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第1部 家出して異世界へ
3-1赤って主人公の色だし強そうに見えるよね
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日差しの強い昼下がり。私は額に汗を浮かべながら、エア・ゴンドラの掃除をしていた。この時間はかなり暑いので、ちょっと動くだけでも汗ばんでくる。でも、手を抜かずに、全力で機体の掃除をした。
つい先程まで、お客様が乗っていた機体で、今しがたリリーシャさんの操縦で帰ってきたばかりだ。お客様のお見送りが済むと、掃除用具を持ち出し、すぐに清掃を開始した。
リリーシャさんは『あとでも大丈夫』と言ってくれたが、いつでも使えるよう万全の準備をするのが、新人の私の役目だ。いつ、飛び込みの予約とかが入るか分からないし。今のところ、掃除ぐらいでしか、会社に貢献できないからね。
それに、ちょっとでも気を抜くと、いつの間にかリリーシャさんがやってしまう。なので、気付いたことは、直ぐにやるようにしていた。
エア・ゴンドラの掃除が終わると、ほうきを持ってきて、敷地内を掃除していった。朝夕もやっているけど、お客様の出入りがあったあとは、念のため、もう一度やっている。葉っぱ一枚たりとも、見逃したりはしない。
清潔さは、シルフィードにとって、とても大切なことだからだ。学習用のデータファイルにも『接客の基本は清掃から』って書いてあったし。入社してからは、すっかり掃除に目覚めてしまった。
私が掃除に精を出していると、上空から聞き慣れないエンジン音が響いてきた。リリーシャさんは事務所にいるし、うちの機体じゃないのは間違いない。
最近は、エンジン音を聞いただけで、だいたい誰か分かるようになった。リリーシャさん、ナギサちゃん、フィニーちゃん、みんな微妙にエンジン音が違うので。
音のほうに視線を向けると、驚くほど華麗に、スーッと何者かが降りてきた。赤い機体に赤い髪、背筋をピンと伸ばした直立不動の姿勢。
あれは……以前、私を追い抜いていった、赤くて凄い人だ! 名前は知らないけど、赤い色が、妙に強く印象に残っていた。
私と目が合うと、こちらにスタスタと歩み寄ってきた。歩く姿にも貫禄があって、思わず気圧されてしまう。
「こんにちは。君はここの社員かな?」
「え、はい――まだ、見習いですが」
「リリーシャは、いるかな?」
「あの……中にいますので。すぐに呼んでまいります」
私にしては珍しく、妙に緊張してしまった。だって、何か凄いオーラを感じたんだもん。しかも、リリーシャさんのこと、呼び捨てだし。もしかして、偉い人?
ほうきを抱えたまま、私は大急ぎで事務所に駆け込んでいった。
「リリーシャさん、お客様です! 何か赤くて凄い人です!」
「赤くて凄い……?」
リリーシャさんは、一瞬、考えたあと、
「分かったわ、すぐに行くわね」
笑顔で立ち上がり、ゆっくり外に向かっていく。
私はリリーシャさんのあとを、少し距離を置いてついていった。
制服を見る限り、他社の人みたいだけど、知り合いなのかな? いったい、どんな関係なんだろう……?
