私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第3部 笑顔の裏に隠された真実

5-5何か知らないけど絶好調で力が全身にみなぎってきたー!!

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 私は風を全身に浴びながら、海沿いの道をひた走っていた。今日は風が強めなので、時おり、押し出されるような激しい風が、横から吹いて来る。

 周り中に人がいた時は、特に気にならなかった。でも、縦長になり、人が少なくなってくると、風が気になり始めた。しかも、かなり空気が湿っており、どんよりした空模様が心配だ。

 普段、空を飛んでいる時も、かなり風が強い。上空ほど、風が強く吹くからだ。でも、エア・ドルフィンに乗っているだけで、どんどん進んで行くので、特に気にならなかった。

 しかし、自分の脚で走る場合は、物凄く気になってしまう。風が強いと、ペースが乱れたり、余計に体力を消費するからだ。

 序盤は、接触しないよう、細心の注意を払いながら、周りとのペースを合わせていた。だが、十キロを過ぎたあたりから、少しずつ縦長になってくる。やはり、距離が進むほど、個人の能力差が出てくるからだ。

 私は常に、集団の先頭を維持するように走っていた。でも、思ったほど速くなかったので、特に無理はしていなかった。ただ、ニ十キロ地点を過ぎると、先頭集団から遅れる人が増え、さらに細く縦長になって行く。

 周囲に人がいなくなると、むしろペースの維持が難しい。ゆっくり走るべきか、ペースを上げるべきか、よく分からないからだ。特に、初出場の私は、ペース配分がよく分かっていない。

 スタート時に話していた女性も、十キロ地点では、すでに姿が見えなくなっていた。なので、何度もペースを合わせる人を変えている。

 抑えめに走っていたので、もう少しペースを上げたい。でも、周囲の人は、ペースを上げる気配はなかった。そのため〈新南区〉に続く橋がある、中間地点までは、我慢することにした。

 とはいえ、先ほどから、早く前のグループの人に追いつきたい気持ちと、冷静にならねばという気持ちが、頭の中でせめぎ合っている。力を抑えるって、苦手なんだよね。

 フィニーちゃんに貰った栄養ゼリーと、ノーラさんのパンを食べたおかげか、体の調子はいたって良好だ。

 トレーニングの成果もあってか、今のところ、特に辛さも感じていない。『デッドポイント』もとうに乗り越え、前に進みたい気持ちが、あふれ出している。

 過去の経験上、こういう状態の時は、物凄く調子がいい。気力が充実していると、本来、持っている能力以上に、力を発揮できるからだ。

 心の底から、ワクワクした気持ちが沸き上がり、体が軽やかに動く。この高揚感がある内は、疲労も不安も全く感じない。スタート前にあったプレッシャーも、完全に消え去っていた。

 軽快に走り続けていると、やがて〈新南区〉と、そこに続く〈ドリーム・ブリッジ〉が見えてきた。あそこまで行けば、道のりの半分が終了だ。

 すでに、自分の最高記録である、ハーフマラソンの二十一キロは超えていた。昔はハーフでも、やっとだったので、以前よりも、かなり力が付いているようだ。

 それもあって自信が湧き、さらに一段階テンションが上がる。気持ちが、どんどん前のめりになって行った。ちらりと振り返ると、後ろの人と、十メートルほど差が付いていた。

 前のグループの、最後方で遅れて走っていた人も、すでに何人か抜いている。『Jグループ』の中では、単独で一位だった。

 滅茶苦茶、いい感じじゃない? 私史上、最も絶好調かも。これって、もしかしたら、かなりいい結果が出せるのでは? 

 期待と高揚感を胸に、しばらく進んで行くと、右手のほうに何かが見えてきた。近づいて行くと、空中モニターがいくつも並んでおり、何かの文字が表示されている。

『ハーフゴールは、二キロ先を右折』

 まだ、半分の地点なのに、何だろコレ? そういえば『ノア・マラソン』って、ハーフコースもあるって、スピで見たような気が……。もしかすると、フルとハーフは、同時に走ってるのかな? 

