酒呑童子 遥かなる転生の果てに

小狐丸

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第十一話 生活環境の改善に挑戦する

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 ホクトとサクヤが母親達から魔法を学び始めて二年が経った。既にフローラとエヴァからは教える事がないとお墨付きを貰い、後は自らの研鑽を積んで行きなさいと言われていた。

 二年経ちホクトとサクヤは七歳になった。

 ここ二年でホクトとサクヤは、魔法だけではなく剣術と体術も格段に成長していた。

 当初、あまり色々手を出すと器用貧乏になると、剣と体術のみの修行だったが、二人の子供の才能に途中からカインとバグスが持つ技術の全てを教える事になった。



 順調に進む修行とは別に、本からの知識しかない魔導具製作は難航した。それはホクトやサクヤが現代の快適な環境を目指した所為なのだが、それでも二人は優先順位をつけて開発して行こうと決めていた。

 特に二人は現代日本で暮らしていた。温水洗浄機付便座が当たり前の環境から、中世ヨーロッパ並みの世界へと転生したのだから、馴れるまでは大変だった。五歳になって魔法を習い始め、浄化魔法を改造したのはその所為もある。

 そしてその浄化魔法を汚れと殺菌に特化させた魔法は、ホクトの母フローラやサクヤの母エヴァが激しく食いついた。フローラとエヴァもトイレに不満が有ったようだ。

 そこでホクトは、あいた時間を利用して浄化の魔導具を開発を開始する。
 魔導具はその動力に、魔石と呼ばれる魔物の体内から採れる石を使う。
 この魔石に目的の術式を刻む。それによって魔法が使えない人でも術式が発動できる道具が出来る。
 魔石はカインに頼んで低レベルの物をたくさん手に入れて貰った。

「魔石に術式を刻むのと、魔力伝導物質で出来たプレートに術式を刻む方法もあるのか」

 分厚い本を読むホクト。その横にはサクヤがニコニコして眺めている。

「どう?出来そう?」

 首を傾げて聞いて来るサクヤが可愛くてホクトの頬が赤くなる。この二年でサクヤは一段と美しくなった。

「うん、浄化の魔導具は構造が簡単だから大丈夫だと思う」

 ホクトが考えた浄化魔導具付き便器は、浄化の魔導具と微弱な魔力を流すスイッチとセットにした。スイッチに手をかざすと浄化の魔導具が術式を発動する仕組みだ。便器とスイッチはケーブルで繋がれ、ケーブルには魔力伝導率とコストの関係で銅線を使った。
 便器は粘土を土魔法で形を形成。ここでフローラから長年訓練を受けていた魔力操作が良い仕事をしてくれた。便器の形が土で出来上がると、土魔法で粘土の水分を抜いていく。焼き物の焼成時の化学変化を知っていれば土魔法で何とか出来たかもしれないが、残念ながらホクトにそんな知識はない。
 その代わり焼成は火魔法で代用し、ガラス質をコーテイングする為の釉薬の研究もした。

 試作を重ねて満足の行く便器が出来ると、早速浄化の魔導具を組み込み、ホクトの屋敷とサクヤの家に設置する許可を父のカインに願った。

「なぁホクト。これは魔法無しでも造る事が出来るのかい?」

 浄化魔導具付き便器をカインとフローラに説明すると、カインは真剣な表情でホクトに聞いて来た。

「はい父上。一応、魔法を使わないで造る方法も書き出して置きました。でも浄化の魔導具は魔法無しでは無理ですよ」

「フローラ、この浄化の魔導具はホクト以外にも造れるのか?」

「ええ、サクヤちゃんは勿論のこと、私やエヴァも光属性に適性があるから造れるわよ」

「光属性が必要になるのか……、それは希少な属性だったな」

 カインが考え込む。ホクトが持って来たこの浄化魔導具付き便器は画期的な物だ。便などの臭いも解消される。しかし希少な光属性持ちが領内にどれだけ居るのか、居たとしても魔導具を造れるレベルにあるのか、ヴァルハイム男爵領にとって大きなチャンスを逃したくなかった。

「父上、魔石に術式を付与するだけなら、そんなに手間はかからないので、僕が大量に作ってストックしておくのはどうでしょう」

「そうね、ホクトが学園に入学するまでに光属性持ちを貴方が探しておけば良いんじゃない」

「……そうだな、それしかないか。その魔石に術式を刻むのはホクト以外に、例えばサクヤちゃんやフローラも出来るのかい?」

「ええ、多分エヴァも少し練習すれば出来る様になるわ」

「父上、魔石はゴブリンなどのクズ魔石で大丈夫ですから、魔石の手配と便器を造る為の粘土の確保、焼成の為の蒔も必要です。火魔法が使える人が複数人確保出来れば、焼成も魔法で出来るのですが」

「分かった、その辺は私の方で調整しよう」

 こうしてヴァルハイム男爵領で浄化魔導具付き便器の工房が立ち上がり、やがて王国中に浄化魔導具付き便器が拡がっていく。

 ちなみに現在、次男のジョシュアが学園に通っているため、王都の屋敷で暮らしている第一夫人のジェシカが、浄化魔導具付き便器の存在を知り、王都の屋敷にも送る様に言って来たのは当然かもしれない。
 ジェシカの長男で嫡男のアルバンは学園を去年卒業して、現在はカインのもとで領主を継ぐ為の勉強中だ。サクヤの兄のバジルも学園を卒業し、ヴァルハイム男爵領で父の跡を継ぐ為に頑張っている。




 ホクトが便器の次に取り組んだのはお風呂だ。

 ホクトの屋敷にはお風呂が有るが、お湯はフローラの魔法任せだ。一般家庭ではお風呂に入ろうと思えば大量の蒔が必要になるので、普通は少しのお湯を沸かし体を布で拭いて終わりが普通だ。

 そこでホクトはお湯を出す魔導具を造った。

 これは、お湯を出すだけなので術式も単純で直ぐに完成した。火魔法と水魔法を使って適温のお湯を出す仕組みを造っただけだ。これまで水を出す魔導具は、富裕層には普及していたが、お湯を出す物はなかった。これは多分、造るために火属性と水属性の二属性に適性を持つ者か、別々に一人づつ必要になるからかもしれない。

 このお湯を出す魔導具は、お風呂が贅沢品だという事で、ヴァルハイム男爵領での製作は見送られた。

 当然、ヴァルハイム家とシュタインベルク家には取り付けられた。


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