酒呑童子 遥かなる転生の果てに

小狐丸

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第三話 新たな人生の始まり

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 意識が浮上してくる。

 視界もハッキリせずボンヤリとしている。
 体を動かそうにも思うように動かない。
 ただ今回も転生を続けて来た記憶は残っているようだ。逆に残っていなければ咲耶との再会が叶わない。

 そこでもう一度自分の置かれた状態を確認する。

 どうやら自分はまだ産まれたての赤ちゃんのようだと北斗は理解した。手を動かして顔の前に持って来る。色白のふっくらとした赤ちゃんらしい手がボンヤリと見えた。産まれて間もないのに視力が比較的ハッキリとしているが、北斗はそれには驚かない。酒呑童子と呼ばれる前、産まれて四歳で知力体力が大人と変わりなかった事を覚えているからだ。

 鬼の子と怖れられ、六歳で母親に捨てられる原因にもなった。ただこの世界には様々な種族が居ると神は言っていた。この世界の常識が全く分からない北斗は、どう成長を親達に見せるか悩む事になる。



 北斗は白を基調にした部屋の中に、ベビーベッドに寝かされていた。

 ガチャ、ドアが開く音が聞こえ部屋に人が入って来た。一人はメイド服らしきものを着た二十歳前後の女性、この家のメイドだろう。もう一人は青味がかった美しい銀髪を腰まで伸ばし、小さな顔の造形は息を呑むほど美しい。優しげな笑顔で北斗に近寄って来る、この二十歳前後に見える女性が自分の母親だろうか。

「〆%$*#&#x;」

 母親らしき女性が優しい声で話し掛けるが、当然の事ながら言葉が全く分からない。

 フワリと身体が持ち上がり、母親に抱き上げられたと理解した北斗だが、母親の腕の中に抱かれると、これまで感じたことの無い安心感を覚えた。

 母親は椅子に座るとおもむろに胸をはだけ、豊かなその胸を北斗の顔に近付ける。




 寝て起きて母乳を与えられ、そんな日々が北斗の体感で半年程続いた頃、言葉も理解出来る様になりだんだんと状況が分かってきた。


 今世での名前は、ホクト・フォン・ヴァルハイム。
 家族からはホクトと呼ばれている。
 前世の北斗と同じホクトと言う名前になった事に複雑な心境になる。北斗星君、それは死を司る神の名前。

 父親の名前は、カイン・フォン・ヴァルハイム。
 ブラウンの髪の美丈夫。
 長身に服の上からもその鍛えられた肉体が伺える武人に見えた。

 母親の名前は、フローラ・フォン・ヴァルハイム。
 青味がかった銀髪の美女。
 その女神の如き美しさは種族故か。

 父親は人族だが、母親のフローラは人族ではなかった。耳が長く、いわゆるエルフという種族だろう。ホクトはハーフエルフになるのかと思っていたが、実はこの世界ではハーフは存在しない事が分かった。
 人族とエルフの間に子供が産まれた場合、人族かエルフのどちらかが産まれる。

 ホクトの外見は、母親のフローラ譲りの青味がかった美しい銀髪に、酒呑童子として産まれた頃の様に、絶世の美少年になるだろう整った顔立ちをしている。涼しげなブルーの瞳も母親似だ。

 この家にはホクトの上に腹違いの兄が二人居るが、その二人は人族の第一夫人のジェシカから産まれた純粋な人族だ。見た目も父親のブラウンの髪を受け継いでいる。長男がアルバン十歳、次男がジョシュア六歳。

 メイドは十八歳のアマリエ。十二歳からヴァルハイム家のフローラに仕えている。



 父親のカインに妻が二人いる時点で、自分の家がそこそこ裕福な事は分かったが、ハイハイするのがやっとのホクトではこの程度の情報を集めるのが精一杯だった。

 ただハイハイも披露するのが早過ぎたようで、母親のフローラには凄く驚かれた。なんでも寿命の長いエルフは、他の種族よりも少しだけ成長が遅いらしい。人族でも生後半年でハイハイは早いと父親のカインも驚いていた。


 この世界に存在する種族には、転生時に神から教えられたように、人族、エルフ、ドワーフ、獣人族、竜人族の大きく別けて五種族が存在する。

 人族は寿命が一番短く、身体能力や魔法も突出した能力を持ち合わせていないが繁殖能力が高い。

 エルフは寿命が長く、身体能力は並みだが、魔力量が全種族中で最も多く魔法適正が高い。種族特性として魔力を視認出来る眼を持つ。

 ドワーフはエルフの半分程度の寿命を持ち、身体能力が高く、火と土の魔法に高い適正を持ち、鍛治や大工、細工職人となる者が多い。

 獣人族は幻獣と呼ばれる精霊と人族の間に生まれた種族と言われ、寿命は二百五十年程。魔法適正は低いが身体能力が高い。

 竜人族はエルフ並みの寿命を誇り、身体能力が非常に高く物理攻撃と魔法攻撃に高い耐性を持つ。しかしその人口は非常に少ない。


 エルフとして産まれたホクトの身体能力が異常に高いのは、酒呑童子としての力を引き継いだ事と、神からの恩恵のおかげなのだが、自重するさじ加減が難しいと感じるホクトだった。



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