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幸せになりましょう

過去の真実は、こちらのエルフが語りました

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シーン・・・。

何?
この重い雰囲気は・・・。

私の生い立ちだって、ノアイユ公爵と張り合うほど酷いものだけど、本人の気質の問題か、こんな重くて暗いオーラは背負えないわ。
ノアイユ公爵を守るように周りを固める元奴隷のエルフたちもずうぅぅぅんと俯いて、鬱々としたオーラを振りまいてやがります。

うむ。
私は腕を組んで考えてみる。
とりあえず、今回の王座奪還の作戦にノアイユ公爵たちは、弊害にならないし放っておいてもいいかな?
どうせザンマルタン侯爵家と仲良くしていた悪徳貴族たちは粛清されお取り潰しになるし、ジラール公爵家に汲みしていた貴族の中で悪いことをしていた奴等も爵位は取り上げられなくても、領地なんかは取り上げられるだろう。
王家の力・・・というか、次期王のヴィクトル兄様を中心にリシュリュー辺境伯を後見として、一時的にでも王族の力を強めないとトゥーロン王国の改革は難しい。
だから、厄介な貴族はここで整理しておかないとね。
ノアイユ公爵たち中立派は、このままだと空中分解かなぁ。
トップのシャルル・ノアイユ公爵自身が、覇気がないし、公爵家に対して嫌悪感しかないみたいだし。

正直なところ、面倒なことになりそうだから、とっととお暇したいです、私。

「もしかして・・・知らないのですか?」

アルベールがコテンと首を傾げる。

「なんのこと?」

「貴方たちエルフは、町に住んでいるエルフばかりですか?里育ちのエルフはいないのですか?」

アルベールの質問に、二、三人のエルフがおずおずと手を挙げる。

「里で育ったエルフなら、先人からの伝承で聞いたことがあるはずですよ?多種族との間にエルフ族を孕む秘儀を」

はあ?産まれる子供をエルフ族にする方法なんて、あるの?
アルベールの爆弾発言に、私はポッカーンと口を開けてびっくりした。
そんな間抜け顔の私を一瞥して、アルベールは自分の里に伝わるその方法を教えてくれた。

エルフ族や獣人族などの亜人は、寿命が長い代わりに出生率が人族に比べて低い。
特にエルフ族は亜人の中でも長命で、出生率が低く、大抵は夫婦の間に一人しか子供はいない。
これはエルフ族夫婦の価値観にも問題があるのだが、だいたいは多産を望まないらしい。
だから、エルフ族の中でアルベールと私のお父さんが兄弟なのは珍しいのだ!

「どうしても子供が欲しいエルフは、他種族との間に子供を作る場合があるのですよ。しかも亜人同士よりも人族との間のほうが確率は高くなります。問題は生まれてくる子供の種族や能力ですね」

リュシアンの幼馴染で裏切り者のガブリエルがハーフエルフでコンプレックスを抱えたように、人族とエルフ族の場合は、ハーフエルフとして生まれるか人族として生まれるかのどちらかで、ほぼエルフは生まれない。
当然、エルフとしての能力は半減か、ほぼ無い状態となるので、町に住むなら問題はないが、里では弱過ぎるのと周りのエルフからの偏見で育てられない。
子供は欲しいが里を出ることになるのは困る・・・そんなエルフが施す方法は。

「お腹の中で自分の魔力を注ぐのです。長い間注げば注ぐほど種族は人族からハーフエルフへ、ハーフエルフからエルフへと変化していきます。能力もエルフ特有のスキルや属性魔法を得られる確率が高くなる」

「長い間?」

妊娠期間って決まってるでしょ?人族は十ヶ月とちょっとよ?

「妊娠期間はエルフも人族も同じですよ。だから、ノアイユ公爵の母親はお腹の中に止めておいたのでしょう。自分の魔力を注ぐために、2年もの間」

アルベールは最後、ノアイユ公爵の顔を真っ直ぐに見つめ言った。
まるで、シャルル・ノアイユ公爵の母親の気持ちを代弁するかのように。

ノアイユ公爵の母親のエルフさんは、自分の主人である前ノアイユ公爵との間の赤ちゃんを産むのを嫌がったのではなくて、生まれてくる子供が自分と同じエルフ族でちゃんと能力も魔法もあるようにお腹の中で育てていたのかな?
そんなことできるの?

「かなり苦しいと思いますよ。赤子は腹の中で育てば産むのも苦しいでしょうし。なのに自分の魔力を注いでしまうからいつでも魔力は不足がちでしょうし」

「・・・魔力暴発って」

「ええ。最初は上手にお腹の中に魔力を注げなくて、周りに溢れてしまったのでしょう。里にいれば経験のあるエルフから教えてもらえたでしょうけどね」

そんな思いまでしてノアイユ公爵を産んだってことは、そのエルフさんはシャルル・ノアイユ公爵のことを・・・。

「それは、わかりません。でもそんなに長い間、お腹で赤子を育てれば、出産のときに自分の命がどうなるか・・・本人はわかっていたと思いますよ」

私は痛ましい眼でシャルル・ノアイユ公爵を見やる。

「呪われてないじゃん。愛されてたじゃん」

これが、私の素直な感想だ。

ノアイユ公爵は、愕然と目を見開き唇を細かく震わせている。
周りのエルフたちも同じように驚いた顔をしているが、二、三人は気まずい顔でノアイユ公爵から顔を逸らしている。
その人たちは、さっきエルフの里育ちだと手を挙げていいた人たちだ。

「・・・今さら・・・そんな・・・」

ノアイユ公爵はガックリと首を下に向けたあと、ガバリと勢いよく顔を上げ叫んだ。

「今さら、そんなことがわかってどうすればいいんだ!もう・・・復讐しようとしても公爵たちあいつらはいない!愛されていたなんて、私は・・・知らない!」

あーあ・・・ほら、面倒なことになっちゃった。
これ・・・どうすんだよ?
アルベールのせいだからね。

私は隣に座るアルベールの足の爪先をこっそりと踏むのだった。

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