【完結】ハロウィンパーティーで出会った狼獣人にとろとろに愛されてしまいました!

伊達桜花(青葉さくら)

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恋人の狼獣人が激甘すぎてしんどい(肉体的な意味で)

恋人にそっくりな男

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ふたりの休日が合う日を選んで、獣人界にあるジェフリーの実家へ訪問することになった。

どんな所だろう?と不安と楽しみが入り混じった気持ちのつかさだったが、いざ足を踏み入れてみると生活水準自体は人間の世界と変わりがないようだ。

「ここの街並みは煉瓦創りの家が多いから、古めかしく見えるだろう?」
「でも……素敵だわ。温かみがあって」
「もう少し先に行くと、つかさにも見慣れた景色があるだけどな」
「高層ビルとかあるの?」
「あそこまで高いのはないかもな」

当たり前のように獣耳と尻尾が出た状態で街中を歩いている人と何人もすれ違ったし、人間であるつかさと何ら変わらない人もたくさんいる。
つかさ達のような獣人と人との番が増えていると聞いていたが、想像したよりも上手く共存しているのかも知れない。
現にジェフリーとつかさが恋人繋ぎをして歩いていても、何も言われないのだから。

「お母さんへの手土産、これで大丈夫?」
「母さんはこういうのが好きなんだ、きっと喜ぶ」

せっかく訪問するのだからと、つかさの好きなパティスリーの焼き菓子の詰め合わせを用意していた。
ジェフリーは気を使わなくていいと言ったが、つかさは譲らなかった。

「あと、どのくらい?」
「もうこの角を曲がれば着くんだが……」

角を左に曲がると、白い柵に囲まれた一軒の家が見えてきた。
先程見た街並みと同じく煉瓦造りの建物で、屋根には煙突が付いている。物語に出てきそうな風情があり、つかさは素敵だなぁと思った。

「ん?人が立ってる……」

白い柵の途切れたところに佇む人影を見かけ、ジェフリーは首を傾げる。
 
「知り合い?それともお客様?」
「俺たち以外が来るとか聞いてないぞ?」

怪訝そうな表情をするジェフリーが、先に立って歩いて行くと、その人物は振り向いた。

「……ジェフリー、なのか……?」

顔を見てつかさは驚いた。
スラリと伸びた肢体に陽の光を浴びて煌めく銀髪、冴え冴えとした顔立ちにひと際映える紅の瞳。
ジェフリーによく似ていた。
正確に言えば、あと20年経ったらこんな感じになるんだろうか?という風貌だった。

「?!」
「懐かしいなぁ……十数年ぶりか、でかくなったな!」

ニッカリと笑いかけ、こちらに向かって歩いてくる男に、ジェフリーは警戒心をむき出しにする。

「今更何しに来た?ここは貴様の来る場所じゃない!」
「そう固いこと言わないの。セレスに会いに来ただけなんだ」

今にも噛みつきそうな勢いのジェフリーに対して、飄々とした表情で応じる男はどこか楽しんでいるように見える。

(これがジェフリーのお父さん)

ひと目で分かるほどふたりはよく似ているのだ。
それ故に、裏切りが許せないのも無理はなかった。

「貴様には番がいるんだ、俺たちは他人のはずだろう?」
「仮にも血を分けた親子なのに冷たいなぁ」
「先に裏切ったくせにどの口がほざく?!」

ヒートアップするジェフリーに対し、父親を名乗る男は感動的な再会!とばかりに笑顔を浮かべている。
傍目から見たら異様な光景だろう。
周囲に誰もいないのが不幸中の幸いである。
 
しかし笑顔満面のこの男は人の話を聞いていないのか、脳内で都合よく変換しているのか……おそらく両方なのだろう。

このままでは話が進まないが、部外者である自分が介入してもいいものか?とつかさが悩んでいると。

「ジェフリー!あんたまた喧嘩してるのかい……って、何でアレンまでいるの?!」

これから訪れる予定だった家の玄関口から、人が出てくるのが見えた。
サラサラの銀髪を結い上げ、翡翠色の瞳を見開き、憤怒の表情でこちらに向かってくる。

「母さん?!」
「セレス!!」

ジェフリーと男は同時に叫んだ。
今日、つかさが会う約束をしているジェフリーの母親だった。

「ジェフリーはともかく、アレンは何でここに来た?!」
「もちろん、君に会いに来たんだよセレス」
「私は会いたくなかったけどね。むしろ一生来るな」

なんか想像よりも辛辣な物言いにつかさは面食らっていた。
もっと儚い美女を想像していた。
確かに外見はほっそりとして華奢で抱きしめたら折れそうな感じなのに、喋ると肝っ玉母さんのそれとは……母は強しというところか。

「ジェフリー!その阿保あほは放置でいいから入っておいで!ごめんなさいね、身内の恥を見せちゃって」

セレスはつかさの存在に気づいていたらしい。
瞬間的に美麗な笑みを浮かべてジェフリーとつかさを家へ招き寄せる。

「僕は?」
「他人だから帰れ」
「酷い!」
「愛しの番のところに帰りな」
「カレン、最近冷たいんだもん……」
「知るか、番と話し合え」

ラリーの応酬につかさはもちろん、ジェフリーまで唖然として元夫婦のやり取りを見つめている。
しかし、父親ことアレンは帰る気配がない。
むしろセレス登場により、テンション上がりまくっている。

「どんなに頑張ってもカレンとは子供が出来なくて……だからジェフリーにカレンの息子にもなって貰おうと思って!我ながらいいアイディアでしょ?」

これにはつかさもジェフリーもセレスも唖然とした。
ジェフリーはとっくに成人の年齢を過ぎている。
今更そんなでかい息子を連れてこられても、相手も迷惑だろう。
彼の脳内には満開の花畑が広がっているのか?というレベルの言い草である。
 
一緒に暮らすことでジェフリーがこの父親アホに染まらなくて良かった、とつかさは不覚にも考えてしまった。

「帰れ」

ジェフリーが声を上げる前にセレスが口を開いた。
顔は笑っているのに声と瞳は鋭い刃のように冷え冷えとしている。
何かしらの地雷を踏み抜いたのは明らかだ、なのに。

「どうしてー?久しぶりに家族の団欒しようよー」

どこまでも空気を読まない、相手気持ちを察知できないアレンはなおも食い下がる。

「そこのお嬢ちゃんともお話したいし?ね?いいでしょ?」

アレンはいきなりつかさの方を向いて話し出した。

「君、ジェフリーの恋人でしょ?馴れ初めとか聞かせてよ!ついでにうちのカレンの娘になってくれるともっと嬉しいんだけどな!」

必死さよりも「いいアイディアでしょ?僕ちゃん頭いいでしょ?褒めて褒めて!」と強請っているようにしか聞こえない。

つかさはひとつため息をつくと。

「無理です」

拒絶の言葉を口にしていた。
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