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第三十話 大図書館
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ホクトとサクヤの学園生活は、予想外に穏やかな日々が続いていた。
これは同じクラスのフランソワ王女のお陰でもある。彼女は積極的にホクト達と打ち解けれる様に話し掛けて来た。そのお陰で表面的には問題なく授業が受けれる日々が続いていた。
ただ、順調な日々は入学二週間で終わりを告げた。ホクトとサクヤが校舎の廊下を二人で歩いていると、しゃがれた怒鳴り声が聞こえた。
「亜人ふぜいが、偉そうに俺様の前を歩くな!」
最初、まさか自分達の事と気が付かず、反応が遅れたホクトとサクヤが振り返ると、ニキビだらけの太った少年が、取り巻きを連れて睨みつけている。
学園ではさすがにローブのフードを目深に被り、顔を隠している訳にもいかず、ホクトとサクヤは普通に顔を見せている。
いずれも貴族の子息だろうが、いかにも頭の悪そうなモノを一目見て、興味を無くしたホクトとサクヤは再び歩き始める。
「なっ!貴様!ペドロハイム伯爵家嫡男の俺様を無視するつもりか!」
「そうだ!生意気な耳長族め!」
「そうだ!耳長は森へ帰れ!」
取り巻きも一緒になってホクトとサクヤに汚い言葉を浴びせ掛ける。
ホクトもだんだんイライラして来て、振り返った時、肥った馬鹿どものさらに背後から涼やかだが怒りを含んだ声がかかる。
「マグス殿、私の友人に対する罵詈雑言は赦せません!」
その場にいる野次馬を含めた全員の視線が集まる。その場に居たのは、可愛い顔を怒りに染めた第四王女フランソワだった。
フランソワは、代々の王が創った種族間差別を禁じる法を、貴族自ら蔑ろにする行為に、王族として許せなかった。
「なっ!フランソワ様!」
マグスと呼ばれたニキビだらけの太った少年の顔が青くなるのがわかった。
「王立ロマリア学園は確かに貴族出身の生徒が多いですが、この学園では身分や種族による差別を許さないとお父様が決めていた筈です。それを貴方が知らない訳はありませんよね」
「い、いや、あの……」
怒りを隠さず畳み掛ける様にマグスへ問い掛けるフランソワにマグスは言葉が出て来ない。
「それに、ホクトさんは既に男爵位を叙爵されたれっきとした貴族です。貴方はまだ貴族の子供でしかないのですよ。場所が場所なら不敬罪で罰せられるのは貴方の方です。
それに付け加え、サクヤさんはアーレンベルク辺境伯の養女です。ペドロハイム伯爵家よりも格上なのですよ!」
「……お、おい!お前達行くぞ!」
マグスはその場から逃げるように走り去って行った。
「フランソワ様、ありがとうございます」
ホクトがフランソワに頭を下げる。
美しいエルフの美しい所作、たったそれだけの動作で周りから溜息が出る。
「いえ、私の方こそ少し声を荒げてしまいました。お恥ずかしい姿を見せてしまいました。
所でお二方は何処かへ行かれる途中だったのでは?」
「ええ、丁度免除された科目が続くので、図書館で自習をしようかと思いまして」
王立ロマリア学園には膨大な蔵書を誇る大図書館がある。ホクトとサクヤは、時間があるとよく図書館で自習をしていた。
「まぁ、図書館ですの。私も王城の書庫で度々篭る事がありますが、ホクトさんとサクヤさんも読書が好きなんですか」
「はい、幼い頃から本は好きで読んでました」
そうホクトが言うが、まさか一歳頃から本を読んでいたとは思わないだろう。
「……あの、もしよろしければ、ご一緒してよろしいかしら」
フランソワが少し恥ずかしそうにホクト達に頼んで来た。
なんでも、王族相手だと高位の貴族家子息息女でも遠慮されるらしく、幼い頃から仲の良い侯爵家の友達が一人居るだけらしい。今日はその友達が家の都合で学園を休んでいるので、フランソワは一人で居たと言う。
「ええ、喜んでご一緒させて下さい」
「はい、フランソワ様お願いします」
ホクトとサクヤが快諾して三人で図書館へと向かう事になった。
「これは凄いな…………」
「…………本当ね」
「でしょう、王立ロマリア学園の図書館は大陸一の蔵書数を誇っていますのよ」
ホクト達の目の前には、膨大な量の本が並んでいた。それを見て目を輝かせるホクトとサクヤ。
「さあ、行きましょう」
その後はそれぞれが興味のある本を探して図書館を歩き回る。
ホクトが先ず探したのは魔法文字と記号についての本。これは魔導具を造る際に、魔石に直接魔法を付与しない作り方。魔石をエネルギーに魔法陣に描かれた魔法を発動させる作り方の為に、魔法陣を研究するつもりだった。
今までも魔導具造りは、本を読み独断で作っていたが、魔法陣の効率化と魔力の節約など取り組む事は多い。
サクヤは魔物の生態や有用な素材の情報が記された、図鑑の様な分厚い本を読んでいる。
本の中には、ダンジョンでしか出現しない魔物の情報なども載っている様で、夏季休暇を利用してガンツとダンジョンへ鉱石を採掘に出掛ける為の準備も兼ねていた。
フランソワは、中級魔法の魔導書を読んでいる。
魔導書には、それぞれの属性の中級魔法の詠唱文と、それによる魔力の動きと結果、イメージすべき事柄などが書かれている。
フランソワは、王族の中でも魔法適性が高く、幼い頃から宮廷魔術師から英才教育を受けていた。
