みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお

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人助けをしましょう

男爵夫人を救出しました

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離れの屋敷の前に着きました。
ここにはセヴランとエリク君が先に来ているはずだし、ローズさんたち町の女性陣も来ている。

ここで、ルネがブリジット様に愛息エミール君をお返しできれば、ゴダール男爵の問題のひとつが片付く。
離れはナタンや仲間の男たちと繰り広げている戦闘の中で、唯一静かな安全地帯のはず・・・だったんだけど・・・、あれ?

「なんで、派手な破壊音が鳴り響いているのかな?」

私は腕を組んで、うーんと考えてみる。
いやいや、ナタンの仲間の男が居て、セヴランと戦闘状態なんだろうけど。

「セヴランひとりで大丈夫かな?あいつ、ボコボコにやられてないかな?」

うーん、困った。
私は対人戦闘をするつもりが無かったから、そんな覚悟はこれっぽちもしてきていない。

今ここで覚悟を決めろ!と言われても、できることとできないことが世の中にはある。
日本の平和ボケした中で、社畜として女30歳までお一人様で頑張ってきた私に、そんなバイオレンスな行動ができるわけがない。

「でも、助けないとセヴランはひとりじゃキツイだろうな・・・」

それに、離れにいる男爵夫人のブリジット様やエリク君、年老いた使用人たちが不安になるだろうし・・・。

「しょーがない。いっちょやりますか!」

覚悟はできないが、この手で直に殴るわけじゃないし、魔法でちょいちょいとやればいいか。
そうそう、リオネルに注意したんだから、やっぱりったらダメだよね~。

私は軽い気持ちで屋敷の扉を開けた。
エントランスにデデーンとある大階段の半ば程で、見るからに悪人の男とセヴランが戦っていた。

「うん、セヴランがやや有利かな?」

手入れのなっていない剣と棘を生やした鞭だったら、鞭のほうがリーチの差があって有利だろう。
セヴランも防御の魔道具のおかげで怪我はしていないし、相手の方は頭からの出血で視界が鈍くなっているし、血の流し過ぎで足取りも怪しい。

「セヴランもいい人だなぁ・・・」

鞭で足元を掬ってしまえば、相手は階段から転げ落ちて上手くいけば失神、下手しても動きを抑えることができるのに。
元商人がゴロツキ相手に、正攻法で戦ってるよ。
鞭が相手の肩、腕、太腿にピシーンピシーンと当たり、呻き声が男の口から洩れる。
セヴランは体力が失っているのか、肩で大きく息をしており、足もほとんど動かない。
ふむ、そろそろ助けてやるか。

「おーい!セヴラン!ヴィー様が助けに来たぞーっ!」

階段の下から大きく手を振って声をかけた。

え?今、相手の剣先を寸で躱して、足が縺れて倒れかかった体を支えるのに鞭を手放してしまったところ?
男がチャーンスとばかりに躱された剣先をクルリと返して、セヴランの首を狙っているなんてことも知らない。

だって、私ってばチート能力持ってるでしょ?
こんなの魔法でちょいちょいだよ!






はあはあ・・・。
そんなに強くはないだろうゴロツキの剣を躱して、たまに足癖が悪いのか蹴りも繰り出してくるから避けて。
逃げてばかりでは倒せないから、複雑な気持ちを押し隠して鞭を振るう。

一度、頭に鞭を当ててしまい内心焦りまくったが、頭部からの出血で相手の視界が悪くなり剣を避けるのが容易になり、助かった。

その後も致命傷になるような傷を与えられないまま、ジリジリとお互いの体力だけが奪われていき、そろそろ覚悟を決めないと・・・でも・・・。

覚悟に心臓が嫌な音を立てて、さらに呼吸が荒くなり、重くなった足は動かなくなって、集中が切れたときに剣先を避けそこなって体のバランスを崩してしまった。

「ああっ」

グラッと崩れた体を支えるために咄嗟に掴んだ階段の手摺。
放してしまった鞭の柄。
避けたはずの剣がクルリと返されて、自分の首を目掛けて迫ってきたそのとき、子供の呑気な声が聞こえた。

「おーい!セヴラン!ヴィー様が助けに来たぞーっ!」

えっ!

「・・・ヴィーさん?」

相手の剣が子供の声に動揺してピタリと止まり、それを手で押しのけて階段下を見ると、腕を腰に当てて仁王立ちしているヴィーさんの姿があった。

「な、なにしているんですか!危ないでしょう。早く逃げなさいっ」

しっしっと手を振り払うと、彼女はぷくっと頬を膨らませて、淑女にあるまじき足取りで階段を駆け上ってきた。
あなた・・・スカートの裾が捲れてますよ。

「ちょっと!助けに来てあげたんだから、もっと喜んだらどうなの?そんなに怪我して。しょーがないわね」

ヴィーさんは腰バッグからポーションを取り出すと、問答無用で私の口に押し当てた。
ゴックン。
ヴィーさんが作ってくれた防御の魔道具のおかげで無傷だったが、相手の攻撃への恐怖がすーっと消えていき、緊張を強いられた中での戦闘で削られていた体力が戻ってきたみたいで、足や手に力が戻ってくる。

「はあーっ」

手をグーパーグーパーしたあと、取り落してしまった鞭を拾う。

「あっ!危ないです、ヴィーさん」

まだ男との戦闘中だったことを思い出し、ヴィーさんの細い体を抱き込むようにして庇う。
相手に背中を見せてしまうが、目の前でヴィーさんが斬られるよりマシだ。
ギュッと彼女の体を抱きしめて、自分の体を小さく縮めて攻撃から守る。

「何してんの、セヴラン?」

「まだ、ダメです。あいつが・・・」

今にも剣を振り下ろすかもしれないのだから。
私の背中が、小さな手でポンポンと叩かれる。

「だーいじょうぶ!魔道具があるし、それにあいつはカチンコチンだよ?」

「は?」

私はそっと体を離して、ヴィーさんの顔を不思議そうに見てみる。

「ほら。カチンコチン」

指差した方向へ振り向いてみると、さっきまで武器でやり合っていた男が直立不動で固まっている。
そして漂う冷たい空気。

「これは・・・」

「うん。危ないから氷魔法で固めちゃった。たぶん、死んでないと思うんだけど」

こてんと可愛らしく首を傾げてみせる少女。

「そうですね。死んではないと思いますよ」

でも、このままだと確実に死んでしまうので、とりあえずこの氷を溶かしてもらってもいいですか?

私のお願いに唇を尖らせて「面倒だなぁ」とか言ってますけど、あなたは対人戦闘が嫌だったんですよね?
人と命のやりとりするのを避けたかったんじゃないんですか?

ええーっと私が衝撃を受けていると、屋敷のエントランスからエリク君が「おーい!助けを呼んできたぞー」と騒がしく入ってきた。
その集団の中には、エミール君を抱っこするローズさんの姿も見えた。
そして、階段を上がった2階の奥の部屋から、ヴィーさんが造ったゴーレムを先頭に男爵夫人の姿も見えた。

「はあーっ、もう、私は疲れましたよ」

その場にどっかりと座り込む私の横にちょこんとしゃがんだヴィーさんは、私の頭をナデナデして「お疲れ様。よくやった。褒めてあげる」と偉そうに言うのだった。

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