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第十八話 纏(テン)
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ロマリア王国の王都ローマンブルクは王国最大の人口を誇る巨大都市だ。その人口は十万人。この世界では破格の人口を誇る大都市。それも王都の周りを砦が囲み、アーレンベルク辺境伯やヴァルハイム子爵達のお陰で安全を享受している。
そのローマンブルクの北にあるのが、白亜の王城ローマンブルク城。
第二十五代国王、ヘルムート・ロマリアの居城だ。
そのローマンブルク城の主人が、豪華な一室で部下からの報告を含み笑いしながら聞いていた。
「ククッ、アーレンベルク卿も存外手が早い。生粋の武人だと思っていたが、なかなか……さすがに辺境伯だけの事はあるか」
「王家に召し上げてはいかがですか」
ヘルムート王へ上申するのは初老の男。ロマリア王国宰相のベルゲン・フォン・バーンズ。王の知恵袋と呼ばれ、ロマリア王国の安定に多大な貢献する忠臣。
「ベルゲンよ、それは無理じゃ。すでにアーレンベルク卿が唾をつけておる。
しかし、躍進するヴァルハイム家の原動力が、わずか十歳の子供だったとはの。いや、工房が出来たのは二年前か……、ヴァルハイム卿も良く隠し通したものよ。単なる戦さしか出来ん武官だと思っておったわい」
「まぁアーレンベルク卿も武官とはいえ高位貴族ですから。しかもヴァルハイム男爵家、いえ、今は子爵でしたか、とは寄親寄子の関係ですから」
「しかし、考えれば考えるほど惜しいのう。暗部からの報告では、既に剣の腕は父のヴァルハイム卿を超えると聞いた。あの大戦の英雄をだぞ。しかもエルフがだ」
「確かに魔法なら分かるのですが、剣の腕がヴァルハイム卿よりも上とは信じられませんな」
「まぁ屋敷にあまり近付く事が出来なかったと暗部の者は言うておったから、どの程度か分からんがな」
「ほう、暗部が近寄れないと?」
「ああ、確実に気付かれたと報告にあった」
気配を消して近付く暗部が、屋敷の側まで近寄れなかったと報告して来た。それはエルフ特有の能力なのか、武人故なのかは分からないが、どちらにしても驚くべき事だ。何せかのヴァルハイム家三男は、まだ十歳なのだから。
「フランソワ様は十二歳でしたな」
ベルゲンがヘルムートの第四王女のフランソワの名前に出した。
「降嫁させるにしてもヴァルハイム家は子爵じゃが、そのエルフの三男は跡を継げんからのう……」
ヘルムートは難しい顔をするが、ベルゲンはニヤニヤしてヘルムートを見ていた。
「陛下はフランソワ様を手放したくないだけでございましょう?」
「むぅ~~」
少しからかうように言うベルゲンに、ヘルムートは言葉に詰まる。
「う、うちのフランソワは何処にもやらん!」
鼻息荒くそう言うと部屋から逃げ出した。
「…………はぁ、陛下」
取り残されたベルゲンが溜息をついた。
何時もの庭で、何時もの様にホクトとサクヤが訓練をしていた。
「サクヤ、気功で剣を強化するのと同じだよ」
ホクトはそう言うと、自身の髪の毛に練り上げた気を纏わせ、鋼の様に硬くしてみせる。
「ここで何時も身体強化に使う魔力と気を混ぜて練り込んで纏わせると……」
ホクトが摘む髪の毛を用意してあった木に振り下ろす。するとまるで手応えを感じる事なく直径20センチ程の木が切断される。
「ねっ、これなら刃こぼれの心配も減るだろ」
「髪の毛が刺さるなら分かるけど、斬れるのは魔力を混ぜている所為なの?」
「うん、魔力だけでも効果はあるんだけと、身体能力強化と同じで、気を混ぜて纏わせた方が数倍効果があるんだ。それに単なる魔力だけじゃなくて、色々な属性の魔力を纏わせるってのもあるしね」
「それって魔剣の類を自前で何とかしちゃうって事ね」
「うん、だけど剣の材質がミスリル以上じゃないと保たないけどね」
「ふ~ん、でも私に出来るかしら」
「大丈夫だよ。サクヤは気の練り方もだいぶ上達しているし、普段から息をする様に気と魔力を練る事が出来る様になっているだろ」
ホクト程武の才能に恵まれていないサクヤだが、それもホクトと比べてしまうからの事で、一般人とると十分天才と呼ばれる才能を持ってあ。
