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幸せになりましょう

とうとう対峙しました

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亀の甲羅ではなくて、防御魔法で造った魔法障壁で、火魔法や水魔法の攻撃を遮断しながらじりじりと扉中央に移動する。
私たちが魔法を防御しているのがわかった反対側にいたヴィクトル兄様たちも、ゆっくりとこちらに向かって移動してきた。

「イザック!」

「ヴィクトル。エルフの爺さんが張った魔法障壁でこのまま突入しよう」

イザックさんの提案にヴィクトル兄様は力強く頷いて、後方に合図をする。
ヴィクトル兄様の真後ろには従者兼護衛のユーグ君とベルナール様がいて、リシュリュー辺境伯家の騎士たちも数名。

「ユベールとエロイーズは俺が捕まえる。残りの奴らの捕縛を頼む」

「ああ。初級魔法しか使えない奴らだが、油断はしないさ」

私は後ろで繰り広げられているヴィクトル兄様たちのやりとりを聞きながら、前にいるアルベールに謁見の間の状況を見てもらう。
謁見の間というからには、広いのだろう。
一番奥の一段高い所に玉座が置かれ、部屋の広さは国中の貴族が集っても余裕のある広さがあり、謁見の間の扉から玉座まで赤い絨緞がまるで左右を分かつ道のように敷かれている。

「玉座の前に若い男女が見えますね。左右にそれぞれ十人程度の人がいます。こちらに向かって攻撃魔法を繰り出しているのは三、四人です」

「・・・少ないわね?騎士や兵たちはいないの?」

アルベールが一歩二歩と部屋の中に足を進めるので、私は魔法障壁をもっと広範囲に広げる。

「・・・いますけど。たいしたことないですよ。それぞれ十人の中に武器を持っているのは二人ずつぐらいです」

「護衛にもならないじゃないの?」

ユベールとエロイーズは、一応王族のはずなのに。
しかも、これから王になろうとする王族なら、近衛兵が周りに沢山いてもおかしくないのにね?

「その近衛兵にすら見捨てられたんだろう。それもザンマルタン家の騎士もいないとなったら見限られたな」

リュシアンが大剣を鞘ごと肩に担いで呆れ声で言う。
私は、アルベールが見た部屋の状況をイザックさんとヴィクトル兄様に報告する。
二人はしばらく考えたあと、こちらも二つに分けて対応することに。

「俺とユーグはユベールとエロイーズを捕まえる。イザックは左側の奴らを頼む。ベルナールは騎士たちと共に右側の奴らを捕縛してくれ」

「「はっ!」」

勇ましい声がイザックさんたち亜人奴隷解放軍と、ベルナール様たちリシュリュー辺境伯騎士団から発せられる。

「ヴィクトル兄様。捕まえるの?生け捕り?」

私の素朴な疑問に、なぜかみんながギョッとした顔をする。
なんで?

「あ・・・当たり前だろう、ヴィー!こ、殺しちゃダメだ。奴らは裁判にかけて民の目に分かるように処罰するんだから」

なぜか、イザックさんがワタワタと焦りながら説明してくれるんだけど、別に私は皆殺しにしようぜ!と提案したわけではない。
私のことをどんだけ悪辣だと思っているのか?こんなに、かわいいのに。
プクッと頬を膨らませていると、リュシアンが片手で私の両頬をグニッと潰す。

「膨れんなよ、お嬢。まるで手加減するのが不服そうに見えるぜ?」

ニヤニヤと笑うなっ、リュシアン!
私は、コツンと爪先でリュシアンの脛を蹴っ飛ばす。

「イテテテ」

「違うわよ。私はこんなにかわいい子供なのに、みんなが疑うような目で見るからでしょ!」

プンプンとその場で地団駄を踏んでみる。

「ほら、遊んでないで突入しますよ。そろそろ終わりにしましょう」

アルベールが後ろをチラッと見て、みんながその言葉にキリッと気持ちを引き締める。
そう、とうとう終わりなんだ・・・トゥーロン王国の忌まわしき時代が終わり、新しい時代を私たちの手で開けるんだ!








アルベールの歩く速度に合わせて、ゆっくりと魔法障壁を広げていく。
扉の大きさだった魔法障壁は、謁見の間の中に進めば進むほど広く、私たちを囲むように展開させる。

「誰だっ!お前たち、俺が誰だかわかっているのか!」

玉座の前で仁王立ちして、若い男が叫ぶ。
ヴィクトル兄様と背丈は変わらないが、その容貌は天と地ほどの差があった。
余程、ヴィクトル兄様たちを排除できたのが嬉しかったのか、気が弛んだのか、不摂生な生活をエンジョイしていたのだろう。
髪に艶がなく、体つきもぽっちゃりとして、声も叫んだからではなく酒やけしてガラガラだった。
もしかして、今もお酒を飲んでいるから、そんなに赤ら顔なんだろうか?

隣に立つエロイーズは、王女というより娼婦と称したい恰好をしている。
たぶん生地はいいものだけど、ザックリと胸元と背中が開いている真っ赤なドレスで、太腿の際どいところからスリットが両脇に入っている・・・隠している布の分量が少なくないか?
バァーンとお胸もお尻もあるけど・・・リリアーヌ姉様と比べると容色がイマイチですな。
そんな失礼なことを考えていたのがバレたのか、こっちにギリッと厳しい視線が飛んできました。
咄嗟にアルベールの背中に隠れます。

ある程度の距離を確保して向かい合うと、ヴィクトル兄様が前に進み出て、アルベールを押しのけ最前列へと躍り出た。

「久しぶりだな、ユベール!」

剣の柄に手をかけて、一直線にユベールを睨むヴィクトル兄様の姿に、玉座の前で立っていたユベールは顔色を失くし無様にその場で尻餅をついた。
震える指でヴィクトル兄様を指し、わななく唇を開く。

「ヴィ・・・ヴィクトル・・・。お、お前、生きていたのかっ!」
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