現在の王族に連なる者の中では、十二歳にして一番の魔法使いと言える。
三人はそれぞれ、好きな本を読んで時間を過ごしていった。
これは同じクラスのフランソワ王女のお陰でもある。彼女は積極的にホクト達と打ち解けれる様に話し掛けて来た。そのお陰で表面的には問題なく授業が受けれる日々が続いていた。
ただ、順調な日々は入学二週間で終わりを告げた。ホクトとサクヤが校舎の廊下を二人で歩いていると、しゃがれた怒鳴り声が聞こえた。
「亜人ふぜいが、偉そうに俺様の前を歩くな!」
最初、まさか自分達の事と気が付かず、反応が遅れたホクトとサクヤが振り返ると、ニキビだらけの太った少年が、取り巻きを連れて睨みつけている。
学園ではさすがにローブのフードを目深に被り、顔を隠している訳にもいかず、ホクトとサクヤは普通に顔を見せている。
いずれも貴族の子息だろうが、いかにも頭の悪そうなモノを一目見て、興味を無くしたホクトとサクヤは再び歩き始める。
「なっ!貴様!ペドロハイム伯爵家嫡男の俺様を無視するつもりか!」
「そうだ!生意気な耳長族め!」
「そうだ!耳長は森へ帰れ!」
取り巻きも一緒になってホクトとサクヤに汚い言葉を浴びせ掛ける。
ホクトもだんだんイライラして来て、振り返った時、肥った馬鹿どものさらに背後から涼やかだが怒りを含んだ声がかかる。
「マグス殿、私の友人に対する罵詈雑言は赦せません!」
その場にいる野次馬を含めた全員の視線が集まる。その場に居たのは、可愛い顔を怒りに染めた第四王女フランソワだった。
フランソワは、代々の王が創った種族間差別を禁じる法を、貴族自ら蔑ろにする行為に、王族として許せなかった。
「なっ!フランソワ様!」
マグスと呼ばれたニキビだらけの太った少年の顔が青くなるのがわかった。
「王立ロマリア学園は確かに貴族出身の生徒が多いですが、この学園では身分や種族による差別を許さないとお父様が決めていた筈です。それを貴方が知らない訳はありませんよね」
「い、いや、あの……」
怒りを隠さず畳み掛ける様にマグスへ問い掛けるフランソワにマグスは言葉が出て来ない。
「それに、ホクトさんは既に男爵位を叙爵されたれっきとした貴族です。貴方はまだ貴族の子供でしかないのですよ。場所が場所なら不敬罪で罰せられるのは貴方の方です。
それに付け加え、サクヤさんはアーレンベルク辺境伯の養女です。ペドロハイム伯爵家よりも格上なのですよ!」
「……お、おい!お前達行くぞ!」
マグスはその場から逃げるように走り去って行った。
「フランソワ様、ありがとうございます」
ホクトがフランソワに頭を下げる。
美しいエルフの美しい所作、たったそれだけの動作で周りから溜息が出る。
「いえ、私の方こそ少し声を荒げてしまいました。お恥ずかしい姿を見せてしまいました。
所でお二方は何処かへ行かれる途中だったのでは?」
「ええ、丁度免除された科目が続くので、図書館で自習をしようかと思いまして」
王立ロマリア学園には膨大な蔵書を誇る大図書館がある。ホクトとサクヤは、時間があるとよく図書館で自習をしていた。
「まぁ、図書館ですの。私も王城の書庫で度々篭る事がありますが、ホクトさんとサクヤさんも読書が好きなんですか」
「はい、幼い頃から本は好きで読んでました」
そうホクトが言うが、まさか一歳頃から本を読んでいたとは思わないだろう。
「……あの、もしよろしければ、ご一緒してよろしいかしら」
フランソワが少し恥ずかしそうにホクト達に頼んで来た。
なんでも、王族相手だと高位の貴族家子息息女でも遠慮されるらしく、幼い頃から仲の良い侯爵家の友達が一人居るだけらしい。今日はその友達が家の都合で学園を休んでいるので、フランソワは一人で居たと言う。
「ええ、喜んでご一緒させて下さい」
「はい、フランソワ様お願いします」
ホクトとサクヤが快諾して三人で図書館へと向かう事になった。
「これは凄いな…………」
「…………本当ね」
「でしょう、王立ロマリア学園の図書館は大陸一の蔵書数を誇っていますのよ」
ホクト達の目の前には、膨大な量の本が並んでいた。それを見て目を輝かせるホクトとサクヤ。
「さあ、行きましょう」
その後はそれぞれが興味のある本を探して図書館を歩き回る。
ホクトが先ず探したのは魔法文字と記号についての本。これは魔導具を造る際に、魔石に直接魔法を付与しない作り方。魔石をエネルギーに魔法陣に描かれた魔法を発動させる作り方の為に、魔法陣を研究するつもりだった。
今までも魔導具造りは、本を読み独断で作っていたが、魔法陣の効率化と魔力の節約など取り組む事は多い。
サクヤは魔物の生態や有用な素材の情報が記された、図鑑の様な分厚い本を読んでいる。
本の中には、ダンジョンでしか出現しない魔物の情報なども載っている様で、夏季休暇を利用してガンツとダンジョンへ鉱石を採掘に出掛ける為の準備も兼ねていた。
フランソワは、中級魔法の魔導書を読んでいる。
魔導書には、それぞれの属性の中級魔法の詠唱文と、それによる魔力の動きと結果、イメージすべき事柄などが書かれている。
フランソワは、王族の中でも魔法適性が高く、幼い頃から宮廷魔術師から英才教育を受けていた。
現在の王族に連なる者の中では、十二歳にして一番の魔法使いと言える。
三人はそれぞれ、好きな本を読んで時間を過ごしていった。
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