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第三十一話 ホクト師匠になる
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ホクトとサクヤの学園生活は、多少の嫌がらせ程度あったが、それ以外は問題無く、シェスター教授の授業もとても有意義だった。
魔導具関連の授業や無属性魔法の研究では、満足の出来る結果も出ていたが、武器術・体術の実技授業では余り得るものがなかった。
自然と武術実技の時間は、ホクトとサクヤの模擬戦が多くなる。時折、フランソワへ指導する事もあるが、彼女はまだホクト達と模擬戦をするレベルには至っていない。
サクヤが魔力で身体強化して、間合いを一気に詰めるとホクトに上段から斬りかかる。その上段から振り下ろされた木剣をヒラリとホクトが躱す。
サクヤは木剣を跳ね上げホクトの胴を狙うが、それもフワリと躱される。
足に魔力を多く纏いホクトへと袈裟懸けに斬りかかる。
ホクトが僅かに体を反らしながら、柔らかく剣尖を逸らす。受けるでも無く避けるでも無く、フワリと空気のクッションに柔らかく剣尖をの行方を変えられたサクヤの体が僅かに流れる。
気付いた時には首筋にホクトの木剣がピタリの当てられていた。
「う~ん、もう少しホクトに受け切れない攻撃が出来ないとダメだね」
「いや、もう少しだよサクヤ。体が流れるのをもう少し我慢出来れば、次の攻撃に繋げれる様になるから。今のは良い踏み込みだったよ」
ホクトから簡単にあしらわれて、ちょっと落ち込むサクヤを慰める。
「じゃあ次は双剣でやってみるかい?」
「うん、お願い」
サクヤは木剣を二本持つと、再びホクトへと猛然と斬りかかる。
双剣の手数を活かした連続した斬撃を、時には躱し、時には逸らし、またある時には受け止める。
ホクトは、サクヤの悪い所を指導し、修正しながら模擬戦を続けて行く。
それを遠巻きに眺めるAクラスの生徒とBクラスの生徒。武術実技の授業は、AランクとBクラスが合同で行われていた。その二クラスの生徒が、ホクトとサクヤの間で行われる模擬戦を呆然と見ている。
彼等には何をしているのか、ほとんど見えていない。ただ自分達とは次元が違うという事だけは分かった。
ホクトとサクヤが模擬戦を終え、ホクトがサクヤにアドバイスしていると、低い声でホクトに話し掛ける声が響いた。
「そこのエルフ!俺と勝負しろ!」
ホクトが振り返ると、そこに居たのは、十二歳にして身長180センチを超える長身と、分厚い筋肉を纏った身体を持ったBクラスの生徒だった。
ただ、彼には人族でもエルフでもない特徴があった。半袖のシャツから見える腕にはビッシリと毛が生え、頭頂部には三角の耳が生えていた。そう、彼は獣人族、それも虎人族の少年だった。
獣人族の中でも虎人族は、戦闘種族として獣人族の国、バーキラ王国でも尊敬される種族だ。
「俺はバーキラ王国のバルガ氏族のカジムだ」
「ホクト・フォン・ヴァルハイムです」
「勝負だ!」
カジムが訓練用の巨大な木剣を構える。
カジムは大剣使いのようだ。
ホクトは苦笑いしながら、仕方なさげに木剣を正眼に構えた。
カジムの身体が一回り大きく膨れたかと思ったら、猛然とホクトへ向かい走り出し、大剣を振りかぶり大上段から振り下ろした。
一方のホクトはその場から動かず、カジムの大剣がホクトの頭を砕くかと思われた次の瞬間、コツッと巨大な大剣を受け止めたにしては、余りにも小さな音が鳴った。
その場の全員がホクトの頭がカジムの大剣で潰されたと思わず目を閉じた。
恐る恐る目を開けた生徒達の目に映ったのは、巨大な大剣をホクトの木剣が押さえ込んでいる光景だった。
「なっ?!何でだ!動かねえ!」
カジムの動揺は激しかった。
ホクトの頭を砕いたかと思われた一撃が、いつの間にかその斬撃を殺されていた。受け止めたホクトの木剣が小さな音を立てたのは、獣人族故の耳の良さだった。
しかも押さえられた大剣がピクリとも動かない。
自分より遥かに小さなエルフ相手に、剣が押さえられている現実を受け止められない。
「チッ!」
カジムは苦し紛れにホクトの前に出した足を蹴ろうとした時、スッとホクトが円を描くように後ろ足を引く。カジムの体が前のめりに流れ、カジムが気が付いた時には、大の字になって地面に転がっていた。
首筋と手首に痛みを感じる事で、カジムも気付かぬうちに二撃も打たれていた事を知った。
「大丈夫かい?」
手を差し出すホクトの手を取り起き上がったカジムが、その場で土下座する。
「ちょ、いきなりどうしたんだい」
いきなり土下座するカジムにビックリするホクトが聞く。
「アニキ、俺を弟子にして下さい!
