私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第3部 笑顔の裏に隠された真実

2-5なんで交通標識ってかわいい絵柄のがないんだろ?

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 夜、私は自分の部屋で、ベッドに、うつぶせになって休んでいた。夕飯をたくさん食べたので、かなり眠い。食後でお腹いっぱいなので、仰向けに寝たいけど、それだと熟睡してしまう。だから、うつぶせのまま、ちょっとだけ休憩中だ。

 普段なら、すぐにでも寝てしまうけど、どうしても寝られない理由があった。もうすぐ、定期試験があるからだ。新人は定期的に試験があり、点数が悪いと、補習に出なければならない。しかも、合格点がとれるまで、何度でも追試がある。

 もし、補習なんかになったら、昼寝も食べ歩きも、できなくなってしまう。私の貴重な自由時間を守るためには、頑張って、勉強しなければならない。

 メイリオ先輩が、勉強を見てくれると言ってた。でも、勉強は、一人でやることにしている。メイリオ先輩といると、お茶やお菓子をくれるので、あまり集中して勉強できない。だから、自室でおいしいものを我慢しながら、勉強をする。

 早く終わらせて、メイリオ先輩の、おいしいお菓子が食べたい……。

 私は、睡魔と戦いながら、必死に体を起こす。ゆっくりベッドから降りると、机の前に座って、マギコンを起動した。

 複数ある学習用ファイルから、1つを選んで開く。次の定期試験は『飛行法』が中心に出題されると、マネージャーが言っていた。

 私は『飛行法』が、凄く苦手。空を飛ぶのに、いちいち規則に、縛られたくないからだ。でも、ちゃんと覚えておかないと、定期試験はもちろん、昇級試験にも受からない。

 私は、クッキーに手を伸ばそうとするが、ぐっとこらえた。メイリオ先輩に『勉強頑張ってね』と渡されたものだ。メイリオ先輩の、手作りクッキーは、超おいしい。けど、食べたら眠くなるので、今は我慢しておく――。

 私は、ファイルの『交通標識』の項目を開いた。だいたいは、見たことあるけど、意味が分からないものも多かった。そもそも、普段、空を飛んでいる時、いちいち標識など気にしていない。見てるのは、制限速度ぐらいだ。

 ちなみに、昔は町の各所に、交通標識のポールが立っていた。けど、今は全て撤去されている。

『町の景観を損ねるから』という理由で、全て空中モニターの標識に、切り替えられた。映像だけなので、必要に応じて、消すことも出来るし、交通の邪魔にもならないからだ。

 一部の場所では、空にも空中モニターの標識があった。空港近くなどの、飛行過密地帯は、飛行方向の指定や、高度指定の標識が出ている。あとは、事故や事件などがあった時は、立ち入り禁止の標識が、一時的に出る場合もあった。

 通常は、機体についてる『サポート・モニター』に、飛んでいるエリアの交通標識が、自動で表示される。それを見ていれば、直接、標識を見なくても大丈夫だ。

 私は標識の一覧を、ボーッと眺めながら、画面をスクロールしていく。物凄く一杯あるし、似たのも多かった。もっと、分かりすいマークや、かわいい絵柄にしてほしい。どれも、つまんないマークばっかりだ。

 全部、食べ物とか、ネコの標識にしてくれれば、簡単に覚えられるのに……。

 超面倒だけど、一応、全ての標識と名称を、何となく見て行く。面白そうな標識は、念入りに。あとの興味ないのは、適当に。しばらく見ている内に、ある程度は覚えた。たぶん、これで大丈夫――なはず。

 標識が終わると、次は各種、交通ルールやマナーなどの、説明文を読み始めた。絵を見るのはいいけど、文字を見るのは、眠くなるから嫌い。

 何度か意識が飛びながら、ようやく試験範囲の、最後まで読み終える。と同時に、マギコンを終了し、机の上に突っ伏した。

「超疲れた……死ぬ」
 しばらくそのまま、放心状態になる。でも、

「いや――まだ死ねない。クッキー、食べてなかった」

 私は、ガバッと起き上がると、メイリオ先輩にもらったクッキーの袋を、大事に手に取った。袋を開いた瞬間、甘い香りが漂ってくる。クッキーをかみしめると、甘さとハーブの香りが、口いっぱいに広がった。

「一仕事おえたあとのクッキー、超最高!」
 私は大きな満足感に包まれた。

「そうだ……」

 クッキーを食べたら、目がさえてきたので、再びマギコンを起動する。まだ、寝るにはちょっと早いので、ELを開いて、クッキーの写真をとって送る。

『うわぁ、美味しそうなクッキーだね。どこのお店の?』

 すると、すぐに風歌からレスが来た。風歌は、いつも反応が早いし、この時間は暇してるみたいだ。ナギサはたぶん、今は勉強中なので、メッセージをチェックしていない。

『メイリオ先輩の、手作りクッキー』
『いいなぁー。いつも、作ってもらってるの?』

『お茶の時、よく出してくれる。今日は勉強するから、袋に入れて、渡してくれた』
『えっ、フィニーちゃん、勉強してたの?』

 返信とともに、驚いた顔のスタンプが表示された。

『風歌、驚きすぎ。私だって、やる時はやる』

 メッセージを打ち込んだあと、目が燃えてる、ネコのスタンプを送る。

『ちゃんと勉強しないと、昇級できないもんね。フィニーちゃんも私と同じで、毎晩やってるの?』
『……毎日は、やんない。定期試験の直前だけ』

 あの風歌が、毎日、勉強しているとは、ちょっと驚いた。いつも、勉強が苦手だって、言ってるのに。ナギサの影響かも?