サクヤが自分の髪の毛を一本抜いて気を纏わせてみる。魔力も同時に纏わせることも自然と出来ていた。
「うん、上手い上手い。
剣で人や魔物を斬ると直ぐに斬れ味が落ちてくるけど、魔力を纏わせると斬撃強化、耐久強化が出来るって父上から聞いたんだ。それに加えて魔力を流せるミスリル以上の素材で出来た剣なら更に効果があるんだって。僕達はそこに気も流し纏わせれるからね」
「必要な事なんだね」
「そうだね、対人戦よりは対魔物戦は、より必要だね。どうしたって巨大な魔物相手にはただの剣や槍なんてダメージが与えられないから」
この世界に転生して、たくさんの本を読んだホクトだが、その中にあった絵本や英雄譚で、聖騎士が巨大なドラゴンを退治するお話があった。そこで素朴な疑問としてカインに聞いたところ、この世界には魔剣や聖剣などというマジックアイテムがあると教えてくれた。その時に普通の武器でも一流の武芸者は武器に魔力を流して戦うのだと教えてくれた。
「魔剣や魔槍には興味あるわ」
「サクヤもだいぶ双剣が上達したからな。そろそろ俺達も良い武器が欲しいな」
「でもホクトは使える得物が多くてお金が大変な事になりそうね」
サクヤは魔法が主体に双剣と弓を使う。
ホクトと言えば、さすがに武神の加護の所為か、剣と弓はもとより、槍術、棍術、短刀術、投擲術、体術、斧術、盾術と、様々な武器の訓練をしている。
「アールスタットで冒険者登録してお金を稼がないとダメかな」
「そうね、カイン様からもアーレンベルク卿からも自由にして良いって言われているから大丈夫じゃない」
ヴァルハイム子爵領にも冒険者ギルドはあるが、アーレンベルク辺境伯領の方が仕事も多い。
「ヴァルハイム領の方が目立たないし、父上と一度相談してみるか」
ゴブリンを退治した経験や、酒呑童子としての京洛を恐怖のどん底に陥れていた頃の経験、転生を繰り返し邪鬼や邪鬼が取り憑き鬼となったモノを退治して来た経験から、褒められた事じゃないが、こと戦闘に関しては落ち着いて対処出来る。冒険者としてやって行けるだろう。
「学園に入学するかどうか分からないけど、それまでに出来るだけ稼ぎたいな」
ホクトのお陰で、魔導具で大金を稼いでいるヴァルハイム家だが、当然まだ十歳のホクトが貰うお小遣いは多くないのだから。
そのローマンブルクの北にあるのが、白亜の王城ローマンブルク城。
第二十五代国王、ヘルムート・ロマリアの居城だ。
そのローマンブルク城の主人が、豪華な一室で部下からの報告を含み笑いしながら聞いていた。
「ククッ、アーレンベルク卿も存外手が早い。生粋の武人だと思っていたが、なかなか……さすがに辺境伯だけの事はあるか」
「王家に召し上げてはいかがですか」
ヘルムート王へ上申するのは初老の男。ロマリア王国宰相のベルゲン・フォン・バーンズ。王の知恵袋と呼ばれ、ロマリア王国の安定に多大な貢献する忠臣。
「ベルゲンよ、それは無理じゃ。すでにアーレンベルク卿が唾をつけておる。
しかし、躍進するヴァルハイム家の原動力が、わずか十歳の子供だったとはの。いや、工房が出来たのは二年前か……、ヴァルハイム卿も良く隠し通したものよ。単なる戦さしか出来ん武官だと思っておったわい」
「まぁアーレンベルク卿も武官とはいえ高位貴族ですから。しかもヴァルハイム男爵家、いえ、今は子爵でしたか、とは寄親寄子の関係ですから」
「しかし、考えれば考えるほど惜しいのう。暗部からの報告では、既に剣の腕は父のヴァルハイム卿を超えると聞いた。あの大戦の英雄をだぞ。しかもエルフがだ」
「確かに魔法なら分かるのですが、剣の腕がヴァルハイム卿よりも上とは信じられませんな」
「まぁ屋敷にあまり近付く事が出来なかったと暗部の者は言うておったから、どの程度か分からんがな」
「ほう、暗部が近寄れないと?」
「ああ、確実に気付かれたと報告にあった」
気配を消して近付く暗部が、屋敷の側まで近寄れなかったと報告して来た。それはエルフ特有の能力なのか、武人故なのかは分からないが、どちらにしても驚くべき事だ。何せかのヴァルハイム家三男は、まだ十歳なのだから。
「フランソワ様は十二歳でしたな」
ベルゲンがヘルムートの第四王女のフランソワの名前に出した。
