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エピローグ
帝国と冒険者
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十年間の王様業務、お疲れさまでした私!
とうとう、解放されるときが来ましたよ。
先日、無事に私の退位に関しての諸々の手続きが終了しまして、昨日、ヴィクトル兄様が正式に王様になりましたーっ!
わー、パチパチ。
ヴィクトル三世として、戴冠式と国民へのお披露目を済ませ、祝いの夜会も終わり、今日は私たちの旅立ちの日です。
「・・・もう行ってしまうのかい?」
ヴィクトル兄様・・・そんな切なそうな眼で見つめないでください。
「うん! 王都の冒険者ギルドで再登録してリシュリュー辺境伯領地を目指すわ」
そして、飛竜を借りてアンティーブ国のアラスの町までひとっ飛びして、ゴダール男爵じゃなかった、今はゴダール子爵領地へと。
十年の間にシャルル様もベルナール様もなんとか腹黒い貴族とのやりとりにも慣れ、国王となるヴィクトル兄様の側近として及第点を貰えていた。
レイモン氏は三年前にブルエンヌへと帰っていきました。
いや、別の理由でさっさと王都を後にしたんだけどさー。
アデル王子とリリアーヌ姉様が結婚して、ミシェル陛下は自分にもしものことがあっても、二人の子供を世継ぎにすればいいと公言した。
なのでミシェル陛下は、いまだに婚約者もいない、独り者の王様である。
私は、どうせ十年経ったら退位するのがわかっていたので、そもそも婚約も結婚もない。
でも、ヴィクトル兄様の婚約者は探さないとねー、とレイモン氏とオルタンス様と話し合っていたのだが・・・。
まさかの伏兵が出てきたのだ!
レイモン氏は愛妻家なんだけど、十年近くも王都に単身赴任なのが嫌だったのか、すぐに妻子を呼び寄せて王城で家族と一緒に生活を始めた。
まだトゥーロン王国の政情が安定していないときだったから、お城で一緒に住めば? と進言したのは私だけど、まさかそうなるなんて思わないじゃない。
レイモン氏の愛娘、カロリーヌ姫がヴィクトル兄様に一目惚れするなんて!
ちょっと年が離れているけど、好きになったのはカロリーヌ姫のほうだから、ヴィクトル兄様がロリコンの訳ではない。
最初の頃は、ヴィクトル兄様も狼狽えていたしね。
レイモン氏は反対したけど、いや、あの人は誰が相手でも反対したと思うけど、意外にオルタンス様を始めリシュリュー辺境伯家は大賛成。
シャルル様やベルナール様、冒険者ギルドのロドリスさんも賛成だし、お嫁に行ったリリアーヌ姉様も賛成。
外堀をしっかりと埋められた結果、二年前に無事婚約し、来年の春には結婚式ですよ。
「シルヴィーも結婚式には参列してくれるよね?」
「うっ! しかし・・・私はそのぅ・・・」
本当の妹ではないのですよ?
「絶対だよ。カロリーヌもシルヴィーと会えるのを楽しみにしているんだ」
今は、何故かブルエンヌの屋敷で花嫁教育中のカロリーヌ姫だけど。
「・・・はい」
最後にヴィクトル兄様とハグしてお別れです。
アルベール、リュシアン、セヴラン、ルネ、リオネルも、この十年間で仲良くなった人たちと別れを惜しんでいる。
・・・いやいや、二年に一度は帰ってこいって命じられているから、ちょくちょく顔を出しますけどね?
久しぶりにカヌレが牽く馬車に乗り込んで出発!
窓から大きく体を乗り出して手を振って・・・ヴィクトル兄様たちの姿が見えなくなるまで手を振って・・・ぐすん。
「いや、すぐに帰ってくるじゃないですか」
うるさい、セヴラン! 涙腺が弱いお年頃なのだ。
はあーっ、馬車の中でお茶を楽しみながら十年間の王様生活を思い出していたけど、やっぱり・・・あれが一番強烈だったわー。
即位して五年ぐらい経った頃だったかしら? 各国に帝国から親書が届けられた。
帝国よ? あの帝国よ? 一体何を企んでいるのよーっ!
