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第三章
第12話『霧の中の決戦』
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夜明け前のエルフェリア。
聖堂都市に立ち込めていた霧は、ますます濃くなっていた。それはまるで、何かがこの街を包み込もうとしているかのようだった。
「異常です……この霧、自然発生のものではありません」
聖堂の屋上で周囲を警戒していたシルヴィアが、急ぎ足でアリシアのもとに駆け寄った。
「視界は30メートル以下。魔力探知も乱れています。これは……結界系の高位魔術」
「クロウが動き出したのね……!」
アリシアは静かに立ち上がると、すぐさま装備を整えた。
「聖堂の守備隊は?」
「既に配置につかせました。ですが、あの“堕ちた騎士”たちが出てきた場合、正面からでは持ちこたえられません」
「なら、私たちが動くしかない」
レオンが剣を抜いた。
「正面を守りながら、敵の中心を叩く。クロウを倒す。それが一番の近道だ」
アリシアは一つ頷く。
「行きましょう。私たちで、この街を守る!」
夜明けとともに、霧の中から敵が現れた。
全身を黒鎧に包んだ騎士たち。かつての聖騎士たちの成れの果て。その姿は歪み、憎悪と怨念に満ちている。
「魔眼の継承者を、屠れ……!」
咆哮と共に始まる戦い。
聖堂の周囲に展開された魔法結界が、最初の一撃で半壊する。アリシアはすぐに前へと出ると、手を掲げて魔力を集中させた。
「――“光霊解放・セラフィムブレイズ”!」
純白の翼を模した炎が、天から降り注ぎ、霧を焼き払いながら敵の一団を吹き飛ばした。
「さすがだな……やはり君は、選ばれし者だ」
その声に、アリシアはすぐに振り向く。
そこにいたのは、クロウ――黒衣を翻し、静かに佇む影の継承者。
「なぜ……こんなことをするの?」
アリシアの問いに、クロウはただ哀しげに笑った。
「僕は世界に選ばれなかった。リアナは、君に“希望”を託した。だが、僕に与えられたのは“呪い”だった」
「それでも……道は選べるはず。力は、誰かを守るために使えるのよ!」
「その言葉を、僕はもう信じられない。だったら君が、“選ばれた意味”をその力で示してみろ!」
クロウが手を掲げる。黒い魔眼が輝き、彼の背後に巨大な影の翼が広がる。
「来い、アリシア!」
衝突は、まさに世界と世界のぶつかり合いだった。
アリシアの光の魔術と、クロウの影の呪詛。二つの魔眼の波動が交錯し、空間が軋む。
「レオン、援護を!」
「任せろ!」
レオンは隙を突いて、クロウに肉薄したが、その剣は影によって弾かれる。
「君は“彼女の剣”か。だが、君のような者では……」
「だからこそ、守るんだよ! アリシアは一人じゃない!」
叫びと共に、レオンの剣が一閃し、クロウの左肩をかすめた。
「……君たちの“絆”は、確かに強いようだな」
クロウの魔眼が震えた。
「だが、どれほど強くても――失えば、無に帰す」
その瞬間、彼はすべての力を集中させた。
「“虚無の解放”――!」
地面が揺れ、空間が崩れ始める。黒い球体が周囲を呑み込み、全てを消し去るような力を放つ。
「アリシア、来るぞ!」
「分かってる!」
アリシアは目を閉じ、自らの魔眼に力を込めた。
「――“聖なる調律・レガリアコード”!」
眩い光が爆発し、影と虚無を打ち払う。光と影が激しくぶつかり、やがて爆風の中にクロウの姿が沈んでいった。
戦いが終わった頃、朝日が差し込んでいた。
クロウは、倒れていた。
だがその瞳は、どこか穏やかだった。
「……やはり、君は……強かった」
「違う。私は、皆がいてくれたから戦えた。絆が、私を強くしてくれたの」
「絆……か……それが、僕には無かった」
「違う。今、私がここにいて、あなたの言葉を聞いている。それも“絆”よ」
クロウは小さく笑い、瞳を閉じた。
こうして、聖堂都市エルフェリアは救われた。
王国の民は、アリシアを“聖光の継承者”と呼び、希望の象徴として讃えた。
だが、彼女の旅は終わらない。
影はまだ、世界のどこかに潜んでいる。そして、アリシアの心にはクロウの言葉が、静かに残っていた。
