いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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6巻

6-2

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 ◇


 僕達が今いるのは、熊人族のグズル王が治めるバーガードだ。
 外套のフードを目深に被り、薄暗い酒場の片隅でぬるいエールを飲む。
 本当は魔法でキンキンに冷やしたいんだけど、バーガードは魔法が苦手な獣人が多く、目立ってしまうので我慢だ。
 ソフィアが小声で話しかけてくる。

「魔人族という呼び方は人族が作りだした蔑称べっしょうなので、あまり口にしてはいけないようですね」
「みたいだね」

 ソフィアに合わせて、僕もひそひそと相槌を打つ。
 僕達は、サキュバス族、悪魔族、鬼人族をまとめて、魔人族と呼んでいた。けど、それはこっちの大陸では差別用語らしい。
 酒場で情報収集したおかげで、お酒の流通の事も分かってきた。
 アキュロスの酒場では、サマンドール王国から輸入されたワインやエールなど様々なお酒が並んでいた。アトロポリスやバーガードにもお酒はもちろんあったけど、アキュロスに比べたら割高だった。
 ドン引きしたのは、レーブンスタンの酒場だ。
 口噛くちかみ酒はハードルが高すぎる。
 実はバーガードの前に一度レーブンスタンに潜入したんだけど……口噛み酒がどうしても飲めなくて、情報収集もせずに帰ってきてしまった。

「さすがにあれは無理だったよね」

 あのお酒は、発酵はっこう唾液だえきを使うという。材料を口で噛んでから吐きだす事で醸造されるお酒なんだとか。

「そうですね。一応、むさ苦しい男ではなく、若い女の子が口噛みをしてくれるらしいのですが……だからといって無理なものは無理ですよね」

 ソフィアがにがむしを嚙み潰したような顔をしている。

「私の生まれた集落でも、お酒といえば口噛み酒でした。でも、集落の決まりで女はお酒を飲めませんでしたから、私は口にした事はありませんね」

 なんと兎人族であるマーニの生まれた所では、口噛み酒があったらしい。
 行商人が訪れないような秘境では、口噛み酒みたいな原始的な酒が飲まれているという。ちゃんとした酒造技術を持つ種族もいるみたいなので一概には言えないけど。

「変なお酒を出されそうだし、ロドスとシュミハザールには行けないね」

 僕の言葉に、ソフィアとマーニが頷く。

「ですね。それに、その二国はほぼ単一種族の国ですから、商人でもない私達が紛れ込むのは難しいでしょうし」
「私も口噛み酒は飲みたくありません」

 結局、ロドスとシュミハザールへの潜入は諦める事にした。僕らが二国について知ってる情報は次の通りだ。
 悪魔族のガンドルフ王が治めているのが、ロドス。
 悪魔族は青い肌をしていて、ねじれた二本の角を頭から生やしている。魔法の素養と高い身体能力を併せ持ち、長い寿命まで持つ一方、子孫を残す能力が弱い。そんなわけで、ロドスは都市国家の中で人口が一番少ない。
 潜入を諦めたのには他にも理由があって、悪魔族の魔法の能力が高いからというのもある。認識阻害の外套や隠密スキルがあっても、見つかる危険が大きいのだ。
 そして、鬼人族のジャイール王が治めているのが、シュミハザール。
 鬼人族は魔法の適性は低くて、どちらかというと獣人族みたいに身体能力に特化した種族。外見の特徴としては、2、3メートルの巨体で筋肉質、肌は赤く、額から突きでた二本の角がある。僕達とは見た目が違いすぎるというのも、潜入を断念した理由だ。まあ、魔法適性の高くない鬼人族になら、僕達が見つかる事はたぶんなかったと思うけどね。
 そんなふうに話し合っていると、近くのテーブルにいた酔っ払いの声が聞こえてきた。

