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人助けをしましょう
作戦準備中でした
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馬車の中。
ルネは、お世話をしている赤子のエミールを寝かしつけるため自室に戻っており、リビングにはアルベールとセヴランがくつろいでいる。
ちなみにリオネルは、ヴィーが作ったお菓子を魔獣馬たちに与えながら、自分たちと旅をする注意事項を体で教えていた。
「なんか、ヒン!とかヒヒーンとか、悲しいような苦しいような鳴き声がしてくるんですけど・・・」
「ああ、リオネルがはしゃいでいるんでしょう、気にしないように」
見なきゃいいのに、馬車の窓から外を覗いたセヴランは、リオネルが腰に手を当てて仁王立ちした正面に腰が砕けて立てないで震えている馬二頭の姿が見えてしまった。
すぅーっと窓から目を離し、コクリと紅茶をひと口飲んで心を落ち着けるセヴラン。
「セヴラン」
「いいえ、いいえいいえ!私は何も見ていません」
ブルブルと激しく顔を左右に振る。
「何を言ってるんですか?そうではなく、これからの行動についての相談です」
昨日、闇夜に紛れて冒険者ギルドの周辺を探ったところ、ギルドの隠し部屋である地下室から複数名の魔力が感知できた。
ギルドの周辺には見張り役らしき人相の悪い男たちが居たので、奴らの飲み物に薬を混ぜて眠らせて、その隙にギルドの建物内に侵入。
隠し部屋の位置を確かめて、部屋を施錠している魔道具の設置場所も確認してから、馬車に戻ってきた。
間違いなく、隠し部屋に監禁されているのは冒険者ギルドのギルドマスターとサブマスター、ギルト職員たちだろう。
ヴィーの願いであるエミールを安全にお母さんのところに戻すためには、男爵家乗っ取りを企んでいるナタンたちを排除しなければならない。
そのためにも冒険者ギルドを正常な状態に戻す必要がある。
「なので、まずはギルドマスターたちの解放を目指します」
「それはわかりました。でも・・・見張り役の男たちに薬を盛って大丈夫なんですか?あちらに怪しまれませんか?」
「ふふふ。大丈夫ですよ。奴らは寝ずの番だというのに、度数の高い酒をガブ飲みしてましたからね。ヴィー特製の眠り薬を仕込みましたけど、薬が効いたのか酔いが回ったのか、私でも判断できません」
セヴランは、呆れた顔で大きく息を吐くと肩を竦めてみせた。
「で、私たちはこれからどう動けばいいんですか?」
「リュシアンに町での協力者を集ってもらい、ヴィーの能力で隠し部屋の鍵を壊してもらう。その間はナタンが連れてきた奴らとやり合うことになるでしょうね」
アルベールの眉間にシワが寄る。
「そうすると、ナタンに我々の行動がバレますね。警戒してブリジット様たちを人質に屋敷に立てこもるかもしれません」
「うーん。こちらには正統な次期男爵のエミールがいますが、ブリジット様たちを見殺しにはできませんし」
「怖いこと言わないでくださいよ!そんなことになったらヴィーさんが荒れ狂います」
「ルネもかなりあの赤子に情を移してますから。そうなるとリオネルも一緒になって、益々大惨事です」
大人ふたりは腕を組んでうーんと考え込む。
外からは相変わらず馬たちの悲愴な鳴き声が聞こえてきていた。
「もう!リオネル、静かにして!エミール君がお昼寝から起きちゃうでしょ!」
「!・・・ごめん」
そこには、馬車の横に怯える魔獣馬に挟まれた項垂れる仔虎がいた。
とうとう、お嬢は芋を両手に抱えて、ローズという宿屋の女将と一緒に、調理場で料理を始めてしまった。
おいおい。
しょうがないから残された鍛冶師のガストンと、町の協力者のリスト作成と他のやつらにナタンたちの見張りを頼む。
エリクというガキは、男爵家の庭師が祖父らしく幼い頃から遊び場だったという、屋敷の全体図と内部の間取り図を書かしている。
まだ、町の奴らに男爵夫人が離れの屋敷に捕らわれていることは話さない。
血気に逸った馬鹿に突っ込まれても、こちらの予定が狂うからな。