「ツバサちゃん、こんにちは」
リリーシャさんは、テラス席に座っていた赤髪の人に声を掛ける。
「やあ、リリー。元気でやっているかい?」
「えぇ、お陰さまで。ツバサちゃんも、相変わらず元気そうね」
少し遠巻きに見ていたが、二人とも笑顔で、とても和やかな雰囲気だった。外見も性格も、正反対な感じがするけど、かなり親しい間柄みたいだ。
「それにしても、久しぶりだね。二ヶ月ぶりぐらいだっけ?」
「そうね。お互いに忙しいものね」
「ここのところ、結構、予約が多かったし。協会の仕事やら、会社の新人研修までやらされて、休む間がなかったよ」
ツバサと呼ばれた女性は両手を広げ、やらやれといった表情を浮かべた。
「お仕事お疲れ様。今日は大丈夫なの?」
「次の予約は一時間後。ちょっとは、羽を伸ばさないとね」
「ちょうど良かったわ。私も次の予約まで、少し時間が空いているの。お茶を淹れてくるわね」
リリーシャさんは事務所に向かおうとするが、
「私がやりますので、リリーシャさんは、お話を続けてください」
私がさっと割り込んだ。
「お茶は私が用意するから、風歌ちゃんは、ツバサちゃんの相手をしてあげて」
「でも、リリーシャさんに、雑用をやらせるなんて出来ません」
私的には、先輩に雑用をやらせるなんて、絶対にあり得ない。お茶淹れなどは、後輩や新人がやるのが当たり前だし、何より雑用だけが、私が活躍できる仕事だからだ。
「風歌ちゃん、他の会社のシルフィードとお話するのも、とても勉強になるのよ。特に、彼女のような、人気シルフィードと話せる機会は、めったに無いから。ツバサちゃんはね〈ファースト・クラス〉所属の『深紅の紅玉』と呼ばれる、スカイ・プリンセスなの」
リリーシャさんは、やんわりと説明してくれる。
「やっぱり、凄い人だったんですね!」
見るからに風格が漂っているのは、そのせいだったんだ。
それにしても『深紅の紅玉』って二つ名、めっちゃ赤くてカッコイイ! 見た目や風格に、ピッタリだと思う。
私、赤って超大好きなんだよね。熱血な感じだし、主人公の色だし、強そうだし。私も将来は『赤い彗星』みたいな、かっこいい二つ名が欲しいなぁ……。
「それじゃ、お茶を淹れてくるから、後はよろしくね」
リリーシャさんは微笑むと、ゆっくり事務所に入って行った。
私は少し緊張しながら、ツバサさんの座っているテーブルに近づいて行く。他社の上位階級の人と話すのって初めてなので、すっごく緊張する。
「初めまして、如月風歌と申します。まだ、入ったばかりの新人ですが、よろしくお願いいたします!」
頭を深々と下げ、気合を入れて挨拶した。
「君が風歌ちゃんか。話はリリーから聴いているよ。とても元気があってていいね。何かスポーツとかやってたの?」
「はいっ、中学時代は陸上をやっていました」
「へぇー、そうなんだ。いいね、そういう体育会系のシャキッとしたノリは、僕も好きだよ」
「先輩にも、この良さが分かりますか?」
私は嬉しくなって、少し身を乗り出す。
「僕も学生時代は運動部だったからね。シルフィードになるまでは、体育会系ノリでやってたんだ。それにしても、先輩って呼ばれるの久しぶりだな」
「会社の後輩からは、呼ばれないんですか?」
「うちの会社では、先輩のことは『お姉様』って呼ぶのが伝統なんだ。だから『ツバサお姉様』って呼ぶ人が多いね」
「お嬢様っぽくて、素敵ですね」
なんか名門のお嬢様学校みたいな感じがする。『先輩』もいいけど『お姉様』もありかも。リリーシャお姉様かぁ……。二人でお茶しながら、上品なお嬢様トークをしている場面を脳内妄想し、微笑みをこぼした。
「でも、僕は堅苦しいのが苦手でね。それに、お姉様って柄でもないから。普通にツバサって呼ぶか、先輩のほうが気楽でいいよ」
ツバサさんは苦笑するが、笑顔もクールでかっこいい。
「うちは、先輩って呼ばせてもらえないんです。リリーシャさん、体育会系とか上下関係とか、好きじゃないみたいなので。『リリーって呼んでね』と言われたんですけど、それは流石に恐れ多くて言えないです」
「あははっ、リリーらしいね。アリーシャさんも、とてもフンワリした人だったから、似たのかも。まぁ、家庭的な会社もいいんじゃないかな? それが〈ホワイト・ウイング〉のいいところだし」
「私的には、もっとビシバシ厳しくして貰いたいんですけど――。リリーシャさん優しすぎて、怒られたことが一度もないんです」
私がどんなミスをしても、リリーシャさんは、柔らかな表情で『大丈夫?』と声を掛けてくれる。怒ったりイライラした表情を、ただの一度も見たことがない。本当に天使のように、心が広く優しい人だ。
