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人助けをしましょう
仲間になりましょう
しおりを挟むいつのまにか王都に蔓延し、なぜか王宮限定で死者が出た流行り病は、市民に犠牲を出すことなく終息していた。
陰鬱な雰囲気に包まれていた王都も、徐々に賑やかさを取り戻しているが、亡くなられた王族や高位貴族の葬儀は行われないまま日々が過ぎていく。
カラーン。
ここは王都の目抜き通りから一本横道に入ったところにある、冒険者が集う定食屋「ミゲルの店」。
ここ最近の常連客である冒険者が扉を潜ったのは、いつもより早い昼を少し過ぎた時間。
店の中はまだまだ人が多く、冒険者が初めて見る町娘たちの集団が食事を楽しんでいた。
「おー、すまねぇ。今日は繁盛しててな。いつもの席は空いてるから、ちょっと待っててくれ」
店員の若い男が両手に皿を乗せて、冒険者に向けて声を投げる。
冒険者はいつもの席、店の奥まで客が座る席の間を縫うように移動する。
腰に佩いていた剣を邪魔にならないように壁に立てかけ、被っていたローブを脱ぐ。
「おまたせ。今日は唐揚げとプリンの日だ!どうする?いつものやつにするか?」
「唐揚げ?」
「おう!旨いぞ!このメニューの日は満員御礼なのさっ!」
そんな料理は知らないな・・・と首を傾げたが、ちょっと興味を引かれた冒険者は、今日はいつものメニューでなく店員お勧めのメニューを注文する。
「はいよ。すぐ持ってくるから」
ニコッと笑顔で厨房へと戻っていく。
食事が提供されるまでの間、なんとなく近くに座る町娘たちの会話を聞く。
・・・どうやら、王宮で募集されている使用人についての噂話らしい。
ふむ・・・。
王宮という言葉に、ついつい耳を傾けてしまう。
もしかしたら、何か情報が得られるかもしれない、忘れられない彼女の・・・その最後のこととか・・・。
「はい、お待たせ」
ガチャッと音を立ててテーブルに置かれた皿には、目の前にこんもりとした肉の山と葉物野菜のサラダ、もうひとつの小さな皿には柔らかそうな何かが盛られている。
きゅっと無意識に眉が寄った。
「ははは!大丈夫だって、旨いから!隣のお姉ちゃんたちだって毎回食べに来るんだぜ?」
なっ!とイザックの同意を求める声に驚いて、町娘たちは「ええ」と戸惑いながら返事をして、そそくさと店を辞してしまう。
ああー、もっと彼女たちの話を聞きたかったのに・・・。
冒険者の男は、恨めし気にイザックを睨み、肉をひとつ口に運ぶ。
「・・・美味しい」
噛んだ口の中にじゅわっと肉汁が広がって、肉も柔らかく・・・濃い味が付いていて、美味しい。
「だろう?」
「・・・ああ」
そのあとは、目の前にある肉の山を黙々と片付けた。
デザートのプリンに匙をひと掬い入れたところで、前に座るイザックに問う。
「お前は、なんで毎回、俺が食べるところを見てるんだ?」
「え?気になるじゃん。気に入ってくれるかな?って」
「・・・嘘つけ」
そんな店員らしい視線ではない。
探るような、警戒するような、およそ好意を持っているとは言い難い視線を浴びている。
「ふふふ。ところで、随分と王宮の使用人募集の話に興味を持ったみたいだけど、冒険者を辞めて使用人にでもなる気か?」
「・・・それもいいかもな」
王都に留まり冒険者の真似事までして調べているが、亡くなった婚約者リリアーヌの死の真相には辿り着かない・・・どころか、その影すらも掴めない。
いっそのこと、王宮の中へと飛び込みユーベル王子やザンマルタン侯爵自身を直に調べるか・・・。
「やめておけ」
イザックの強い制止に、思わず彼の顔をマジマジと見つめる。
「使用人の募集はしているが、王都の者はもう応じることはない。今は田舎から金の無い奴らから子供を買って連れてきているぐらいだ。それだけ王宮での仕事は酷いって噂だ」
「だが、王宮だろ?」
下働き以外の使用人は、身元がしっかりしていないと雇ってもらえない。
むしろ王宮での使用人なら下働きでも身元保証人は必要だ。
「今までは下働きは亜人奴隷がやってたからな。王宮と高位貴族の下働きはみんなそうだ」
イザックの話では、例の流行り病で王宮の下働きをしていた亜人奴隷に多くの犠牲が出て、あちこちに支障が出ているらしい。
だから、広く使用人を募集したのだが、思ったより下働きが過酷過ぎて雇ったさきから辞めていく状態で、王都ではその劣悪な環境が噂で広まり人が集まらなくなった。
「それで、人身売買まがいに田舎から人を集めてるのさ」
「しかし、下働きなら奴隷でなくても従事するだろう?そんなに辛いのか?」
「仕事はそうでもないのさ。洗濯や掃除、料理の下拵えとかな。ただ、王族の我儘に振り回されるのが尋常でないらしいぞ?」
「王族・・・」
「ああ。そして亜人奴隷が補充される動きもない」
「?」
イザックの物言いに違和感を感じて彼を伺い見るが、ニヤリと笑われて誤魔化される。
「あんたさ、ここに通って随分経つのに、名前も教えてくんないね?代わりにその花の名前を教えてよ?」
イザックが指差したのは、冒険者の首に飾られたペンダントだ。
楕円型の水晶の中に小さな花が一輪閉じ込められている。
「これは・・・鈴蘭という花らしい」
冒険者の男はペンダントトップを手に掴み、目を伏せる。
「へえ。珍しいな、紫色の鈴蘭って」
「そうか・・・」
これは、リリアーヌが贈ってくれたものだ。
彼女の分身のような、とても大事なものだ。
「さて、あんたも食い終わって、これから冒険者ギルドでも行くんだろう?いいか?姉ちゃんの受付じゃなくて、むさいおっさんの受付に行けよ?そして・・・」
イザックは男の耳に口を寄せる。
「・・・幸せは再び訪れるか?と言えよ」
「は?」
「じゃあな。店を閉めるから早く出てけ」
しっしっと手で追い払われ、冒険者の男はローブと剣を手に持った状態で、ポイッと店の外に出される。
「なんなんだ・・・いったい?」
不可解なイザックの行動にもやもやしたものを抱え、それでも正直に冒険者ギルドへと足を向けた。
その後、トゥーロン王国王都の亜人奴隷解放を目指す組織は、仲間をひとり増やすことになる。
しかしその男があまりにも身分が高く微妙な立場の人間だったため、組織上層部は複雑な気分になるのだった。
その男を勧誘したイザックは、父ミゲルとギルドマスターのロドルフにかなり絞られたという。
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