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第1部 家出して異世界へ
4-7姉妹は「タイが曲がっていてよ」的なことするのかな?
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私は〈西地区〉にある〈シーキャット〉に、ランチを食べに来ていた。〈シーキャット〉は、大陸が本拠地の大手ファミレス・チェーン店で〈グリュンノア〉にも、数店舗ある。
ここは、ファミレスの中でも非常に安く、五百ベル以内で食べられる料理が多い。さらに『ランチタイム』だと、料理にワンドリンク、サービスでついて来る、非常に良心的な価格だった。
あと、何といっても、この店には『ドリンクバー』がある。ジュース一杯でも、結構、時間が潰せるので、とてもありがたい。なお、ここに来た時は、ドリンク全種類、飲むのはお約束だ……。
今日は、私とナギサちゃん、フィニーちゃんと合同練習だったので、三人で来ていた。『魔法祭』まで、あと三日ということもあり、町中に活気があふれ、どこのお店も混んでいる。
私は運ばれて来たエビピラフを、黙々と食べていた。うーん、やっぱりご飯物は最高! たまには、ご飯を食べないと、元気が出ないからね。相変わらず外食の時以外は、一日三食、パンで節約生活中なので……。
ただ、美味しそうに食べている、フィニーちゃんと私とは対象的に、ナギサちゃんは、ボーッとした表情を浮かべていた。注文したサンドイッチにも、ほとんど手がついていなかった。
「ナギサちゃん、大丈夫? 具合でも悪いの?」
「えぇ、大丈夫。ちょっと、考え事をしていただけよ」
「仕事のこと?」
「まぁ、そうなるのかしらね……」
ナギサちゃんにしては珍しく、歯切れの悪い答えだ。
いつもはもっと、しゃきっとして、ピリピリした空気を発しているのに、今日は何か、力強さを感じない。そういえば、ナギサちゃんが悩んでいるのって、初めて見るかも……。
「私でよければ、何でも相談に乗るよ」
いつもナギサちゃんには、お世話になりっぱなしなので、たまには役に立たないとね。それに、何といっても大事な友達だし。
「話せば、楽になる」
フィニーちゃんも、いつも通りの様子だけど、一応、心配はしているようだ。
ナギサはちゃんは、私たち二人に交互に視線を向けたあと『フーッ』と深い溜め息をついた。
ちょっと、ちょっと、今の溜め息ってなに? 何か私達じゃ、頼りにならないみたいじゃない?
しばし間を空けてから、ナギサちゃんは静かに話し始めた。
「レイアー制度は知ってる?」
「えーと、姉妹関係の約束をすることだっけ?」
「そう。大手企業で働いているシルフィードにとっては、とても大事なことなのよ」
『レイアー制度』とは、先輩と後輩で、姉妹関係になることだ。元々は『大地の魔女』レイアード・ハイゼルが『叡智の魔女』ナターシャ・ノーブルを、弟子にしたのが起源と言われている。
元々は『師弟関係』を指していたが、今では『姉妹関係』になっていた。シルフィード業界では、今も伝統的に続いている制度――というより風習だ。
「レイアー制度のことで、なにか問題でもあったの?」
「実は、学校で同期だった子が、先日レイアー契約を結んだのよ」
ナギサちゃんは、物凄く不機嫌そうな表情で答えた。
見た感じ『レイア―契約』うんぬんの話じゃなくて、単に先を越されたのが気に入らなかったんじゃないだろうか……? 何かにつけて、競争心を燃やすからねぇ、ナギサちゃんは。
「へぇー。ナギサちゃんも、レイアー契約したいの?」
「当然よ。お姉様がいたほうが、全てにおいて有利なんだから。個人的に指導してもらえるし、昇級の時だって、推薦してもらえるのよ」
「え……昇級って、推薦が必要なの?」
「本来『スカイ・マスター』までは、試験を受ければ昇級できるわ。でも〈ファースト・クラス〉では、誰かの推薦がないと『リトル・ウィッチ』の試験すら受けられないのよ……」
うわさには聞いてたけど、やっぱ〈ファースト・クラス〉って、相当、厳しいみたいだね。
「会社の関係者の推薦じゃダメなの? マネージャーさんとか、いるんだよね?」
「成績が優秀なら『エア・マスター』までは、マネージャーから推薦をもらうことが出来るわ。でも、問題は、その先よ」
ナギサちゃんは、難しそうな顔をする。
ちなみに、大手企業では、各階級ごとに『マネージャー』がいるらしい。会社からの連絡事項を伝えたり、それぞれのスケジュールを管理する人だ。
なお、上位階級になると、その人専属のマネージャーがつく。なんか、芸能人みたいだよね。
「その先って――上位階級ってこと?」