「君の性格だと、うちの会社のほうが合いそうだね。上下関係がはっきりしてるし、礼儀作法も煩いから、割と体育会系に近い感じかな」
「実は〈ファースト・クラス〉も受けたんですけど、あっさり落ちてしまいまして」
まぁ、そこだけじゃなくて、受けた会社は全滅だったんだけどね……(涙)
「そうだったんだ。でも、そのお陰で〈ホワイト・ウイング〉に入れたんだから、よかったんじゃないかな? 偉大な『グランド・エンプレス』の作った会社だし、リリーにも会えたわけだから」
「はい、リリーシャさんに会えたのは、人世で最高の幸運でした」
「それは、リリーのほうも同じだよ」
「同じ――?」
ツバサさんのほうを見ると、にっこり微笑んでいた。
「そういえば、アリーシャさんって、どんな方だったんですか? リリーシャさんは、全然その話をしてくれないので」
「そうか……話してないんだ」
ツバサさんはしばし考え込み、事務所のほうに顔を向けた。
「その話は長いから、また今度、時間があったら話してあげるよ」
ちょうど中からリリーシャさんが、キッチン・ワゴンを押しながら、こちらにやってきた。ワゴンの上には、ティーポットにカップ、ケーキのお皿が載っている。
「とても楽しそうね。何を話していたのかしら?」
リリーシャさんが訊ねると、
「あぁ、とても楽しくていい子だね。今うちの会社に来ないか、勧誘してたんだ」
ツバサさんは、サラッと笑顔で答えた。
「えぇ?! ち、違いますよっ! 私は〈ホワイト・ウイング〉一筋ですから!」
私が慌てて答えると、二人は大きな声で笑った。って、からかわれたんか――。
「さぁ、お茶にしましょう」
「リリーの淹れるお茶は、久しぶりだから楽しみだね」
「わぁ、ケーキ凄く美味しそう!」
三人でワイワイ話しながら、午後の素敵なひと時を過ごす。
でも、冷静に考えると凄いよね。伝説の『グランド・エンプレス』が作った会社で、人気の『スカイ・プリンセス』二人に囲まれ、優雅にお茶してるんだから。新人の私には、贅沢すぎるかも。
でも今度は、アリーシャさんとも、一緒にお茶してみたいなぁ……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『乙女チックなナギサちゃんの観光名所講座』
命短し恋せよ乙女……
つい先程まで、お客様が乗っていた機体で、今しがたリリーシャさんの操縦で帰ってきたばかりだ。お客様のお見送りが済むと、掃除用具を持ち出し、すぐに清掃を開始した。
リリーシャさんは『あとでも大丈夫』と言ってくれたが、いつでも使えるよう万全の準備をするのが、新人の私の役目だ。いつ、飛び込みの予約とかが入るか分からないし。今のところ、掃除ぐらいでしか、会社に貢献できないからね。
それに、ちょっとでも気を抜くと、いつの間にかリリーシャさんがやってしまう。なので、気付いたことは、直ぐにやるようにしていた。
エア・ゴンドラの掃除が終わると、ほうきを持ってきて、敷地内を掃除していった。朝夕もやっているけど、お客様の出入りがあったあとは、念のため、もう一度やっている。葉っぱ一枚たりとも、見逃したりはしない。
清潔さは、シルフィードにとって、とても大切なことだからだ。学習用のデータファイルにも『接客の基本は清掃から』って書いてあったし。入社してからは、すっかり掃除に目覚めてしまった。
私が掃除に精を出していると、上空から聞き慣れないエンジン音が響いてきた。リリーシャさんは事務所にいるし、うちの機体じゃないのは間違いない。
最近は、エンジン音を聞いただけで、だいたい誰か分かるようになった。リリーシャさん、ナギサちゃん、フィニーちゃん、みんな微妙にエンジン音が違うので。
音のほうに視線を向けると、驚くほど華麗に、スーッと何者かが降りてきた。赤い機体に赤い髪、背筋をピンと伸ばした直立不動の姿勢。
あれは……以前、私を追い抜いていった、赤くて凄い人だ! 名前は知らないけど、赤い色が、妙に強く印象に残っていた。
私と目が合うと、こちらにスタスタと歩み寄ってきた。歩く姿にも貫禄があって、思わず気圧されてしまう。
「こんにちは。君はここの社員かな?」
「え、はい――まだ、見習いですが」
「リリーシャは、いるかな?」
「あの……中にいますので。すぐに呼んでまいります」
私にしては珍しく、妙に緊張してしまった。だって、何か凄いオーラを感じたんだもん。しかも、リリーシャさんのこと、呼び捨てだし。もしかして、偉い人?
