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運命の鐘を鳴らしましょう

闖入者が現れました

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ふうっ、と物憂げな表情で深く息を一つ吐き、ミシェル殿下は鋭い眼差しをアルベールに向けた。
交渉の相手と見定めたのだろう。

「随分と性急に物事を進めようとしてくるね。今はまだ、ハッキリと約束できることは無い。まだ私の立場は王太子だからだ。ミュールズ国の王となれば、また応えも変わってくるだろうし」

テーブルの上に両手を組み、背筋を伸ばしたミシェル殿下は、歌うように告げた。

「まず、アンティーブ国がビースト研究所を破壊するためにミュールズ国に入国するのは、私が許可しよう。正式な書類は後でアンティーブ国騎士団長にお渡しするよ」

急なご指名に、イケオジ騎士団長がビクンと体を強張らせる。

「アンティーブ国兵士を率いるのは騎士団長とクリストフ様かな?ギルド代表はアラスの冒険者ギルドのギルドマスターかな?」

「ああ。騎士団長ではなく、俺が少数の騎士を率いる。他はアラスのギルマスのヴァネッサと、そこの冒険者パーティー。あとは魔獣学者だ」

あれ?カミーユさんってば、ミュールズ国まで出張するつもりなの?
まさか、リオネル目当てじゃないわよね?

「わかった。あとは・・・ビーストの補償については研究所を破壊する際に証拠を抑えてもらって、改めて二国間で話し合いたい。そして・・・ビーストのこともトゥーロン王国に強いてきた悪事についても公表するつもりだよ」

「・・・ミシェル」

「お互い、王位を継いだらそうしようと話していただろう、ヴィクトル。君は最小限で構わないと譲歩してくれたが、こうなっては全てを曝け出す必要があるよ」

皮肉気に笑ったミシェル殿下は、「亜人奴隷売買の情報や補償については、今は約束できない」と続けた。
ビーストに関してはミシェル殿下も情報を収集しており、研究所の大体の場所は予想していたらしい。
こちらは父親でもある現国王が仕出かした事で、把握し易かったとのこと。
でも、長く続いていた亜人奴隷については、そのほとんどの情報を祖父である前国王が握っており、ミシェル殿下でさえも帝国側のブローカーすらも分からないほど、厳重に秘されている。
そして、アルベールの最後の質問。

「王としての責任を取る覚悟はあるが・・・それを決めるのはミュールズ国の民に委ねたい」

あれ?いま殊勝なことを言ったけど、貴方はミュールズ国のアイドル並みに人気のある王太子でしょ?
それが、前国王や国王、ずっと前の王たちの罪を背負って処刑とかになったら、命の嘆願するでしょ?民が。
しかも、弟王子が貴方の助命に東奔西走するでしょう?
そんなの悲劇の王様の出来上がりじゃないの・・・絶対に処刑しないわよ。
他の国だって、そうなったら強くは出れないわ・・・他国の民からの余計な恨みは買いたくないものね。
アルベールは納得したのか、無言で冷めた紅茶をゆっくりと飲む。

シーン・・・再び。

「あー、なんだ、とりあえずビーストに関してはアンティーブ国が攻撃してOKということで。いいな」

うんうんと頷く私たち。

「その作戦に我らも混ぜてもらえないだろうか」

ちょっと遠慮がちにヴィクトル兄様が声を上げる。

「ヴィクトル兄様?トゥーロン王国に戻られないのですか?」

「うん。ミュールズ国の後ろ盾が無くなったことを、ザンマルタン侯爵に突きつけたい。そうすれば、あの一派は総崩れになる。今戻っても俺にできることは余り無いからね」

なら、せめてビーストという悪を打ち倒し、帝国の隣国として今後の参考にしたいと。
ヴィクトル兄様、真面目かっ!

「ベルナール様もいいんですか?」

正直、君はアンティーブ国の王宮でのんびりしてても、いいんやで?

「どうせ、リシュリュー辺境伯領に帰るのです。それまでは当初の使命、ヴィクトル殿下の護衛をします」

護衛・・・だったの?ヴィクトル兄様も「えっ!?」と初耳ですが?みたいなリアクションしてますが?

「ビースト研究所の攻撃や、ミュールズ国入国の方法についても、後で詳しく話し合いましょう。ええ、特に何の相談もなく巻き込まれた一般冒険者パーティーとしても、是非、話し合いたいですね」

アルベール、仮にも王弟に圧をかけない!

「後は、ミュールズ国の内政に関わることですけど?このまま三国の代表で話すんですか?」

黙っていたセヴランがポソッと呟く。
そうね、ミュールズ国の前国王と国王の処遇や、トゥーロン王国を傀儡としていたことの公表については・・・ねぇ。

「いや、このまま話し合いたい。有耶無耶にしないためにも。そして、私としても自国の膿は出し尽くしたいんだ」

ミシェル殿下が、アルベールみたいないい笑顔で言い切りました。
ミュールズ国の貴族たちで、悪事を働いていた奴等も炙り出されて処分されるんだろうなぁ・・・、ご愁傷様。

「そうなったら、かなりミュールズ国は国力が弱まると思う。隣国のトゥーロン王国もそうだろう。だから、アンティーブ国には協力をして欲しい。頼む・・・頼みます」

ミシェル殿下が、クリストフさんに向き合い真摯な口調で告げ、頭を少し下げた。

「・・・ああ。俺たちアンティーブ国の中枢は気持ちのいい奴等ばっかりだからな、任せておけ!」

王弟という立場で軽々しく請け負わないでください。
きっと、下に向けたミシェル殿下の顔は、ニヤリとしているに違いない。

私は、隣のアルベールを窺う。
あ、こりゃその他諸々の交渉役をするつもりは、ないな。
ビースト研究所攻撃さえ問題なければ、後は関与するつもりないんだろうな・・・。
だって、私をトゥーロン王国へ連れて行くつもりがないのだから・・・。
さてさて、どうしようかな・・・。



「・・・私も会談に混ぜてもらえるだろうか?」

使用人たちの制止を無視して開けられた扉から、懐かしい人が現れる。
レイモン・ド・リシュリュー、リシュリュー辺境伯の弟でブルエンヌ代官。

ええーっ、なにしに来たのーっ!?
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