いつかは、なりたいけど、正直どうやってなるのか、今一つ理解していなかった。だって、まだまだ先のことだもん……。
「そう。上位階級の昇進には『スカイ・プリンセス』以上の人の推薦が必要なのよ。当然、推薦した人の責任は重大だから、簡単には推してくれないわ。だから、大抵は、レイアー契約を結んだお姉様が推薦してくれるのよ」
「へぇー、そういう仕組みなんだ。じゃあ、私もリリーシャさんにお願いして、レイアー契約したほうがいいのかな?」
全然、レイア―契約なんて意識してなかったから、リリーシャさんと姉妹関係になろうなんて、思ったこともなかった。
「風歌は必要ないわよ、二人しかいない個人企業なんだから。頼めば、つきっきりで教えてくれるでしょうし、推薦だって喜んでしてくれるはず。でも、大手は新人が物凄い数いるから、先輩に目を掛けてもらえるのは、ほんの一握りだけなのよ」
なるほど、そういうことね。考えてみれば、うちは物凄く贅沢な環境だ。新人が私一人だから、何でも優しく教えてもらえる。そもそも、怒られたことすら無いし、そうとう大事にされてるよね。
「フィニーちゃんは、どうなの? やっぱり、最大手の会社は、新人って大変?」
「よく分からない。でも、私はレイアー契約してるから」
フィニーちゃんは、特に興味なさげに淡々と答える。だが、
「って、レイアー契約してるの?! お姉様って、どんな人なの?」
ナギサちゃんが、激しく食いついた。
「お茶いれるのと、お菓子作るのが上手い。二人とも、こないだ会ってる」
「んー? こないだって……もしかして、メイリオさん?」
「そう」
「へぇー、優しそうで、いいお姉様だねぇ」
とても落ち着いた感じで、凄く素敵な人だった。
「ちょっ……『癒しの風』がお姉様だったの?! なんで、言わなかったのよ?」
ナギサちゃんは、驚愕の表情を浮かべたあと、険しい表情に変わる。
だが、フィニーちゃんは、特に気にした様子もなく、黙々とハンバーグを食べていた。今始まったことじゃないけど、相変わらず二人の温度差が激しすぎる――。
「まぁまぁ、落ち着いてナギサちゃん。こないだは、衣装を作るために行ったんだし、そういう話題は出なかったから」
ナギサちゃんは、私のこと以上に、フィニーちゃんに強い闘争心を燃やしている気がする。やっぱり、ライバル企業だからなのかな?
「ぐっ……。メイリオさんとは、前から知り合いだったの? それとも、シルフィード学校のOG?」
ナギサちゃんは、冷静さを取り戻すと、静かに質問した。
一般的には、学校のOGがレイアーになることが多い。なので、会社によっては、卒業した学校ごとの、派閥があったりするんだって。大手企業は、色々と大変そうだねぇ……。
「どっちも違う。会社に入ってから知り合った」
「は? 全く見ず知らずだった人が、レイアー契約してくれたってこと?!」
フィニーちゃんは、フライドポテトを食べながら、こくりと頷いた。
「どうやって頼んだのよ?」
「私は頼んでない。向こうから『姉妹になろう』って言ってきた」
「はぁぁぁー?! 一体どんな手を使ったの? 知り合いでもないのに、あり得ないでしょ?」
ナギサちゃんは、立ち上がると身を乗り出す。
フィニーちゃんは首を傾げ、しばし考えたあと、
「何もしてない。ただ、メイリオ先輩の部屋に、よくお茶飲みに行ってた」
ぼそっと答える。
「それだけ?」
「うん、それだけ」
ナギサちゃんは、その答えにポカーンとしていた。
「そっかー、フィニーちゃんとメイリオさんって、仲良しだったんだね」
「うん、仲良し。いつも、お茶とお菓子出してくれるから、好き」
単に、お茶とお菓子に、釣られて行ってたのでは……? でも、メイリオさんの気持ちが、何となく分かるような気がする。だって、フィニーちゃんが食事してる時って、小動物がハムハムしてる感じで、可愛いんだよねぇ。
「なんで、お茶を飲みに行ってたぐらいで……」
ナギサちゃんは、椅子に座ったあとも呆然としていた。
「案外そんなものなんじゃない? 姉妹になるぐらいだから、仲のいい人がなるんでしょ? みんながみんな、利害関係を考えてる訳では、ないんじゃないかな?」
「それは、そうだけど……」
「ナギサちゃんも、会社の先輩の部屋に、遊びに行ったりとかすれば?」
姉妹になるなら、仲良くなるのが手っ取り早いんじゃないかな? 私もリリーシャさんとは、凄く仲がいいし。
「そんなの無理よ。緩い〈ウィンドミル〉と違って〈ファースト・クラス〉は、物凄く厳しいんだから。それに、学校の時も会社でもそうだけど、先輩に張り付いて、お世辞を言ったり、ゴマをするのは、私は嫌いなのよ」
プライドの高い、ナギサちゃんらしい意見だ。でも、ゴマをするのと、仲良くするのって、全く別のことだよね?