「あん? 皇帝即位?」
その中身は、誰が皇帝になるかで分裂し内紛が絶えなかった帝国にン十年ぶりに皇帝が誕生したという報せ。
しかも、無理やり併合されていてた小国の独立戦争も起きていた帝国なのに、その小国を一つにまとめ上げた男が皇帝になったとか。
その親書の真偽を確かめなければと、我が国の商業ギルドに残ってくれたオレールさんと冒険者ギルドマスターのロドリスを招集して、会議よ、会議。
「帝国の皇帝についての情報は・・・あまりなく・・・」
クッと苦しそうに顔を歪めるオレールさん。
情報部というか暗部というか、そういうことに長けているオレールさんたちは、もちろんピエーニュの森で隣接している帝国の情報は集めていた。
皇帝になったという青年が、いち地方領地から軍を起こしたのも知っていた。
しかし、その後、小国をまとめ上げ帝都に攻め上ってくるスピードが桁違いに速かったらしい。
正直、青年の素性を確かめるところまでしか、手元に情報がないと悔やんでいる。
「つまり、どんな奴なのか、どんなことを考えているのかはわからん、てことか?」
「ええ、ロドリス殿の言う通りです。過去の皇帝のように領土拡大を狙っているのか・・・それとも荒れた国を立て直す賢帝となるか。まだ未知数です」
ちなみに素性は、前皇帝の庶子・・・らしい。
皇帝の血族を現す銀色の瞳が証拠らしいけど・・・どうなんでしょうね?
「魔法や魔道具で瞳の色は変えられるしねー」
私は、帝国からの親書をピラピラと手で弄びながら言う。
なんせ、私自身が金色の瞳を変えていたんだから。
「・・・小国がそれぞれの思惑を越えて、本当の意味で一つの国として纏まっているのならば、脅威です」
シャルル様の顔が若干青い。
トゥーロン王国の今の国力は、帝国どころかどこの国を相手取っても厳しい戦いになる。
リシュリュー辺境伯ぐらいしかまともな戦力ないしね。
「・・・こんなときになんなんだが・・・実は、冒険者ギルドマスターとして報告しなければならないことがある」
ロドリスさんが急に真面目な顔をした。
「ど・・・どうしたの?」
「ピエーニュの森に変化が見られるらしい。森の奥で棲息しないはずの中級ランクの魔獣がいた。カミーユが調査をしているが、はぐれ魔獣ではなく・・・こちら側に流れてきているらしい」
カミーユさんの見立てでは、ピエーニュの森の向こう側、つまり帝国側に多く棲息していた高ランク魔獣がこちら側、トゥーロン王国側に移動してきていると。
「移動つーか、正しい棲息分布になってきているらしい」
今まで、トゥーロン王国側に低ランクの魔獣しかいなかったのが不自然だとカミーユさんは断言した。
「まさか、なにかの結界とかで魔獣の行き来が制限されていたとか? 今回の皇帝誕生の動きと関連があるの?」
うーん、と会議出席者全員で悩むが答えが出ない。
しょうがない、没交渉だった帝国の内情なんて知るはずもなく、情報通のオレールさんたちでさえお手上げなのだ。
「ふーん。新しい皇帝ねぇ・・・。ん?」
私は親書の最後に記されていた皇帝本人のサインの下に違和感を持った。
光に透かしてみると・・・何か書いてある?