この学園のどの実技教官よりアニキの方が強い!
俺をアニキの弟子にして欲しいんだ!」
ホクトは困った顔でサクヤを見るが、サクヤはニコニコと笑っているだけだ。
「はぁ~、カジム君だっけ」
土下座を辞めないカジムにホクトが声を掛ける。
実技教練場に居る他の生徒の視線が気になり、せめて土下座を辞めて貰おうとするが。
「カジムと呼び捨てにして下さいアニキ!」
「分かったから、カジム。
カジムは大剣を使うのかい」
「大剣と斧を使うぞ!」
「斧は僕も教えてあげられないけど、剣の扱いなら少しはアドバイス出来るからそれで良い?」
「ありがとうアニキ!」
「いや、アニキって……」
自分よりも図体の大きいカジムから、アニキと呼ばれる違和感に苦笑いするホクト。それを微笑ましくニコニコして見ていたサクヤだが、後にアネキと呼ばれる様になるとは思いもしなかっただろう。
どちらにしてもひょんな事から弟子が出来てしまったホクト。カジムの人柄も真っ直ぐで純粋な事が読み取れたので、諦める事にした。
魔導具関連の授業や無属性魔法の研究では、満足の出来る結果も出ていたが、武器術・体術の実技授業では余り得るものがなかった。
自然と武術実技の時間は、ホクトとサクヤの模擬戦が多くなる。時折、フランソワへ指導する事もあるが、彼女はまだホクト達と模擬戦をするレベルには至っていない。
サクヤが魔力で身体強化して、間合いを一気に詰めるとホクトに上段から斬りかかる。その上段から振り下ろされた木剣をヒラリとホクトが躱す。
サクヤは木剣を跳ね上げホクトの胴を狙うが、それもフワリと躱される。
足に魔力を多く纏いホクトへと袈裟懸けに斬りかかる。
ホクトが僅かに体を反らしながら、柔らかく剣尖を逸らす。受けるでも無く避けるでも無く、フワリと空気のクッションに柔らかく剣尖をの行方を変えられたサクヤの体が僅かに流れる。
気付いた時には首筋にホクトの木剣がピタリの当てられていた。
「う~ん、もう少しホクトに受け切れない攻撃が出来ないとダメだね」
「いや、もう少しだよサクヤ。体が流れるのをもう少し我慢出来れば、次の攻撃に繋げれる様になるから。今のは良い踏み込みだったよ」
ホクトから簡単にあしらわれて、ちょっと落ち込むサクヤを慰める。
「じゃあ次は双剣でやってみるかい?」
「うん、お願い」
サクヤは木剣を二本持つと、再びホクトへと猛然と斬りかかる。
双剣の手数を活かした連続した斬撃を、時には躱し、時には逸らし、またある時には受け止める。
ホクトは、サクヤの悪い所を指導し、修正しながら模擬戦を続けて行く。
それを遠巻きに眺めるAクラスの生徒とBクラスの生徒。武術実技の授業は、AランクとBクラスが合同で行われていた。その二クラスの生徒が、ホクトとサクヤの間で行われる模擬戦を呆然と見ている。
彼等には何をしているのか、ほとんど見えていない。ただ自分達とは次元が違うという事だけは分かった。
ホクトとサクヤが模擬戦を終え、ホクトがサクヤにアドバイスしていると、低い声でホクトに話し掛ける声が響いた。
「そこのエルフ!俺と勝負しろ!」
ホクトが振り返ると、そこに居たのは、十二歳にして身長180センチを超える長身と、分厚い筋肉を纏った身体を持ったBクラスの生徒だった。