私の場合は、単に先輩への尊敬の念と、役に立ちたい気持ちで動いていて、ゴマをすったりは、してないなぁ。あと、やっぱり、誰とでも仲良くなりたいって思うし。
「焦らなくても、いいんじゃない? 私達が『スカイ・プリンセス』になるのは、だいぶ先のことだし。今は、一人前になることだけを考えていれば」
「それは、分かっているのだけど。同期の子に先を行かれるのって、何か負けた気がして嫌なのよ。それに、まさかフィニーツァに、お姉様がいるとは……」
ナギサちゃんは再び険しい視線を向けるが、フィニーちゃんは気付きもせずに、ストローでちゅーちゅーとジュースを飲んでいた。
何事にも負けず嫌いのナギサちゃんと、全てにおいてマイペースのフィニーちゃんの、対象的なことといったら……。
もし、私がリリーシャさんにお願いしたら、レイアー契約してくれるのかな? 姉妹になったら、今よりも、もっと仲良くなるんだろうか?
でも、先輩と後輩は、ある程度、距離があったほうがいい気もする。私は姉妹関係になっても、フィニーちゃんほど、馴れ馴れしくは出来ないだろうなぁ。やっぱり、先輩は尊敬の対象だもん。
早くナギサちゃんにも、いいお姉様が見つかるといいね。ちょっと気が強いけど、優しくていい子だから。分かってくれる先輩が、必ずいるはず。
でも、ナギサちゃんのお姉様になる人って、どんなタイプの人なんだろうね……?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『喧嘩中の親にメールを誤送信しちゃって発狂した件』
私終了のお知らせ……
ここは、ファミレスの中でも非常に安く、五百ベル以内で食べられる料理が多い。さらに『ランチタイム』だと、料理にワンドリンク、サービスでついて来る、非常に良心的な価格だった。
あと、何といっても、この店には『ドリンクバー』がある。ジュース一杯でも、結構、時間が潰せるので、とてもありがたい。なお、ここに来た時は、ドリンク全種類、飲むのはお約束だ……。
今日は、私とナギサちゃん、フィニーちゃんと合同練習だったので、三人で来ていた。『魔法祭』まで、あと三日ということもあり、町中に活気があふれ、どこのお店も混んでいる。
私は運ばれて来たエビピラフを、黙々と食べていた。うーん、やっぱりご飯物は最高! たまには、ご飯を食べないと、元気が出ないからね。相変わらず外食の時以外は、一日三食、パンで節約生活中なので……。
ただ、美味しそうに食べている、フィニーちゃんと私とは対象的に、ナギサちゃんは、ボーッとした表情を浮かべていた。注文したサンドイッチにも、ほとんど手がついていなかった。
「ナギサちゃん、大丈夫? 具合でも悪いの?」
「えぇ、大丈夫。ちょっと、考え事をしていただけよ」
「仕事のこと?」
「まぁ、そうなるのかしらね……」
ナギサちゃんにしては珍しく、歯切れの悪い答えだ。
いつもはもっと、しゃきっとして、ピリピリした空気を発しているのに、今日は何か、力強さを感じない。そういえば、ナギサちゃんが悩んでいるのって、初めて見るかも……。
「私でよければ、何でも相談に乗るよ」
いつもナギサちゃんには、お世話になりっぱなしなので、たまには役に立たないとね。それに、何といっても大事な友達だし。
「話せば、楽になる」
フィニーちゃんも、いつも通りの様子だけど、一応、心配はしているようだ。
ナギサはちゃんは、私たち二人に交互に視線を向けたあと『フーッ』と深い溜め息をついた。
ちょっと、ちょっと、今の溜め息ってなに? 何か私達じゃ、頼りにならないみたいじゃない?
