みそっかすちびっ子転生王女は死にたくない!

沢野 りお

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幸せになりましょう

エルフ公爵の過去でした

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ゴクリと誰かが喉を鳴らした音が、殺風景な部屋に響く。

「!?」

私は、ノアイユ公爵の髪を掻き上げた手を下げることもできずに、ただ無残にも切り取られた耳を凝視した。
傷痕は古いものだと思う。
ノアイユ公爵は煩げに私の体を左手一本で押しやると、ブルルと馬のように頭を左右に振った。

「いつまで見ているんだ。お前がさっき言っただろう?私はエルフ族だ。だが、この家の者には不評だったみたいでな、耳を切り取られた。それだけだ」

ノアイユ公爵はなんでもないように言うと、つまらなさそうに指を軽く組みソファーに背を沈ませる。

「耳だけ切っても・・・エルフはエルフなのに?」

パッと見てわからなくても、そんな痛々しい耳を見た人は疑問に思うわよ?
しかし、ノアイユ公爵はもう話したくもないと目を瞑り口を噤んでしまった。
ベルナール様も困った顔で、立ち尽くしてしまう。

「ほら、主はもうお前たちに興味はない。立ち去れ!」

リュシアンに肩を抱かれていたエルフがリュシアンを突き飛ばすと、扉を指差し私たちに怒鳴る。

どうしよう?
ノアイユ公爵の態度から、ザンマルタン侯爵と手を組んで国を弄ぶこともないだろうし、亜人を奴隷にする行為にも手を貸さないだろう。
私たちのこれからの行動の妨げにはならない・・・けど、このまま放っておいていいのかな?

私の下がった眉を見てもアルベールは、ピクリとも表情筋を動かさない。
アルベールにとっては、ノアイユ公爵家のことも同朋であるエルフのこともどうでもいいのか?
リュシアンは、構っていたエルフに突き飛ばされたお腹を摩りながら、私に苦笑してみせる。

うーん、どうしようかな?
ベルナール様の立場はノアイユ公爵と似ているけど、実際は天と地ほどに違うし。
ベルナール様のご両親は、人族と亜人という種族の違いはあっても想い合っていたし、ベルナール様のことも愛していたし。
でもノアイユ公爵の場合は、人族が奴隷の亜人を無理やり襲って、妊娠したエルフは産みたくないと思った・・・?

「ねぇ。私たちにこの屋敷から出て行ってほしかったら、あなたのことを教えなさいよ」

ピクッと片目だけ開けて、私を睨むノアイユ公爵だけど、ここまできたら手ぶらでは帰れません。
ヴィクトル兄様に王位を継いでもらって、この国の憂いを晴らす算段つけて、それからまた私たちは旅に出て安住の地を探すんだから!
しかし、煩げに「ちっ」と舌打ちをしたあとノアイユ公爵は再び目を瞑ってしまった。
しょうがないので、私はノアイユ公爵の周りにいるエルフをひとりひとり見回す。

「んー・・・あなた!あなたが教えなさい!」

私がビシッと指差したのは、「鑑定」で見定めたこの中で一番年嵩なエルフの男性でした。
見た目は、周りのエルフと変わらず二十代後半ぐらいのなのにね。
私に指名されたエルフの男性は、目を白黒させたあとノアイユ公爵を見て、周りの仲間を見て・・・覚悟を決めた。

「俺で・・・よければ」

私はニッコリと笑って、ソファーに座るように促した。
私?勿論ソファーに座るし、無限収納からお茶とお菓子も出しますよ?








エルフは語りき・・・なんてね。
彼、デジレさんは先代のノアイユ公爵が子供の頃に奴隷としてノアイユ公爵家に来たそうだ。

ノアイユ公爵は歴代皆さん唯美主義で、芸術に留まらずに美しいものを収集する人たちで、奴隷もエルフ族以外は下働きとして獣人が数人いるだけ。
その獣人も見目麗しい者に限られていたそうだ。
合理的な考えってものは、ノアイユ公爵家の人々は持ち合わせていないらしい。

特に、例の王宮での惨劇で命を失くした先代ノアイユ公爵はエルフ好きで、エルフ狂いと名高いノアイユ公爵家の中でも随一だったらしい。
奴隷としては、鑑賞用に着飾られてその辺に居ればいいので、楽といえば楽な奉仕だが、尊厳みたいなものはゴリゴリ削られそうなお仕事である。

さて、シャルル・ノアイユ公爵の母上のエルフは、エルフ族の中でも美しい人だったらしい。
彼女が奴隷として買われ屋敷に連れて来られてから、少しずつノアイユ公爵家族には歪みができたように見えたと、デジレさんは話す。

まず、わかりやすくノアイユ公爵が彼女に劣情を抱いた。
奥様に内緒で、高価な宝飾品や流行りのドレスをプレゼントし、着飾った姿をお気に入りの絵師に描かせる。
執務室に常時、控えさせる。
こっそりと王宮にまで連れて行ったことがあるらしい。
仲間うちでは、そのうちに悪いことが起きるとわかっていたが、どうしようもできなかった。
奴隷契約しているからね、逆らえないし逃げられない。
そして、とうとうノアイユ公爵は越えてはいけない一線を越えてしまう。
しかも、その一回で彼女はシャルル・ノアイユを身籠ってしまった。
彼女は、人族で自分を奴隷に堕とした男の子供を身籠ったと知ると、半狂乱になり何度も魔力暴発を繰り返したそうだ。
その暴発に巻き込まれて何人かの奴隷が傷ついたのと、ノアイユ公爵夫人にまで被害が及び、彼女は地下牢に入れられることになる。
当然、ノアイユ公爵夫人にエルフ奴隷に手を出したことがバレたノアイユ公爵は、その後彼女を寝所に呼ぶことはなかった。

子供については、黙認した。
産まれるまで種族はわからないが、奴隷の子供は奴隷。
エルフの中でも特にに美しいエルフから産まれる子供の美しさに期待したともいう。

しかし・・・シャルル・ノアイユは十ヶ月経っても1年経っても産まれず、母の腹の中で2年経つギリギリで産まれてきた。
母の命と引き換えに。

「・・・私は、呪われた子供だったのだ」

ポツリとシャルル・ノアイユ公爵が呟いた。
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