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第七話 洗礼
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ホクトが五歳の誕生日を迎えた。
サクヤも数日前に五歳の誕生日を迎えており、今日は二人揃って教会で洗礼を受ける。
この世界に産まれて初めての儀式。
五歳で洗礼を受けて初めて誕生を祝われる。
それは貴族、平民を問わず行われる儀式。
この世界に産まれて来た全ての生命を祝福する大切な儀式だった。
ヴァルハイム男爵領にある町は一つ、あと村が五つある。その唯一の町に小さな教会がある。
今日はその教会で、ホクトとサクヤの洗礼の儀式が行われる。
馬車に乗り、ホクト達は二家族は教会に向かった。
大きめの馬車の中には、カインとフローラ夫婦とホクト、バグスとエヴァ夫婦とサクヤの六人が乗っていた。
「ホクトも何とか無事に五歳を迎えれたわね」
フローラが膝にホクトを抱きながら頭を撫でる。
乳幼児の死亡率が高いこの世界では、子供が五歳を迎える事は、親として本当に喜ばしい事だった。
「そうだな、約束通り五歳から剣の修行を始めるからな」
自分が武官であるカインは、息子達には五歳から剣の修行をさせる事にしていた。長男のアルバン、二男のジョシュアも通った道、それはホクトも例外ではない。
しかしここでフローラが異を唱える。
「あら、ホクトはエルフなのよ。先ずは魔法じゃないかしら」
魔法適性の高いエルフには、剣よりも魔法だとフローラは主張する。
「なっ!ヴァルハイム家は武官の家だぞ。それに子供達には五歳から剣の修行するって約束じゃないか!」
「そんなのホクトには当てはまらないんじゃないの?だってホクトは将来ヴァルハイム家に残れないのよ」
カインとフローラの間で言い争いが始まる。確かにホクトの兄達は五歳から剣の修行をカインから受けて来た。だがフローラにすればホクトはエルフなのだ。魔法適正が種族中最も高いのに、それを活かさないのは勿体無いと主張する。しかもフローラはホクトの魔力量が並外れて多い事を知っているから余計だ。
それに加え実はホクトの身体能力は、五歳にして既に成人並みの身体能力を有していた。千二百年前はそのせいで六歳で母親に捨てられている。ただこの世界ではそう心配する事は無さそうだとホクトは思っていた。
ホクトはこの時点で理解していないが、ホクトがこのまま成長すると、身体能力で言えば竜人族と変わらぬレベルまでになるという事を。さらにホクトには気と魔力による身体能力強化がある。ホクトはエルフの枠を大きく超えている事に気付いていなかった。
実はサクヤもホクト程ではないが、エルフらしからぬ身体能力を有していた。これは慎重なサクヤが両親にも隠し通していた。
「おいおい、せっかくのめでたい洗礼の日に喧嘩はやめろ」
「「…………」」
バグスに止められカインとフローラが黙り込む。
「そうよ、剣か魔法かなんて選ぶ必要ないじゃない」
そこにエヴァが斜め上の選択肢を提案する。
「「えっ?!」」
「そんなの両方させれば良いじゃない。ねぇホクト君」
エヴァにそう言われてカインとフローラの顔が急に明るくなる。
「そうよね!ホクトは天才だもの!」
「ああ、そうだな。剣と魔法の両方か……、素晴らしい!」
この時点でホクトは過酷な修行の毎日が約束された。まぁホクトは自分を鍛える事が嫌いではないから直ぐに納得する。
「ふふふっ」
「もう、サクヤちゃんに笑われたじゃない」
「フローラおばさま、仲良くて良いですね」
「フローラお義母様でしょ」
「!!」
フローラにそう言われてサラの顔が真っ赤に染まる。
「もう、母上。サクヤをイジメないで下さい」
ホクトがフローラの膝の上から見上げながら言う。
「あら、イジメてなんかないわよ。ホクトとサクヤちゃんはラブラブなんでしょ」
「ラブラブって……」
賑やかに話していると馬車が止まり、馭者が教会に着いた事を告げる。
教会の前に神官が待っていた。
「ホクト・フォン・ヴァルハイムとサクヤ・シュタインベルクの洗礼をお願いしたい」
「これはこれはカイン様。今日はお子様の洗礼ですな。ではこちらにお越し下さい」
神官の案内で教会に入り、ホクトとサクヤは正面の祭壇に祈りを捧げる。神官が祝詞を唱え洗礼の儀式は厳かに進み、あっという間に終わった。
「ではこの板に手をついて下さい」
神官が不思議な長方形の板に手をつく様に促す。その板には金属製のタグが嵌っていた。ホクトはドッグタグの様だと思った。
ホクトとサクヤがそれぞれ板に手をつく。
「はい、これで洗礼の儀式は終わりです」
神官はそう言って先程のドッグタグの様な物をホクトとサクヤに手渡す。
「これがホクト様とサクヤ様の身分を証明する認識票となります」
渡されたタグは、ステータスプレートと呼ぶらしい。形や首から掛ける様になっている辺り、本当にドッグタグのようだ。
名前 ホクト・フォン・ヴァルハイム
種族 エルフ
年令 5
創造神の加護 武神の加護
名前 サクヤ・シュタインベルク
種族 エルフ
年令 5
創造神の加護 地母神の加護
ステータスプレートには最低限の情報が記されていた。加護が記されているが、ホクトとサクヤのステータスプレートを見た両親には見えていないようだった。神により隠匿されているのか?とホクトは不思議に思ったが、ここでどうこう出来る訳でもないので、ホクトは気にしない事にした。
カインが神官に心付けを渡して教会をあとにした。
