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第2部 母と娘の関係
4-3全く知らなかったうちの大家さんの隠された過去
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午後四時半。私は終業前の掃除や、備品のチェックなどを全て終え、席に着き学習ファイルを開いていた。空いた時間は、ひたすら勉強が基本……。とはいえ、終業時間が迫って来ると、何かうずうずして落ち着かない。
学生時代の、最後の授業が終わる直前と、同じ感覚だ。『仕事終わったら何しよう?』『夕飯は何にしようかな?』なんて、つい余計なことを考えてしまう。
机の前にじっと座ってるのは、やっぱり苦手だった。でも、この仕事は大好きだから、残業だって喜んでやるつもりだ。もっとも、残業があったことは、一度もないんだけどね。
リリーシャさんは、今日の予約の仕事を全て終え、事務所で黙々とデスクワークをしていた。マギコンを開いて、経理の仕事をやっている。
私は数字とか苦手だから、あまりよく分からないんだよね。数字が得意なら、お仕事、手伝えるんだけど……。
私は、リリーシャさんの手が止まった瞬間を見計らい、そっと声を掛けた。
「リリーシャさん、少しいいですか?」
「ええ、どうしたの?」
リリーシャさんは、優しい笑顔を向けて来た。
「実は『蒼海祭』のことで、少し質問があるんですが。海で行われるレースは、ご存知ですか?」
「毎年〈サファイア・ビーチ〉で行われている『サファイア・カップ』ね」
一流のシルフィードだし、ずっと地元にいるんだから、知ってて当然だよね。リリーシャさんは、生まれも育ちもこの町の『ノアーズ』なんだから。
「はい、それです。リリーシャさんは、参加されたことがありますか?」
「私は、参加したことはないけれど。見に行ったことは、何度もあるわ。地元の人がたくさん参加して、とても盛り上がるの」
『サファイア・カップ』は、この町では、超人気があるイベントだ。本来『蒼海祭』は、海に感謝する神事なんだけど。『このレースが一番の楽しみ』って人が、かなり多いみたい。
「へぇー、それは楽しそうですね。実は――私も参加したいと思うんですが、出ても大丈夫でしょうか……?」
私は恐る恐る口にする。あまり目立つことに参加するのは、シルフィードとしてマズイかもしれないし。まだ見習いだから、技術的にも微妙なので。
「あら、それはとても素敵ね。いい経験になると思うわ」
意外にも、リリーシャさんは、笑顔でOKしてくれる。
私は、てっきり止められると思っていた。リリーシャさんは、大らかな性格だけど、危ないことや無理なことは、絶対に許してくれないので。
「やったー! でも、私、水上は走ったことが無くて。会社に『ウォーター・ドルフィン』って、ありませんか?」
毎日、ガレージの中も掃除しているけど、ウォーター・ドルフィンは、見掛けたことがない。
「大きな会社だと、用意しているところも有るようだけど。残念ながら、うちの会社にはないの。私も乗ったことがないし、ごめんなさいね」
「いえ、私の思い付きですので、すいません。でも、どうしよう。どこかで、借りられないでしょうか――?」
一人乗りの『ウォーター・ドルフィン』は、普通はシルフィード会社には、置いてないよね。水上観光の時は、水空両用の『エア・ゴンドラ』を使うし。
「海にある、マリンスポーツの施設で、レンタルできるけど。一回で、一万ベル以上はすると思うの」
「高っ! うーん、それだと気楽に練習は、できないですね……」
いくら、十万ベルの商品券がもらえるとはいえ、優勝できる保証はないし。下手をしたら、賞品よりも、練習代のほうが、掛かるかもしれない。
そもそも『ウォーター・ドルフィン』って、割とお金を持っている人の、娯楽だもんね。レンタルでも高いのは、しょうがないかも――。
私が、どうしたものかと考えていると、
「それなら、ノーラさんに相談してみたら、どうかしら?」
リリーシャさんが、意外な提案をしてきた。
「えっ、ノーラさんですか? ノーラさんって、マリンスポーツとか、するんですか?」
私には『おっかない、アパートの大家さん』のイメージしかなかった。
「確か、サファイア・カップも、優勝したことがあるはずよ」
「優勝?! ノーラさんって、元レーサーか何かですか?」
「いいえ。ノーラさんは、元シルフィードよ」
リリーシャさんは、クスクス笑いながら答える。
「ん……えぇー?! あの人が、元シルフィードですかっ?」