「降嫁させるにしてもヴァルハイム家は子爵じゃが、そのエルフの三男は跡を継げんからのう……」
ヘルムートは難しい顔をするが、ベルゲンはニヤニヤしてヘルムートを見ていた。
「陛下はフランソワ様を手放したくないだけでございましょう?」
「むぅ~~」
少しからかうように言うベルゲンに、ヘルムートは言葉に詰まる。
「う、うちのフランソワは何処にもやらん!」
鼻息荒くそう言うと部屋から逃げ出した。
「…………はぁ、陛下」
取り残されたベルゲンが溜息をついた。
何時もの庭で、何時もの様にホクトとサクヤが訓練をしていた。
「サクヤ、気功で剣を強化するのと同じだよ」
ホクトはそう言うと、自身の髪の毛に練り上げた気を纏わせ、鋼の様に硬くしてみせる。
「ここで何時も身体強化に使う魔力と気を混ぜて練り込んで纏わせると……」
ホクトが摘む髪の毛を用意してあった木に振り下ろす。するとまるで手応えを感じる事なく直径20センチ程の木が切断される。
「ねっ、これなら刃こぼれの心配も減るだろ」
「髪の毛が刺さるなら分かるけど、斬れるのは魔力を混ぜている所為なの?」
「うん、魔力だけでも効果はあるんだけと、身体能力強化と同じで、気を混ぜて纏わせた方が数倍効果があるんだ。それに単なる魔力だけじゃなくて、色々な属性の魔力を纏わせるってのもあるしね」
「それって魔剣の類を自前で何とかしちゃうって事ね」
「うん、だけど剣の材質がミスリル以上じゃないと保たないけどね」
「ふ~ん、でも私に出来るかしら」
「大丈夫だよ。サクヤは気の練り方もだいぶ上達しているし、普段から息をする様に気と魔力を練る事が出来る様になっているだろ」
ホクト程武の才能に恵まれていないサクヤだが、それもホクトと比べてしまうからの事で、一般人とると十分天才と呼ばれる才能を持ってあ。
サクヤが自分の髪の毛を一本抜いて気を纏わせてみる。魔力も同時に纏わせることも自然と出来ていた。
「うん、上手い上手い。
剣で人や魔物を斬ると直ぐに斬れ味が落ちてくるけど、魔力を纏わせると斬撃強化、耐久強化が出来るって父上から聞いたんだ。それに加えて魔力を流せるミスリル以上の素材で出来た剣なら更に効果があるんだって。僕達はそこに気も流し纏わせれるからね」
「必要な事なんだね」
「そうだね、対人戦よりは対魔物戦は、より必要だね。どうしたって巨大な魔物相手にはただの剣や槍なんてダメージが与えられないから」
この世界に転生して、たくさんの本を読んだホクトだが、その中にあった絵本や英雄譚で、聖騎士が巨大なドラゴンを退治するお話があった。そこで素朴な疑問としてカインに聞いたところ、この世界には魔剣や聖剣などというマジックアイテムがあると教えてくれた。その時に普通の武器でも一流の武芸者は武器に魔力を流して戦うのだと教えてくれた。
「魔剣や魔槍には興味あるわ」
「サクヤもだいぶ双剣が上達したからな。そろそろ俺達も良い武器が欲しいな」
「でもホクトは使える得物が多くてお金が大変な事になりそうね」
サクヤは魔法が主体に双剣と弓を使う。
ホクトと言えば、さすがに武神の加護の所為か、剣と弓はもとより、槍術、棍術、短刀術、投擲術、体術、斧術、盾術と、様々な武器の訓練をしている。
「アールスタットで冒険者登録してお金を稼がないとダメかな」
「そうね、カイン様からもアーレンベルク卿からも自由にして良いって言われているから大丈夫じゃない」
ヴァルハイム子爵領にも冒険者ギルドはあるが、アーレンベルク辺境伯領の方が仕事も多い。
「ヴァルハイム領の方が目立たないし、父上と一度相談してみるか」
ゴブリンを退治した経験や、酒呑童子としての京洛を恐怖のどん底に陥れていた頃の経験、転生を繰り返し邪鬼や邪鬼が取り憑き鬼となったモノを退治して来た経験から、褒められた事じゃないが、こと戦闘に関しては落ち着いて対処出来る。冒険者としてやって行けるだろう。
「学園に入学するかどうか分からないけど、それまでに出来るだけ稼ぎたいな」
ホクトのお陰で、魔導具で大金を稼いでいるヴァルハイム家だが、当然まだ十歳のホクトが貰うお小遣いは多くないのだから。
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