酒呑童子 遥かなる転生の果てに

小狐丸

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第四十一話 オーガ討伐

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 朝日が昇り始めた頃、革鎧に身を包んだ三人が林の中を歩いていた。

 早朝の気温の低い内に、現場周辺にたどり着く為に、カジムがバテるペースで駆けていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、ア、アニキ、ち、ちょっと休憩しませんか」

 息も絶え絶えにホクトとサクヤに食らいつく様に走っていたカジムの泣き言に、その場で休憩する事にした。

「カジム、鍛錬が足りないな」

「そうね、虎人族なんだからエルフに負けてちゃダメよ」

「い、いや、アニキと、ね、姐さんが、おかしいんですよ、はぁ、はぁ、はぁ…………」

 汗もかくことなく息も切らさず平然と話す二人に、カジムはその場で寝転びながら抗議する。

「僕は少し探索して来るから、その間に身体を休めておいて」

 ホクトはそう言うと、気配を消して風の様に姿をかき消した。

「えっ!」

 カジムにはホクトがイキナリ消えた様に見えた。




 林の中を音も立てずに疾走するホクト。

 気配を探りながら、風魔法の探知の魔法を使う。

「見つけた……、見張りかな?」

 ホクトの探知魔法に二体のオーガらしき反応と、その少し離れた場所に、八体のオーガらしき反応と一体のオーガよりも大型の反応を捕らえた。

 目視出来る位置まで慎重に近付き、二体のオーガをその視界に捕らえる。

「間違いないみたいだな」

 3メートルを超える身長に、赤い肌をした筋肉の鎧を着た様な身体、頭から突き出した二本の角。間違いなくこの世界ではオーガと呼ばれる魔物だ。

 その姿は、大きさを考えなければ人に近い姿をしているが、人間とのコミュニケーションを取る事は出来ず、寧ろ人間はオーガに取ってご馳走だった。

 オーガの位置と数を確認したホクトは、サクヤ達の元へと戻る。




「どうだった?」

 戻って来たホクトにサクヤが問い掛ける。

「二体のオーガが見張り役として警戒している。その奥に八体のオーガと、ひと回り大きくて黒っぽい肌のオーガの居たよ」

「で、どうするんだアニキ」

 安全に倒すなら、自分とサクヤが遠距離から魔法を撃ち込めば、上位種以外は斃せるとホクトは思ったが、カジムに経験を積ませる事を考えると、その方法は使えない。

「……そうだな、見張りの二体を僕とサクヤが魔法で倒すから、僕達が魔法を放った瞬間、全員で突撃しよう。上位種は僕が引き受けるから、残りのオーガはサクヤとカジムで頼むよ」

「任せとけ!」「わかったわ」




 ウロウロと3メートルを超える赤い肌の鬼が歩いている。
 木に身を隠した三人が配置につき、ホクトとサクヤが魔法を放つタイミングを計る。

「サンダーランス!」

「アイスランス!」

「ギャァ」「グッガァ」

 アイコンタクトを交わしたホクトとサクヤが、同時に二体のオーガに魔法を放った。
 雷の槍と氷の槍が、オーガの胸に突き刺さり、その命を刈り取る。
 魔法を放つと同時に、木々の間をぬいながら、ホクト達は走り出す。



「ガァアアァァーーーー!!」

 上位種のオーガが警戒の雄叫びをあげる。

「オラァーーーー!!」

 カジムが跳び上がり大剣を大上段から振り下ろす。

 ガンッ!  偶然オーガが持つ棍棒が大剣を防ぐが、3メートルを超えるオーガの体がバランスを崩す。そこに着地したカジムが全力の横薙ぎをオーガの胴に叩き込む。

 グギャ!

 胴を断ち切る事は出来なかったが、直ぐさまカジムはオーガの膝裏に大剣を一閃、オーガが叫び崩れ落ちる。

「これで終わりだ!」

 四つん這いになったオーガの頸が振り下ろされた大剣によって斬り落とされた。

 カジムは次の獲物に向け走り出す。




 右手にロングソードを、左手にショートソードを持ちサクヤがオーガの中に飛び込む。
 ご馳走が向こうから飛び込んで来たと、オーガ達がヨダレを垂らして棍棒を振り回して襲いかかる。

 ガンッ!  「ウガッ?」

 棍棒が何もない空間で止められ困惑するオーガ。

 サクヤの周りには四本の白色の短剣が、十字架状に展開して宙に浮いている。
 サクヤの装備するアブソリュートガーディアンが展開する結界によって、オーガの棍棒は無力化される。
 サクヤはオーガの群れの中で駆け回り、脚を切り落としていく。

「姐さん!凄え!」

「一体づつ仕留めますよ」

「オウ!」

 サクヤとカジムがオーガの息の根を止めていく。




 魔法を放った結果を見る前に、ホクトは後ろに控える上位種のオーガ目指して林の中を疾駆する。

 八体のオーガの横を走り去りながら、剣を抜き打ち、オーガの足を一本斬りとばす。

「ガァアアァァーー!!」

 4メートルを超える黒いオーガは、目の前の小さな生き物に対して、威嚇の雄叫びを上げる。

 ホクトは目の前に上位種のオーガを捕らえると、ゆっくりと歩いて間合いを詰めていく。

「鬼の大将か……、奇遇だな、僕も昔は鬼の王と呼ばれた事もある」

 ホクトは全身に氣と魔力による身体強化をする。

 ホクトの瞳が紅く光る。

 ホクトの纏う威圧感に、黒いオーガが後退る。

「ガァァーー!!」

 オーガは小さな生き物に対して、怯えた自分が許せなかった。棍棒を振り上げ小さな生き物に振り下ろす。
 小さな生き物は、避けもせず立ち尽くしている。
 叩き潰したと思った次の瞬間、オーガの棍棒は不自然な位置で止まっていた。

 黒いオーガが振り下ろした棍棒は、ホクトの左手一本で止められていた。

「力比べは僕の勝ちだな」

 ザンッ! ドサッ!

 右手に持つロングソードを一閃すると、棍棒を持ったオーガの腕の肘から先が斬り落とされた。

「グギャギャァーーーー!!」

 苦痛の悲鳴を上げながらも、オーガの上位種としての矜持か、ホクトへ巨大な拳を振り下ろす。
 ゆらりとオーガの死角へ避けながら、片脚を斬り落とす。

 右手と左足を斬り落とされたオーガは、バランスを崩し地面を揺らして大の字になる。

 ザクッ

「ガッ……」

「あんまり傷付けると素材がダメになりそうだからな」

 仰向けに倒れたオーガの喉に、ホクトがロングソードを突き刺した。

「鬼の大将対鬼の王の対決は、僕の勝ちだな」

 ホクトはサクヤ達の方を見ると、既に八体のオーガは全て斃されていた。




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