えぇー!? ちょっとちょっとー、聞いてないよ、そんな話! この町に来てから、色々驚いたことがあったけど、今の話が、一番ビックリしたよ。
だって、シルフィードって、華麗で繊細なお仕事でしょ? ノーラさんて、全く対極じゃない? ガッチリした筋肉質で、肉体労働系の仕事をやっていたようにしか、見えなもん。
いや、ちょっと待って……。てことは、最初からシルフィードのこと、滅茶苦茶、詳しかったんじゃん? どうりで『グランド・エンプレスになる』って言った時に、大笑いされたわけだ――。
「ノーラさんは『疾風の剣』の二つ名を持ち『史上、最速のシルフィード』と言われていた、元『シルフィード・クイーン』なのよ」
「ええぇぇー?! うそっ……うちの大家さんが、元シルフィード・クイーン?」
あまりの衝撃に、一瞬、脳がマヒした。
「風歌ちゃんに、格安で部屋を貸してくれたのも、シルフィード繋がりなのよ。私たちの先輩だし」
「そ、そうだったんですか――」
なるほど、何かリリーシャさんと親し気だと思ったら、そういう繋がりだったんだ。
それはさておき、元シルフィード・クイーンに、軽々しく『グランド・エンプレス宣言』しちゃったわけで……。ぎゃーー、超恥ずかしいーー!!
「でも、なぜ『最速』って言われていたんですか? シルフィードって、そんなに速く飛んだりは、しないですよね?」
運送や郵便の『スカイ・ランナー』は、かなり飛ばしているのを見かけるけど。シルフィードは、基本ゆっくり飛ぶことが多い。観光案内に、スピードは必要ないからね。
「ノーラさんは、色んなレースで優勝しているの。レースの参加は、趣味らしいのだけれど。『ノア・グランプリ』でも、優勝しているのよ」
「凄っ!! それってもう、プロと変わらないじゃないですか?」
『ノア・グランプリ』とは、この町で年に一度行われる、年間イベントの一つ。しかし『GSR』(グランド・スカイ・レース)と言われる、最もグレードの高いレースだった。
世界中から、一流のプロたちが集まる、超ハイレベルなレースだ。向こうの世界でいうところの『F1』みたいな感じかな。
「プロチームからのお誘いも来ていたみたいだし、実力はプロと変わらないわね。でも、ノーラさんは、あくまで趣味なんですって」
リリーシャさんは、微笑みながら語る。
「もしかして、ノーラさんって、とんでもなく凄い人だったんですか?」
いつも、ほうきを片手に掃除している姿しか知らないので、ピンと来ない。いまだに、頭の中が混乱している。
「元シルフィード・クイーンの時点で、とても凄い人だと思うわよ。風歌ちゃんは『蒼空の女神』を知っているかしら?」
「はい、現シルフィード・クイーンで、プロレーサーの、ミルティア・フォードさんですよね?」
『魔法祭』のパレードを見に行った時、私の目の前を、ゴンドラに乗って通過した。すっごくカッコイイ人だったので、よく覚えている。
「彼女は、ノーラさんに憧れて、シルフィードとレーサーになったらしいの」
「ほへぇーー……」
なんかもう、凄すぎて、訳わかんなくなってきた。元シルフィード・クイーンだけでも凄いのに、プロレーサー並みの飛行技術を持っている。さらに、現シルフィード・クイーンが憧れる人だなんて、次元が違いすぎるよ――。
「でも、そんなに凄い人が、なぜアパートの大家さんをやっているんですか? シルフィードだって、まだ現役で出来ますよね?」
シルフィードは、十代から二十代の若い女性がメインだ。でも、三十代や四十代で活躍している人たちもいる。ノーラさんって、まだ三十代ぐらいだと思うんだけど……。
「元々あのアパートは、ノーラさんの、おばあ様が管理していたのだけど。おばあ様が病気で亡くなったあと、ノーラさんが引き継いだの。無理に引き継がなくても良かったのだけれど、ノーラさん、物凄くおばあちゃんっ子だったらしくて」
「なるほど、そんなことが有ったんですか――」
『シルフィード・クイーン』の地位を捨ててまで、あとを継いだというのは、余程おばあさんのことが、大好きだったのだろう。でも、あのノーラさんが、おばあちゃんっ子だったなんて、想像つかないよねぇ……。
「私はレースに出たことが無いし、いつも安全運転でゆっくり飛んでいるから、ノーラさんに訊いてみて。色々と教えてくれると思うから」
「うーん――教えてくれますかね? ノーラさん、いつも厳しいし」
正直、ノーラさんは怖くて、話し掛け辛い。リリーシャさんには、とても優しい感じなんだけど。なぜか、私には、すっごく厳しいんだよね。もしかして、嫌われているんだろうか?
