王子様は魔女になりたいそうです

白藤結

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宣言(1)

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 思わず口をはくはくとさせていれば、「こんばんは、魔女様」とアレクシスが平然とした様子で挨拶をしてくる。その、まるで昨夜ルーツィンデが彼を追い出したことなどなかったかのような態度に驚き、戸惑い――とりあえずパタリと扉を閉めた。

(ど、どうしよう……)

 両手で扉を押さえつけてうなだれたまま、ルーツィンデは必死に思考をめぐらせる。正直昨夜のことが申し訳なさすぎて合わせる顔がない。

(けれどこのまま放置しちゃうと風邪をひいてしまうかもしれないし……いやいや、さすがにそうなる前にきちんと帰るはず。……だよね? ああでも今日も来たんだし、彼ならずっと扉の前で待っていたりしそう……)

 ぐるぐるぐるぐると脳内で言葉が渦巻く。どうすればいいのかさっぱり見当もつかなくて、ルーツィンデはただひたすらその場で固まることしかできなかった。
 うんうんとうなりながら扉を押さえていれば、どれくらい経っただろうか、しばらくして「……魔女様?」とくぐもった声が聞こえてきた。もちろん、今現在も扉の向こうで跪いて待っていると思われるアレクシスのもので。

 ……はぁ、とルーツィンデは盛大ななため息をつくとしぶしぶ扉を開けた。そこには先ほどまでとまったく変わらない体勢でアレクシスがおり、不思議そうにこちらを見上げてきている。
 その様子に苛立ちのような安堵のような形容しがたい感情を抱きつつ、ルーツィンデは体をズラして「入って」と言い、昨夜のように彼を家の中へと導いた。アレクシスはにこりと笑って「ありがとうございます」と家の中へと入ってくる。

(別に……ただ、あのまま家の前にいられたら困るってだけよ。それだけなんだから)

 こっそりと心の中で誰に対してでもなく言い訳をし、ルーツィンデは改めてアレクシスのほうを見た。
 明るい照明の下で見る彼の身なりは昨夜とほとんど変わらないものだった。豪奢で、煌びやか。その衣服に改めて彼はクレメンティアの第一王子であることを突きつけられる。

(もう来ないようにきつく言わなきゃ)

 そう決意をしながらルーツィンデは昨夜と同じテーブルに座るよう促す。するとまたもや「魔女様が先に座ってください」と言われたので、はぁ、とため息をついて魔法で紅茶を用意し始めると、彼よりも先に椅子に腰掛けた。
 続いてアレクシスがきちんと席につくのを確認すると、「それで、」と口を開く。

「どうして来たのかしら? 私、あなたを追い出したはずなんだけど」

 するとアレクシスはにこりと笑みを深めた。

「確かにそうですけど、もう来るなとは言われませんでしたので」
「……確かに口にはしていないけど、言ったようなものよね? なに? あなた空気読めないの?」
「読めますけど、自分の判断に基づき無視しています」
「ちょっと!」

 思わず叫べば、彼はクスリと笑った。その余裕ありそうな態度がなぜだか無性に苛立つ。

(ああ、もう! ムカつく!)

 魔法を使ってまたもや追い出したくなるのをぐっとこらえ、ルーツィンデは努めて冷静に声を発した。

「とりあえずもう来ないでくれるかしら?」
「嫌です」
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