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第二十六話 実技試験 1
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実技試験が行われる実技教練場は、大きな体育館の様な建物だった。
王都に広い敷地を持つ王立ロマリア学園には、二つの実技教練場がある。その二つの会場でそれぞれ剣や槍などの戦技と、魔法技能の試験が行われる。
受験番号が101番からは魔法技能試験からなので、ホクトとサクヤは受験票を持ち向かう。
「魔法技能の試験って何するんだっけ」
「確かマトに向かって魔法を撃つ筈よ」
二人で話しながら会場へ入る。
「ほぅ、結界が張ってあるんだな。
……でも、この程度の結界じゃ僕達の魔法を防げないよな」
「そうね、この程度の結界じゃこの会場を吹き飛ばしちゃいそうね」
ホクトとサクヤが話している内容に、会場に居た試験官がぎょっとする。そして何処かに走っていった。
実際、普通の術師なら、この結界を破壊する魔法を放つのは難しいだろう。ただそこはホクトとサクヤである。世間一般で初級魔法と呼ばれるモノでも、一般の術師とは隔絶した威力があった。
自分達の順番が来るのを、他の受験生の魔法を見ながら待っていた。
「我が敵をを穿て、全てを焼き尽くす炎の矢よ、ファイヤーアロー!」
バシュ!
「我が望みに応え、全てを切り裂け風の刃よ、ウィンドカッター!」
パシュ!
およそ30メートル離れた的に、それぞれが得意な魔法を撃つ受験生達。
「「……………………」」
他の受験生が唱える詠唱に、聴いているホクトとサクヤが恥ずかしくなる。
「なぁサクヤ、魔法詠唱って恥ずかしいよな」
「そうね、お母様もフローラおば様も無詠唱だから、それが当たり前の感覚だったけど、魔力感知と魔力操作が未熟な人は、無詠唱で魔法が使えないのよ」
「いや、でもファイヤーアローにしてもウィンドカッターにしても、しょぼくないか?」
ホクトとサクヤがそんな事を話していると、もう少しでホクトの番が回って来るという時、先程出て行った試験官が誰かを連れて戻って来た。
「失礼、君の名前は?」
サクヤと話していたホクトに、試験官が連れて来た男が話し掛けた。
「はい?僕はホクト・フォン・ヴァルハイムです。失礼ですが、あなたは?」
「あゝ、申し訳ない。
私はこの学園の魔法科の教鞭をとっているシェスター・マルトハイムだ。
君達の話しを試験官が聞いたのだが、この実技教練場に張られた結界が脆弱だと言っていたと聞いたのだが、君達はこの結界を破る魔法が使えるのかね」
話し掛けて来た男は学園の教師だった。しかもホクト達と共通したある特徴がある。
人族よりも長く尖った耳、三十代半ばに見えるが年齢の分からないその姿、……そう、シェスターはエルフだった。故に観ただけでホクトとサクヤの異常性が視てとれた。
「……しかし、驚いたな。二人とも魔力操作が完璧だ……、それにその精霊の数……成る程、この結界では君達の全力は受け止められないだろうね。
ジムウェル君、彼達は特別に初級クラスの魔法に限定して試験を受けてもらいます」
「え?え、どういう事ですか?」
話し掛けられた試験官の青年が戸惑う。
「どういう事も何も、そのままの意味だよ。彼達が本気で魔法を放てば、この建物なんて結界ごと吹き飛んでしまうからね。とにかくこれは決定事項だからお願いね」
「は、はい、分かりました!」
試験官の青年が他の試験官に申し送りに走って行った。
「ホクト君とサクヤさんだったね。君達とは後でゆっくり話したいもんだね。出来れば時間を作って貰えればありがたい」
「はい、試験が終わって時間があれば」
「おお、ありがとう。おっと、ホクト君の順番じゃないかい」
シェスターと話している間にホクト達の順番が回って来た。
五人づつ並んで魔法を放つ筈が、何故かホクトとサクヤの二人しか出て来ない。
「君達は二人だけでお願い出来るかい。シェスター教授の言っていたとおり、魔法は初級で頼むよ」
先程の試験官が側に寄って来て指示して来た。
この世界の魔法は便宜上、初級、中級、上級、帝級、神級とクラス別けされている。
明確に区別されている訳ではないが、魔法の威力と込める魔力量で大まかに決められたものだ。
魔法の名前や詠唱も決まり事は無く、ファイヤーアローもファイヤーボールも同じ初級クラスの魔法で、球形にイメージするのか、矢の形にイメージするのかという違いだ。
この基準で、ファイヤーランスは中級、エクスプロージョンは上級、フレアが帝級、ヘル・ファイヤーが神級となる。
サクヤの最強魔法は火属性神級魔法【ヘル・ファイヤー】で、ホクトの最強魔法は雷属性神級魔法【雷神の戦鎚】だ。
これらの魔法を放てば、この建物どころか王都近郊が更地になるだろう。
サクヤが的を前に一言呟く【ファイヤーバレット】。
ドガァーーン!!
