革命の夜は二度来ない

白藤結

文字の大きさ
45 / 67

二章(20)

しおりを挟む
 少女は満面の笑みを浮かべて言う。
 その様子に、エリクはほっと息をついた。「それならよかったです」と、言葉が自然とこぼれる。
 安堵していたのは事実だった。今回はわざとだけれど、前回はこちらの不注意で怪我をさせてしまったのだ。その怪我がちゃんと治って安心するのは当然だろう。

(そう……ただ、それだけだ)

 自らに言い聞かせるかのように、そう心の中で呟く。罪悪感を抱いていたのはそれだけ。
 彼女を騙すことに、罪悪感など感じていない。
 目の前の彼女は、反革命派なのだから。

「それにしてもすごい偶然ね。まさかまたあなたに会うなんて。しかもまたぶつかってよ? こんなことめったにないわ」

 くすくすと楽しそうに笑う少女。エリクは「確かにそうですね」と、静かに応じることしかできなかった。
 胸がキリキリと締めつけられて、苦しい。

「俺は……散歩をしていただけですけれど、あなたは?」

 痛みを忘れるかのようにそう尋ねる。少女はきょとんとしたあと、笑みを浮かべながら答えた。

「わたし? わたしは観光よ」
「いいところでしょう? みんなが笑っていて、なんにでもなれて、幸せになれる。ここはそんな自由の国なんです」

 そんな素晴らしい国を、反革命派あなたたちは壊そうとしているんだ。
 そういう意味もこめて言ったのだが、少女は平然と「そうね。まだあんまり回れていないけど、いいところだってわかるわ」と言う。

 だったらどうしてこの国を壊そうとする!

 そんな気持ちを呑み込み、エリクは当たり障りのない言葉を吐こう、としたところで。
 ふと、ある案が脳内に浮上した。それのメリットとデメリットをよく考え――実行することに決める。
 そっと口を開いた。

「――まだあまり回れていないのなら、私がご案内しましょうか?」
「…………案内?」

 少女は驚いたように目をぱちくりさせる。エリクは笑みを深め、「はい、そうです」と頷いた。

「先日も今日もぶつかってしまいましたし、そのお礼としてどうでしょう? 私にも仕事があるので、非番のときだけになりますが……」
「本当に?」

 目をキラキラと輝かせて、少女はこちらを見つめてくる。
 その様子は本当に愛らしくて。
 ちくりと痛む胸を無視し、エリクは苦笑して頷いた。それが自然な反応だと思ったからだった。

「じゃあ……お願いするわ」

 そうして、彼女にこの国を案内することが決まったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら
恋愛
「そのようなところに立っていると、ずぶ濡れになりますわよ」 と、親切に忠告してあげただけだった。 それなのに、ずぶ濡れになったマリアナに”嫌がらせを指示した張本人はオデットだ”と、誤解を受ける。 友人もなく、気の毒な転入生を気にかけただけなのに。 あろうことか、オデットの婚約者ルシアンにまで言いつけられる始末だ。 美貌に、教養、権力、果ては将来の王太子妃の座まで持ち、何不自由なく育った箱入り娘のオデットと、庶民上がりのたくましい子爵令嬢マリアナの、静かな戦いの火蓋が切って落とされた。

そう言うと思ってた

mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。 ※いつものように視点がバラバラします。

二度目の子育て~我が子を可愛がったら溺愛されました

三園 七詩
恋愛
私は一人娘の優里亜の母親だった。 優里亜は幼い頃から体が弱く病院でほとんどの時間を過ごしていた。 優里亜は本が好きでよく私にも本の話をしてくれた。 そんな優里亜の病状が悪化して幼くして亡くなってしまう。 絶望に打ちひしがれている時事件に巻き込まれ私も命を落とした。 そして気がつくと娘の優里亜が大好きだった本の世界に入り込んでいた。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

転生皇女はフライパンで生き延びる

渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。 使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。 ……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。 自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。 そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。 「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」 ※※※ 死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。 ※重複投稿作品※

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...