「大丈夫よ。ノーラさん、凄く優しいから」
リリーシャさんは、ニコニコしながら答える。
「えっ?! それって、リリーシャさんに対してだけなのでは?」
「誰にでも優しいわよ。そうでなければ、風歌ちゃんのこと、アパートに置いてくれなかったでしょ?」
身元不明の異世界人のうえに、お金もロクに持っていない、家出中の未成年。そんな危なっかしい人間に、部屋を貸してくれる奇特な人は、まずいないだろう。そう考えると、相当に寛容だよね、ノーラさんは。
「分かりました。今度、ノーラさんに、お話きいてみます」
レースのこともあるけど、元シルフィード・クイーンなら、色んなシルフィードの知識や経験が学べそうだ。
今までは苦手意識があって、こちらから話し掛けることは、あまりなかった。でも、もう少し仲良くなった方がいいよね。私の大先輩でもある訳だし。
それにしても、色んなタイプのシルフィードがいるんだねぇ。優しかったり上品な人もいれば、厳しかったり勇ましい人もいて。シルフィード業界は、実に奥が深い。
私は将来、どんなタイプのシルフィードになるんだろうね……?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『ただのショップの店員さんかと思ったら超有名人だった』
私、有名人と天才とお金持ちには弱いの
学生時代の、最後の授業が終わる直前と、同じ感覚だ。『仕事終わったら何しよう?』『夕飯は何にしようかな?』なんて、つい余計なことを考えてしまう。
机の前にじっと座ってるのは、やっぱり苦手だった。でも、この仕事は大好きだから、残業だって喜んでやるつもりだ。もっとも、残業があったことは、一度もないんだけどね。
リリーシャさんは、今日の予約の仕事を全て終え、事務所で黙々とデスクワークをしていた。マギコンを開いて、経理の仕事をやっている。
私は数字とか苦手だから、あまりよく分からないんだよね。数字が得意なら、お仕事、手伝えるんだけど……。
私は、リリーシャさんの手が止まった瞬間を見計らい、そっと声を掛けた。
「リリーシャさん、少しいいですか?」
「ええ、どうしたの?」
リリーシャさんは、優しい笑顔を向けて来た。
「実は『蒼海祭』のことで、少し質問があるんですが。海で行われるレースは、ご存知ですか?」
「毎年〈サファイア・ビーチ〉で行われている『サファイア・カップ』ね」
一流のシルフィードだし、ずっと地元にいるんだから、知ってて当然だよね。リリーシャさんは、生まれも育ちもこの町の『ノアーズ』なんだから。
「はい、それです。リリーシャさんは、参加されたことがありますか?」
「私は、参加したことはないけれど。見に行ったことは、何度もあるわ。地元の人がたくさん参加して、とても盛り上がるの」
『サファイア・カップ』は、この町では、超人気があるイベントだ。本来『蒼海祭』は、海に感謝する神事なんだけど。『このレースが一番の楽しみ』って人が、かなり多いみたい。
「へぇー、それは楽しそうですね。実は――私も参加したいと思うんですが、出ても大丈夫でしょうか……?」
私は恐る恐る口にする。あまり目立つことに参加するのは、シルフィードとしてマズイかもしれないし。まだ見習いだから、技術的にも微妙なので。
「あら、それはとても素敵ね。いい経験になると思うわ」
