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運命の鐘を鳴らしましょう

戦力が揃ったようでした

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私はアルベールの弟の子供であるらしいが、中身は異世界産のアラサー女子である。
そして、前世の記憶がバッチリあるけど、シルヴィーとして生きていた7歳までの記憶はぼんやりとしている。
感情の起伏が薄いのがハイエルフの特徴らしいけど、生まれる前に引き離されて死んでしまった父親であるアルベールの弟さんの顔も名前も知らない、薄情な娘である。

そして、アルベールはエルフ族としては生粋の里育ちでありながら異質な存在で、親や一族への恋慕なんて欠片も持ち合わせてなく、里を飛び出し気ままに冒険者稼業に勤しんでいた変わり者。
その変わり者のエルフが唯一家族としての愛情を持ったのが、たった一人の弟だった。
エルフ族自体出生率が低く、ほとんどのエルフは一人っ子らしいが、アルベールの両親はアルベールに期待を裏切られてもう一人子供をもうけていた。
その弟をアルベールは「ブラコン」スキルが芽生えるほどに愛して愛して愛しまくっていたのに・・・アルベールは弟を守ることができず、見知らぬ国で亡くしてしまった。
ある日突然に。

その弟の忘れ形見が私だなんてさぞ複雑な気持ちだろうと思ったが、肉親で生まれた時から側にいたのなら、なおさら真摯な態度を心がけようと「異世界からの転生者」であることを打ち明けていた。
だから・・・アルベールはとっくに私に対しての認識を改めていると思っていたの。
弟の子供というよりは、仲間というか、生意気な小娘というか?
まさかそんなに・・・家族として思ってくれていたとは・・・。

私はちょっと背伸びして、アルベールの綺麗な金髪を撫でた。
頭をナデナデしていると、アルベールの緑眼はようやく私をちゃんと見てくれたようだった。
私越しにを見るのでなく、超絶美少女のヴィーを、ちゃんと見た。

「・・・ヴィー」

「大丈夫よ。私は死なないわ!危なくなったらすぐに逃げるし。それに・・・今はアルベールが側にいてくれるんでしょう?」

ナデナデ。
ナデナデ・・・こいつの金髪、サラサラのツヤツヤだな・・・羨ましい。
ふうーっと深く息をひとつ吐くと、アルベールは自嘲気に笑いながら私の体をそっと抱きしめた。

「ええ。守りますよ。絶対に・・・守り切ります。今度こそ・・・」

ギュッと強く抱きしめた後、体を離してバチコンとウィンクを戴きました。

「頼んだわよ!」

ペチンとアルベールの額を手で叩いて、気合を入れてやりました。
抱きしめられたときに呟いたのは・・・アルベールの弟、私のお父さんの名前だったのだろうか?
よし!ビーストをサッサと拘束して、アルベールからお父さんの話をちゃんと聞こーぉうっと。
私は自分の両頬もパチンと叩いて気合を入れた。

「じゃあ、行くわよ!」

隠れていた建物の間から颯爽と登場すると、いつのまにかビーストはすぐ近くにまで侵攻していたのだ!








王都ギルドを飛び出したのはいいが、ビーストが出没したのはどこだ?
俺は焦りながら左右を見回す。

「あっちだな」

なんとなく冒険者たちが向かっている方向と、ふくよかな体型をしたいかにも金持ちみたいな奴等が移動している逆の方向を見て、冒険者たちと同じ方向へ走り出す。

「ちっ」

こんなことなら、カヌレに騎乗してくればよかった。
気性の荒い魔獣馬にビビる町の奴らと、貴族の「良い魔獣馬だな。もらってやるぞ?」というカツアゲ行為がウザくて王都ギルドへの移動に乗ってこなかったことを後悔する。

右手に流れる川に沿いながら、西側の富裕層が棲む屋敷が立ち並ぶ区域へと急ぐ。
頼む!アルベール、お嬢を守ってくれよ。
そう祈りながら・・・あ、でもお嬢のことだから、自分から危ない目に頭を突っ込んでいそうだよなぁ・・・。
ちょっと別な意味で不安に駆られた俺は走るスピードをさらに上げた。

王都ギルドを利用する冒険者は高ランク冒険者が多いが、どちらかというとプライドの高そうな潰しの効かない奴等が多い。
今、ビーストが出没したとの一報を聞いて、その現場に向かっている奴らは自分の功名ばかり考えていて、人命救助とか考えてないんだろうなぁとうんざりする。
冒険者時代に、そういう嫌な奴等と合同依頼を幾度か受けたことがあるが、連携が取れなさ過ぎて大変だった思い出しかない。
火力の強い高ランク冒険者だが、俺が俺がという意識が強すぎて、下手をすると他の奴等が仕留めそうな獲物を奪い取ったり、攻撃の邪魔をしたりする。
俺は並走している冒険者たちのツラを眺める。
うん・・・期待しないでおこう。
最悪、アルベールの爺とカミーユさんとで攻撃して、お嬢に支援魔法をかけてもらおう。

そんなことを考えながら走っていたら、徐々に人々が泣き叫ぶ喧噪というには切羽詰まった生への執着の波動が強くなってきた。
一気に通りを駆け抜けると広い道に出る。

俺から見て正面にビーストが、右手には、お嬢とアルベール。
そして、左手には・・・クリストフか?

「リュシアン!剣を抜け!来るぞ」

アルベールの叫びに無意識で大剣を抜き自分の目線の高さで掲げると、ビーストの太っい熊の黒い手から伸びた爪とガキンとぶつかり合う。
おいおい、なんで片方で2本の腕が生えてんだよ!爪も倍あるじゃねぇかっよ、と。
大剣を大きく振り払い、お返しとばかりに斬りかかる。

「あ、リュシ・・・」

お嬢が何か言う前に、奴の頭頂部にめり込むはずの剣の刃が、何かの盾に弾かれた。

「?」
「ダメよ!そいつってば物理攻撃も魔法攻撃も魔法障壁で効かないの!」

・・・お嬢・・・それ、早く言ってくれよ。
俺は反動で少し体をよろめかせたが、すぐに体勢を直してアルベールたちのいる方へ移動し合流する。

「攻撃が効かないってどうすんだよ?」

「・・・どうしようか?」

へにょんと眉を下げてお嬢が困惑している。
アルベールも頭を振ってお手上げ状態だ。
しかも、アルベールの指差す方向へ目をやれば、さっき気づいたクリストフの後ろに・・・。

「ありゃ、ベルナールじゃねぇか。タイミング悪ぃな」

トゥーロン王国リシュリュー辺境伯領地で会ったベルナールが、好奇心満載な表情でビーストを見ていた。

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