ほうきを抱えたまま、私は大急ぎで事務所に駆け込んでいった。
「リリーシャさん、お客様です! 何か赤くて凄い人です!」
「赤くて凄い……?」
リリーシャさんは、一瞬、考えたあと、
「分かったわ、すぐに行くわね」
笑顔で立ち上がり、ゆっくり外に向かっていく。
私はリリーシャさんのあとを、少し距離を置いてついていった。
制服を見る限り、他社の人みたいだけど、知り合いなのかな? いったい、どんな関係なんだろう……?
「ツバサちゃん、こんにちは」
リリーシャさんは、テラス席に座っていた赤髪の人に声を掛ける。
「やあ、リリー。元気でやっているかい?」
「えぇ、お陰さまで。ツバサちゃんも、相変わらず元気そうね」
少し遠巻きに見ていたが、二人とも笑顔で、とても和やかな雰囲気だった。外見も性格も、正反対な感じがするけど、かなり親しい間柄みたいだ。
「それにしても、久しぶりだね。二ヶ月ぶりぐらいだっけ?」
「そうね。お互いに忙しいものね」
「ここのところ、結構、予約が多かったし。協会の仕事やら、会社の新人研修までやらされて、休む間がなかったよ」
ツバサと呼ばれた女性は両手を広げ、やらやれといった表情を浮かべた。
「お仕事お疲れ様。今日は大丈夫なの?」
「次の予約は一時間後。ちょっとは、羽を伸ばさないとね」
「ちょうど良かったわ。私も次の予約まで、少し時間が空いているの。お茶を淹れてくるわね」
リリーシャさんは事務所に向かおうとするが、
「私がやりますので、リリーシャさんは、お話を続けてください」
私がさっと割り込んだ。
「お茶は私が用意するから、風歌ちゃんは、ツバサちゃんの相手をしてあげて」
「でも、リリーシャさんに、雑用をやらせるなんて出来ません」
私的には、先輩に雑用をやらせるなんて、絶対にあり得ない。お茶淹れなどは、後輩や新人がやるのが当たり前だし、何より雑用だけが、私が活躍できる仕事だからだ。
「風歌ちゃん、他の会社のシルフィードとお話するのも、とても勉強になるのよ。特に、彼女のような、人気シルフィードと話せる機会は、めったに無いから。ツバサちゃんはね〈ファースト・クラス〉所属の『深紅の紅玉』と呼ばれる、スカイ・プリンセスなの」
リリーシャさんは、やんわりと説明してくれる。
「やっぱり、凄い人だったんですね!」
見るからに風格が漂っているのは、そのせいだったんだ。
それにしても『深紅の紅玉』って二つ名、めっちゃ赤くてカッコイイ! 見た目や風格に、ピッタリだと思う。
私、赤って超大好きなんだよね。熱血な感じだし、主人公の色だし、強そうだし。私も将来は『赤い彗星』みたいな、かっこいい二つ名が欲しいなぁ……。
「それじゃ、お茶を淹れてくるから、後はよろしくね」
リリーシャさんは微笑むと、ゆっくり事務所に入って行った。
私は少し緊張しながら、ツバサさんの座っているテーブルに近づいて行く。他社の上位階級の人と話すのって初めてなので、すっごく緊張する。
「初めまして、如月風歌と申します。まだ、入ったばかりの新人ですが、よろしくお願いいたします!」
頭を深々と下げ、気合を入れて挨拶した。
「君が風歌ちゃんか。話はリリーから聴いているよ。とても元気があってていいね。何かスポーツとかやってたの?」
「はいっ、中学時代は陸上をやっていました」
「へぇー、そうなんだ。いいね、そういう体育会系のシャキッとしたノリは、僕も好きだよ」
「先輩にも、この良さが分かりますか?」
私は嬉しくなって、少し身を乗り出す。
「僕も学生時代は運動部だったからね。シルフィードになるまでは、体育会系ノリでやってたんだ。それにしても、先輩って呼ばれるの久しぶりだな」
「会社の後輩からは、呼ばれないんですか?」
「うちの会社では、先輩のことは『お姉様』って呼ぶのが伝統なんだ。だから『ツバサお姉様』って呼ぶ人が多いね」
