80 / 271
冒険しましょう
結局、こうなりました
しおりを挟むゴブリンの確認が終わった頃、セヴランがゴブリンの犠牲になった人たちの遺品と例の赤ちゃんを、ギルドの人、アラスの冒険者ギルドのサブマスに渡した。
「かなり犠牲が出たみたいですね。痛ましいことです。それと・・・この赤子ですが、この身元を証明する懐中時計に刻まれた紋章から、ゴダール男爵の家の者ですね」
ゴダール男爵って、跡継ぎ問題で揉めてて周辺との接触を断っている領地を治めている貴族だよね?
しかもセヴランは、その赤ちゃんを連れていた少女から、「偉い人から脅されて、屋敷から連れ出した」って聞いていた。
「・・・面倒事じゃないの」
私は顔を顰めてみせた。
どう考えてもゴブリンの巣にいた平民の赤ちゃんじゃなくて、ゴダール男爵家の跡継ぎに関係のあるやんごとない立場の赤ちゃんが、誘拐の途中でゴブリンの被害にあったってことでしょ。
つまり、この赤ちゃんをお母さんの元に帰すには、部外者をシャットアウトしている男爵領に入り、騒動の渦中にある男爵家に連れて行かないといけない。
「・・・。アルベール!私たちは仕事を終えたのだから、移動しましょう!ギルドの人に後をまかせて、そうしましょう!」
私たちは関係ないもーん。
ゴブリンの巣の掃討作戦だって、私たちには関係ないのに、しっかりと役に立ってあげたんだから、あとは自分たちでなんとかして!
なのに・・・。
「いえいえ。こちらの遺品を遺族に戻す仕事は請け負いますが、こちらの赤子はどうぞそちらで」
グイッと赤ちゃんがセヴランの腕の中に戻ってきてしまった。
「ええーっ!」
「こちらの赤子は貴方がたのいいようにしてください。ゴダール男爵に連れて行き謝礼をもらうでもよし!育てて立派な冒険者にしてパーティーに加えるもよし!旅の途中の孤児院に預けるもよし!です」
ニッコリと笑って言うけど、この人は鬼か?
「孤児院とか、そんなことするわけないでしょ!帰す場所が分かっているんだから、帰すのが正解でしょうよっ!」
「では、そのように?」
「はあっ?」
いかんいかん、この人の態度にムカつき過ぎて、攻撃魔法をぶっ放す寸前だったわ。
私が少し気持ちを落ち着けたのは、肩に置かれたアルベールの手だった。
「つまり、アラスの街も冒険者ギルドもゴダール男爵の問題に関与するつもりはないってことですか?」
「ええ。というより冒険者ギルドでは打つ手がないのですよ。ゴダール男爵領地のギルドは相変わらず問題なしの報告しかあげてこない。そのわりには個人的な連絡は一切取れない。はっきりとギルドの運営に問題があれば力尽くでどうにかできるのですが・・・。今の状態では無理です」
「冒険者ギルドは立ち入れない問題か・・・」
リュシアンが悔しそうに呟く。
ギルドって国を越えた機関で、例えその国の王様でも無理は通さないって流儀なんだけど、反対を言えばその国の内政には関与できないってことなんだよね?
しかも爵位を継ぐ問題なんて、通常はギルドが関わる必要ないもんね。
でも、だからと言って私たちが巻き込まれるのは、もっと別の問題だと思うのよ?
そこへ、クイクイッと私の洋服を引っ張る手が・・・。
「ルネ?」
遠慮がちに私の洋服の裾をちょこんと掴んで、やや潤んだ瞳でじっと見つめる猫耳美少女。
どうした?どうした?
「・・・ヴィー様。あの子・・・お母さんのところに帰してあげたい、です」
ズッキューン!!
なにこの破壊力!
私の胸を撃ち抜いて、リュシアンの胸にまで届いてんじゃないの?
「うん。でもね?その・・・ゴダール男爵ってところが問題でね?」
可愛いからと、なんでも頷くわけにはいかないので、頑張って反論する私。
「お母さん・・・待ってると思います」
「・・・ヴィー。こいつ、もどす」
うん?なんでリオネルまで加勢しだしたの?
はっはーん。
リオネルってば、赤ちゃんがいるとルネが赤ちゃんにかかりっきりで面白くないんだな?
しかし・・・、閉ざされているゴダール男爵領地にどうやって入るのよ?
しかも、この子を戻すと跡継ぎ問題がさらに悪化するんでしょ?
それって・・・。
「今度は・・・暗殺か・・・」
ひぇぇぇぇっ。
恐ろしいことを、ぼそっと言わないでよ!
リュシアンのくせに、なに頭使ってんのよ!
・・・このあと、グジグジと赤ちゃん引き取りを拒否していたが、ルネのおねだり攻撃と、もしこの後赤ちゃんが死んだらと考えて罪悪感が湧いてきちゃったことで・・・。
「じゃあ、よろしくお願いしますね」
なんで、このサブマスは私にターゲットを絞って圧をかけてくるんだろう?
アルベールとかリュシアンにしなさいよっ!
と、内心面白くなかった私に、サブマスは人の悪い笑顔で「あなたが主でしょ」と耳打ちしてきました。
バッと囁かれた方の耳を押さえて、びっくり眼で彼を見る。
「ふふふ。ソロでしか活動しなかった偏屈エルフと、仲間に負わされた傷を持つ野良狼もよろしくお願いしますね」
パチリとウィンクをかまして、ひらりと馬に乗り、颯爽と去っていくサブマス。
ああ・・・やっぱり、あの人性格悪いわ・・・。
そうして、赤ちゃんを連れて旅に出発することになりました。
今日はゴブリン退治で疲れているので、適当な場所で野営して。
明日の朝からゴダール男爵領地へ潜入できる場所を探しましょう。
アルベールとセヴランは、サブマスに貰ったゴダール男爵領地についての情報を精査してね。
はあぁっ、私たちいつになったら安住の地でスローライフを送ることができるのかしら?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次回から、新しい章になります。
仕事が在宅勤務から通常勤務に戻り、更新がますます不定期になりました。
頑張って更新していきますので、どうかよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
7,536
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。