ただ、彼には人族でもエルフでもない特徴があった。半袖のシャツから見える腕にはビッシリと毛が生え、頭頂部には三角の耳が生えていた。そう、彼は獣人族、それも虎人族の少年だった。
獣人族の中でも虎人族は、戦闘種族として獣人族の国、バーキラ王国でも尊敬される種族だ。
「俺はバーキラ王国のバルガ氏族のカジムだ」
「ホクト・フォン・ヴァルハイムです」
「勝負だ!」
カジムが訓練用の巨大な木剣を構える。
カジムは大剣使いのようだ。
ホクトは苦笑いしながら、仕方なさげに木剣を正眼に構えた。
カジムの身体が一回り大きく膨れたかと思ったら、猛然とホクトへ向かい走り出し、大剣を振りかぶり大上段から振り下ろした。
一方のホクトはその場から動かず、カジムの大剣がホクトの頭を砕くかと思われた次の瞬間、コツッと巨大な大剣を受け止めたにしては、余りにも小さな音が鳴った。
その場の全員がホクトの頭がカジムの大剣で潰されたと思わず目を閉じた。
恐る恐る目を開けた生徒達の目に映ったのは、巨大な大剣をホクトの木剣が押さえ込んでいる光景だった。
「なっ?!何でだ!動かねえ!」
カジムの動揺は激しかった。
ホクトの頭を砕いたかと思われた一撃が、いつの間にかその斬撃を殺されていた。受け止めたホクトの木剣が小さな音を立てたのは、獣人族故の耳の良さだった。
しかも押さえられた大剣がピクリとも動かない。
自分より遥かに小さなエルフ相手に、剣が押さえられている現実を受け止められない。
「チッ!」
カジムは苦し紛れにホクトの前に出した足を蹴ろうとした時、スッとホクトが円を描くように後ろ足を引く。カジムの体が前のめりに流れ、カジムが気が付いた時には、大の字になって地面に転がっていた。
首筋と手首に痛みを感じる事で、カジムも気付かぬうちに二撃も打たれていた事を知った。
「大丈夫かい?」
手を差し出すホクトの手を取り起き上がったカジムが、その場で土下座する。
「ちょ、いきなりどうしたんだい」
いきなり土下座するカジムにビックリするホクトが聞く。
「アニキ、俺を弟子にして下さい!
この学園のどの実技教官よりアニキの方が強い!
俺をアニキの弟子にして欲しいんだ!」
ホクトは困った顔でサクヤを見るが、サクヤはニコニコと笑っているだけだ。
「はぁ~、カジム君だっけ」
土下座を辞めないカジムにホクトが声を掛ける。
実技教練場に居る他の生徒の視線が気になり、せめて土下座を辞めて貰おうとするが。
「カジムと呼び捨てにして下さいアニキ!」
「分かったから、カジム。
カジムは大剣を使うのかい」
「大剣と斧を使うぞ!」
「斧は僕も教えてあげられないけど、剣の扱いなら少しはアドバイス出来るからそれで良い?」
「ありがとうアニキ!」
「いや、アニキって……」
自分よりも図体の大きいカジムから、アニキと呼ばれる違和感に苦笑いするホクト。それを微笑ましくニコニコして見ていたサクヤだが、後にアネキと呼ばれる様になるとは思いもしなかっただろう。
どちらにしてもひょんな事から弟子が出来てしまったホクト。カジムの人柄も真っ直ぐで純粋な事が読み取れたので、諦める事にした。
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