私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第2部 母と娘の関係

1-6娘の部屋を見た瞬間どっと心配が込みあげてきた

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 私は〈北地区〉にある、風歌が住んでいるアパートに来ていた。乗り物で移動すれば〈ホワイト・ウイング〉から、十分も掛からない距離にあった。

〈北地区〉は〈東地区〉とは、だいぶ雰囲気が違い、完全な住宅街になっている。たまに、小さな個人店があるぐらいで、閑静な住宅街だ。最初、空港に降り立った時は、あまりの大都会に驚いたが、少し離れると、どこもこんな感じらしい。

 元々、風歌の住まいまでは、見るつもりはなかった。しかし、リリーシャさんに『風歌はどんな生活をしているんでしょうか?』と尋ねたところ『直接、見に行きましょう』と、連れて来てくれたのだ。

 だいぶ年季が入っているが五階まであり、想像していたよりも、大きな建物だった。アパートというより、マンションに近い。風歌は、ここの最上階に住んでいるそうだ。

 まず最初に、一階の管理人室に向かう。娘がお世話になっているので、当然、お礼と挨拶をしておかねばならない。これも、今回の目的の一つだ。扉の前に立つと、向こうの世界から持ってきたお土産の袋の中身を、しっかりと確認する。

 リリーシャさんが扉をノックすると、中から返事があり、すぐに扉が開いた。中から出てきたのは、身長が高くがっしりとした感じの、たくましい女性だった。鋭い眼光で見下ろして来る。

「よぉ、リリー嬢ちゃんじゃないか。久しぶりだね」
「ノーラさん、こんにちは。ご無沙汰しております」
 リリーシャさんは、いつも通りの柔らかな笑顔で対応する。

「ん、そちらの人は?」
「風歌ちゃんの、お母様です。風歌ちゃんの様子を見に、昨日から、いらしているんです」

 迫力に気圧され、固まっていた私に代わり、彼女が説明してくれた。

「は、初めまして。風歌の母の、如月 雪華と申します。いつも娘が、大変お世話になっております。これは、つまらない物ですが」
 私は頭を下げながら、サッとお土産を差し出す。

「これは、ご丁寧にどうも。私は管理人の、ノーラ・ベイルです。別に、世話をしている、という程のことはしてないので、お気になさらず」
 彼女は、屈託のない笑顔を浮かべて答えた。

 見た目の迫力はあるが、かなり砕けた性格のようだ。それに、物凄くサッパリした話し方をする、感じのいい人だった。

「ところで、もう部屋は見に行ったのかい?」
「いえ、これから行くところです」 

「そうかい、じゃ、様子見がてら、私も一緒に行くかね」
「是非、お願いします」

 二人の自然なやり取りを見ていると、ずいぶんと親しい間柄のようだ。歳は離れているので、親御さんのお知り合いかしら?

 廊下を少し歩いたあと、階段で移動する。ノーラさんのあとにリリーシャさんが続き、私は一番後ろについて、階段を上って行った。

 二人は難なく、スタスタと上がって行くが、私は三階あたりで息が切れてしまった。物凄く長い階段で、体力的にかなりキツイ。

 そういえば、最近は、あまり買い物にも行っておらず、体を動かしていなかった。風歌が出て行ってから、あまり食事を作っていないからだ。

 主人は、朝と昼は外食だし、夜も二人だけだと、あまり沢山は作らない。それに、洗濯物の数も少なく、家事の量がかなり少なくなった。おかげで、運動不足気味だ。

「大丈夫ですか?」 
 リリーシャさんが立ち止まり、声を掛けてくれた。

「えぇ、なんとか……」
「古い建物だから、フローターが付いてなくてね。少々大変だが、体を鍛えるにはちょうどいいんだ。風歌嬢ちゃんなんか、毎日、駆け足で上り下りしてるよ」

 ノーラさんは、全く疲れたそぶりも見せず、笑いながら話し掛けて来る。

「風歌は、毎日これを――」

 せわしなく上り下りしている様子が、頭に思い浮かんだ。向こうにいた時も、落ち着きのない子で、いつもドタドタ階段を駆け上がっていた。まぁ、体力だけはあるからね、あの子は……。 

 やっとのことで五階まで上がると、廊下の一番奥の扉の前まで進む。ノーラさんは扉の横のパネルに触れ、扉を開けた。中は物置になっており、その奥のほうに、さらに上に登るハシゴが付いている。

 二人に続いてハシゴを登って行くと、小さな屋根裏部に到着した。私は見た瞬間、あまりの殺風景さに唖然とする。古びたベッドに小さな机。小綺麗にはなっているが、そもそも、私物がほとんど置いてないのだ。

 若い女の子特有の、小物や化粧品などは一切なし。着替えも、段ボールの中に数着入っているだけで、全く生活感がなかった。本当に、ここで風歌が暮らしているのだろうか?

