私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

文字の大きさ
62 / 363
第2部 母と娘の関係

3-4久々に三人そろった楽しいランチタイム

しおりを挟む
 私は〈エメラルド・ビーチ〉にあるカフェ〈リトル・マーメイド〉に来ていた。ここは、ナギサちゃんたちと、よくランチをしに来る、お気に入りのお店だ。

 ランチセットの値段も手ごろだし、味も美味しい。それに〈東地区〉は、地元の人がメインなので、落ち着いた雰囲気で、のんびりできる。

 テラス席のすぐ目の前は、白い砂浜になっており、海を見ながらの食事は開放感があって気持ちがよい。この町では、屋外で食事をする習慣が根強く、ほぼ全てのお店で、テラス席が用意されていた。

〈グリュンノア〉の創成期、仕事が終わった人たちで集まり、屋外に椅子やテーブルを並べて酒宴をしていたのが、起源と言われている。

 今日は、ナギサちゃんとフィニーちゃんと、三人でランチタイムだ。ここのところ上手く予定が合わず、三人一緒のランチは久しぶりだった。

 私は、いつもフリーなんだけど、大手の会社は、セミナーや研修も多い。それに、同じ会社の人との付き合いもある。学生時代のクラスの付き合いと同じで、同期と食事や遊びに行くことも、よくあるらしい。

 ナギサちゃんは、セミナー以外の時は、いつでも付き合ってくれる。でも、フィニーちゃんは、社内での付き合いが意外とあり、来れない場合も多かった。無口な割には、交友関係が広かったりする。

 でも、何となく分かるなぁ。一緒にいるとホッとするし。素直で可愛いから、誰からも好かれるんだろうね。みんなの『マスコット・キャラ』みたいな存在かな。

 食事が一段落すると、お茶を飲みながら会話を再開する。やはり、今の時期の話題は『蒼海祭』だ。

「ナギサちゃんとフィニーちゃんの会社は、何かお店を出したりするの?」
「ファースト・クラスは、毎年、出店しているわよ」  
「うちも、毎年やってるっぽい」

 二人とも、さも当たり前そうに答えた。

 やっぱり、大手は違うなぁ。私は〈ホワイト・ウイング〉が大好きだし、二人でこじんまりやっているのも、アットホームで気に入っていた。でも、私が知らないことを、色々やっている二人の話を聴くと、大企業がちょっぴり羨ましく感じる。

「じゃあ、二人とも『蒼海祭』は忙しい感じ?」

「やると言っても、大したことはしないわよ。毎年、販売する物は、ほぼ同じだし、新人は出店の準備をするだけで、基本、売り子は先輩方だし。人気のシルフィードがいたほうが、お客様も集まるから」

「うちも、おなじ」

 それを聴いて、ちょっとホッとした。私一人だけ、置いてけぼりなのは嫌だし。それに、いつものメンバーで、一緒にお祭りに行けるのは、物凄く嬉しい。

「じゃあ、また三人で、一緒にお祭り回れるね! 私、今年が初参加だから、また色々教えてよ」

「まぁ、最低限の知識は身につけないと、シルフィードとしてマズイわよね。案内はするけど、遊びじゃないんだから、そこを忘れないように」

 ナギサちゃんに、早くも釘を刺される。

 彼女は、本当にいつも真面目だ。プライベートだろうが、お祭りだろうが、全てが真剣なんだよね。そのプロ魂は凄いと思う。

「出店のことなら、まかせて。おいしい店、一杯しってる」

 フィニーちゃんは、眠そうだった表情がとたんに明るくなり、自信ありげに答えた。普段は無表情でやる気なさそうだけど、食べ物のこととなると、俄然、光り輝く。実際、食べ物の知識では、ナギサちゃん以上なんだよね。

「出店、超楽しみだよね。私、魚介類が大好きだし、食べたいもの多すぎて、困っちゃうなぁ」
「全部まわれば、大丈夫」

 フィニーちゃんは、ビシッと親指を立てた。

「えぇー、全部?! うわぁー、食べきれるかな?」

 私の食事の量は標準的。ナギサちゃんは、やや小食。フィニーちゃんは、私たちの倍以上は食べる。なので、フィニーちゃんに合わせると、大変なことになってしまう……。

「だから、遊びじゃないって、言ってるでしょ。これは、とても大事で神聖な、海の感謝祭なのよ」
「ぜんぶ感謝しながら食べるから、大丈夫」

 明らかに二人の目的がずれており、会話がかみ合わない。

「そうじゃなくて、お祭りの意義を考えなさいって、言っているのよ」
「お祭りは楽しむもの。ナギサが勘違いしてるだけ」
「な――なんですって?!」

 いやー、相変わらずの正反対っぷりだ。歩く規則のナギサちゃんと、フリーダム全開のフィニーちゃんじゃ、どうしたって、価値観が合うはずがない。

 でも、昔に比べて、ずいぶん親しくなったし、仲良し同士の言い合いだから、気にする必要はなかった。『喧嘩するほど仲がいい』って言うもんね。

 とはいえ、ずっと放置する訳にもいかないので、さりげなく話題を変える。

「ところで、二人の会社は、どんなお店を出すの?」

「人気シルフィードの各種グッズと、手作り菓子の販売よ。お祭り限定のグッズもあるし、シルフィードの手作り菓子は、幸運アイテムとして人気があるから。当日は、かなりのお客様がいらっしゃるわ」

 ナギサちゃんは不機嫌そうだったが、説明を始めると、すぐに真面目な表情に変わった。基本、質問やお願いをすると、すぐに機嫌を直して、いつも通りに切り替わる。どこまでも、真面目なんだよね。

