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エピローグ
聖女と第二王子
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アラサー女子が転生した、みそっかすちびっ子王女は、紆余曲折がありましたがこの度、八歳の女王としてトゥーロン王国に君臨することになりました。
ワハハハハ、崇め跪くがよい。
ボコン!
「あいたっ」
うー、叩かれた後頭部を手で押さえて振り向くと、丸めた書類を手の上でポンポンと遊ばしているアルベールの姿が。
「真面目におやりなさい。まだまだ仕事は山積みなんですよ」
「うー、わかっているけどぉぉぉっ。亜人たちの住まいと仕事をどうするか・・・。王都にはまだ亜人に対して悪い感情を持っている人もいるし」
悩みどころなのですよ。
奴隷として無理やり連れて来られた亜人の方々は、解放されたなら生まれ故郷や家族の元へ帰るだろうと思っていましたし、そのための移動方法と予算も組んでおりました。
でも、蓋を開けてみたら、実際トゥーロン王国を出て行ったのは奴隷の三分の一。
元々、王都から離れた領地では自由に過ごしていた亜人もいたけど、その人たちはそのまま市民権を得てこの国に留まってくれているけど。
問題は、王城や高位貴族の奴隷たち。
まず、数は少ないけどエルフ族のほとんどは居座っている。
これは、ノアイユ公爵の所のエルフたちと同じ理由で、エルフとして奴隷に堕とされたのはプライドが許さないので、他のエルフに知られたくない、だから帰らない。
獣人の皆さんで、この国に残っているのは元冒険者で独り者とか、孤児上がりで天涯孤独だったりとか、どこの土地に行っても同じ境遇という人たち。
他にもドワーフ族とか小人族とか、ハーフエルフとかいろいろだけど、残ってくれるからには仕事と住居を用意してあげたい!
「なんか、仕事ないかなぁ」
「この国は、これといった産業も鉱山もダンジョンもないですものね」
「うん、そうなの」
この国は、宝石や魔石のお宝ザクザク! もないし、ダンジョンや魔獣討伐で冒険者稼業でウハウハもできないの。
「農業か・・・。でも、これ以上の農作物を増やしてもなぁ」
土地も必要だし、農作物は国内で消費する分は足りているから、外国に売りつけたいけど・・・、私の即位からまだ半年しか経ってないから、トゥーロン王国の評判は現状維持のまま。
半年後の戴冠式に、外国からの参加者は来るのかな? ミュールズ国とアンティーブ国からしか来なかったりして。
とにかく、亜人たちの生活基盤について頭の隅で考えながら、他の書類を捌いていきます。
シュババババ!
「大変です―! 結婚ですー!」
バッターン! と珍しくシャルル様が血相変えて、王の執務室に飛び込んできた。
「シャルル様。どうしたの?」
結婚て・・・シャルル様が結婚するの?
「ち、違います! これ、この新聞を見てください」
バササッと机の上に置かれたのは、「号外」と書かれた手刷りの新聞。
「ふむふむ。結婚! 聖女とミュールズ国第二王子 アデル様・・・。って、なんじゃこりゃーっ!」
ビリリリ! あ、勢いで破いちゃった。
「大変だーっ! シルヴィー、アデルが結婚するってー! しかも聖女と」
今まさに、私の手の中で真っ二つになった「号外」を手に握りしめ、ヴィクトル兄様とユーグ君が駆け込んできました。
ねえ、ちょっと、リュシアン。
ここってば、王の執務室よね? なんでこんな簡単に人をガバガバ通しちゃうのよ?
「は? お嬢が退屈しなくていいじゃん」
おバカ! 私は王様の仕事で過労死寸前だってば!
「アデルが結婚。それはいいんだ。いつまでもリリアーヌを引き摺っていてはいけないし」
ヴィクトル兄様は、友達の結婚を喜びながらも少し寂しそうです。
「それよりも、ミシェル陛下はご存知なのですか? そもそもあの人、教会に入り浸ってミュールズ国に帰国してませんよね? 帰国命令が出ていたのに」
アデル王子は、ミュールズ国だって未曾有の譲位劇でてんやわんやな自国を、実の兄を放っておいて、聖女護衛だけをしていたのよ。
「・・・知らないと思う」
「ダメじゃん」
シーンと執務室の面々が黙り込むと、またもや誰かが飛び込んできた。
「シルヴィー様、大変です! 元教皇猊下と聖女様とアデル王子が・・・登城されましたーっ」
ベルナール様がビャーッと駆け込んで、ハアハアと肩で息をしている。
「なんだ? なんだ?」
何をしに来たのだ?