「ファイアー」
掌にポワッと蝋燭の火程度の火魔法を展開させ、その上に親書を翳す。
「うわっ! 出た」
炙ったら文字が浮き出てきましたよ。
「・・・おいおい」
そこに書かれていたのは、懐かしい日本語でした。
「まっさか、帝国の皇帝があっちからの転生者だとは思わないわよね。しかも人族と魔族のハーフで私より劣るけどチート能力持ちだなんて」
モグモグとマカロンを次々に口に運びながら、当時のことを思い出す。
その親書に書かれていた内容は、皇帝の日本での名前と職業・・・て学生だったらしいけど。
あとは切々たる要望で、「日本食が恋しい」と。
すぐに送ったわよ、日本食っぽいもの。
それからミュールズ国やアンティーブ国に対しては帝国に対して少し様子を見てくれるように頼んで、特にアンティーブ国には連合国に対して牽制して欲しいって頼んだわよ。
それからは、いい文通相手です。
今回、私が退位することを知って、「遊びに来てくれ」と誘われているので、いつか行ってみたい!
独自にチハロ国と貿易も始めたみたいだしね。
「お嬢。着いたぞ」
「はーい」
では、冒険者ギルドで冒険者登録しましょうか。
Aランクのアルベールには期限はないけど、まだまだ駆け出し冒険者だった私たちは十年間冒険者としての活動をしていなかったので、資格がなくなってしまった。
なので、王都の冒険者ギルドで再登録です!
「陛下・・・じゃなかった。嬢ちゃん、本当に冒険者になるのか?」
ギルドマスターの執務室で出迎えてくれたロドリスさんはしょっぱい顔で、サブマスのモーリスさんはニコニコ顔だ。
「そうよ。名前もヴィー・シルヴィーにして登録よ」
ちなみに、みんなもファミリーネームを「シルヴィー」にして登録です。
ガシガシと髪を掻きまわしたあと、疲れた声でロドリスさんは私たちの冒険者登録手続きをしてくれました。
実際にしてくれたのは、モーリスさんだけど。
「はああっ、また一番下からやり直しか・・・」
「いいじゃねぇか。魔獣討伐してたら、すぐに上がるぞ」
リュシアンは軽く言うけども、セヴランなんか涙目で新しい冒険者ギルドカードを握りしめているわよ?
「ああ・・・せっかく、鞭から離れていたのに・・・。最初からやり直しですぅ」
アンタ・・・ちゃんと鞭スキルを磨いておきなさいよ。
「ヴィー様。ルネの新しいカード、ピカピカです!」
かわいい黒猫から、ダイナマイトバディの黒猫お姉様に成長したルネだが、中身はかわいい子猫のままである。
愛い!
「・・・。ちっ」
リオネルは舌打ちしたあと、カードをポイッと自分のアイテムボックスに入れる。
身長も伸びて青年らしい体付きになって、もの凄いイケメンに育ったリオネルだけと、中身は食いしん坊なバトルジャンキーのままだ。
アルベールはモーリスさんと言葉を交わしたあと、私たちの背中を押して部屋から出す。
「さあさあ、自分たちのステータスも確認しましたね。ある程度の無茶はいいですけど、張り切りすぎて怪我などしないように。では、行きましょう」
・・・ステータスか・・・。
冒険者に登録するときの水晶型魔道具に手を翳すと、自分のステータスが確認できる。
ギルドカードには、名前と年齢、種族と職業みたいなものが記載されるだけなんだけど、自分にしか見えないステータス表示には全て記載されている。
私は自分の能力「鑑定」でいつでも見れるから、気にしないけど。
「んー! さあ、馬車に乗って行こう!」
どこまでも、みんなで行こう! 楽しいことも苦しいことも一緒に乗り越えて!
名前 ヴィー・シルヴィー
性別 女
年齢 十八歳
種族 ハイエルフ
<スキル>
全魔法属性 生活魔法 鑑定(探査・探知)MAX 隠蔽 料理 裁縫 算術 魔力操作 魔力感知 身体強化(強)
身体系耐性MAX 精神系耐性MAX 物理攻撃耐性(強) 魔法攻撃耐性(強) 熱冷耐性(強)
無限収納
<称号>
異世界転生者 波乱万丈万歳人生 この世を統べる者≪NEW≫
――おわり――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ご愛読ありがとうございました!