30メートル先の的が爆散する。
続けてホクトが一言【サンダーボルト】。
ドガァーーン!!
またも的が爆散した。
「……………………初級魔法で?!」
試験官の青年が絶句するなか、パチパチと手を叩く音が聞こえた。
「素晴らしい!魔力操作、イメージ力全てにおいて素晴らしい出来だ!」
シェスター教授が絶賛する。
「君達には後の実技試験は必要ないよね。僕の部屋で話をしよう」
「ダメですよシェスター教授。全ての試験を受けるのは決まりですから」
興奮気味のシェスター教授を試験官の青年が諌める。
「いや、だってジムウェル君。彼達はもう合格で良いじゃないか。彼達は僕より魔力量も魔力操作も上だよ。それこそ魔法に関しては教える事がない位に」
「それでも決まりなんです!」
シェスター教授とジムウェルの二人が言いあっている間に、ホクトとサクヤは実技試験の第二会場へ向かう事にする。
王都に広い敷地を持つ王立ロマリア学園には、二つの実技教練場がある。その二つの会場でそれぞれ剣や槍などの戦技と、魔法技能の試験が行われる。
受験番号が101番からは魔法技能試験からなので、ホクトとサクヤは受験票を持ち向かう。
「魔法技能の試験って何するんだっけ」
「確かマトに向かって魔法を撃つ筈よ」
二人で話しながら会場へ入る。
「ほぅ、結界が張ってあるんだな。
……でも、この程度の結界じゃ僕達の魔法を防げないよな」
「そうね、この程度の結界じゃこの会場を吹き飛ばしちゃいそうね」
ホクトとサクヤが話している内容に、会場に居た試験官がぎょっとする。そして何処かに走っていった。
実際、普通の術師なら、この結界を破壊する魔法を放つのは難しいだろう。ただそこはホクトとサクヤである。世間一般で初級魔法と呼ばれるモノでも、一般の術師とは隔絶した威力があった。
自分達の順番が来るのを、他の受験生の魔法を見ながら待っていた。
「我が敵をを穿て、全てを焼き尽くす炎の矢よ、ファイヤーアロー!」
バシュ!
「我が望みに応え、全てを切り裂け風の刃よ、ウィンドカッター!」
パシュ!