「と・・・とりあえず、みんなで応接室に移動しようか?」
ルネはペコリとお辞儀をした後、シュンと姿を消す。
お客様の誘導と、お茶の準備をしてくれるのだろう。
「はあ・・・。私、すごい忙しいんだけど?」
なんつーか、世の中には不思議なこともあるものよねぇー。
今、ヴィクトル兄様は号泣中です。
聖女と抱き合って、ワンワン泣いてます。
私もちょっとウルウルしてますけどね。
だって、誰が思うのよ? ある日突然出てきた聖女の正体が、死んだはずのリリアーヌ姉様だったなんて!
「ふぉふぉ。連れてくるのが遅くなってすまなんだ。オレールがまだ連合国の影があちこちを嗅ぎまわっていると言ってたのでな、用心に用心を重ねたのじゃ」
「いえいえ。お気遣いありがとうございます。ところで、何故リリアーヌ姉様が教会に保護されていたので?」
リリアーヌ姉様はあのパーティーでユベールたちに剣で斬られたあと、パチリと目を覚ました。
そのときには、斬られた傷は綺麗に塞がっていたらしい。
とにかく、ここから逃げなければと血塗れのドレスの上にテーブルクロスを撒きつけて、大広間から出た。
外では、奴隷契約から解放された亜人たちとザンマルタン家の騎士たちがあちこちで争っており、裸馬が何頭も縦横無尽に駆け巡っている恐ろしい状況だった。
正門から脱出するのは諦めて、通用門の一つに向かいながらも、突然飛び出してくる馬に怯え、大木の影に身を潜めていたとき、教会へと戻る神官様が乗る馬車に助けられた。
「一目見てリリアーヌ様だとわかりましたが、非常に怯えられていましてな。次の日に事情をお聞きすればさもありなんと。しばらくは身を潜めお味方を探すように進言しましたのじゃ」
そこで、リリアーヌ姉様はタダで居候するのは申し訳ないと、自分の治癒魔法を怪我した人たちへ無料奉仕した。
「そこから、聖女と・・・」
私はヴィクトル兄様やユーグ君と手を取り合って泣き笑いしている、美しいリリアーヌ姉様を見て納得する。
その後、解放軍が進軍する際、護衛に付いたときにアデル王子とリリアーヌ姉様は再会したと。
「婚約を結ぶ寸前だったのだから、そのまま結婚するのはいいけど・・・。問題はあるわね」
そうなのだ。
今のトゥーロン王国はミュールズ国と縁を結ぶ訳にはいかない。
また、何か良からぬことを企んで手を結んだなどと、疑われてはならぬのだ!
「リリアーヌ姉様は死んだことになっているから、聖女としてアデル王子と結婚する。それって、問題ないのですか?」
「うーむ。聖女として教会預かりになっているのでな、今のリリアーヌ様はトゥーロン王国の民ではない。だが、結婚するならば還俗しなければ・・・」
「あー、引受人が必要か」
当然、トゥーロン王家は無理だし、トゥーロン王国の貴族もダメ。
ミュールズ国の誰かに頼むか? いやいやミシェル陛下だって、今はまだ足元を掬われないようにしているのだから、下手な貴族に借りを作るわけにはいかないでしょう。
「あ! アルベール。確かクリストフ様がいらしてたわよね? 呼んできて。あとリオネルーっ。カミーユさん呼んできてー」
いいこと、考えちゃった!
