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人助けをしましょう

気絶しましたが出発しました

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馬車の中、眠りの国へ旅立ったルネとリオネル以外の私たちは、アルベールの淹れたお茶を無言で飲んでいた。
空気が・・・重い・・・。

「ふうっ」

アルベールがカチャリとカップをソーサーに戻し、ひと息吐く。

「実は、ヴィーに話すのを、どうしようかと迷っていたのですが・・・」

「なに?」

濃い目に入れた紅茶にたっぷりミルクを注いだミルクティーを、フーフーしながら口に運ぶ私。

「先日、アラスの町でギルド会議があったのは知ってますよね?」

私たちは、コクリと頷いた。
先日、アルベールはアラスの冒険者ギルドのギルドマスターのヴァネッサさんとリュイエの町の冒険者ギルドのギルドマスターのヤンさんに誘われて、ギルド会議に参加した。
ナタンたちが持っていた怪しげな魔道具と、ビーストについての調査報告が主だったが、アルベールはそこにトゥーロン王国やミュールズ国の情報を仕入れるのと、私たちの追手がアンティーブ国に入国していないか調べるためでもあった。

「そのとき得た情報については、もう皆さんに報告しましたが・・・。他にもですね・・・」

なんと、例のゴブリンの巣の後始末のときの話らしい。
私がこれ以上荒らされないように巣のあった洞窟を封印してその場を去った後、アラスの町でギルド職員と冒険者たちで後始末と遺体・遺品の回収に訪れたそうだ。

「その冒険者たちの中に、仲間を探しているパーティーがいましてね」

なんでもそろそろ冒険者のランクも上がってきたので、アンティーブ国を出て外国に武者修行に行こうと考えたとある冒険者パーティーは、しばらく故郷に戻ることができなくなるからと出発前に各々里帰りをしたそうだ。
外国行の船が出るアラスの町を集合場所として。
なのに、約束の日を過ぎてもひとり、仲間が戻って来ない。
じりじりする思いを抱えて、アラスの町で待っていたパーティーの耳に入ってきたのは、アラスの町とリュイエの町の間の小さな森に規格外のゴブリンの巣ができていて、かなりの被害が出ていたこと。
もしや!とギルドの依頼を受けて、討伐済のゴブリンの巣まで来た彼らが見たものは・・・。

「ヴィーが洞窟を封印したあと、門に自ら埋まったゴーレムがいたじゃないですか?あの子がね、ポンッとそこから出てきて、彼らの前でさっきのように土の体を崩して・・・光の玉に姿を変えたそうですよ」

「へ?」

あの、守役のゴーレムはまるで待ち人が来たとばかりに動き出し、その身を光に変えて彼らを洞窟の奥へ、遺体を収容したあの小部屋と案内したそうだ。
そして、すうーっとその光がある女性の遺体の中へと。

「それって・・・、まさか?」

「ええ。ずっと待っていた仲間の冒険者だそうです。つまり、ヴィーが作ったゴーレムの中には、あのゴブリンたちの犠牲になった方の」

た、魂的な何かが入っていたとか?
え?なに、それ?
私、知らないよ?
いくらチート能力万歳の私でも、そんなネクロマンサーな力は無いと思いたいし、ノーサンキューですが?

「そういえば、確か畑を手伝っている町民にも、娘さんや奥さんが犠牲になった家族がいたような?」

「え?」

「果樹園で働いている中にもいたよな?恋人が犠牲になった奴とか?」

「ええ?」

「もしかして・・・男爵邸にずっと侍っていたゴーレムって・・・エミール君を拐った・・・あの子じゃ・・・」

「ぃええええっ?」

嘘でしょ?
今さら?
今さら、そんな種明かしされても、されてもおぉぉぉぉっ!

私の脳裏に様々な在りし日の光景が・・・。
たしか、芋畑のゴーレムは、まるでプールで泳ぐ人のように畑の土の中で動いていたっけ。

「ああ、魔力を土に込めていたのでは?微量の魔力であれば、土の栄養になりますからね」

果樹園では、木にスルスル登り剪定したり受粉したりしていたような?

「ああ、剪定のやり方や受粉の仕方のいいお手本になってたよな。あいつら素人だったし」

男爵邸では、エミール君の眠るベビーベッドに入り込み、寝かしつけるようにポンポンと背中や胸を優しく叩いていたと聞く・・・。

「エミール君のこと・・・ずっと見守っていてあげたんですね・・・」

じゃあ、やっぱり・・・あのゴーレムから溢れ出た光は、そのぅ・・・魂?

「ゆ・・・幽霊?」

ふうううっ。
バタンキューと、そのまま後ろに倒れました、私。

ダメ!ダメなのよ・・・私。
その手の話は、絶対にダメなのーっ!!


翌朝。
まだ朝靄にけぶる中、ガラガラと音を立てて私たちはひっそりとリュイエの町を去りました。
町はまだ眠りに支配されていて、見送るのは9つの淡い光の玉だけだったという・・・。







騒がしくも愛おしい賑やかなひとつの冒険者パーティーが去ってから、しばらくしたリュイエの町。
ようやく自警団も形になって、男爵邸の騎士団との連携も様になり、門番を置けるようになったゴダール男爵領に、アラスの町の方からガラガラとけたたましく音を立てて馬車が猛スピードで向かってくる。

「なんだ?」

門番のふたりは顔を見合わせて、自警団の詰め所へ知らせにひとりを行かせて、残ったひとりは通せんぼをするように門前で仁王立ちしてみせた。

「おおーい!おおーい!」

土煙でよく見えなかったが、馬車は一台だけではなかった。
いつの日か、ちびっこが町のゴロツキ共を護送したり、屋台を運んだりした、大きな荷台を馬車に連結していた。

「おおーい!たいへんだー!」

馬車に並走する馬に乗った男が、手を振りながら何かを叫んでいる。
門番はこちらも口元に両手を当てて、大きな声で返す。

「おーい!何があったー?」

ガラガラ。
馬車はあっという間に門まで辿り着く。
その頃には自警団の詰め所からもワラワラと人が集ってきていて、野次馬も「なんだなんだ?」と寄ってきた。

「おい、何があった?」

優秀な自警団は、早速男爵邸の騎士団にも連絡してくれていて、騎士のひとりが門番に声を掛ける。

「さあ?何かを持ってきたようですが?」

例の荷台を指差すと、怪訝な表情で騎士は剣の柄に手をかけて、荷台へと足を進める。

「はあはあ。そちらの方はチハロ国の船団に保護された方たちです。乗っていた船が難破したらしく、海に漂流されていたとか・・・」

「ま、まさか!」

騎士たちがザァッと荷台へと走り出す。
果たしてそこには・・・。

「おいっ!ローズさんを呼んで来いっ!ブリジット様もだ!ああ・・・と、ガストンさんも呼んで来い!早くっ!」

騎士が覗き込んだ荷台の中には、草臥れた服を着たやつれた男たちが座り込んでいる。

このゴダール男爵の男爵、ラウル様と、その従者でローズの息子、ゴダール男爵騎士団団長でローズの夫。
ガストンの弟子でハーフドワーフの技師、その他にもラウル・ゴダール男爵と一緒に事故に遭った者たちが全員、その荷台に乗せられていた。

リュイエの町に歓喜の声が響き渡るのは、もうすぐ。





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