「あまりに狭いんで、驚いたんじゃないのかい?」
「いえ、私は一切、援助していませんし。だいたいこんな感じだろうと、予想はしていました」

 務めて冷静に答えるが、ここまでとは、思っていなかった。いくら一人暮らしで大変でも、もう少し、ましな生活をイメージしていたからだ。

「なるほど、仕送りしていなかったのか。どうりで、カツカツな訳だ。普通は、見習の給料で、一人暮らしは無理だからね」
「え、そうなんですか――?」 

 仕事ぶりを見た限りでは、何とかやって行けてるようだが、急に不安になって来た。

「見習いの給料は、月に二万から三万ベル。家賃は最低でも三万ベル以上。だから、自分の給料だけじゃ、とても一人暮らしなんて、出来やしないやね。リリー嬢ちゃんのところは、いくらぐらいなんだい?」
 
「うちの見習い給は、月に四万ベルです」

「なら、かなり良心的だ。普通の会社の倍はもらってる訳だから。とはいえ、ここの家賃が月一万。残りの三万ベルで生活するとなると、結構ギリギリだね」

 一ベルが一円だから、月給が四万円ぐらい。家賃を払ったあとの、三万円で生活するとなると、かなり厳しいはずだ。正直、月に十万ぐらいは、収入があるものだと思っていた……。

「あの――風歌は、ちゃんと食べて行けてるのでしょうか?」

 離れたところから見ていたし、元気そうだったから、特に気にはならなかった。しかし、生活力が全くない風歌のことだ。きっと、ロクな食事をしていないに違いない。

「まぁ、今のところは、大丈夫じゃないのかい。毎日、元気に走り回ってるのを見る限り。ただ、給料日前になると、ひもじそうにしてるから、私の部屋に呼んで飯食わせてるし。リリー嬢ちゃんも、マメに差し入れしてるみたいだから」

「なっ……うちの娘がご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません」
 私は咄嗟に頭を下げる。

 色々ご迷惑をお掛けしているとは思っていたけど、やっぱり自力じゃダメじゃないの! はぁ、結局こんなことだと思っていたわ……。いくら偉そうなこと言ったって、一人でやって行ける訳ないのよ。まだまだ子供なんだから、風歌は。

「別に、気にすることはないさ。一人増えたところで、大して変わらないし。何より、好きでやってることだから」
 ノーラさんが視線を向けると、リリーシャさんは笑顔で頷いた。

「はぁ――でも、やっぱり仕送りしたほうが、いいですよね? とても、一人でやっていける状態では、ないようですし……」

 生活が大変なのは想像がついたが、何とか一人でやって行けてると思っていたのだ。もし、状況を知っていたら、多少なりとも、援助はしていたと思う。認めた訳ではないが、人様にご迷惑をおかけする訳にはいかない。

「いや、放っておいた方がいいだろうね。自分でやると決めたから、家を飛び出したわけだし。ここで甘やかしたら、意味ないんじゃないかい?」

「それに、見習いのうちは、出来るだけ苦労しておいた方がいい。だから、私も必要以上には、干渉しないようにしてるんだ」

 ノーラさんは、きっぱりと言い切った。少し厳しい気もするが、確かにそのほうが、本人のためにはなると思う。

「私も、できれば、もっと色々してあげたいのですけれど。でも、風歌ちゃんは、自分の力でやりたいようなので。なるべく、黙って見守るようにしています」

 リリーシャさんは、優しい笑顔で答える。でも、彼女のことだから、相当、気を使って、色々してくれていると思う。私にだって、ここまで良くしてくれているのだから……。

「リリー嬢ちゃんの場合は、今のやり方でも、十分に過保護だと思うけどね。ほぼ毎日、おやつの差し入れをしてるんだろ?」
「貰い物が多いですし、私自信が食べたいので」

 二人は笑顔で、とても楽しそうに話していた。どういう関係かは知らないが、かなり仲がいいようだ。

 基本的には、あまり干渉しないようにしつつも、風歌が物凄く気に掛けてもらっているのは、手に取るように分かった。その点、ずっと放置していた私の、なんと不甲斐ないことか……。

 ただ私は、一度、風歌に、世間の厳しさを知って欲しかったのだ。どれだけ大変か、身をもって知れば、根を上げて、すぐに帰って来ると思っていた。

 だが、流石にこれ以上、放っておく訳には行かない。仕送りをすべきか、連れて帰るべきか? いったい、どうすれば良いのかしら――?

 私が悶々と悩んでいると、

「ま、そんなに難しく、考えなさんな。あの子なら大丈夫さ。何といっても、単純でお馬鹿だからね。でも、お馬鹿な子は、本当にタフで強いよ。怖いもの知らずだし、何度、倒れても立ち上がるし」

 ノーラさんは、私の肩をポンポンと叩いた。

「はぁ……」

 事実なので、反論の余地がない。昔っから風歌は、本当に単純で馬鹿な子だった。やはり、こちらに来ても、その点は変わらないようだ。

「私も風歌ちゃんは、大丈夫だと思います。とても努力家ですし、素直な子ですから。一人前になるのは、時間の問題だと思いますよ」 
 リリーシャさんは、柔らかな笑みを浮かべた。

 彼女の場合は、とても親切だし、フォローが上手いので、そう言ってくれてるだけだろう。妙に、風歌の評価が甘い気がするし。

 はぁ……やっぱり、色々と不安要素が多いわね。本当に、一人にしておいて、大丈夫なのかしら? リリーシャさんみたいに、しっかりした子ならまだしも、あの風歌が一人暮らしなんて――。

 だいたい、家事一つできないし、大雑把でだらしないし。でも、私が甘やかしすぎたのにも、問題があるわけだけど。

 私は、殺風景な部屋を眺めながら、次々とわき上がる不安な気持ちを、抑えきれずにいた……。


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次回――
『次に会う時はもっと大人になっているのだろうか?』

 焦らずに、ゆっくりと大人になりなさい
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