しばし間を空けてから、ナギサちゃんは静かに話し始めた。
「レイアー制度は知ってる?」
「えーと、姉妹関係の約束をすることだっけ?」
「そう。大手企業で働いているシルフィードにとっては、とても大事なことなのよ」
『レイアー制度』とは、先輩と後輩で、姉妹関係になることだ。元々は『大地の魔女』レイアード・ハイゼルが『叡智の魔女』ナターシャ・ノーブルを、弟子にしたのが起源と言われている。
元々は『師弟関係』を指していたが、今では『姉妹関係』になっていた。シルフィード業界では、今も伝統的に続いている制度――というより風習だ。
「レイアー制度のことで、なにか問題でもあったの?」
「実は、学校で同期だった子が、先日レイアー契約を結んだのよ」
ナギサちゃんは、物凄く不機嫌そうな表情で答えた。
見た感じ『レイア―契約』うんぬんの話じゃなくて、単に先を越されたのが気に入らなかったんじゃないだろうか……? 何かにつけて、競争心を燃やすからねぇ、ナギサちゃんは。
「へぇー。ナギサちゃんも、レイアー契約したいの?」
「当然よ。お姉様がいたほうが、全てにおいて有利なんだから。個人的に指導してもらえるし、昇級の時だって、推薦してもらえるのよ」
「え……昇級って、推薦が必要なの?」
「本来『スカイ・マスター』までは、試験を受ければ昇級できるわ。でも〈ファースト・クラス〉では、誰かの推薦がないと『リトル・ウィッチ』の試験すら受けられないのよ……」
うわさには聞いてたけど、やっぱ〈ファースト・クラス〉って、相当、厳しいみたいだね。
「会社の関係者の推薦じゃダメなの? マネージャーさんとか、いるんだよね?」
「成績が優秀なら『エア・マスター』までは、マネージャーから推薦をもらうことが出来るわ。でも、問題は、その先よ」
ナギサちゃんは、難しそうな顔をする。
ちなみに、大手企業では、各階級ごとに『マネージャー』がいるらしい。会社からの連絡事項を伝えたり、それぞれのスケジュールを管理する人だ。
なお、上位階級になると、その人専属のマネージャーがつく。なんか、芸能人みたいだよね。
「その先って――上位階級ってこと?」
いつかは、なりたいけど、正直どうやってなるのか、今一つ理解していなかった。だって、まだまだ先のことだもん……。
「そう。上位階級の昇進には『スカイ・プリンセス』以上の人の推薦が必要なのよ。当然、推薦した人の責任は重大だから、簡単には推してくれないわ。だから、大抵は、レイアー契約を結んだお姉様が推薦してくれるのよ」
「へぇー、そういう仕組みなんだ。じゃあ、私もリリーシャさんにお願いして、レイアー契約したほうがいいのかな?」
全然、レイア―契約なんて意識してなかったから、リリーシャさんと姉妹関係になろうなんて、思ったこともなかった。
「風歌は必要ないわよ、二人しかいない個人企業なんだから。頼めば、つきっきりで教えてくれるでしょうし、推薦だって喜んでしてくれるはず。でも、大手は新人が物凄い数いるから、先輩に目を掛けてもらえるのは、ほんの一握りだけなのよ」
なるほど、そういうことね。考えてみれば、うちは物凄く贅沢な環境だ。新人が私一人だから、何でも優しく教えてもらえる。そもそも、怒られたことすら無いし、そうとう大事にされてるよね。
「フィニーちゃんは、どうなの? やっぱり、最大手の会社は、新人って大変?」
「よく分からない。でも、私はレイアー契約してるから」
フィニーちゃんは、特に興味なさげに淡々と答える。だが、
「って、レイアー契約してるの?! お姉様って、どんな人なの?」
ナギサちゃんが、激しく食いついた。
「お茶いれるのと、お菓子作るのが上手い。二人とも、こないだ会ってる」
「んー? こないだって……もしかして、メイリオさん?」
「そう」
「へぇー、優しそうで、いいお姉様だねぇ」
とても落ち着いた感じで、凄く素敵な人だった。
「ちょっ……『癒しの風』がお姉様だったの?! なんで、言わなかったのよ?」
ナギサちゃんは、驚愕の表情を浮かべたあと、険しい表情に変わる。
だが、フィニーちゃんは、特に気にした様子もなく、黙々とハンバーグを食べていた。今始まったことじゃないけど、相変わらず二人の温度差が激しすぎる――。
「まぁまぁ、落ち着いてナギサちゃん。こないだは、衣装を作るために行ったんだし、そういう話題は出なかったから」
ナギサちゃんは、私のこと以上に、フィニーちゃんに強い闘争心を燃やしている気がする。やっぱり、ライバル企業だからなのかな?
