酒呑童子 遥かなる転生の果てに

小狐丸

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第二十七話 実技試験 2

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 魔法の実技試験を終えて、第二会場の実技教練場へ来たホクトとサクヤ。

 広い体育館の様な実技教練場のなかでは、木剣や木槍を使った模擬戦が繰り広げられていた。
 受験生の相手をしているのはロマリア王国騎士団の精鋭達と冒険者ギルドから派遣された高ランク冒険者達。

 貴族家の子息息女達は、多かれ少なかれ幼少より剣や槍の訓練をしている。それ故に十二歳にして、自分に自信を持つ者が多いのだが、その悉くが目の前の騎士や冒険者達にへし折られていた。

「150番から155番まで前へ」

 そこに試験官から声が掛かる。

「好きな得物を選べ!」

 ホクトの相手は騎士鎧を着て槍を持っていた。

「う~ん、じゃあ槍にしようかな」

 ホクトは木製の槍を取ると、騎士と相対して左半身構えをとる。左手を前に右手を手前に、腰を落として基本の構えをとる。

「ほぅ~、見事な構えだな。君は槍を相当訓練しているみたいだな」

 騎士がホクトの隙の無い構えを見て感心する。

「いえ、僕は剣がメインで訓練して来ましたから、槍はまだまだですね」

 とここでホクトが余計な事を言う。

「なっ!……そうか、後悔するなよ」

 そう言って騎士は槍を構えて、一気に間合いを詰めるとホクトの喉を目掛けて刺突を繰り出した。

 ホクトはその刺突に刺突で返す。
 騎士の刺突とホクトが繰り出した刺突が交差した瞬間、騎士の槍が弾かれて、ホクトの槍は騎士の喉元にピタリと当てられていた。

「ぐっ、ま、参った!」

 シンと静まり返る会場に騎士が負けを認める声が響く。

 次の瞬間、会場が騒めきに包まれる。

「なぁ君、君は剣のほうが得意なんだろう。俺と剣でやらないか?」

 横から声を掛けて来たのは人族の冒険者だった。


「おい、あれ炎剣のジードじゃねえか」

「えっ、Aランク冒険者の炎剣のジードか!」

 会場のあちこちで声が上がる。

「はい、構いませんよ」

 有名な人なのかな?と他人事のように考えながら槍を木剣に持ち替えるホクト。

「じゃあ、何処からでも掛かって来て良いぜ」

「じゃあ、行きますね」

 ジードと相対し、そう一声掛けると、次の瞬間ホクトの木剣はジードの首筋に当てられていた。

「え?!」慌てて跳び退がるジード。

「い、今のは無しだ!もう一度だ!」

 特別目で追えない速度で動いた訳でもないホクトに、いつの間にか木剣を首筋に当てられて混乱するジード。Aランク冒険者とは、この世界では上位に位置する一握りの強者だ。そんな自分が何も出来なかった事に衝撃をうけた。それは身体能力に頼った剣ではなく、圧倒的な技術に裏打ちされたモノ。

 ホクトも余りに呆気なく終わらせたので、申し訳ない気持ちになり、ジードの再戦を快く受けた。

 今度はジードが仕掛ける。
 魔力による身体能力強化を使った本気の一撃。

 間合いを一気に詰めてジードの木剣が上段から襲いかかる。それは手加減など無いAランク冒険者の本気の一撃。
 会場で見ていた受験生から悲鳴が上がる。が、次の瞬間、周りの目に映ったのはフワリと音も無くジードの剣を受け流したホクトの姿だった。
 受け流されて身体が流れたジードは、慌てて後ろへ跳んで退がる。
 信じられない気持ちを抑えて連続で斬りかかる。袈裟懸け、逆袈裟、横薙ぎ、連続突き、体術までおり混ぜてホクトへと襲いかかる。

 実技教練場はジードの振るう木剣の音と、荒い息遣いだけが聞こえていた。

 ホクトはジードが繰り出す攻撃を水が流れる如く受け流していく。
 そろそろ満足したかな。とジードが繰り出す攻撃の合間に後の先で剣を使い始めた。
 首筋に、胴に、頭に、ソッと当てる程度に剣を当てていく。

 ジードが大きく後ろへ跳んで退がる。

「参った!」

 ゼェゼェと息を荒げながら敗北を宣言するジード。次の瞬間、実技教練場中から驚愕の声が響く。

「はぁはぁ、なぁ、坊主の名前は?」

「あ、失礼しました。僕はホクト・フォン・ヴァルハイムといいます」

「ヴァルハイム、カインの息子か、英雄の親父よりも数段上じゃねえか」

「父上をご存知なのですか?」

「あゝ、古い冒険者仲間さ。大戦でも共に戦った仲だ。

 しかし、カインもとんでもないのを育てやがったな。ホクト、お前魔力での身体能力強化ほとんど使ってないだろ。その歳でバケモンだな」

「あ、あのジード殿、150番の点数は?」

 ホクトにジードが話し掛けていると試験官が結果の確認をして来た。

「馬鹿かお前は!騎士団の精鋭やAランク冒険者の俺に勝ったんだぞ!100点に決まってるだろ!200点でも良いぐらいだ」



 ホクトがサクヤの方を見ると、サクヤはもう終わっていた様で、相手になった騎士がショックで呆然としていたので、サクヤも勝った事がわかり安心する。

 騎士やAランク冒険者が、十二歳の少年と少女に完膚なきまで打ち負かされるという現実を受け止めれない他の受験生達は、ホクトとサクヤが実技教練場を出て行った後もその動揺が続き、騎士や冒険者への無謀に打ち掛かる者が続出した。




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