今日は二家族合同でお祝いだ。今頃、アマリエが食事の手配をして、待っているだろう屋敷に馬車を走らせた。
サクヤも数日前に五歳の誕生日を迎えており、今日は二人揃って教会で洗礼を受ける。
この世界に産まれて初めての儀式。
五歳で洗礼を受けて初めて誕生を祝われる。
それは貴族、平民を問わず行われる儀式。
この世界に産まれて来た全ての生命を祝福する大切な儀式だった。
ヴァルハイム男爵領にある町は一つ、あと村が五つある。その唯一の町に小さな教会がある。
今日はその教会で、ホクトとサクヤの洗礼の儀式が行われる。
馬車に乗り、ホクト達は二家族は教会に向かった。
大きめの馬車の中には、カインとフローラ夫婦とホクト、バグスとエヴァ夫婦とサクヤの六人が乗っていた。
「ホクトも何とか無事に五歳を迎えれたわね」
フローラが膝にホクトを抱きながら頭を撫でる。
乳幼児の死亡率が高いこの世界では、子供が五歳を迎える事は、親として本当に喜ばしい事だった。
「そうだな、約束通り五歳から剣の修行を始めるからな」
自分が武官であるカインは、息子達には五歳から剣の修行をさせる事にしていた。長男のアルバン、二男のジョシュアも通った道、それはホクトも例外ではない。
しかしここでフローラが異を唱える。
「あら、ホクトはエルフなのよ。先ずは魔法じゃないかしら」
魔法適性の高いエルフには、剣よりも魔法だとフローラは主張する。
「なっ!ヴァルハイム家は武官の家だぞ。それに子供達には五歳から剣の修行するって約束じゃないか!」
「そんなのホクトには当てはまらないんじゃないの?だってホクトは将来ヴァルハイム家に残れないのよ」
カインとフローラの間で言い争いが始まる。確かにホクトの兄達は五歳から剣の修行をカインから受けて来た。だがフローラにすればホクトはエルフなのだ。魔法適正が種族中最も高いのに、それを活かさないのは勿体無いと主張する。しかもフローラはホクトの魔力量が並外れて多い事を知っているから余計だ。
それに加え実はホクトの身体能力は、五歳にして既に成人並みの身体能力を有していた。千二百年前はそのせいで六歳で母親に捨てられている。ただこの世界ではそう心配する事は無さそうだとホクトは思っていた。
ホクトはこの時点で理解していないが、ホクトがこのまま成長すると、身体能力で言えば竜人族と変わらぬレベルまでになるという事を。さらにホクトには気と魔力による身体能力強化がある。ホクトはエルフの枠を大きく超えている事に気付いていなかった。
実はサクヤもホクト程ではないが、エルフらしからぬ身体能力を有していた。これは慎重なサクヤが両親にも隠し通していた。
「おいおい、せっかくのめでたい洗礼の日に喧嘩はやめろ」
「「…………」」
バグスに止められカインとフローラが黙り込む。
「そうよ、剣か魔法かなんて選ぶ必要ないじゃない」
そこにエヴァが斜め上の選択肢を提案する。
「「えっ?!」」
「そんなの両方させれば良いじゃない。ねぇホクト君」
エヴァにそう言われてカインとフローラの顔が急に明るくなる。
「そうよね!ホクトは天才だもの!」
「ああ、そうだな。剣と魔法の両方か……、素晴らしい!」
この時点でホクトは過酷な修行の毎日が約束された。まぁホクトは自分を鍛える事が嫌いではないから直ぐに納得する。
「ふふふっ」
「もう、サクヤちゃんに笑われたじゃない」
「フローラおばさま、仲良くて良いですね」
「フローラお義母様でしょ」
「!!」
フローラにそう言われてサラの顔が真っ赤に染まる。
「もう、母上。サクヤをイジメないで下さい」
ホクトがフローラの膝の上から見上げながら言う。
「あら、イジメてなんかないわよ。ホクトとサクヤちゃんはラブラブなんでしょ」
「ラブラブって……」
賑やかに話していると馬車が止まり、馭者が教会に着いた事を告げる。
教会の前に神官が待っていた。
「ホクト・フォン・ヴァルハイムとサクヤ・シュタインベルクの洗礼をお願いしたい」
「これはこれはカイン様。今日はお子様の洗礼ですな。ではこちらにお越し下さい」
神官の案内で教会に入り、ホクトとサクヤは正面の祭壇に祈りを捧げる。神官が祝詞を唱え洗礼の儀式は厳かに進み、あっという間に終わった。
「ではこの板に手をついて下さい」
神官が不思議な長方形の板に手をつく様に促す。その板には金属製のタグが嵌っていた。ホクトはドッグタグの様だと思った。
ホクトとサクヤがそれぞれ板に手をつく。
「はい、これで洗礼の儀式は終わりです」
神官はそう言って先程のドッグタグの様な物をホクトとサクヤに手渡す。
「これがホクト様とサクヤ様の身分を証明する認識票となります」
渡されたタグは、ステータスプレートと呼ぶらしい。形や首から掛ける様になっている辺り、本当にドッグタグのようだ。
名前 ホクト・フォン・ヴァルハイム
種族 エルフ
年令 5
創造神の加護 武神の加護
名前 サクヤ・シュタインベルク
種族 エルフ
年令 5
創造神の加護 地母神の加護
ステータスプレートには最低限の情報が記されていた。加護が記されているが、ホクトとサクヤのステータスプレートを見た両親には見えていないようだった。神により隠匿されているのか?とホクトは不思議に思ったが、ここでどうこう出来る訳でもないので、ホクトは気にしない事にした。
カインが神官に心付けを渡して教会をあとにした。
今日は二家族合同でお祝いだ。今頃、アマリエが食事の手配をして、待っているだろう屋敷に馬車を走らせた。
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