なんとか更新を続けて最後まで書くことができました。
みなさま本当に、ありがとうございます。
まだ、番外編など書く予定がございますので。もうしばらくお付き合いください。
沢野 りお
とうとう、解放されるときが来ましたよ。
先日、無事に私の退位に関しての諸々の手続きが終了しまして、昨日、ヴィクトル兄様が正式に王様になりましたーっ!
わー、パチパチ。
ヴィクトル三世として、戴冠式と国民へのお披露目を済ませ、祝いの夜会も終わり、今日は私たちの旅立ちの日です。
「・・・もう行ってしまうのかい?」
ヴィクトル兄様・・・そんな切なそうな眼で見つめないでください。
「うん! 王都の冒険者ギルドで再登録してリシュリュー辺境伯領地を目指すわ」
そして、飛竜を借りてアンティーブ国のアラスの町までひとっ飛びして、ゴダール男爵じゃなかった、今はゴダール子爵領地へと。
十年の間にシャルル様もベルナール様もなんとか腹黒い貴族とのやりとりにも慣れ、国王となるヴィクトル兄様の側近として及第点を貰えていた。
レイモン氏は三年前にブルエンヌへと帰っていきました。
いや、別の理由でさっさと王都を後にしたんだけどさー。
アデル王子とリリアーヌ姉様が結婚して、ミシェル陛下は自分にもしものことがあっても、二人の子供を世継ぎにすればいいと公言した。
なのでミシェル陛下は、いまだに婚約者もいない、独り者の王様である。
私は、どうせ十年経ったら退位するのがわかっていたので、そもそも婚約も結婚もない。
でも、ヴィクトル兄様の婚約者は探さないとねー、とレイモン氏とオルタンス様と話し合っていたのだが・・・。
まさかの伏兵が出てきたのだ!
レイモン氏は愛妻家なんだけど、十年近くも王都に単身赴任なのが嫌だったのか、すぐに妻子を呼び寄せて王城で家族と一緒に生活を始めた。
まだトゥーロン王国の政情が安定していないときだったから、お城で一緒に住めば? と進言したのは私だけど、まさかそうなるなんて思わないじゃない。
レイモン氏の愛娘、カロリーヌ姫がヴィクトル兄様に一目惚れするなんて!
ちょっと年が離れているけど、好きになったのはカロリーヌ姫のほうだから、ヴィクトル兄様がロリコンの訳ではない。
最初の頃は、ヴィクトル兄様も狼狽えていたしね。
レイモン氏は反対したけど、いや、あの人は誰が相手でも反対したと思うけど、意外にオルタンス様を始めリシュリュー辺境伯家は大賛成。
シャルル様やベルナール様、冒険者ギルドのロドリスさんも賛成だし、お嫁に行ったリリアーヌ姉様も賛成。
外堀をしっかりと埋められた結果、二年前に無事婚約し、来年の春には結婚式ですよ。
「シルヴィーも結婚式には参列してくれるよね?」
「うっ! しかし・・・私はそのぅ・・・」
本当の妹ではないのですよ?
「絶対だよ。カロリーヌもシルヴィーと会えるのを楽しみにしているんだ」
今は、何故かブルエンヌの屋敷で花嫁教育中のカロリーヌ姫だけど。
「・・・はい」
最後にヴィクトル兄様とハグしてお別れです。
アルベール、リュシアン、セヴラン、ルネ、リオネルも、この十年間で仲良くなった人たちと別れを惜しんでいる。
・・・いやいや、二年に一度は帰ってこいって命じられているから、ちょくちょく顔を出しますけどね?
久しぶりにカヌレが牽く馬車に乗り込んで出発!
窓から大きく体を乗り出して手を振って・・・ヴィクトル兄様たちの姿が見えなくなるまで手を振って・・・ぐすん。
「いや、すぐに帰ってくるじゃないですか」
うるさい、セヴラン! 涙腺が弱いお年頃なのだ。
はあーっ、馬車の中でお茶を楽しみながら十年間の王様生活を思い出していたけど、やっぱり・・・あれが一番強烈だったわー。
即位して五年ぐらい経った頃だったかしら? 各国に帝国から親書が届けられた。
帝国よ? あの帝国よ? 一体何を企んでいるのよーっ!