「お嬢様っぽくて、素敵ですね」
なんか名門のお嬢様学校みたいな感じがする。『先輩』もいいけど『お姉様』もありかも。リリーシャお姉様かぁ……。二人でお茶しながら、上品なお嬢様トークをしている場面を脳内妄想し、微笑みをこぼした。
「でも、僕は堅苦しいのが苦手でね。それに、お姉様って柄でもないから。普通にツバサって呼ぶか、先輩のほうが気楽でいいよ」
ツバサさんは苦笑するが、笑顔もクールでかっこいい。
「うちは、先輩って呼ばせてもらえないんです。リリーシャさん、体育会系とか上下関係とか、好きじゃないみたいなので。『リリーって呼んでね』と言われたんですけど、それは流石に恐れ多くて言えないです」
「あははっ、リリーらしいね。アリーシャさんも、とてもフンワリした人だったから、似たのかも。まぁ、家庭的な会社もいいんじゃないかな? それが〈ホワイト・ウイング〉のいいところだし」
「私的には、もっとビシバシ厳しくして貰いたいんですけど――。リリーシャさん優しすぎて、怒られたことが一度もないんです」
私がどんなミスをしても、リリーシャさんは、柔らかな表情で『大丈夫?』と声を掛けてくれる。怒ったりイライラした表情を、ただの一度も見たことがない。本当に天使のように、心が広く優しい人だ。
「君の性格だと、うちの会社のほうが合いそうだね。上下関係がはっきりしてるし、礼儀作法も煩いから、割と体育会系に近い感じかな」
「実は〈ファースト・クラス〉も受けたんですけど、あっさり落ちてしまいまして」
まぁ、そこだけじゃなくて、受けた会社は全滅だったんだけどね……(涙)
「そうだったんだ。でも、そのお陰で〈ホワイト・ウイング〉に入れたんだから、よかったんじゃないかな? 偉大な『グランド・エンプレス』の作った会社だし、リリーにも会えたわけだから」
「はい、リリーシャさんに会えたのは、人世で最高の幸運でした」
「それは、リリーのほうも同じだよ」
「同じ――?」
ツバサさんのほうを見ると、にっこり微笑んでいた。
「そういえば、アリーシャさんって、どんな方だったんですか? リリーシャさんは、全然その話をしてくれないので」
「そうか……話してないんだ」
ツバサさんはしばし考え込み、事務所のほうに顔を向けた。
「その話は長いから、また今度、時間があったら話してあげるよ」
ちょうど中からリリーシャさんが、キッチン・ワゴンを押しながら、こちらにやってきた。ワゴンの上には、ティーポットにカップ、ケーキのお皿が載っている。
「とても楽しそうね。何を話していたのかしら?」
リリーシャさんが訊ねると、
「あぁ、とても楽しくていい子だね。今うちの会社に来ないか、勧誘してたんだ」
ツバサさんは、サラッと笑顔で答えた。
「えぇ?! ち、違いますよっ! 私は〈ホワイト・ウイング〉一筋ですから!」
私が慌てて答えると、二人は大きな声で笑った。って、からかわれたんか――。
「さぁ、お茶にしましょう」
「リリーの淹れるお茶は、久しぶりだから楽しみだね」
「わぁ、ケーキ凄く美味しそう!」
三人でワイワイ話しながら、午後の素敵なひと時を過ごす。
でも、冷静に考えると凄いよね。伝説の『グランド・エンプレス』が作った会社で、人気の『スカイ・プリンセス』二人に囲まれ、優雅にお茶してるんだから。新人の私には、贅沢すぎるかも。
でも今度は、アリーシャさんとも、一緒にお茶してみたいなぁ……。
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『乙女チックなナギサちゃんの観光名所講座』
命短し恋せよ乙女……
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