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運命の鐘を鳴らしましょう

悪い奴が誰かは決まっていました

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久しぶりにお会いしたレイモン氏は、ミシェル殿下に勝るとも劣らない胡散臭い笑顔で、困り顔の使用人を無視して、空いていた椅子に腰を掛ける。
そこ・・・最初に情報開示役をしてくれた小人さんの席・・・。

「さて、どこから話し合いましょうか?」

後から来て、図々しくも議長役を買って出るなんて・・・面の皮が厚いわー、相変わらず。

「・・・レイモン・・・」

ベルナール様が震える声で名前を小さく呟くけど、ベルナール様もレイモン氏がアンティーブ国アラスに来るのは知らなかったのかな?
ヴィクトル兄様がベルナール様に顔を近づけて「呼んだのか?」と確認したけど、彼は微かに首を左右に振った。

「三国会談のことは知らせましたが、文が届いて会談に間に合うように移動するには・・・飛竜を使う必要があります」

ああ・・・、あの、ワイバーン似た空飛ぶ魔獣よ。
確か、リシュリュー辺境伯しか飼育していない希少種で、騎士団の中でも乗りこなせるのは数少ないと聞いたような?
なのに、そんな軍事機密ランクの隊を動かして来ちゃったのか・・・レイモン氏。

「ベルナール。随分とスッキリとした顔をしているね。ここまで、お前が懇意にしていた従者たちが見当たらなかったけど、どうしたのかな?」

ニコーッと笑いながらも、ギロリと瞳を凍てつかせない!

「・・・あれらとは離れることにしました。今はアンティーブ国の王都騎士団内で再教育中らしいです」

「そう・・・。その教育係に混ざりたい気持ちだよ?」

フフフと含み笑いをしているレイモン氏の方から冷気が漏れている気がします。
なんだか、鳥肌が立ちました!
そうか・・・リシュリュー辺境伯家の人たちは、可愛い孫、甥っ子に良からぬことを吹き込んでいたジャンヌ様の従者たちを疎ましく思い嫌っていたんだな・・・。

「では、こちらの個人的な憂いが無くなったところで、話を進めましょう」

「・・・おい、お前。何者だよ?」

鎖国しているトゥーロン王国の辺境伯領地の地方の代官の顔と名前なんて知らないわよねぇ。
レイモン氏はその場に立ちあがり、右手を胸に当て優雅に礼をしてみせた。

「トゥーロン王国リシュリュー辺境伯ブルエンヌ代官、レイモン・ド・リシュリューです。リシュリュー辺境伯の弟です。そして・・・トゥーロン王国内で活動している亜人奴隷解放軍の一人です」

彼を知らないクリストフさんとヴァネッサ姉さんは口をあんぐり開けて、たぶん予想していたミシェル殿下はやや気まずそうに顔を反らした。
あーあ、腹黒いのがまた増えちゃったよ・・・。










長ーい、長ーい時間の話し合いが一応決着を迎えました。
正直、死んだ・・・。
クリストフさんやヴァネッサ姉さんなんて、会談が終わったあともお酒も飲まずに、冷やしたタオルを頭に乗せてウンウン唸ってます。
脳疲労が激しそうだな、この二人。
ヴィクトル兄様とベルナール様とレイモン氏は、アラスの宿に移動してさらに話し合ってます。
ヴィクトル兄様たちが、ミュールズ国でのビースト研究所攻撃に参加することになったので、リシュリュー辺境伯の騎士団を幾人か付けてくれることになりました。
ユーグ君は、ヴィクトル兄様の傍を離れて飛竜騎士団の所へ顔合わせに行ってます。

ミシェル殿下は、ミュールズ国王都へとんぼ返りする・・・筈なんだけど・・・、なんで私の隣で焼き菓子を頬張っているんでしょうね?

「そりゃ、ヴィクトルやリリアーヌがずっと気にしてた妹姫のことだもの」

「ずっと?」

「ああ。生まれた時に会いに行って、それからずっと気にはしていたみたいだよ?ただ・・・君と君の母上の立場が立場だから、王妃やジラール公爵に遠慮して行動には移せなかったみたいだけど」

ふーん、そうなんだ。
え?いや、嬉しいけどねぇ・・・。
あんな状況の中で、私のことを気にしてくれていた人がいたなんて・・・。
でも、そのときに会ったとしても、そのときのにヴィクトル兄様たちが認識できただろうか?
ハイエルフの宿命として、ちょっと情緒が欠落していた私と。

「でも、血は繋がっていないので、そこんとこ間違えないでください。特に貴方!」

ビシッとミシェル殿下を指差したら、隣からアルベールの手がやんわりと私の指を包む。
あ、お行儀が悪いってことね。

「・・・そうなんだよねぇ。不味ったな・・・私の予定が狂ってしまったよ。ヴィクトルをトゥーロン王国の王に即けたら、君を妃に迎えてガッチリ同盟を組もうと思ってたのに」

「ひーっ、ロリコン!」

私、まだ、8歳です!

「ろ・・・ろりこん?なんだい、それは?年の差はあるけど政略結婚では珍しくないよ?妃が一人と決まっている訳じゃないしね」

はい!こいつは女の敵です!いま、女の敵と認定しました!

「なんで、そんな汚物を見るような目で見るのかな?大丈夫、トゥーロン王国の王女でないなら必要は無いからね。はぁぁ、それだったら婚約者探しを考え直さないと」

「だいたい、弟王子とリリアーヌ姉様が婚約してたんでしょ?ミシェル殿下には婚約者いなかったんですか?」

前国王と国王を追い落とすことを考えているときに弱味は作らないよと、きょとん顔で言われましたけど、殺伐としているなーアンタたちの親子関係。

「アデルがリリアーヌと婚約したのは、ザンマルタンがエロイーズを煩く押し付けてきたからだよ。エロイーズよりはリリアーヌがいいと思ったけど、アデルが本気で惚れるとは思わなかったし、リリアーヌの存在に猜疑心を募らせたザンマルタンがあんな暴挙に出るとは思わなかった」

「すまなかった」と小声で謝るミシェル殿下。
私は頭を振り、強い視線を向けた。

「あれはザンマルタンやユベールとエロイーズが悪いの。傀儡となっていた国王も悪いの。ミュールズ国の前国王と国王も悪いの!」

私は、逆恨みとかしないのです!8歳だけど、中身はアラサー女子なので。
ミシェル殿下は、微笑みの仮面を被ったまま、瞳を潤ませて「ありがと」と本心を呟いた。

さあ!ミュールズ国に殴り込みよ!

「・・・結局、私たちも巻き込まれるのですね・・・」

アルベールが諦めたように肩を落としたけど、ここまで来たら最後まで付き合おうよ!
ほら、リオネルも暴れられるのに期待してるしね!

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