意外にも、リリーシャさんは、笑顔でOKしてくれる。
私は、てっきり止められると思っていた。リリーシャさんは、大らかな性格だけど、危ないことや無理なことは、絶対に許してくれないので。
「やったー! でも、私、水上は走ったことが無くて。会社に『ウォーター・ドルフィン』って、ありませんか?」
毎日、ガレージの中も掃除しているけど、ウォーター・ドルフィンは、見掛けたことがない。
「大きな会社だと、用意しているところも有るようだけど。残念ながら、うちの会社にはないの。私も乗ったことがないし、ごめんなさいね」
「いえ、私の思い付きですので、すいません。でも、どうしよう。どこかで、借りられないでしょうか――?」
一人乗りの『ウォーター・ドルフィン』は、普通はシルフィード会社には、置いてないよね。水上観光の時は、水空両用の『エア・ゴンドラ』を使うし。
「海にある、マリンスポーツの施設で、レンタルできるけど。一回で、一万ベル以上はすると思うの」
「高っ! うーん、それだと気楽に練習は、できないですね……」
いくら、十万ベルの商品券がもらえるとはいえ、優勝できる保証はないし。下手をしたら、賞品よりも、練習代のほうが、掛かるかもしれない。
そもそも『ウォーター・ドルフィン』って、割とお金を持っている人の、娯楽だもんね。レンタルでも高いのは、しょうがないかも――。
私が、どうしたものかと考えていると、
「それなら、ノーラさんに相談してみたら、どうかしら?」
リリーシャさんが、意外な提案をしてきた。
「えっ、ノーラさんですか? ノーラさんって、マリンスポーツとか、するんですか?」
私には『おっかない、アパートの大家さん』のイメージしかなかった。
「確か、サファイア・カップも、優勝したことがあるはずよ」
「優勝?! ノーラさんって、元レーサーか何かですか?」
「いいえ。ノーラさんは、元シルフィードよ」
リリーシャさんは、クスクス笑いながら答える。
「ん……えぇー?! あの人が、元シルフィードですかっ?」
えぇー!? ちょっとちょっとー、聞いてないよ、そんな話! この町に来てから、色々驚いたことがあったけど、今の話が、一番ビックリしたよ。
だって、シルフィードって、華麗で繊細なお仕事でしょ? ノーラさんて、全く対極じゃない? ガッチリした筋肉質で、肉体労働系の仕事をやっていたようにしか、見えなもん。
いや、ちょっと待って……。てことは、最初からシルフィードのこと、滅茶苦茶、詳しかったんじゃん? どうりで『グランド・エンプレスになる』って言った時に、大笑いされたわけだ――。
「ノーラさんは『疾風の剣』の二つ名を持ち『史上、最速のシルフィード』と言われていた、元『シルフィード・クイーン』なのよ」
「ええぇぇー?! うそっ……うちの大家さんが、元シルフィード・クイーン?」
あまりの衝撃に、一瞬、脳がマヒした。
「風歌ちゃんに、格安で部屋を貸してくれたのも、シルフィード繋がりなのよ。私たちの先輩だし」
「そ、そうだったんですか――」
なるほど、何かリリーシャさんと親し気だと思ったら、そういう繋がりだったんだ。
それはさておき、元シルフィード・クイーンに、軽々しく『グランド・エンプレス宣言』しちゃったわけで……。ぎゃーー、超恥ずかしいーー!!
