私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

文字の大きさ
19 / 363
第1部 家出して異世界へ

2-7地上で働くシルフィードは誰よりも輝いていた

しおりを挟む
 私は〈南地区〉にある〈シルフィード・モール〉に来ていた。一直線に伸びる道の左右には、様々なお店があり、それが一キロ近く続くとても大きな商店街だ。いつ来ても、たくさんの人で賑わっている。

〈南地区〉は、時空航行船が行き来する『グリュンノア国際空港』や、リゾートホテルなども多数あるため、観光客が非常に多い。いわば〈グリュンノア〉の玄関口のようなものだ。

 また、観光客だけでなく、地元の若者たちも、たくさん訪れる人気のスポット。なぜなら、ブティックから大型店まで、衣料品関連のお店が非常に多いからだ。

 時代の最先端を行くファッションが、各種、取り揃えられており、見た目もとても華やかだった。『ファッションの聖地』だけあって、道行く人たちも、オシャレな服装の人が多い。

 でも、お値段は高めなので、私にはちょっと手が出せなかった。普通の人から見れば、そんなに高くないのかもしれないけど、つい『パンが何個買えるか』計算してしまう。

 ちなみに、この〈南地区〉には、ナギサちゃんが所属する〈ファースト・クラス〉の本社もある。初めて見た時は、滅茶苦茶、大きくてビックリした。

 こんな一等地にあの規模って、流石は大手企業だよね。実は、私も面接に行ったけど、あっさり落ちてしまったのは内緒。まぁ、中に入った瞬間、場違いなの分かったし……。 

 それはさておき、今日は仕事がお休みなので、プライベートで来ていた。狭い部屋に閉じこもっていると息が詰まるので、休日はいつも、町中をブラブラしている。

 ナギサちゃんも誘ったんだけど、今日は新人の研修があるんだって。そんなわけで、一人でのんびり『ウィンドウ・ショッピング』を楽しむことにした。見るだけなら、タダだからね。

 でも、今日の本当の目的は、別にあった。この〈シルフィード・モール〉の一角にある〈シルフィード・ショップ〉を見学することだ。

『シルフィード協会』が直営している公式ショップで、シルフィードに関する、様々なグッズが売られている。プロマイドやポスターなども置いてあり、なんかアイドル・ショップっぽい感じみたい。

 前から知ってはいたけど、来るのは今日が初めて。あまり興味がなかったのと、空港の近くに来ると、家を飛び出して来た時のことを思い出すので、あえて避けていたのもあるんだよね――。

 でも、一人前のシルフィードになるには、全てを知っておく必要があるわけで。今日は、意を決してやってきた。

 私は、気になるお店を見ながら、少しずつ進んで行った。時には、お店の中に入って、じっくりと商品を眺める。ファッションや小物系のお店に来るのって、この町に来てから初めてだった。

 普段は無頓着だけど、私だって年頃の女子なので、ファッションとかお洒落に興味がない訳じゃない。ただ、仕事が忙しかったり、生きるのに精一杯で、頭の中からフェードアウトしているだけだ。

 でも、ゆっくり洋服を見るなんて、何ヶ月ぶりだろう? 学生時代はよく、友達たちとワイワイ服を見に行ったんだけどなぁ。

 普段、よく行くお店と行ったら、パン屋と〈東地区〉の商店街。あと、半額狙いで行く、閉店間際のスーパーぐらいだ。何と言うか、生活感100%なのが、ちょっと悲しい……。

 ちなみに、手持ちの服は、家を飛び出した時に持ってきた数着だけ。こっちに来てから、一度も買ったことがない。ただ、普段は制服を着ているから、私服がなくても、特に困らないんだよね。

 町中にも、シルフィードの制服の人がたくさんいるし、プライベートの時も、制服で行動することが多い。一度慣れちゃうと、どこにでも着ていけるので、割と便利だ。

 そんな訳で、今日も制服で来ている。私服でも、よかったんだけど、ここに合うようなお洒落な服を持ってないし。一応、研修のつもりで、ビシッと気合を入れてきた。

 のんびり見物しながら進んだので、かなり時間が掛かったけど、ようやく〈シルフィード・ショップ〉が見えてくる。想像していたよりも、かなり大きい。お客さんも、かなりいるが、ほとんどが女性だった。

 店の前に立って、ざっと見回すと、どれもこれも、全てが『シルフィード・グッズ』だ。

「へぇー、こんなに種類があるんだぁ」
 お土産屋で見かけた、有名なお菓子などもあるが、初めて見るものばかりだ。

 店の奥に入っていくと『キャラクター・グッズ』が沢山おいてある。歴代の人気シルフィードから、現役のシルフィードのものまで揃っていた。よく見ると、リリーシャさんのグッズも置いてあった。

 おぉー、流石はリリーシャさん! やっぱり、凄く人気あるんだねぇ。

 いつも一緒にいるから、あまり気にしてなかったけど、実際は物凄い人なんだよね。母親が『伝説のシルフィード』と言われる人でありながら、その娘ではなく、一個人として評価されているのが、本当に凄いと思う。

 私は次々と、人気シルフィードのグッズを見て回ったが、やはり実力者は、不思議なオーラのようなものが漂っていた。力強さ・気高さ・美しさ・上品さ、そういったものが、あふれ出しているような気がする。

『私もいつかは、こんな感じになれるのかなぁー』なんて考えながらウロウロしていると、店員さんらしき人に、笑顔で声を掛けられた。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

 見慣れた制服を着ているので、おそらく私と同じシルフィードだと思う。でも、腕章は協会のマークが付いていた。シルフィード協会の人が、やっているのかな?