およそ30メートル離れた的に、それぞれが得意な魔法を撃つ受験生達。
「「……………………」」
他の受験生が唱える詠唱に、聴いているホクトとサクヤが恥ずかしくなる。
「なぁサクヤ、魔法詠唱って恥ずかしいよな」
「そうね、お母様もフローラおば様も無詠唱だから、それが当たり前の感覚だったけど、魔力感知と魔力操作が未熟な人は、無詠唱で魔法が使えないのよ」
「いや、でもファイヤーアローにしてもウィンドカッターにしても、しょぼくないか?」
ホクトとサクヤがそんな事を話していると、もう少しでホクトの番が回って来るという時、先程出て行った試験官が誰かを連れて戻って来た。
「失礼、君の名前は?」
サクヤと話していたホクトに、試験官が連れて来た男が話し掛けた。
「はい?僕はホクト・フォン・ヴァルハイムです。失礼ですが、あなたは?」
「あゝ、申し訳ない。
私はこの学園の魔法科の教鞭をとっているシェスター・マルトハイムだ。
君達の話しを試験官が聞いたのだが、この実技教練場に張られた結界が脆弱だと言っていたと聞いたのだが、君達はこの結界を破る魔法が使えるのかね」
話し掛けて来た男は学園の教師だった。しかもホクト達と共通したある特徴がある。
人族よりも長く尖った耳、三十代半ばに見えるが年齢の分からないその姿、……そう、シェスターはエルフだった。故に観ただけでホクトとサクヤの異常性が視てとれた。
「……しかし、驚いたな。二人とも魔力操作が完璧だ……、それにその精霊の数……成る程、この結界では君達の全力は受け止められないだろうね。
ジムウェル君、彼達は特別に初級クラスの魔法に限定して試験を受けてもらいます」
「え?え、どういう事ですか?」
話し掛けられた試験官の青年が戸惑う。
「どういう事も何も、そのままの意味だよ。彼達が本気で魔法を放てば、この建物なんて結界ごと吹き飛んでしまうからね。とにかくこれは決定事項だからお願いね」
「は、はい、分かりました!」
試験官の青年が他の試験官に申し送りに走って行った。
「ホクト君とサクヤさんだったね。君達とは後でゆっくり話したいもんだね。出来れば時間を作って貰えればありがたい」
「はい、試験が終わって時間があれば」
「おお、ありがとう。おっと、ホクト君の順番じゃないかい」
シェスターと話している間にホクト達の順番が回って来た。
五人づつ並んで魔法を放つ筈が、何故かホクトとサクヤの二人しか出て来ない。
「君達は二人だけでお願い出来るかい。シェスター教授の言っていたとおり、魔法は初級で頼むよ」
先程の試験官が側に寄って来て指示して来た。
この世界の魔法は便宜上、初級、中級、上級、帝級、神級とクラス別けされている。
明確に区別されている訳ではないが、魔法の威力と込める魔力量で大まかに決められたものだ。
魔法の名前や詠唱も決まり事は無く、ファイヤーアローもファイヤーボールも同じ初級クラスの魔法で、球形にイメージするのか、矢の形にイメージするのかという違いだ。
この基準で、ファイヤーランスは中級、エクスプロージョンは上級、フレアが帝級、ヘル・ファイヤーが神級となる。
サクヤの最強魔法は火属性神級魔法【ヘル・ファイヤー】で、ホクトの最強魔法は雷属性神級魔法【雷神の戦鎚】だ。
これらの魔法を放てば、この建物どころか王都近郊が更地になるだろう。
サクヤが的を前に一言呟く【ファイヤーバレット】。
ドガァーーン!!
30メートル先の的が爆散する。
続けてホクトが一言【サンダーボルト】。
ドガァーーン!!
またも的が爆散した。
「……………………初級魔法で?!」
試験官の青年が絶句するなか、パチパチと手を叩く音が聞こえた。
「素晴らしい!魔力操作、イメージ力全てにおいて素晴らしい出来だ!」
シェスター教授が絶賛する。
「君達には後の実技試験は必要ないよね。僕の部屋で話をしよう」
「ダメですよシェスター教授。全ての試験を受けるのは決まりですから」
興奮気味のシェスター教授を試験官の青年が諌める。
「いや、だってジムウェル君。彼達はもう合格で良いじゃないか。彼達は僕より魔力量も魔力操作も上だよ。それこそ魔法に関しては教える事がない位に」
「それでも決まりなんです!」
シェスター教授とジムウェルの二人が言いあっている間に、ホクトとサクヤは実技試験の第二会場へ向かう事にする。
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