「へぇー、お菓子って『ウイング・マドレーヌ』みたいな?」
「今年は、手作りのクッキーとチョコレートを、出品するわ。毎年、すぐに完売するから、量を用意するのが大変なのよ」

 なるほど、確かにシルフィードの手作りなら、御利益を期待して、買う人も多そうだよね。この町の人たちは、シルフィードを特別な存在として見ているから。

「フィニーちゃんのところは?」
「うちも、同じ感じ」

 フィニーちゃんは、気だるそうに答える。出店を回る話をしていた時の、活き活きした表情は、すでに消えていた。相変わらず、仕事に関しては、全く興味がないみたいだ。

「お菓子とかも、販売するの?」
「たぶん……。そういえば、メイリオ先輩――自家栽培のハーブティーを出品するって言ってた」

「それは、とても美味しそうだね」
「メイリオ先輩のハーブティーは、この町で一番おいしい」

 以前〈ウィンドミル〉に行った時に、メイリオさんに出してもらったお茶は、すっごく美味しかった。あれが、メイリオさんの自家栽培のハーブティーなのかも。

「なら、二人の会社の出店も、見にいかないとね」

 各シルフィード会社が、どんなお店を出すのか、ちょっと興味がある。もし、いい感じだったら、来年は、うちもやってみたいし。リリーシャさん、お菓子作りが凄く上手いし、絶対に売れると思う。

「いいわよ別に。自分の会社のなんか見ても、面白くないし」
「下手に行くと、手伝わされそうでやだ」
「あー、そういうことね……」

 私から見ると、会社の出店とか羨ましいのに。意外と興味ないんだね、二人とも。私だったら、喜んで手伝うんだけどなぁ。リリーシャさんと二人で売り子とか、凄く楽しそう。

「でも、メインイベントは、やっぱり『サファイア・カップ』でしょ? みんなで一緒に参加しようよ!」

『サファイア・カップ』とは、毎年〈サファイア・ビーチ〉で行われる、ウォーター・ドルフィンのレースだ。

 WDR (ワールド・ドルフィン・レース)には登録されていない、ローカルレースだけど、賞品や優勝トロフィーもあるし、ちゃんとシルフィードの実績にもなる。

「私はやめとくわ」
「私もやらない」
 二人とも、あっさり断った。

「えぇー、何で? 優勝すれば、十万ベルの商品券もらえるよ。それに、実績にもなるんだよ。出ない理由なんてないじゃん」

 露出の少ない私たち見習いにとって、皆に注目される大会は、唯一アピールできる場所だ。それに、優勝できれば、ちゃんと自分の経歴にもつくし。

「だから、私はいいわよ。風歌だけ出ればいいでしょ」
「疲れるし、出店まわる時間なくなるから嫌」
 二人とも、全く興味がないようだ。

 うー、せっかく三人で、一緒に出ようと思ってたのに――。まぁ、フィニーちゃんは動くの嫌いだから、しょうがないとして。ナギサちゃんは、普通に行けるんじゃないかなぁ? ん、もしかすると……。

「ナギサちゃん、もしかして泳げないとか?」
「ぐっ――。別に、泳げないんじゃないわよ、泳がないだけよ!」

 ナギサちゃんは、妙にムキになって答える。

「それって、要するに泳げないんだよね?」
「なっ、煩いわね! 別に泳げなくても困らないし、今まで泳ぎに行く機会が、たまたま無かっただけよ」

 なるほど……泳げないんじゃしょうがない。ライフ・ジャケットを着るから大丈夫とはいえ、泳げない人が、海上を高速で走るのは怖いもんね。

「しょうがない――。じゃあ、私一人で出るかぁー。でも、その代わりに、応援には来てよね」
 
 まだ、こっちの世界に来て日が浅いし、初めて出る競技なので。個人技とはいえ、一人で出るのは、ちょっぴり心細い。

「応援ぐらいなら。レースの見学も、立派な勉強だし」
「サファイア・ビーチも、出店一杯あるから、食べながら見る」

 目的はともかく、二人とも応援には来てくれるようだ。元々は、私的な参加理由だし、今回は一人で頑張ってみよう。

「それよりも、風歌は『ウォーター・ドルフィン』に乗ったことがあるの?」
「ないけど。ぶっつけ本番じゃ、やっぱダメかな?」

 ジェットスキーみたいな感じ、という情報しか、今のところは知らない。もちろん、向こうの世界でも、ジェットスキーなんて、乗ったことはない。ただ、持ち前の運動神経で、何とかする自信はある。

「そんなの、駄目に決まっているでしょ。参加者は皆、レース経験者や、たくさん練習を積んできた人ばかりよ。それに、万一、レース中に大怪我でもしたら、どうするつもり?」

「だよねー。一度は、練習しなきゃダメかぁ……」

 どっかで、ウォーター・ドルフィン借りられないかな? あとで、リリーシャさんに相談してみよう。

 その後も『蒼海祭』の話題で盛り上がる。ナギサちゃんは、歴史や心得について。フィニーちゃんは、出店や食べ物について。二人とも地元出身だけあって、流石に詳しい。

 レースに全員で参加できないのは、ちょっと残念だけど、お祭りを思いっ切り楽しむぞー。楽しむのも、見習いの立派な仕事だからね。

 蒼海祭に向けて、色々頑張りまっしょい!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『やっぱり焼きたてのサンマは最高に美味しい』
 
 空腹はお料理を美味しくする最高のスパイスなのですよ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~

チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!? 魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで! 心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく-- 美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...