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二章(21)
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「――リク? エリク?」
声をかけられ、エリクはハッと我に返った。薄暗い路地裏。道の端には多くのゴミが捨てられており、やせ細った野良犬がうろつくそこで、先輩の軍人が心配そうにこちらを見つめていた。その瞳を見つめてようやっと現在の状況を思い出す。軍の職務の一環で、先輩と一緒に街の巡回をしていたのだった。
慌てて謝罪の言葉を口にする。
「すみません、ぼうっとしていて」
「いや、別にいいけどさ……おまえ最近どうした? おかしいぞ? ……あ、もしかして以前言ってたあの女の子か!?」
興奮したように目を輝かせて先輩に、エリクは笑ってごまかす。
エリクが巡回しているのは主に裏通りだ。そのためアデラとよく通る大通りは範囲に入っていないのだが、ちらりとその大通りが見えてふと昔を思い出していたのだ。
彼女と再会し、案内することになったときのことを。
――アデラに案内しようと提案したのは、反革命派の彼女に張りついていれば、なにか反革命派の情報が得られるのでは、と思ったからだった。
けれどすぐに後悔した。
彼女は本当に何も知らなさそうだったのだ。
純粋で、無邪気で、なにも知らない。知らされていない。
――だったらもう案内はやめるべきだ、と理性が叫ぶ。必要ないのだから次の手がかりを求めて別れるべきだ、と。当人に自覚がなくとも反革命派に近しい彼女と関わっていれば、反革命派に目をつけられてしまう可能性があるのだし、と。
けれど。
『――エリクは自分のことを優秀じゃないと思っているみたいだけど、わたしはあなたのこと優秀だと思うわ。尊敬する』
そう言ってくれたり、愛らしく笑う彼女の隣は居心地がよくて、離れがたくて。
結局、あれから二週間経った今も、彼女を案内し続けていた。はあ、とため息がこぼれる。
(別れなきゃ、いけないのにな……)
彼女は反革命派と関わりがある。本人にそのつもりがなくても、だ。元貴族とはいえ、エリクが革命の指導者の息子であると知られたら、周囲によって会うのを妨害されるに違いない。
それに彼女はこの国の者ではない。あと一週間も経たないうちに他国へ戻らなければいけない、と以前言っていた。
だから別れは必然なのに。
どうしても彼女とともにいたいと願う自分がいて。
「どうした? 恋の悩みなら相談に乗るぞ?」
「…………いえ、いいです。どうせみんなに言い触らすんでしょう?」
「よくわかってんじゃん」
ニヤリと笑う先輩に、エリクはそっとため息をついた。この先輩なら、自身の現状を知ったら面白おかしく話を盛って広めるだろうとは、前々から思っていたことだ。おそらく関わりのある者なら容易に想像がつくだろう。だが、そんなふうに堂々と認めるのはいかがなものか。
呆れた眼差しを向けていれば、先輩はよりいっそう笑みを深める。
「ま、仕事のときは集中しろよ。ただでさえ最近はピリピリしてんだから、もっと警戒しなきゃ怪我すんぞ」
「……ご忠告、ありがとうございます」
「どーいたしまして」
軽薄そうな笑顔を浮かべてひらひらと手を振る先輩。しかしその双眸は抜け目なく周囲を観察していて。
このままではいけないとエリクもしっかりと巡回を行う。
声をかけられ、エリクはハッと我に返った。薄暗い路地裏。道の端には多くのゴミが捨てられており、やせ細った野良犬がうろつくそこで、先輩の軍人が心配そうにこちらを見つめていた。その瞳を見つめてようやっと現在の状況を思い出す。軍の職務の一環で、先輩と一緒に街の巡回をしていたのだった。
慌てて謝罪の言葉を口にする。
「すみません、ぼうっとしていて」
「いや、別にいいけどさ……おまえ最近どうした? おかしいぞ? ……あ、もしかして以前言ってたあの女の子か!?」
興奮したように目を輝かせて先輩に、エリクは笑ってごまかす。
エリクが巡回しているのは主に裏通りだ。そのためアデラとよく通る大通りは範囲に入っていないのだが、ちらりとその大通りが見えてふと昔を思い出していたのだ。
彼女と再会し、案内することになったときのことを。
――アデラに案内しようと提案したのは、反革命派の彼女に張りついていれば、なにか反革命派の情報が得られるのでは、と思ったからだった。
けれどすぐに後悔した。
彼女は本当に何も知らなさそうだったのだ。
純粋で、無邪気で、なにも知らない。知らされていない。
――だったらもう案内はやめるべきだ、と理性が叫ぶ。必要ないのだから次の手がかりを求めて別れるべきだ、と。当人に自覚がなくとも反革命派に近しい彼女と関わっていれば、反革命派に目をつけられてしまう可能性があるのだし、と。
けれど。
『――エリクは自分のことを優秀じゃないと思っているみたいだけど、わたしはあなたのこと優秀だと思うわ。尊敬する』
そう言ってくれたり、愛らしく笑う彼女の隣は居心地がよくて、離れがたくて。
結局、あれから二週間経った今も、彼女を案内し続けていた。はあ、とため息がこぼれる。
(別れなきゃ、いけないのにな……)
彼女は反革命派と関わりがある。本人にそのつもりがなくても、だ。元貴族とはいえ、エリクが革命の指導者の息子であると知られたら、周囲によって会うのを妨害されるに違いない。
それに彼女はこの国の者ではない。あと一週間も経たないうちに他国へ戻らなければいけない、と以前言っていた。
だから別れは必然なのに。
どうしても彼女とともにいたいと願う自分がいて。
「どうした? 恋の悩みなら相談に乗るぞ?」
「…………いえ、いいです。どうせみんなに言い触らすんでしょう?」
「よくわかってんじゃん」
ニヤリと笑う先輩に、エリクはそっとため息をついた。この先輩なら、自身の現状を知ったら面白おかしく話を盛って広めるだろうとは、前々から思っていたことだ。おそらく関わりのある者なら容易に想像がつくだろう。だが、そんなふうに堂々と認めるのはいかがなものか。
呆れた眼差しを向けていれば、先輩はよりいっそう笑みを深める。
「ま、仕事のときは集中しろよ。ただでさえ最近はピリピリしてんだから、もっと警戒しなきゃ怪我すんぞ」
「……ご忠告、ありがとうございます」
「どーいたしまして」
軽薄そうな笑顔を浮かべてひらひらと手を振る先輩。しかしその双眸は抜け目なく周囲を観察していて。
このままではいけないとエリクもしっかりと巡回を行う。
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