「おう、聞いたか?」
「うん? 何の話だ?」
「なんだか大陸南西から魔物が流れてきてるらしいぜ」
「魔物が流れてくるなんて珍しくもねぇだろ。またどっかのダンジョンで魔物が溢れたんじゃねえのか?」
「まあ、そうなんだろうけどよ」

 お酒を飲みながら話していたのは、熊人族と狼人族の男達だった。
 僕達は、顔を見合わせて頷く。

「タクミ様、また魔物の話ですね」
「ああ、あの人達が言ってたように、ダンジョンから魔物が溢れたのかもしれないが……タイミング的に、シドニアや邪精霊が関わっていると見ていいんじゃないかな」

 ソフィアに向かって僕がそう言うと、マーニが提案してくる。

「旦那様、南西方面を探索してみますか?」
「それもいいかもしれないけど、ひとまず都市国家の調査を優先しようか。それが終わったら、ウラノスで上空から探索してみよう」

 こうして僕達は、各国の状況と魔物の増加による影響の調査をさらに進めていく事を決めるのだった。



 4 けんゆう


 白と黒のしまようの虎人族の男が、軽トラックほどの大きさのいのししの魔物達に向かって巨大な大剣を振り回す。

「オラッ! テメェら遅れるなよ!」
「「「オウッ‼」」」

 レーブンスタンの獣王、ディーガである。
 彼は自ら兵士達を率いて、討伐に出ていた。この討伐行の目的は、主に魔物の肉を確保するためだが、それに加えて香辛料の採取もしたいという考えもあった。


 ブンッ‼


 ディーガが、襲ってきた巨大な魔物の首を一太刀で落とす。部下の兵士達が三人一組となって彼のあとに続く。
 この魔物は「まだ大猪おおいのしし」という。
 迷彩柄の模様が特徴の巨大な猪の魔物だ。敵と認識した相手に猛スピードで突進し、巨大な鋭い牙で攻撃してくる。通常、四頭から六頭で群れを作るが、この群れには十頭以上いた。
 ディーガが先頭を走り、斑ら大猪を蹴散らしていく。すべてを殲滅せんめつするのにさほど時間はかからなかった。
 斑ら大猪を倒し終えたディーガが、部下に向かって声を張り上げる。

「採取は終わったか!」
「ディーガ様。胡椒こしょう山椒さんしょう生姜しょうがは、予定通り確保出来ました!」

 それからしばらくして、斥候の兵士が戻ってくる。斥候が慌てたように報告する。

「陛下! 悪魔族です!」

 ディーガ達の目の前に現れたのは、悪魔族の軍勢であった。ディーガは臆する事なく、中でもひときわ目立つ男に向けて声を上げた。

「ここはオレ様達レーブンスタンの縄張りだ! 勝手に入ってもらっちゃ困るな!」

 悪魔族の兵士達を率いていたのは、ロドスの王、ガンドルフである。
 筋肉質で肌は青く、赤い目は鋭い光を放つ。肩には巨大な斧刃の付いた槍――ハルバードを担いでいた。
 ガンドルフが返答する。

「ここは誰の土地でもない! 誰が好き好んで獣臭いお前達に近づくか!」
「テメェ!」

 ともに2メートルを超える巨体の二人がにらみ合う。
 本物の獣以上に強靭な肉体を持つ、白虎びゃっこの獣王ディーガ。
 高い身体能力と豊富な魔力を持ち、ディーガと同じくゴリゴリのパワーファイターである、悪魔族の王ガンドルフ。
 一触即発いっしょくそくはつかと思われた、その時――
 ガンドルフは「フンッ」と鼻を鳴らすと、きびすを返して去っていった。
 ディーガとガンドルフの治める国は徒歩で五日ほどと、割りと近い。
 似たタイプゆえに反発し合う二人はなるべく顔を合わせないようにしていたが、それでもこうして鉢合わせてしまったのは理由があった。
 この魔境では、薬草、香辛料、果物が豊富に採れるのだ。また魔境の濃い魔素のおかげで、採り尽くされても、十日もすれば元通りになる。レーブンスタンもロドスも、領内に僅かな畑を持つ程度。薬草などを手に入れるためには、ここに赴く必要があった。
 長きにわたり、この魔境の産物を争ってきた二国だが、この魔境では刃を交えないという協定を結んでいた。
 だから後から来たガンドルフは、兵士を率いて去っていったのだ……


