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さようなら
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ひとりの少女がそこにいた。
「……」
彼女は目の前の山道をじっと見たあとゆっくりと歩き始めた。
山道と言っても舗装はされておらず、道という道はほとんどない。
普段ここは村の人達でさえも滅多に使われていない道だ
それでも彼女は迷いなくズンズンと進んでいく。
山の中は日中の日差しを遮るように木々がそびえ立ち、奥に行けば行くほどヒヤリとした風が肌を横切る。
ズルッ
少し湿った土と無造作に映えた草花や雑草で足下が滑りやすくなっていたせいか、彼女は足を滑らせ、転んでしまった。
「……」
それもそうだ。彼女の格好はあまりにもこの場に不釣り合いだったから。
肩まで伸びたボサボサの髪。
シワシワな半袖のセーラー服。
少し黄ばんだ白ソックスとボロボロの黒い靴。
そして背中にはヨレヨレのリュックを背負っていた。
立ち上がった彼女は泥がついた膝を少し眺めるがそれを払うことなく、また無言で歩き始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どのくらい経ったのだろう気がつくと木々の間から差し込んでいた光は無くなっており、よく見ると空がオレンジ色に変わっていた。
「……ここでいっか。」
この山に入って初めて口にした言葉。それはか細くて耳を澄ませないと良く聞こえないほど小さい声だった。
そして彼女が立ち止まった場所は周囲の木々より一回り大きい大木。
その大木を見上げると彼女は一呼吸してストンとしゃがみ込む。そして背負っていたリュックを下ろし、開け口をガバっと広げると、ひっくり返して中にあった物を全部出した。
「……」
リュックから出てきたものーーー
それはまだ開封されていない出刃包丁。
そして、ロープやカッターといったもの…
彼女は今死のうとしているのだ
「やっぱりこれかな…」
少し悩んだ末に手に取ったのは出刃包丁だった。
箱から取り出すと鋭い刃がギラギラと輝き、表情一つない彼女の顔が反射していた。
「……?」
ふと、自身の手を見た。
彼女の手は小刻みに震えていた。
「私…怖いんだ」
少し驚いた様子ではあったがすぐまた表情が無くなり、彼女は大木に寄りかかり空を見上げた。
木々の隙間から見えていたオレンジ色の空は少しずつ夜の色へと変わっている。
先程までにぎやかに鳴いていた鳥たちも静かになっていた。
「ふぅぅ……」
見上げたまま息を大きく吸い込み、そしてゆっくり吐きながら視線を下に向ける。
「もう…いいかな。」
そう呟くと右手で握っていた出刃包丁を首元に持っていく。
まだフルフルと震える右手を落ち着かせるように左手を添える。
「あぁ…」
震える声と共にツーッと涙が頬を伝った。
「…さようなら」
もう一度深呼吸をすると出刃包丁をグッと首元に強く押し込んだ。
「幸せに…なりたかったなぁ」
その言葉を最後に彼女は包丁を一気に引いたーーー
「……」
彼女は目の前の山道をじっと見たあとゆっくりと歩き始めた。
山道と言っても舗装はされておらず、道という道はほとんどない。
普段ここは村の人達でさえも滅多に使われていない道だ
それでも彼女は迷いなくズンズンと進んでいく。
山の中は日中の日差しを遮るように木々がそびえ立ち、奥に行けば行くほどヒヤリとした風が肌を横切る。
ズルッ
少し湿った土と無造作に映えた草花や雑草で足下が滑りやすくなっていたせいか、彼女は足を滑らせ、転んでしまった。
「……」
それもそうだ。彼女の格好はあまりにもこの場に不釣り合いだったから。
肩まで伸びたボサボサの髪。
シワシワな半袖のセーラー服。
少し黄ばんだ白ソックスとボロボロの黒い靴。
そして背中にはヨレヨレのリュックを背負っていた。
立ち上がった彼女は泥がついた膝を少し眺めるがそれを払うことなく、また無言で歩き始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
どのくらい経ったのだろう気がつくと木々の間から差し込んでいた光は無くなっており、よく見ると空がオレンジ色に変わっていた。
「……ここでいっか。」
この山に入って初めて口にした言葉。それはか細くて耳を澄ませないと良く聞こえないほど小さい声だった。
そして彼女が立ち止まった場所は周囲の木々より一回り大きい大木。
その大木を見上げると彼女は一呼吸してストンとしゃがみ込む。そして背負っていたリュックを下ろし、開け口をガバっと広げると、ひっくり返して中にあった物を全部出した。
「……」
リュックから出てきたものーーー
それはまだ開封されていない出刃包丁。
そして、ロープやカッターといったもの…
彼女は今死のうとしているのだ
「やっぱりこれかな…」
少し悩んだ末に手に取ったのは出刃包丁だった。
箱から取り出すと鋭い刃がギラギラと輝き、表情一つない彼女の顔が反射していた。
「……?」
ふと、自身の手を見た。
彼女の手は小刻みに震えていた。
「私…怖いんだ」
少し驚いた様子ではあったがすぐまた表情が無くなり、彼女は大木に寄りかかり空を見上げた。
木々の隙間から見えていたオレンジ色の空は少しずつ夜の色へと変わっている。
先程までにぎやかに鳴いていた鳥たちも静かになっていた。
「ふぅぅ……」
見上げたまま息を大きく吸い込み、そしてゆっくり吐きながら視線を下に向ける。
「もう…いいかな。」
そう呟くと右手で握っていた出刃包丁を首元に持っていく。
まだフルフルと震える右手を落ち着かせるように左手を添える。
「あぁ…」
震える声と共にツーッと涙が頬を伝った。
「…さようなら」
もう一度深呼吸をすると出刃包丁をグッと首元に強く押し込んだ。
「幸せに…なりたかったなぁ」
その言葉を最後に彼女は包丁を一気に引いたーーー
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