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王子様、褒める(1)
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それからアレクシスは宣言通り、毎晩ルーツィンデのもとにやって来るようになった。だいたい夜の七時から八時ごろになるとやって来て、しばらくルーツィンデと会話をしたり、なにが面白いのかはさっぱりだが無言でリビングに居座ったりすると、夜の九時ごろに一人帰っていく。ちなみにかつて、周辺には獰猛な獣もいるからと森の出口付近まで送っていこうとしたのだが、女性の一人歩きのほうが危険だと拒絶されてしまった。
(私は〝魔女〟だから、危険はないって言っているのに……)
夕食後、自室の壁一面にずらりと並ぶ背表紙を眺めながら、ルーツィンデはそんなことを思った。アレクシスがやって来る前までは夕食後も実験室にこもっていたものの、さすがに彼がいるのにそんなことをやっていては実験を失敗したときにおそろしいこととなる、ということでここ最近は大人しく読書ばかりをしていた。大国の第一王子を不可抗力とはいえ傷つけてしまえば、後々の報復が怖い。
んー、とうなりながら書棚を眺め、最終的に一冊の本を取り出した。『魔法と魂』というもので、最近発売されたばかりのものだ。名前に見覚えがないことからおそらくどこにでもいる〝魔法使い〟の研究者が発表したものだろう。
〝魔女〟になるのはよほどの魔法研究好きか天才なので、〝魔女〟も論文を執筆したり本を出したりする。その際は堂々と何十年も何百年も使っているペンネームで書くため、〝魔女〟かそうでないかはすぐにわかるのだ。
(ま、〝魔女〟もお金がないと生きていけないからね)
肩を竦めつつ、自室を出てリビングへと向かう。
魔法で様々なことができるとはいえ、今どき自給自足の生活をしている〝魔女〟はいないだろう。ほかの〝魔女〟の暮らしぶりなどは興味ないため知らないが、基本そんな自分たちだからこそそうであるに違いないと妙な確信を抱いていた。
どさりとソファーに腰掛け、ルーツィンデは手に持った本を開き、目で字を追う。……しかしいくら読もうとしても集中できず、はぁ、とため息をついて本を閉じた。そのまま体を捻り、なんの変化もない玄関の扉を見る。
(……彼、まだかしら? 獣に襲われている、ということはないでしょうけど……)
彼とはもちろんアレクシスのことだ。おそらく大丈夫だと思われるが、森をうろつく獣に襲われる可能性もなくはない。
それに一人きりの家は妙に居心地が悪いし……
そんなことを無意識に思い、ハッと気がついた。
(な、なに来るのを心待ちにしているようなこと思っているのよ! 彼に来られるのは迷惑だし、むしろ来なくてせいせいするわ!)
うんうん、とその場で頷くものの、胸の内にはどこか虚しさがあって。
「……とりあえず紅茶入れましょ」
そんなことを思いながらキッチンを見ることなく指を振って魔法を使う。もう三百年間毎日必ず使い続けてきた魔法であるため、簡単な魔法なんかはこのように一々集中することなくできた。指先からふわりと薄桃色の粉が舞い、先ほどまで無音だった空間に様々な音が響き始める。
それらに身を委ねていれば、しばらくしてコンコン、と扉の叩かれる音がした。ルーツィンデは慌ててさも今までずっと読書をしていました、とでも言うように本を持つと、ゆっくりと指を振って魔法で扉を開ける。
「こんばんは、魔女様」
(私は〝魔女〟だから、危険はないって言っているのに……)
夕食後、自室の壁一面にずらりと並ぶ背表紙を眺めながら、ルーツィンデはそんなことを思った。アレクシスがやって来る前までは夕食後も実験室にこもっていたものの、さすがに彼がいるのにそんなことをやっていては実験を失敗したときにおそろしいこととなる、ということでここ最近は大人しく読書ばかりをしていた。大国の第一王子を不可抗力とはいえ傷つけてしまえば、後々の報復が怖い。
んー、とうなりながら書棚を眺め、最終的に一冊の本を取り出した。『魔法と魂』というもので、最近発売されたばかりのものだ。名前に見覚えがないことからおそらくどこにでもいる〝魔法使い〟の研究者が発表したものだろう。
〝魔女〟になるのはよほどの魔法研究好きか天才なので、〝魔女〟も論文を執筆したり本を出したりする。その際は堂々と何十年も何百年も使っているペンネームで書くため、〝魔女〟かそうでないかはすぐにわかるのだ。
(ま、〝魔女〟もお金がないと生きていけないからね)
肩を竦めつつ、自室を出てリビングへと向かう。
魔法で様々なことができるとはいえ、今どき自給自足の生活をしている〝魔女〟はいないだろう。ほかの〝魔女〟の暮らしぶりなどは興味ないため知らないが、基本そんな自分たちだからこそそうであるに違いないと妙な確信を抱いていた。
どさりとソファーに腰掛け、ルーツィンデは手に持った本を開き、目で字を追う。……しかしいくら読もうとしても集中できず、はぁ、とため息をついて本を閉じた。そのまま体を捻り、なんの変化もない玄関の扉を見る。
(……彼、まだかしら? 獣に襲われている、ということはないでしょうけど……)
彼とはもちろんアレクシスのことだ。おそらく大丈夫だと思われるが、森をうろつく獣に襲われる可能性もなくはない。
それに一人きりの家は妙に居心地が悪いし……
そんなことを無意識に思い、ハッと気がついた。
(な、なに来るのを心待ちにしているようなこと思っているのよ! 彼に来られるのは迷惑だし、むしろ来なくてせいせいするわ!)
うんうん、とその場で頷くものの、胸の内にはどこか虚しさがあって。
「……とりあえず紅茶入れましょ」
そんなことを思いながらキッチンを見ることなく指を振って魔法を使う。もう三百年間毎日必ず使い続けてきた魔法であるため、簡単な魔法なんかはこのように一々集中することなくできた。指先からふわりと薄桃色の粉が舞い、先ほどまで無音だった空間に様々な音が響き始める。
それらに身を委ねていれば、しばらくしてコンコン、と扉の叩かれる音がした。ルーツィンデは慌ててさも今までずっと読書をしていました、とでも言うように本を持つと、ゆっくりと指を振って魔法で扉を開ける。
「こんばんは、魔女様」
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