ま、俺たちの予定も作戦もアルベールが立てるだろう。
俺は言われた所で暴れるだけだ。
「おい、お前さん」
「ん?なんだ?」
ドワーフのガストンが俺の剣を指さして、むむむと顔を顰める。
「この剣はお前さんに、ちぃと合わないのぅ」
「そうだな。間に合わせで使っている。愛剣は一度冒険者を辞めたときに手放したんだ。そもそも真ン中からポッキリ折れちまったし」
ついでに俺の足もザックリと魔獣にやられたが・・・。
無意識に怪我をしていた足を摩る。
「ふうむ。材料さえあれば、ワシが打ちたいぐらいじゃが。あいつらに町を封鎖されて鉱石が手元にないんじゃ」
「俺の剣を打ってくれるのか?」
「ん?お主、なかなか強いじゃろう。ワシの剣は業物じゃぞ?今は隠居がてらゴダール男爵領地に居を構えているが、元は王都で工房ララベルの腕利きじゃ」
「ララベル?あの?冒険者憧れの?王家御用達の?」
むっふんとガストンは胸を張る。
「・・・俺の実力でいいのか?ララベルの剣は鍛冶師が気に入った者にしか作らないと聞いたが・・・」
「だから、お主の剣をワシが作りたいんじゃ!昨日の小僧もなかなか見どころがあると思っている」
うんうんと頷くガストンを見ながら、リュシアンは苦笑した。
小僧とはリオネルのことだろう。
だが、あいつは剣は使わない。
鉄爪も作れるんだろうか?このドワーフの爺さんは。
「そうか。こちらの問題が片付いたら作ってくれ。あー・・・金はどうしようかな?」
ヴィーが聞けば、お金は用意してくれるだろう。
でもな・・・言い出しにくい。
「金はいらん。その代わり鉱山に行って鉱石を取ってきてくれ。ワシの使う鉱石はレアだからな。強い冒険者じゃないと頼めんのじゃ」
「いや、俺たちの冒険者ランクは低いぞ」
一番下だぞ。
「はっ?あんなバケモノ級のお嬢ちゃんを連れていてか?」
ビシッとガストンが指さす方には、菜箸で薄切りにされた芋を摘まんでいるエプロン姿のヴィーがいた。
バケモノ・・・まあ、言い得て妙だな。
ずいぶんとかわいいバケモノだが。
リュシアンは、くすくすと楽しそうに笑い声を上げた。
ルネは、お世話をしている赤子のエミールを寝かしつけるため自室に戻っており、リビングにはアルベールとセヴランがくつろいでいる。
ちなみにリオネルは、ヴィーが作ったお菓子を魔獣馬たちに与えながら、自分たちと旅をする注意事項を体で教えていた。
「なんか、ヒン!とかヒヒーンとか、悲しいような苦しいような鳴き声がしてくるんですけど・・・」
「ああ、リオネルがはしゃいでいるんでしょう、気にしないように」
見なきゃいいのに、馬車の窓から外を覗いたセヴランは、リオネルが腰に手を当てて仁王立ちした正面に腰が砕けて立てないで震えている馬二頭の姿が見えてしまった。
すぅーっと窓から目を離し、コクリと紅茶をひと口飲んで心を落ち着けるセヴラン。
「セヴラン」
「いいえ、いいえいいえ!私は何も見ていません」
ブルブルと激しく顔を左右に振る。
「何を言ってるんですか?そうではなく、これからの行動についての相談です」
昨日、闇夜に紛れて冒険者ギルドの周辺を探ったところ、ギルドの隠し部屋である地下室から複数名の魔力が感知できた。
ギルドの周辺には見張り役らしき人相の悪い男たちが居たので、奴らの飲み物に薬を混ぜて眠らせて、その隙にギルドの建物内に侵入。
隠し部屋の位置を確かめて、部屋を施錠している魔道具の設置場所も確認してから、馬車に戻ってきた。
間違いなく、隠し部屋に監禁されているのは冒険者ギルドのギルドマスターとサブマスター、ギルト職員たちだろう。
ヴィーの願いであるエミールを安全にお母さんのところに戻すためには、男爵家乗っ取りを企んでいるナタンたちを排除しなければならない。
そのためにも冒険者ギルドを正常な状態に戻す必要がある。
「なので、まずはギルドマスターたちの解放を目指します」
「それはわかりました。でも・・・見張り役の男たちに薬を盛って大丈夫なんですか?あちらに怪しまれませんか?」