『私も学生時代は、いつも一夜漬けだったよ。フィニーちゃんの会社も、定期考査があるの?』
『ナギサのとこほど、厳しくない。でも、定期的に、筆記試験がある』

〈ファースト・クラス〉は、毎月、飛行や接客などの実技も含め、非常に厳しい試験がある。将来的な昇級も、全てこれで決まるらしい。でも、うちは模擬試験みたいな感じで、割とゆるかった。赤点だと、追試はあるけど――。

『そうなんだ。さすがは、最大手の会社だね』
『超迷惑。明日の試験、サボりたい』

 社会人になったら、勉強の必要ないと思ってたのに……。しょっちゅう試験があるのでは、学生時代と変わらない。

『って、明日なの? じゃあ、ELやってる場合じゃないじゃん。勉強しなきゃ』
『大丈夫。さっき、ちょっとだけ勉強した』

『ちょっとで、平気なの?』
『たぶん平気。一度みたものは、だいたい覚えてる』

 記憶力は、割といいほうだ。町の地形も、ほぼ全て頭に入っている。神経衰弱とか、わりと得意。

『へぇー、凄いね。もしかして、フィニーちゃん勉強、得意だったりする?』
『勉強は嫌い。でも覚えるのは得意』

『うーむ、それって、やれば出来るってことじゃない?』
『でも、嫌いだからやらない。実地で覚えたほうがいい』

 机の前で勉強するより、町を飛び回ったほうが、百倍、勉強になると思う。だから、勉強は、必要最低限しかしない。

『あははっ、フィニーちゃんも、体育会系思考だね。私に考え方が近いかも』
『でも、勉強するんでしょ?』

『とりあえず、毎日やってるよ。勉強は超苦手だから、凄く苦戦してるけど……』
『苦手なのに、毎日やるの?』

 勉強を毎日やるなんて、まったく考えられない。ただでさえ、昼間働いてるのに、夜まで面倒なことは、絶対にしたくなかった。

『勉強しないと、昇級できないから。でも、一番は、リリーシャさんの、期待を裏切りたくないからかな』
『仕事だけじゃ、ダメなの?』

『日々の仕事は、しっかりやるのは、当然として。ちゃんと、結果を出したり、会社に貢献したいんだ』
『そんなの、一度も考えたことない』

 私はただ、最低限のルールを守り、ノルマをこなし、あとは好きにやってるだけ。シルフィードは、自由に空を飛び回れると思ったから、なったんだし。

『まぁ、フィニーちゃんの会社は、大企業で人も一杯いるから、気にならないかもね。大きいと、自分一人の貢献って、分かり辛いだろうし』

 実際、そうなのかもしれない。社員が多いから、程々に頑張ってれば、普通に会社は回る。でも、風歌の会社は、二人だけだから、かなり頑張る必要があるのかもしれない。

『人数、少ないと大変そう。サボったら、すぐバレる』
『慣れれば、全然、大変じゃないよ。それに、サボったりとか、絶対しないから』
『風歌、まじめ』

 私は適度に、手を抜いてやっている。雑用とかは大嫌い。

『私、全然まじめじゃないよ。社会人としての責任とか、一番は恩返しかな』
『恩返しって、なんの?』

『私を、拾ってくれたことへの恩返し。私、受けた会社、全て落ちちゃって。リリーシャさんが拾ってくれなきゃ、シルフィードには、なれなかったよ』

 そういえば、前に、そんな話をしてた。三十社以上、受けたとか……。

『捨てネコみたい』 
『あははっ、そうかもね。実際、どこにも行くとこなかったし』

 風歌は、いつも必死に生きている感じがする。恩返しの、ためなんだろうか? それに、特に話は出ないけど、何か家庭の事情を抱えているみたいだ。仕送りも、全くもらってないみたいだし。

 ただ、私は詮索したりはしない。言いたければ、本人が言うと思うから。私は、詮索するのも、されるのも嫌い。

 でも、相談や助けを求められたら、全力で協力するつもり。友達を助けるのは、当然。けど、ナギサみたいに、勝手に世話を焼くのは、迷惑だと思う。

 私は、クッキーを食べながら、しばらく風歌と世間話をした。何だかんだで、三十分ほど。風歌が『そろそろ切り上げよう』と言わなければ、まだ話してたかもしれない。

 私は、マギコンを閉じると、すっと立ち上がった。
「おなかすいた――」

 クッキーは、全部たべ終わったけど、なんか物足りない。ベッドの下の引き出しを、スライドすると、沢山のお菓子がつまっていた。

 ベッドに寝っ転がって、ネコの動画を見ながら、夜食のお菓子を食べるのが日課だ。手を伸ばそうとするが、一瞬、考え込む。

 私も恩返しする人、誰かいるかな……?

 パッと、最初に頭に浮かんだのは、メイリオ先輩だった。いつも、お茶やお菓子、食事を作ってくれる。色々身の回りの世話も、してくれていた。よくよく考えてみると、恩返しとか、一度もしたことない気がする。

 妹の私が赤点とったら、メイリオ先輩、困るのかな? スカイ・プリンセスだし、名前に傷がつくかも? でも、メイリオ先輩は、そんな細かいことは、気にしないと思う。ただ、心配したりはするかも――。

「やっぱ、もうちょっとだけ、勉強やる」 
 私は引き出しをしめると、机の前に座り、マギコンを起動した。 

 恩返しとか、よく分からないけど。メイリオ先輩には、いつも笑顔でいて欲しいと思う……。


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次回――
『ピザを頼む時はチーズ増量のLLサイズが基本』

 最近は、警察よりピザのほうが速く来るんだなぁ。
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