(絆を信じる。それが、私の選んだ道)
夜明けの空を見上げながら、アリシアはそっと胸に誓った。
聖堂都市に立ち込めていた霧は、ますます濃くなっていた。それはまるで、何かがこの街を包み込もうとしているかのようだった。
「異常です……この霧、自然発生のものではありません」
聖堂の屋上で周囲を警戒していたシルヴィアが、急ぎ足でアリシアのもとに駆け寄った。
「視界は30メートル以下。魔力探知も乱れています。これは……結界系の高位魔術」
「クロウが動き出したのね……!」
アリシアは静かに立ち上がると、すぐさま装備を整えた。
「聖堂の守備隊は?」
「既に配置につかせました。ですが、あの“堕ちた騎士”たちが出てきた場合、正面からでは持ちこたえられません」
「なら、私たちが動くしかない」
レオンが剣を抜いた。
「正面を守りながら、敵の中心を叩く。クロウを倒す。それが一番の近道だ」
アリシアは一つ頷く。
「行きましょう。私たちで、この街を守る!」
夜明けとともに、霧の中から敵が現れた。
全身を黒鎧に包んだ騎士たち。かつての聖騎士たちの成れの果て。その姿は歪み、憎悪と怨念に満ちている。
「魔眼の継承者を、屠れ……!」
咆哮と共に始まる戦い。
聖堂の周囲に展開された魔法結界が、最初の一撃で半壊する。アリシアはすぐに前へと出ると、手を掲げて魔力を集中させた。
「――“光霊解放・セラフィムブレイズ”!」
純白の翼を模した炎が、天から降り注ぎ、霧を焼き払いながら敵の一団を吹き飛ばした。
「さすがだな……やはり君は、選ばれし者だ」
その声に、アリシアはすぐに振り向く。
そこにいたのは、クロウ――黒衣を翻し、静かに佇む影の継承者。
「なぜ……こんなことをするの?」
アリシアの問いに、クロウはただ哀しげに笑った。
「僕は世界に選ばれなかった。リアナは、君に“希望”を託した。だが、僕に与えられたのは“呪い”だった」
「それでも……道は選べるはず。力は、誰かを守るために使えるのよ!」
「その言葉を、僕はもう信じられない。だったら君が、“選ばれた意味”をその力で示してみろ!」
クロウが手を掲げる。黒い魔眼が輝き、彼の背後に巨大な影の翼が広がる。
「来い、アリシア!」
衝突は、まさに世界と世界のぶつかり合いだった。
アリシアの光の魔術と、クロウの影の呪詛。二つの魔眼の波動が交錯し、空間が軋む。
「レオン、援護を!」
「任せろ!」
レオンは隙を突いて、クロウに肉薄したが、その剣は影によって弾かれる。
「君は“彼女の剣”か。だが、君のような者では……」
「だからこそ、守るんだよ! アリシアは一人じゃない!」
叫びと共に、レオンの剣が一閃し、クロウの左肩をかすめた。
「……君たちの“絆”は、確かに強いようだな」
クロウの魔眼が震えた。
「だが、どれほど強くても――失えば、無に帰す」
その瞬間、彼はすべての力を集中させた。
「“虚無の解放”――!」
地面が揺れ、空間が崩れ始める。黒い球体が周囲を呑み込み、全てを消し去るような力を放つ。
「アリシア、来るぞ!」
「分かってる!」
アリシアは目を閉じ、自らの魔眼に力を込めた。
「――“聖なる調律・レガリアコード”!」
眩い光が爆発し、影と虚無を打ち払う。光と影が激しくぶつかり、やがて爆風の中にクロウの姿が沈んでいった。
戦いが終わった頃、朝日が差し込んでいた。
クロウは、倒れていた。
だがその瞳は、どこか穏やかだった。
「……やはり、君は……強かった」
「違う。私は、皆がいてくれたから戦えた。絆が、私を強くしてくれたの」
「絆……か……それが、僕には無かった」
「違う。今、私がここにいて、あなたの言葉を聞いている。それも“絆”よ」
クロウは小さく笑い、瞳を閉じた。
こうして、聖堂都市エルフェリアは救われた。
王国の民は、アリシアを“聖光の継承者”と呼び、希望の象徴として讃えた。
だが、彼女の旅は終わらない。
影はまだ、世界のどこかに潜んでいる。そして、アリシアの心にはクロウの言葉が、静かに残っていた。
(絆を信じる。それが、私の選んだ道)
夜明けの空を見上げながら、アリシアはそっと胸に誓った。
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