「あぁ、いえ、今日は見学に来たんです。前から存在は知ってたんですけど、なかなか来る機会がなくて……」

「確かに、現役の方は、来る機会がありませんよね。置いてある商品も、見慣れたものばかりだと思いますし」

「それが――実はどれもこれも、初めて見るものばかりで。シルフィード仲間にも、物を知らなさすぎるって、よく言われるんです。アハハッ」

 一応、勉強はしているものの、覚えることが多すぎて、追いついていないのが現状だ。文化や常識も違うから、元々この世界に住んでいた人に比べて、覚えることが多い。

 いまだに、色んな新しい発見やカルチャーショックもあるし。まぁ、毎日が新しい冒険みたいで、楽しいんだけどね。

「始められたばかりなのですか?」 
「数ヶ月前に始めたので、まだ見習い中なんです」

「そうですか。なら、今が一番楽しい時期ですね」
 彼女は柔らかな笑顔を受かべる。

「すっごく楽しいです。あなたも、シルフィードをやられているのですか?」

 私は、さっきから気になっていることを質問した。よく見ると、店の各所には彼女と同じ制服を着た、シルフィードと思しき人達が、明るく接客をしている。

「……元シルフィードです」
 一瞬の間のあと、彼女は静かに答えた。

 あれっ、もしかして訊いちゃマズかったのかな……?

「実は、ここにいるスタッフは全員、元シルフィードなんです」
「えっと――現役の方はいないんですか?」

「全員、引退した人たちです。中には、現役にならずに、直接、来た人もいますが」
「え……?」 
 意味がよく分からず、私は首をかしげる。

「シルフィード協会の職員は、引退した人たちが多いのは、ご存知ですか?」
 彼女は笑顔で質問して来る。

「それは、聴いたことがあります。現役で活躍したあとも、協会の仕事に携わり、シルフィード業界の発展に、尽力しているとか――」

「確かに、現役時代に大活躍された方も、協会には在籍されています。ただ、一番多いのは、途中でやむなく引退した人たちなんです」

「えと、病気とかですか?」
「怪我や病気、事故、家庭の事情で引退される方もいます。私の場合は目の病気で、左目の視力が殆どないんです」 

「えっ?!」
 よく見ると、彼女の左目は、少し光彩が薄いような気がする。でも、笑顔が素敵なので、言われるまでは全く気づかなかった。 

「日常生活に支障はありませんが、お客様の命をお預かりする仕事ですので。他のスタッフたちも、体に異常が発生して、引退した人たちばかりです」

 彼女は周りのスタッフたちを、そっと見まわした。

「……」
 なんと返していいのか、私は言葉が浮かんでこなかった。

『頑張ってください』も『気にしないでください』も、違う気がする。そもそも、ここにいる人たちは皆、私よりも先輩だ。何も知らない新人が、口出しできることではない。

「他にも、最初から体に障害などがあり、試験に受からず、シルフィードになれなかった人たちもいます。それでも、シルフィードへの情熱が捨てられず、協会で働いている人達もいるんです」

「そうだったんですか――。でも、皆さん、生き生きしている感じがしますね」
 どのスタッフの人達も、現役の人に負けないぐらい、元気で明るく見えた。

「私達は、シルフィードの一員として働けることに、とても大きな喜びを感じています。それに、空で働くシルフィードも、地上で働くシルフィードも『お客様を笑顔にしたい』という想いは、全く同じだと思うのです」

 彼女のその言葉は、私の心に深く突き刺さった。なぜなら、私が忘れかけていた想いだからだ。飛行技術や知識、昇級など。最近の私は、自分のことばかりを考えていた。

 でも、私が初めてシルフィードを知った時。夢や希望、楽しさや喜びを、多くの人に与えてあげられる、素敵な職業だと思ったからこそ、なりたいと強く思ったのだった。

 最近は、日々の仕事や生活に追われ、その気持ちを忘れかけていた。『ホスピタリティ精神』は、シルフィードにとって、最も大切なことなのに……。

 初心を忘れていたことにショックを受け、私は黙り込んでしまう。

 それに気付いたのか、
「すいません。現役の方には、つまらないお話でしたね」
 彼女は気を使って、優しく声を掛けてくれた。

「いえ、とんでもありません。先輩のお話、すごく勉強になりました。ありがとうございます」
 私は深々と頭を下げる。

「そんな、頭を上げてください。私はもう、引退した身ですから、先輩などと言われるような、立派な立場ではありませんので」

「でも、先輩のお話のおかげで、自分の未熟さと、初心を忘れていたことに、気づきました。また、お話を聴かせて貰いに来ても、いいでしょうか?」

 彼女は一瞬、驚いた表情を浮かべたが、
「はい、私でよければ喜んで」 
 最高の笑顔で答えてくれた。

 私は彼女の表情を見て、心がほっこりと暖かくなった。きっと現役時代も、この素敵な笑顔で、たくさんの人達を、幸せな気持ちにしてあげたに違いない。

 私はしばらく中を見て回ってから、静かに店をあとにした。振り返るとそこには、明るい笑顔の店員さんたちが、元気にお客様の対応をしていた。

 その姿は、とても明るく輝いていて、何か障害や問題を抱えているようには、とても見えなかった。

 私はゆっくり歩きながら、青い空を見上げた。大事な初心を忘れていながら『グランド・エンプレス』を目指そうだなんて――。私は何て愚かなことを考えていたのだろうか? 

 また、一からやり直そう。あの日、この地に降り立った時の気持ちを、これからは一生忘れないようにしよう。

 私が目指したいのは、お客様を笑顔にする、最高に素敵なシルフィードなのだから……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『赤って主人公の色だし強そうに見えるよね』

 赤は通常の3倍だから……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

処理中です...