「あん? 皇帝即位?」
その中身は、誰が皇帝になるかで分裂し内紛が絶えなかった帝国にン十年ぶりに皇帝が誕生したという報せ。
しかも、無理やり併合されていてた小国の独立戦争も起きていた帝国なのに、その小国を一つにまとめ上げた男が皇帝になったとか。
その親書の真偽を確かめなければと、我が国の商業ギルドに残ってくれたオレールさんと冒険者ギルドマスターのロドリスを招集して、会議よ、会議。
「帝国の皇帝についての情報は・・・あまりなく・・・」
クッと苦しそうに顔を歪めるオレールさん。
情報部というか暗部というか、そういうことに長けているオレールさんたちは、もちろんピエーニュの森で隣接している帝国の情報は集めていた。
皇帝になったという青年が、いち地方領地から軍を起こしたのも知っていた。
しかし、その後、小国をまとめ上げ帝都に攻め上ってくるスピードが桁違いに速かったらしい。
正直、青年の素性を確かめるところまでしか、手元に情報がないと悔やんでいる。
「つまり、どんな奴なのか、どんなことを考えているのかはわからん、てことか?」
「ええ、ロドリス殿の言う通りです。過去の皇帝のように領土拡大を狙っているのか・・・それとも荒れた国を立て直す賢帝となるか。まだ未知数です」
ちなみに素性は、前皇帝の庶子・・・らしい。
皇帝の血族を現す銀色の瞳が証拠らしいけど・・・どうなんでしょうね?
「魔法や魔道具で瞳の色は変えられるしねー」
私は、帝国からの親書をピラピラと手で弄びながら言う。
なんせ、私自身が金色の瞳を変えていたんだから。
「・・・小国がそれぞれの思惑を越えて、本当の意味で一つの国として纏まっているのならば、脅威です」
シャルル様の顔が若干青い。
トゥーロン王国の今の国力は、帝国どころかどこの国を相手取っても厳しい戦いになる。
リシュリュー辺境伯ぐらいしかまともな戦力ないしね。
「・・・こんなときになんなんだが・・・実は、冒険者ギルドマスターとして報告しなければならないことがある」
ロドリスさんが急に真面目な顔をした。
「ど・・・どうしたの?」
「ピエーニュの森に変化が見られるらしい。森の奥で棲息しないはずの中級ランクの魔獣がいた。カミーユが調査をしているが、はぐれ魔獣ではなく・・・こちら側に流れてきているらしい」
カミーユさんの見立てでは、ピエーニュの森の向こう側、つまり帝国側に多く棲息していた高ランク魔獣がこちら側、トゥーロン王国側に移動してきていると。
「移動つーか、正しい棲息分布になってきているらしい」
今まで、トゥーロン王国側に低ランクの魔獣しかいなかったのが不自然だとカミーユさんは断言した。
「まさか、なにかの結界とかで魔獣の行き来が制限されていたとか? 今回の皇帝誕生の動きと関連があるの?」
うーん、と会議出席者全員で悩むが答えが出ない。
しょうがない、没交渉だった帝国の内情なんて知るはずもなく、情報通のオレールさんたちでさえお手上げなのだ。
「ふーん。新しい皇帝ねぇ・・・。ん?」
私は親書の最後に記されていた皇帝本人のサインの下に違和感を持った。
光に透かしてみると・・・何か書いてある?