結局、リリアーヌ姉様は教会から還俗してゴダール男爵家に養女として入ることに。
これは、私がゴダール男爵にお手紙を書きました。
クリストフ殿下には、アンティーブ国の了解を得るのに利用しました。
ゴダール男爵領地で半年間過ごしてもらって、その後、カミーユさんの伝手でサン・ブルージュの町を作ったという元宰相さんのお家に養女へ行ってもらいます。
最終的にはアンティーブ国の侯爵令嬢としてミュールズ国第二王子へ嫁いでもらう。
「侯爵家といっても元宰相のおじいさんの養女で、爵位は息子さんがとっくに継いでいるからアンティーブ国に影響はないからいいよね。でもミュールズ国の王子に嫁ぐだけの身分は申し分ないし」
レイモン氏のお墨付きをもらえました。
トゥーロン王国の作法を捨て、アンティーブ国のそれを学んでもらうため、サン・ブルージュでは一年間過ごしてもらう。
そして、ミュールズ国へと。
「ごめんなさい。アンティーブ国の淑女教育を受けてもすぐに必要なくなっちゃう。でも・・・」
必要なのだ。
リリアーヌ姉様がトゥーロン王国出身とバレないために。
「いいのよ、ありがとう、シルヴィー。どれだけお礼を言っても足りないわ。私を助けてくれた守りの魔道具を、あの日渡してくれてありがとう」
リリアーヌ姉様が私の体をギュウと強く抱きしめる。
私も目を瞑って、リリアーヌ姉様の背中に手を回す。
まだ、王城の外れのお屋敷に住んでいた頃、王都のお祭りにみんなで出かけて迷子になった私。
そこで出会った、素敵なお姉さんに渡した針金で作ったブローチ。
お姉さんのお守りにと渡したそのブローチが、私の祈りを魔力に変えて魔道具となって、リリアーヌ姉様の命を助けてくれた。
それがとっても嬉しい。
「リリアーヌ姉様。お幸せに」
「ええ」
こうして、みんなが幸せになっていけばいい。
亜人たちの仕事と住居もどうにかなりそうです。
リリアーヌ姉様の「国営農場にすれば?」との一言で、私の中で算盤じゃなかった、企画がゴゴゴッと音を立てて組み立っていきました!
私たちが住んでいたお屋敷側の城壁の向こうの草原は国営地で、放って置かれた土地。
そこに農場と果樹園と住居を建てて、亜人たちが働く場所と住居にする。
でも人族と隔離しては、折角の亜人差別撤廃が意味を成さないから、オレールさんを通じて人族との繋がりも持ってもらう。
「でもお嬢。農作物は余っているんだろう?」
「そうよ。だから珍しいモノを作るのよ。それと美味しい物! スイーツとか。バーベキュー大会とかもいいわね! 催し物を定期的に開いて王都の人たちとの交流もするのよ!」
モルガン様が騎士団の寮が欲しいて言ってたから、ついでに建てて、農場の見回りもしてもらおう。
騎士団は亜人も人族も偏らずに採用しているし。
「ああーっ! また忙しくなるわ。行くわよっ、大臣たちを集めて会議を開かなきゃ!」
この一年後、国営農場で採れた最初の作物が取引され、その半年後ミュールズ国で第二王子の結婚式が開かれた。
私、トゥーロン王国女王の名代として、摂政ヴィクトル王兄が出席したと記録されている。
ワハハハハ、崇め跪くがよい。
ボコン!
「あいたっ」
うー、叩かれた後頭部を手で押さえて振り向くと、丸めた書類を手の上でポンポンと遊ばしているアルベールの姿が。
「真面目におやりなさい。まだまだ仕事は山積みなんですよ」
「うー、わかっているけどぉぉぉっ。亜人たちの住まいと仕事をどうするか・・・。王都にはまだ亜人に対して悪い感情を持っている人もいるし」
悩みどころなのですよ。
奴隷として無理やり連れて来られた亜人の方々は、解放されたなら生まれ故郷や家族の元へ帰るだろうと思っていましたし、そのための移動方法と予算も組んでおりました。
でも、蓋を開けてみたら、実際トゥーロン王国を出て行ったのは奴隷の三分の一。
元々、王都から離れた領地では自由に過ごしていた亜人もいたけど、その人たちはそのまま市民権を得てこの国に留まってくれているけど。
問題は、王城や高位貴族の奴隷たち。
まず、数は少ないけどエルフ族のほとんどは居座っている。
これは、ノアイユ公爵の所のエルフたちと同じ理由で、エルフとして奴隷に堕とされたのはプライドが許さないので、他のエルフに知られたくない、だから帰らない。
獣人の皆さんで、この国に残っているのは元冒険者で独り者とか、孤児上がりで天涯孤独だったりとか、どこの土地に行っても同じ境遇という人たち。
他にもドワーフ族とか小人族とか、ハーフエルフとかいろいろだけど、残ってくれるからには仕事と住居を用意してあげたい!
「なんか、仕事ないかなぁ」
「この国は、これといった産業も鉱山もダンジョンもないですものね」
「うん、そうなの」
この国は、宝石や魔石のお宝ザクザク! もないし、ダンジョンや魔獣討伐で冒険者稼業でウハウハもできないの。
「農業か・・・。でも、これ以上の農作物を増やしてもなぁ」
土地も必要だし、農作物は国内で消費する分は足りているから、外国に売りつけたいけど・・・、私の即位からまだ半年しか経ってないから、トゥーロン王国の評判は現状維持のまま。
半年後の戴冠式に、外国からの参加者は来るのかな? ミュールズ国とアンティーブ国からしか来なかったりして。
とにかく、亜人たちの生活基盤について頭の隅で考えながら、他の書類を捌いていきます。
シュババババ!
