みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお

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人助けをしましょう

憎みましょう

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アラスの町の中でも上級な宿屋に泊まりながら、ヴィーことトゥーロン王国第1王子ヴィクトルは従者の獣人ユーグと共に、冒険者ギルドに日参しては依頼をこなしていた。
トゥーロン王国に出没する魔獣は比較的低ランクで、子供でも倒せるスライムから駆け出し冒険者でもひとりで倒せる四足動物系魔獣しかいない。
それでは、これからの旅路で怪我をするかもしれないからと、旅の同行者でもあるベルナールに勧められるまま、冒険者ギルドの依頼で腕を磨くのとランクを上げることに集中する日々だ。

その間、ベルナールとその他の者たちが何をしているかは知らない。
たまに夕食を共にすることはあるが、基本アラスの町では別行動が多い。

正直、幼い頃リシュリュー辺境伯で出会ったベルナールとは別人のような彼と、一緒にいたいとは思えない。
憎しみを向けられて萎縮する気持ちと、下に見られることの羞恥、そして底の知れない恐ろしさを彼から感じている。

だが、アラスの町に滞在すること約1ヶ月が経ち、ヴィクトルは久しぶりにベルナールの居室に呼ばれた。
ユーグとふたりで重い足取りで、部屋に向かう。

「やあ。ちょっと見ない間に少しは冒険者らしくなったんじゃないかな?」

ベルナールはヴィクトルとは違い、ゆったりとした貴族風の衣装に身を包み、長い髪を結うこともなく背中に垂らした優雅な姿で、ふたりを出迎えた。
しかし、相変わらず例の魔道具を身に付けていて、獣人の身体的特徴でもある耳と尻尾は隠されている。

ヴィクトルは、片手を軽く上げることでベルナールに応え、彼の向かいのソファにさっさと腰を下ろす。
ユーグはその後ろに立つ。

「ユーグも座ればいいのに。君と彼と・・・何も変わらないんだよ?」

「っ!いいえ、自分はヴィー様の従者ですので」

優しい笑みを浮かべるベルナールに、ペコリと頭を下げるユーグ。

「そう?君がそう望むなら。ふふふ。ヴィー、怒ったの?」

「別に、かまわない。今の俺はただの冒険者に過ぎないからな」

特に腹立しい気持ちにもならず、素直な言葉が発せた。

「ふうん。そろそろアラスを移動しようと思うんだけど、いいかな?」

赤味を帯びた唇にカップを当てて、ゆっくりと紅茶を口の中へ運ぶ。

「かまわないが。次はどこに行くんだ?」

ヴィクトルは旅の最終地どころか、どのルートを通るつもなのかも知らない。
ヴィクトルは、次代の王としてトゥーロン王国へリシュリュー辺境伯と協力して攻め入るためにも、強力な貴族と縁を結びたいのだが、悲しいかなアンティーブ国に知己はいない。
唯一の自分の味方のユーグもアンティーブ国に知り合いはいないので、母親がアンティーブ国出身だったという目の前のベルナールに頼らざるを得ないのだ。

「うーん、珍しい料理が人気になっているらしいゴダール男爵領地を目指そうと思ったんだけど・・・」

ベルナールはそこまで言うと、チラッと後ろに立つ老使用人へ目配せをする。

「現在、ゴダール男爵領地は船の遭難事故で生死不明だった当主ラウル男爵とその付き人たちの生還に沸き立っております。いささか忍びの旅としては面倒かと」

「と、いうことだよ。是非、寄っていろいろと楽しみたかったけど、騒がしいのはごめんだからね。そこの領地は人族が多くて獣人は目立つかもしれないし」

そんなことはないだろう。
アンティーブ国の王族は獣人で、貴族の半数以上が獣人、その他も亜人のエルフやドワーフなどがいて、人族の貴族は一握りだけだ。
流石に人族の繁殖率は他の種族より高いので、人口が占める割合はもう少し多くなるが。
だから、この国で獣人やエルフということで目立つこともないし、人族だからと言って忌避されるわけでもない。

「ゴダール男爵領地は避けその隣の侯爵領地を抜けて、そうだな・・・王都への道として有名なボーヌの町を目指そうと思う」

「王都・・・。やっぱり王都を目指すのか?」

ヴィクトルは王族・・・は無理でも、王都にいる高位貴族と目通りができるかもしれない期待に目を輝かしてベルナールを見るが・・・。

「そうだよ。真っ直ぐには行かないけどね。王都を目指すよ、はね」

ベルナールの目には、いつぞやのトゥーロン王国へと向けた復讐の炎より禍々しく冷たい憎悪の炎が熾火のように揺らめいていた。

「ベ・・・ベルナール・・・」

「ふふふ。あちこち寄り道して知り合いを増やしたいんだよ。ここアラスの町で誰がどこの町や領地を治めているのか調べるのに時間がかかってしまったけど」

「何を・・・する気なんだ?」

お前は一体、なぜ俺と一緒にアンティーブ国に渡ったんだ?
それは、俺やリシュリュー辺境伯の家族と同じトゥーロン王国の亜人奴隷解放を目指してのことでは無いのか?
なぜ、そんなに憎しみの瞳をしているんだ?
お前は誰を、何をそんなに憎んでいるんだ?
母親を殺したトゥーロン王国の王族か?
弟たちの蛮行を止められず、罰することもできなかった俺か?
裏でザンマルタン家や王家を操っているミュールズ国か?
それとも・・・。

「そんなに怯えた顔をしないでよヴィー。君はもっと強い男にならないと、生き残った妹を助けることもできないよ?」

「いも・・・う、と?」

それはトゥーロン王国で怪我を負った第3王女のジュリエットのことか?

「違うよ。ああ、ジュリエット王女とアデライド妃は自分の顔を鏡で見た後に気が触れてしまったようでね。自死されたそうだよ」

まるで今日の天気を話題にする気軽さで、俺に告げる。

「なっ!!」

「まだ君たちの葬儀も行っていないのにね。それよりも、君の妹ってもうひとりいるでしょ?」

「シルヴィー・・・のことか?」

「うん。彼女、生きてるよ?」



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