「でも、なぜ『最速』って言われていたんですか? シルフィードって、そんなに速く飛んだりは、しないですよね?」
運送や郵便の『スカイ・ランナー』は、かなり飛ばしているのを見かけるけど。シルフィードは、基本ゆっくり飛ぶことが多い。観光案内に、スピードは必要ないからね。
「ノーラさんは、色んなレースで優勝しているの。レースの参加は、趣味らしいのだけれど。『ノア・グランプリ』でも、優勝しているのよ」
「凄っ!! それってもう、プロと変わらないじゃないですか?」
『ノア・グランプリ』とは、この町で年に一度行われる、年間イベントの一つ。しかし『GSR』(グランド・スカイ・レース)と言われる、最もグレードの高いレースだった。
世界中から、一流のプロたちが集まる、超ハイレベルなレースだ。向こうの世界でいうところの『F1』みたいな感じかな。
「プロチームからのお誘いも来ていたみたいだし、実力はプロと変わらないわね。でも、ノーラさんは、あくまで趣味なんですって」
リリーシャさんは、微笑みながら語る。
「もしかして、ノーラさんって、とんでもなく凄い人だったんですか?」
いつも、ほうきを片手に掃除している姿しか知らないので、ピンと来ない。いまだに、頭の中が混乱している。
「元シルフィード・クイーンの時点で、とても凄い人だと思うわよ。風歌ちゃんは『蒼空の女神』を知っているかしら?」
「はい、現シルフィード・クイーンで、プロレーサーの、ミルティア・フォードさんですよね?」
『魔法祭』のパレードを見に行った時、私の目の前を、ゴンドラに乗って通過した。すっごくカッコイイ人だったので、よく覚えている。
「彼女は、ノーラさんに憧れて、シルフィードとレーサーになったらしいの」
「ほへぇーー……」
なんかもう、凄すぎて、訳わかんなくなってきた。元シルフィード・クイーンだけでも凄いのに、プロレーサー並みの飛行技術を持っている。さらに、現シルフィード・クイーンが憧れる人だなんて、次元が違いすぎるよ――。
「でも、そんなに凄い人が、なぜアパートの大家さんをやっているんですか? シルフィードだって、まだ現役で出来ますよね?」
シルフィードは、十代から二十代の若い女性がメインだ。でも、三十代や四十代で活躍している人たちもいる。ノーラさんって、まだ三十代ぐらいだと思うんだけど……。
「元々あのアパートは、ノーラさんの、おばあ様が管理していたのだけど。おばあ様が病気で亡くなったあと、ノーラさんが引き継いだの。無理に引き継がなくても良かったのだけれど、ノーラさん、物凄くおばあちゃんっ子だったらしくて」
「なるほど、そんなことが有ったんですか――」
『シルフィード・クイーン』の地位を捨ててまで、あとを継いだというのは、余程おばあさんのことが、大好きだったのだろう。でも、あのノーラさんが、おばあちゃんっ子だったなんて、想像つかないよねぇ……。
「私はレースに出たことが無いし、いつも安全運転でゆっくり飛んでいるから、ノーラさんに訊いてみて。色々と教えてくれると思うから」
「うーん――教えてくれますかね? ノーラさん、いつも厳しいし」
正直、ノーラさんは怖くて、話し掛け辛い。リリーシャさんには、とても優しい感じなんだけど。なぜか、私には、すっごく厳しいんだよね。もしかして、嫌われているんだろうか?
「大丈夫よ。ノーラさん、凄く優しいから」
リリーシャさんは、ニコニコしながら答える。
「えっ?! それって、リリーシャさんに対してだけなのでは?」
「誰にでも優しいわよ。そうでなければ、風歌ちゃんのこと、アパートに置いてくれなかったでしょ?」
身元不明の異世界人のうえに、お金もロクに持っていない、家出中の未成年。そんな危なっかしい人間に、部屋を貸してくれる奇特な人は、まずいないだろう。そう考えると、相当に寛容だよね、ノーラさんは。
「分かりました。今度、ノーラさんに、お話きいてみます」
レースのこともあるけど、元シルフィード・クイーンなら、色んなシルフィードの知識や経験が学べそうだ。
今までは苦手意識があって、こちらから話し掛けることは、あまりなかった。でも、もう少し仲良くなった方がいいよね。私の大先輩でもある訳だし。
それにしても、色んなタイプのシルフィードがいるんだねぇ。優しかったり上品な人もいれば、厳しかったり勇ましい人もいて。シルフィード業界は、実に奥が深い。
私は将来、どんなタイプのシルフィードになるんだろうね……?
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『ただのショップの店員さんかと思ったら超有名人だった』
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