「ぐっ……。メイリオさんとは、前から知り合いだったの? それとも、シルフィード学校のOG?」
ナギサちゃんは、冷静さを取り戻すと、静かに質問した。
一般的には、学校のOGがレイアーになることが多い。なので、会社によっては、卒業した学校ごとの、派閥があったりするんだって。大手企業は、色々と大変そうだねぇ……。
「どっちも違う。会社に入ってから知り合った」
「は? 全く見ず知らずだった人が、レイアー契約してくれたってこと?!」
フィニーちゃんは、フライドポテトを食べながら、こくりと頷いた。
「どうやって頼んだのよ?」
「私は頼んでない。向こうから『姉妹になろう』って言ってきた」
「はぁぁぁー?! 一体どんな手を使ったの? 知り合いでもないのに、あり得ないでしょ?」
ナギサちゃんは、立ち上がると身を乗り出す。
フィニーちゃんは首を傾げ、しばし考えたあと、
「何もしてない。ただ、メイリオ先輩の部屋に、よくお茶飲みに行ってた」
ぼそっと答える。
「それだけ?」
「うん、それだけ」
ナギサちゃんは、その答えにポカーンとしていた。
「そっかー、フィニーちゃんとメイリオさんって、仲良しだったんだね」
「うん、仲良し。いつも、お茶とお菓子出してくれるから、好き」
単に、お茶とお菓子に、釣られて行ってたのでは……? でも、メイリオさんの気持ちが、何となく分かるような気がする。だって、フィニーちゃんが食事してる時って、小動物がハムハムしてる感じで、可愛いんだよねぇ。
「なんで、お茶を飲みに行ってたぐらいで……」
ナギサちゃんは、椅子に座ったあとも呆然としていた。
「案外そんなものなんじゃない? 姉妹になるぐらいだから、仲のいい人がなるんでしょ? みんながみんな、利害関係を考えてる訳では、ないんじゃないかな?」
「それは、そうだけど……」
「ナギサちゃんも、会社の先輩の部屋に、遊びに行ったりとかすれば?」
姉妹になるなら、仲良くなるのが手っ取り早いんじゃないかな? 私もリリーシャさんとは、凄く仲がいいし。
「そんなの無理よ。緩い〈ウィンドミル〉と違って〈ファースト・クラス〉は、物凄く厳しいんだから。それに、学校の時も会社でもそうだけど、先輩に張り付いて、お世辞を言ったり、ゴマをするのは、私は嫌いなのよ」
プライドの高い、ナギサちゃんらしい意見だ。でも、ゴマをするのと、仲良くするのって、全く別のことだよね?
私の場合は、単に先輩への尊敬の念と、役に立ちたい気持ちで動いていて、ゴマをすったりは、してないなぁ。あと、やっぱり、誰とでも仲良くなりたいって思うし。
「焦らなくても、いいんじゃない? 私達が『スカイ・プリンセス』になるのは、だいぶ先のことだし。今は、一人前になることだけを考えていれば」
「それは、分かっているのだけど。同期の子に先を行かれるのって、何か負けた気がして嫌なのよ。それに、まさかフィニーツァに、お姉様がいるとは……」
ナギサちゃんは再び険しい視線を向けるが、フィニーちゃんは気付きもせずに、ストローでちゅーちゅーとジュースを飲んでいた。
何事にも負けず嫌いのナギサちゃんと、全てにおいてマイペースのフィニーちゃんの、対象的なことといったら……。
もし、私がリリーシャさんにお願いしたら、レイアー契約してくれるのかな? 姉妹になったら、今よりも、もっと仲良くなるんだろうか?
でも、先輩と後輩は、ある程度、距離があったほうがいい気もする。私は姉妹関係になっても、フィニーちゃんほど、馴れ馴れしくは出来ないだろうなぁ。やっぱり、先輩は尊敬の対象だもん。
早くナギサちゃんにも、いいお姉様が見つかるといいね。ちょっと気が強いけど、優しくていい子だから。分かってくれる先輩が、必ずいるはず。
でも、ナギサちゃんのお姉様になる人って、どんなタイプの人なんだろうね……?
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次回――
『喧嘩中の親にメールを誤送信しちゃって発狂した件』
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