「ファイアー」
掌にポワッと蝋燭の火程度の火魔法を展開させ、その上に親書を翳す。
「うわっ! 出た」
炙ったら文字が浮き出てきましたよ。
「・・・おいおい」
そこに書かれていたのは、懐かしい日本語でした。
「まっさか、帝国の皇帝があっちからの転生者だとは思わないわよね。しかも人族と魔族のハーフで私より劣るけどチート能力持ちだなんて」
モグモグとマカロンを次々に口に運びながら、当時のことを思い出す。
その親書に書かれていた内容は、皇帝の日本での名前と職業・・・て学生だったらしいけど。
あとは切々たる要望で、「日本食が恋しい」と。
すぐに送ったわよ、日本食っぽいもの。
それからミュールズ国やアンティーブ国に対しては帝国に対して少し様子を見てくれるように頼んで、特にアンティーブ国には連合国に対して牽制して欲しいって頼んだわよ。
それからは、いい文通相手です。
今回、私が退位することを知って、「遊びに来てくれ」と誘われているので、いつか行ってみたい!
独自にチハロ国と貿易も始めたみたいだしね。
「お嬢。着いたぞ」
「はーい」
では、冒険者ギルドで冒険者登録しましょうか。
Aランクのアルベールには期限はないけど、まだまだ駆け出し冒険者だった私たちは十年間冒険者としての活動をしていなかったので、資格がなくなってしまった。
なので、王都の冒険者ギルドで再登録です!
「陛下・・・じゃなかった。嬢ちゃん、本当に冒険者になるのか?」
ギルドマスターの執務室で出迎えてくれたロドリスさんはしょっぱい顔で、サブマスのモーリスさんはニコニコ顔だ。
「そうよ。名前もヴィー・シルヴィーにして登録よ」
ちなみに、みんなもファミリーネームを「シルヴィー」にして登録です。
ガシガシと髪を掻きまわしたあと、疲れた声でロドリスさんは私たちの冒険者登録手続きをしてくれました。
実際にしてくれたのは、モーリスさんだけど。
「はああっ、また一番下からやり直しか・・・」
「いいじゃねぇか。魔獣討伐してたら、すぐに上がるぞ」
リュシアンは軽く言うけども、セヴランなんか涙目で新しい冒険者ギルドカードを握りしめているわよ?
「ああ・・・せっかく、鞭から離れていたのに・・・。最初からやり直しですぅ」
アンタ・・・ちゃんと鞭スキルを磨いておきなさいよ。
「ヴィー様。ルネの新しいカード、ピカピカです!」
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愛い!
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リオネルは舌打ちしたあと、カードをポイッと自分のアイテムボックスに入れる。
身長も伸びて青年らしい体付きになって、もの凄いイケメンに育ったリオネルだけと、中身は食いしん坊なバトルジャンキーのままだ。
アルベールはモーリスさんと言葉を交わしたあと、私たちの背中を押して部屋から出す。
「さあさあ、自分たちのステータスも確認しましたね。ある程度の無茶はいいですけど、張り切りすぎて怪我などしないように。では、行きましょう」
・・・ステータスか・・・。
冒険者に登録するときの水晶型魔道具に手を翳すと、自分のステータスが確認できる。
ギルドカードには、名前と年齢、種族と職業みたいなものが記載されるだけなんだけど、自分にしか見えないステータス表示には全て記載されている。
私は自分の能力「鑑定」でいつでも見れるから、気にしないけど。
「んー! さあ、馬車に乗って行こう!」
どこまでも、みんなで行こう! 楽しいことも苦しいことも一緒に乗り越えて!
名前 ヴィー・シルヴィー
性別 女
年齢 十八歳
種族 ハイエルフ
<スキル>
全魔法属性 生活魔法 鑑定(探査・探知)MAX 隠蔽 料理 裁縫 算術 魔力操作 魔力感知 身体強化(強)
身体系耐性MAX 精神系耐性MAX 物理攻撃耐性(強) 魔法攻撃耐性(強) 熱冷耐性(強)
無限収納
<称号>
異世界転生者 波乱万丈万歳人生 この世を統べる者≪NEW≫
――おわり――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ご愛読ありがとうございました!
なんとか更新を続けて最後まで書くことができました。
みなさま本当に、ありがとうございます。
まだ、番外編など書く予定がございますので。もうしばらくお付き合いください。
沢野 りお
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