流しながら、震える両手で短剣を握り、少しずつ胸に沈みこませていく少女の慟哭に目を剥きながらルネに赤子を押し付けた。
「ルネ、こっちを向くなよ!いいな!」
常にないセヴランの乱暴な言葉遣いに、耳も尻尾もピーンと立てて、「わ、わかった」と頷くと腕の中の赤子を抱きしめた。
セヴランは、苦しみもがく少女へと足を向ける。
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