「大変です―! 結婚ですー!」
バッターン! と珍しくシャルル様が血相変えて、王の執務室に飛び込んできた。
「シャルル様。どうしたの?」
結婚て・・・シャルル様が結婚するの?
「ち、違います! これ、この新聞を見てください」
バササッと机の上に置かれたのは、「号外」と書かれた手刷りの新聞。
「ふむふむ。結婚! 聖女とミュールズ国第二王子 アデル様・・・。って、なんじゃこりゃーっ!」
ビリリリ! あ、勢いで破いちゃった。
「大変だーっ! シルヴィー、アデルが結婚するってー! しかも聖女と」
今まさに、私の手の中で真っ二つになった「号外」を手に握りしめ、ヴィクトル兄様とユーグ君が駆け込んできました。
ねえ、ちょっと、リュシアン。
ここってば、王の執務室よね? なんでこんな簡単に人をガバガバ通しちゃうのよ?
「は? お嬢が退屈しなくていいじゃん」
おバカ! 私は王様の仕事で過労死寸前だってば!
「アデルが結婚。それはいいんだ。いつまでもリリアーヌを引き摺っていてはいけないし」
ヴィクトル兄様は、友達の結婚を喜びながらも少し寂しそうです。
「それよりも、ミシェル陛下はご存知なのですか? そもそもあの人、教会に入り浸ってミュールズ国に帰国してませんよね? 帰国命令が出ていたのに」
アデル王子は、ミュールズ国だって未曾有の譲位劇でてんやわんやな自国を、実の兄を放っておいて、聖女護衛だけをしていたのよ。
「・・・知らないと思う」
「ダメじゃん」
シーンと執務室の面々が黙り込むと、またもや誰かが飛び込んできた。
「シルヴィー様、大変です! 元教皇猊下と聖女様とアデル王子が・・・登城されましたーっ」
ベルナール様がビャーッと駆け込んで、ハアハアと肩で息をしている。
「なんだ? なんだ?」
何をしに来たのだ?
「と・・・とりあえず、みんなで応接室に移動しようか?」
ルネはペコリとお辞儀をした後、シュンと姿を消す。
お客様の誘導と、お茶の準備をしてくれるのだろう。
「はあ・・・。私、すごい忙しいんだけど?」
なんつーか、世の中には不思議なこともあるものよねぇー。
今、ヴィクトル兄様は号泣中です。
聖女と抱き合って、ワンワン泣いてます。
私もちょっとウルウルしてますけどね。
だって、誰が思うのよ? ある日突然出てきた聖女の正体が、死んだはずのリリアーヌ姉様だったなんて!
「ふぉふぉ。連れてくるのが遅くなってすまなんだ。オレールがまだ連合国の影があちこちを嗅ぎまわっていると言ってたのでな、用心に用心を重ねたのじゃ」
「いえいえ。お気遣いありがとうございます。ところで、何故リリアーヌ姉様が教会に保護されていたので?」
リリアーヌ姉様はあのパーティーでユベールたちに剣で斬られたあと、パチリと目を覚ました。
そのときには、斬られた傷は綺麗に塞がっていたらしい。
とにかく、ここから逃げなければと血塗れのドレスの上にテーブルクロスを撒きつけて、大広間から出た。
外では、奴隷契約から解放された亜人たちとザンマルタン家の騎士たちがあちこちで争っており、裸馬が何頭も縦横無尽に駆け巡っている恐ろしい状況だった。
正門から脱出するのは諦めて、通用門の一つに向かいながらも、突然飛び出してくる馬に怯え、大木の影に身を潜めていたとき、教会へと戻る神官様が乗る馬車に助けられた。
「一目見てリリアーヌ様だとわかりましたが、非常に怯えられていましてな。次の日に事情をお聞きすればさもありなんと。しばらくは身を潜めお味方を探すように進言しましたのじゃ」
そこで、リリアーヌ姉様はタダで居候するのは申し訳ないと、自分の治癒魔法を怪我した人たちへ無料奉仕した。
「そこから、聖女と・・・」
私はヴィクトル兄様やユーグ君と手を取り合って泣き笑いしている、美しいリリアーヌ姉様を見て納得する。
その後、解放軍が進軍する際、護衛に付いたときにアデル王子とリリアーヌ姉様は再会したと。
「婚約を結ぶ寸前だったのだから、そのまま結婚するのはいいけど・・・。問題はあるわね」
そうなのだ。
今のトゥーロン王国はミュールズ国と縁を結ぶ訳にはいかない。
また、何か良からぬことを企んで手を結んだなどと、疑われてはならぬのだ!