「ふふふ。大丈夫ですよ。奴らは寝ずの番だというのに、度数の高い酒をガブ飲みしてましたからね。ヴィー特製の眠り薬を仕込みましたけど、薬が効いたのか酔いが回ったのか、私でも判断できません」
セヴランは、呆れた顔で大きく息を吐くと肩を竦めてみせた。
「で、私たちはこれからどう動けばいいんですか?」
「リュシアンに町での協力者を集ってもらい、ヴィーの能力で隠し部屋の鍵を壊してもらう。その間はナタンが連れてきた奴らとやり合うことになるでしょうね」
アルベールの眉間にシワが寄る。
「そうすると、ナタンに我々の行動がバレますね。警戒してブリジット様たちを人質に屋敷に立てこもるかもしれません」
「うーん。こちらには正統な次期男爵のエミールがいますが、ブリジット様たちを見殺しにはできませんし」
「怖いこと言わないでくださいよ!そんなことになったらヴィーさんが荒れ狂います」
「ルネもかなりあの赤子に情を移してますから。そうなるとリオネルも一緒になって、益々大惨事です」
大人ふたりは腕を組んでうーんと考え込む。
外からは相変わらず馬たちの悲愴な鳴き声が聞こえてきていた。
「もう!リオネル、静かにして!エミール君がお昼寝から起きちゃうでしょ!」
「!・・・ごめん」
そこには、馬車の横に怯える魔獣馬に挟まれた項垂れる仔虎がいた。
とうとう、お嬢は芋を両手に抱えて、ローズという宿屋の女将と一緒に、調理場で料理を始めてしまった。
おいおい。
しょうがないから残された鍛冶師のガストンと、町の協力者のリスト作成と他のやつらにナタンたちの見張りを頼む。
エリクというガキは、男爵家の庭師が祖父らしく幼い頃から遊び場だったという、屋敷の全体図と内部の間取り図を書かしている。
まだ、町の奴らに男爵夫人が離れの屋敷に捕らわれていることは話さない。
血気に逸った馬鹿に突っ込まれても、こちらの予定が狂うからな。
ま、俺たちの予定も作戦もアルベールが立てるだろう。
俺は言われた所で暴れるだけだ。
「おい、お前さん」
「ん?なんだ?」
ドワーフのガストンが俺の剣を指さして、むむむと顔を顰める。
「この剣はお前さんに、ちぃと合わないのぅ」
「そうだな。間に合わせで使っている。愛剣は一度冒険者を辞めたときに手放したんだ。そもそも真ン中からポッキリ折れちまったし」
ついでに俺の足もザックリと魔獣にやられたが・・・。
無意識に怪我をしていた足を摩る。
「ふうむ。材料さえあれば、ワシが打ちたいぐらいじゃが。あいつらに町を封鎖されて鉱石が手元にないんじゃ」
「俺の剣を打ってくれるのか?」
「ん?お主、なかなか強いじゃろう。ワシの剣は業物じゃぞ?今は隠居がてらゴダール男爵領地に居を構えているが、元は王都で工房ララベルの腕利きじゃ」
「ララベル?あの?冒険者憧れの?王家御用達の?」
むっふんとガストンは胸を張る。
「・・・俺の実力でいいのか?ララベルの剣は鍛冶師が気に入った者にしか作らないと聞いたが・・・」
「だから、お主の剣をワシが作りたいんじゃ!昨日の小僧もなかなか見どころがあると思っている」
うんうんと頷くガストンを見ながら、リュシアンは苦笑した。
小僧とはリオネルのことだろう。
だが、あいつは剣は使わない。
鉄爪も作れるんだろうか?このドワーフの爺さんは。
「そうか。こちらの問題が片付いたら作ってくれ。あー・・・金はどうしようかな?」
ヴィーが聞けば、お金は用意してくれるだろう。
でもな・・・言い出しにくい。
「金はいらん。その代わり鉱山に行って鉱石を取ってきてくれ。ワシの使う鉱石はレアだからな。強い冒険者じゃないと頼めんのじゃ」
「いや、俺たちの冒険者ランクは低いぞ」
一番下だぞ。
「はっ?あんなバケモノ級のお嬢ちゃんを連れていてか?」
ビシッとガストンが指さす方には、菜箸で薄切りにされた芋を摘まんでいるエプロン姿のヴィーがいた。
バケモノ・・・まあ、言い得て妙だな。
ずいぶんとかわいいバケモノだが。
リュシアンは、くすくすと楽しそうに笑い声を上げた。
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