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第二十三話 鍛治師ガンツ
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儂の名はガンツ、ドワーフの鍛治師じゃ。
槌を握って二百五十年、今では神匠と呼ばれる程には名前は知られるようになった。
儂は剣や槍などの武器から金属鎧や革鎧などの防具まで様々な装備品を手掛ける。
これは今の専門化が進んだ若いドワーフには真似できんじゃろう。しかし儂には必要な事じゃった。
それは武器と防具、相反する二つを十全に理解し造れる様になって、初めて最高の武器、最高の防具が造れると考えていたからじゃ。
じゃが儂は誰にでも武器を打つわけじゃない。今は自分が納得できる仕事しかせんようになった。
別に神匠と自分に値打ちをつけて偉ぶる訳じゃない。儂の名前が有名になるにつれ、儂の打った剣や槍を屋敷に飾りたいと言う貴族や豪商が出だした。儂は剣や槍は使われてこその武器や防具じゃと思っとる。飾られる剣や鎧に何の価値があろう。
それから儂は誰にでも武器や防具を売るのをやめたんじゃ。
ロマリア王国の王都に工房を構えて五十年か、この国は死の森と接している所為で武器や防具の需要が高い。じゃが儂が此奴なら打ちたいと思える奴等にはなかなか出会えなくなった。そろそろこの国から出て諸国を巡るか……、そんな事を考えておった。
そんな時じゃ、侍女を連れた子供が二人工房に訪れたんじゃ。
「ごめんくださいー!」
「ごめんくださいーー!!」
「えーーい!聞こえとるわ!」
大きな声で呼ばんでも聞こえるわい!と出て行くと奴等が居たんじゃ。
「なんじゃ子供か。ここは子供の来る所じゃねえぞ」
そこに居たのはローブのフードを被って顔は見えないが明らかに子供じゃ。儂はこれでも神匠と呼ばれた鍛治師じゃ、子供の相手などと思ったんじゃが、……ふと見ると坊主の方は尋常じゃない雰囲気を纏っていたんじゃ。二百五十年に渡る鍛治師人生においても、ここまでの雰囲気を纏った奴に会うのは初めてじゃた。良く見ると嬢ちゃんの方もなかなかのもんじゃとわかる。確かに体格は大人のそれじゃないが、そんなものを忘れる位の何かを儂は感じたんじゃ。
「ガンツさんですね。紹介状預かっているのですが」
そしたら坊主が紹介状を出してきおった。
儂に紹介状を書くという事は、儂の知り合いだろうが、エルフの知り合いと言うとそんなには多くない。
「……ん?」
ザッと紹介状の中味を見ると、懐かしい名前が書いてあった。
「ん?お前カインの息子か?」
「はい、カインの三男ホクトといいます」
「私はバグスの娘、サクヤと申します」
「おお、お嬢ちゃんはバグスの娘か。カインの息子にバグスの娘か……、奴等の子供が儂の工房へ来るか……感慨深いものがあるのぅ」
何と、この子供達はカインとバグスの子供だった。見た目がエルフという事は、フローラとエヴァがそれぞれの母親じゃろう。ふむ、面影はある。
カイン、バグス、フローラ、エヴァとは、あのロマリア王国が近隣諸国に攻められ、危機に瀕した大戦以前からの付き合いじゃった。
カインがまだこの坊主とさほど変わらぬ歳の頃からの付き合いじゃ。
もともと貧乏男爵家の五男だったカインは、剣の才能に溢れた天才児じゃった。その後にカインが連れて来たバグスもなかなかの才を持つ若者じゃった。
貧乏男爵家の五男故に、カインは若くして冒険者として生きる事を決めて活動していたんじゃ。
そんなカインが大戦での武功で叙爵されたのは知っておった。
その子供達が儂のもとへ来るとは、感慨深いものがあるのぅ。
「それで、儂に何の用じゃ……、と言っても鍛冶屋に来る目的はひとつだわな」
「はい、僕と彼女の装備を造って貰いたいのですが」
「先ず、剣を振ってみろ」
その後は、ただただ驚きだった。
嬢ちゃんのほうはまだ儂の常識の範囲内の天才だった。じゃが、その後に剣を振るった坊主の技量は儂の人生において見たことのないレベルじゃった。しかもその技量はおそらく途上じゃろう。舞うように剣を振るう坊主に儂は武の神の理を見た気がしたんじゃ。
「先ず坊主と嬢ちゃんの手を見せてみろ」
儂は工房の奥へ連れて行き、そこで坊主と嬢ちゃんの装備を考える為の確認をした。
全身のバランスと筋肉の付きかた、手の大きさや柔らかさを調べて、武器を打った時のバランスを決める為に必要じゃった。