 最初から、五十キロを完走することしか、考えていない。なので、ハーフコースについては、全く調べていなかったのだ。

 とりあえず、私には関係なさそうなので、気にせず走り続ける。だんだん、中間地点に近付くにつれ、観客が多くなってきた。中継用の空中カメラも、複数、宙に浮いている。

 人が多くなるにつれ、ますます体に力がみなぎって来た。基本、人が多い賑やかな所が大好きだ。それに、沢山の人に見られると、やる気が湧いてくるのは、昔から変わらない。

 気がつけば、いつの間にかスピードが上がり、一人また一人と抜き去って行く。やがて、右手のほうに、係員が数人、立っているのが見えてきた。

「ハーフ・ゴールに向かう方は、一キロ先で右折してください! フル完走を目指す方は、そのまま直進してください!」
 係員が大きな声で、案内をしているのが聞こえてくる。

 なるほど、同時に走って、好きなほうが選べるんだ。妙に観客が多いと思ったら、ハーフゴールに向かう人を、見ているからなんだね。

 私の先の方を走っている人たちが〈ドリーム・ブリッジ〉の少し手前辺りで、次々と右折していった。意外と、ハーフで走る人も多いみたい。

 後方グループには、ガチで走る人が少ないみたいだし。二十五キロの完走だって、一般人から見れば、凄いことだと思う。

 やがて、右折地点に近付くと、一瞬だけチラリと横を見る。百メートルほど先に、ゴールゲートが用意されていた。

 だが、私はすぐに正面を向くと、軽快に走り過ぎて行った。私のゴールは、あくまで五十キロ地点。余計なことを、考えてる暇はないからね。

 左手に〈ドリーム・ブリッジ〉が見え、ちょうど中間地点に近付くと、周囲の観客たちから、声援が飛んできた。

「頑張れっ、あと半分だよ!」
「前半完走おめでとう、残りも頑張れ!」
「最後まで頑張ってねー!」

 声を掛けてくれた人たちに、笑顔を向け、軽く手を挙げる。

 声援を聴いた瞬間、俄然やる気がみなぎって来た。私って、褒められて伸びるタイプなので。

 大きな橋の前に差し掛かったところで、私はいよいよ、本格的にペースを上げた。今まで抑え込んでいたエネルギーが、一気に噴き出した感じだ。足がどんどん前に進んで行く。

 先ほどまでより、かなりペースが速いが、けっして無理なスピードではなかった。なぜなら、ランニングの時は、これぐらいか、もう少し速いぐらいのペースで走っていたからだ。

 朝は、会社に遅刻しないために、急いで走ってたし。退社後も、早く帰って晩ご飯を食べたいから、速く走っていたからだ。

 色々な理由があった練習の時に比べれば、むしろ、今のほうが気楽だった。特に急ぐ必要もなく、完走さえすればいいので。
 
 中間地点に並んでいる、空中モニターを見ると、Jグループの経過タイムは、二時間四十六分。時速は、約九キロぐらいで、悪くないペースだ。

 ちなみに、制限時間は七時間。この時間を超えると、失格になってしまう。ただ、今のペースなら、六時間以内の完走も目指せるので、まず大丈夫だ。

 中間地点を超えると、黙々と海岸沿いを走っていく。ここから〈西地区〉に向かうにつれ、商業施設が減り、普通の住宅街になる。実は、コース中では、ここが一番つらい地点だ。

〈東地区〉から〈南地区〉に向かうルートは、割と住宅も多く、しだいに商業ビルなども増え、にぎやかになる。しかし〈南地区〉から〈西地区〉に向かう道は、空き地や雑木林などが多く、閑散として行く。

 右を見ても左を見ても、景色にほとんど変化がなかった。進むにつれ、観客もまばらになり、静寂の中を走っていく。こういう場所は、距離感がつかみにくく、モチベーションの維持も難しい。

 晴れていれば、景色を楽しむことも出来る。だが、空はどんより曇っており、先のほうは、暗雲が濃くなってきていた。今にも、雨が降りそうな感じだ。

 空気も先ほどより、さらに湿っぽくなってきて、肌が少しベタついている。相変わらず風も強く、気持ちよく走れる状態ではなかった。

 でも、条件はみんな同じなんだし、弱気なことを考えちゃダメだよね。まだ、体力は残ってるし、脚も今のところ調子がいい。

 あとは、正しいフォームを守って、一定のペースを崩さないこと。しっかり前だけを見て、呼吸に集中。練習でやった通りに、黙々と走るだけ。

 半分を過ぎたところで、一瞬、気持ちが乱れたが、再び冷静になって、走ることだけに集中する。やがて、周囲が見えなくなり、風も気にならなくなった。

 私は頭の中を空っぽにして、体験したことのない未知の領域へと、踏み出して行くのだった……。


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次回――
『可能性が1パーセントでもあるなら私は絶対に諦めない』

 あきらめて心では見えないものも、前に進めば見えてくる
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