「リリアーヌ姉様は死んだことになっているから、聖女としてアデル王子と結婚する。それって、問題ないのですか?」
「うーむ。聖女として教会預かりになっているのでな、今のリリアーヌ様はトゥーロン王国の民ではない。だが、結婚するならば還俗しなければ・・・」
「あー、引受人が必要か」
当然、トゥーロン王家は無理だし、トゥーロン王国の貴族もダメ。
ミュールズ国の誰かに頼むか? いやいやミシェル陛下だって、今はまだ足元を掬われないようにしているのだから、下手な貴族に借りを作るわけにはいかないでしょう。
「あ! アルベール。確かクリストフ様がいらしてたわよね? 呼んできて。あとリオネルーっ。カミーユさん呼んできてー」
いいこと、考えちゃった!
結局、リリアーヌ姉様は教会から還俗してゴダール男爵家に養女として入ることに。
これは、私がゴダール男爵にお手紙を書きました。
クリストフ殿下には、アンティーブ国の了解を得るのに利用しました。
ゴダール男爵領地で半年間過ごしてもらって、その後、カミーユさんの伝手でサン・ブルージュの町を作ったという元宰相さんのお家に養女へ行ってもらいます。
最終的にはアンティーブ国の侯爵令嬢としてミュールズ国第二王子へ嫁いでもらう。
「侯爵家といっても元宰相のおじいさんの養女で、爵位は息子さんがとっくに継いでいるからアンティーブ国に影響はないからいいよね。でもミュールズ国の王子に嫁ぐだけの身分は申し分ないし」
レイモン氏のお墨付きをもらえました。
トゥーロン王国の作法を捨て、アンティーブ国のそれを学んでもらうため、サン・ブルージュでは一年間過ごしてもらう。
そして、ミュールズ国へと。
「ごめんなさい。アンティーブ国の淑女教育を受けてもすぐに必要なくなっちゃう。でも・・・」
必要なのだ。
リリアーヌ姉様がトゥーロン王国出身とバレないために。
「いいのよ、ありがとう、シルヴィー。どれだけお礼を言っても足りないわ。私を助けてくれた守りの魔道具を、あの日渡してくれてありがとう」
リリアーヌ姉様が私の体をギュウと強く抱きしめる。
私も目を瞑って、リリアーヌ姉様の背中に手を回す。
まだ、王城の外れのお屋敷に住んでいた頃、王都のお祭りにみんなで出かけて迷子になった私。
そこで出会った、素敵なお姉さんに渡した針金で作ったブローチ。
お姉さんのお守りにと渡したそのブローチが、私の祈りを魔力に変えて魔道具となって、リリアーヌ姉様の命を助けてくれた。
それがとっても嬉しい。
「リリアーヌ姉様。お幸せに」
「ええ」
こうして、みんなが幸せになっていけばいい。
亜人たちの仕事と住居もどうにかなりそうです。
リリアーヌ姉様の「国営農場にすれば?」との一言で、私の中で算盤じゃなかった、企画がゴゴゴッと音を立てて組み立っていきました!
私たちが住んでいたお屋敷側の城壁の向こうの草原は国営地で、放って置かれた土地。
そこに農場と果樹園と住居を建てて、亜人たちが働く場所と住居にする。
でも人族と隔離しては、折角の亜人差別撤廃が意味を成さないから、オレールさんを通じて人族との繋がりも持ってもらう。
「でもお嬢。農作物は余っているんだろう?」
「そうよ。だから珍しいモノを作るのよ。それと美味しい物! スイーツとか。バーベキュー大会とかもいいわね! 催し物を定期的に開いて王都の人たちとの交流もするのよ!」
モルガン様が騎士団の寮が欲しいて言ってたから、ついでに建てて、農場の見回りもしてもらおう。
騎士団は亜人も人族も偏らずに採用しているし。
「ああーっ! また忙しくなるわ。行くわよっ、大臣たちを集めて会議を開かなきゃ!」
この一年後、国営農場で採れた最初の作物が取引され、その半年後ミュールズ国で第二王子の結婚式が開かれた。
私、トゥーロン王国女王の名代として、摂政ヴィクトル王兄が出席したと記録されている。
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