何年振りじゃろうの……、こんなにワクワクする仕事は…………。
槌を握って二百五十年、今では神匠と呼ばれる程には名前は知られるようになった。
儂は剣や槍などの武器から金属鎧や革鎧などの防具まで様々な装備品を手掛ける。
これは今の専門化が進んだ若いドワーフには真似できんじゃろう。しかし儂には必要な事じゃった。
それは武器と防具、相反する二つを十全に理解し造れる様になって、初めて最高の武器、最高の防具が造れると考えていたからじゃ。
じゃが儂は誰にでも武器を打つわけじゃない。今は自分が納得できる仕事しかせんようになった。
別に神匠と自分に値打ちをつけて偉ぶる訳じゃない。儂の名前が有名になるにつれ、儂の打った剣や槍を屋敷に飾りたいと言う貴族や豪商が出だした。儂は剣や槍は使われてこその武器や防具じゃと思っとる。飾られる剣や鎧に何の価値があろう。
それから儂は誰にでも武器や防具を売るのをやめたんじゃ。
ロマリア王国の王都に工房を構えて五十年か、この国は死の森と接している所為で武器や防具の需要が高い。じゃが儂が此奴なら打ちたいと思える奴等にはなかなか出会えなくなった。そろそろこの国から出て諸国を巡るか……、そんな事を考えておった。
そんな時じゃ、侍女を連れた子供が二人工房に訪れたんじゃ。
「ごめんくださいー!」
「ごめんくださいーー!!」
「えーーい!聞こえとるわ!」
大きな声で呼ばんでも聞こえるわい!と出て行くと奴等が居たんじゃ。
「なんじゃ子供か。ここは子供の来る所じゃねえぞ」
そこに居たのはローブのフードを被って顔は見えないが明らかに子供じゃ。儂はこれでも神匠と呼ばれた鍛治師じゃ、子供の相手などと思ったんじゃが、……ふと見ると坊主の方は尋常じゃない雰囲気を纏っていたんじゃ。二百五十年に渡る鍛治師人生においても、ここまでの雰囲気を纏った奴に会うのは初めてじゃた。良く見ると嬢ちゃんの方もなかなかのもんじゃとわかる。確かに体格は大人のそれじゃないが、そんなものを忘れる位の何かを儂は感じたんじゃ。
「ガンツさんですね。紹介状預かっているのですが」
そしたら坊主が紹介状を出してきおった。
儂に紹介状を書くという事は、儂の知り合いだろうが、エルフの知り合いと言うとそんなには多くない。
「……ん?」
ザッと紹介状の中味を見ると、懐かしい名前が書いてあった。
「ん?お前カインの息子か?」
「はい、カインの三男ホクトといいます」
「私はバグスの娘、サクヤと申します」
「おお、お嬢ちゃんはバグスの娘か。カインの息子にバグスの娘か……、奴等の子供が儂の工房へ来るか……感慨深いものがあるのぅ」
何と、この子供達はカインとバグスの子供だった。見た目がエルフという事は、フローラとエヴァがそれぞれの母親じゃろう。ふむ、面影はある。
カイン、バグス、フローラ、エヴァとは、あのロマリア王国が近隣諸国に攻められ、危機に瀕した大戦以前からの付き合いじゃった。
カインがまだこの坊主とさほど変わらぬ歳の頃からの付き合いじゃ。
もともと貧乏男爵家の五男だったカインは、剣の才能に溢れた天才児じゃった。その後にカインが連れて来たバグスもなかなかの才を持つ若者じゃった。
貧乏男爵家の五男故に、カインは若くして冒険者として生きる事を決めて活動していたんじゃ。
そんなカインが大戦での武功で叙爵されたのは知っておった。
その子供達が儂のもとへ来るとは、感慨深いものがあるのぅ。
「それで、儂に何の用じゃ……、と言っても鍛冶屋に来る目的はひとつだわな」
「はい、僕と彼女の装備を造って貰いたいのですが」
「先ず、剣を振ってみろ」
その後は、ただただ驚きだった。
嬢ちゃんのほうはまだ儂の常識の範囲内の天才だった。じゃが、その後に剣を振るった坊主の技量は儂の人生において見たことのないレベルじゃった。しかもその技量はおそらく途上じゃろう。舞うように剣を振るう坊主に儂は武の神の理を見た気がしたんじゃ。
「先ず坊主と嬢ちゃんの手を見せてみろ」
儂は工房の奥へ連れて行き、そこで坊主と嬢ちゃんの装備を考える為の確認をした。
全身のバランスと筋肉の付きかた、手の大きさや柔らかさを調べて、武器を打った時のバランスを決める為に必要じゃった。
何年振りじゃろうの……、こんなにワクワクする仕事は…………。
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