 悪魔族がいなくなった事に安堵した獅子人族の部下が、ディーガに声をかける。

「悪魔王ガンドルフ……相変わらずすげえ威圧感ですな、陛下」
「ああ、憎たらしい事に、オレ様とタメを張るぐれええからな」
「ですな。しかし、これほど六ヶ国の王の実力が伯仲はくちゅうする時代が来るとは……」

 部下が言うように、六人の王の実力は相性の差はあれど、きっこうしていた。
 近接戦闘特化の獅子人族の獣王ライバー、虎人族の獣王ディーガ、鬼人族の鬼王きおうジャイール。
 肉弾戦を得意とするが、防御にも優れる熊人族の獣王グズル。魔法と近接戦闘を高いレベルで体現する悪魔族の王ガンドルフ。
 そして、完全な魔法特化のサキュバス族の女王フラール。
 彼らは何年もの間、適度な緊張を保ちつつ、国同士の戦争を起こさずにいた。ただでさえ生存圏の限られた土地。そこに暮らす者同士、戦いは避けるという暗黙の了解があったのだ。


 ブンッ‼ ゴンッ‼

「ギャ!」

 ガンドルフの振るうハルバードが、樹々の間から襲ってくる猿の魔物「クレイジーエイプ」を両断する。
 さらに襲いかかる別のクレイジーエイプも、ガンドルフは片手で叩き潰した。

「チッ、面倒だな」

 イライラした様子のガンドルフに、部下達が同調する。

「クレイジーエイプは群れで行動するうえに連携してきますからね」
「それもこれも、虎野郎のせいですよ。今日は猿どもの縄張りで採取ですか」

 ガンドルフが吐き捨てるように言う。

「クレイジーエイプは倒しても臭くて食えんからな」

 ディーガとガンドルフがあの場で会ったのには、薬草などが採れる以外に別のもう一つの理由があった。クレイジーエイプの肉は食べられないが、斑ら大猪は食肉として好まれる。食肉の確保と香辛料や果物の採取が同時に出来るエリアは取り合いになるのだ。
 ガンドルフは気持ちを切り替えるように、兵士達に向かって指示を出す。

「胡椒と果物の採取を急げ! さっさと終わらせて、他の場所へ狩りに行くぞ!」
「「「は!」」」

 魔境で大声を出すのは、愚かな行為である。
 普通なら魔物を呼び寄せてしまうのだが……ガンドルフの声には強烈な威圧が含まれている。周辺の魔物は、しばらくの間近づけないだろう。
 採取を終えたガンドルフは森を振り返り、ボソリと呟く。

「……魔物が増えているな」

 ガンドルフも、その噂を耳にしていた。
 ここ数十年なかった変化を実際に感じ取った彼は、都市国家の王達とその事について話し合おうと決めるのだった。


  ◆


 決断すると、ガンドルフの行動は早かった。

「珍しいわね。勇の悪魔王と賢の獣王がわざわざお越しになるなんて」
「茶化すな、フラール。我が足を運んだという事は、それだけの意味があるのだ」

 ここは魔大陸の北端、魔大陸で唯一港を持つ都市国家、アキュロスだ。
 悪魔族のガンドルフ王、熊人族の獣王グズル、アキュロスを治めるサキュバス族の女王フラール、三人の王がアキュロスに集まり、テーブルを囲んでいた。円卓に座る三人の王の背後には、それぞれ護衛の騎士が一人ずつ立っている。
 3メートルを超える巨体を持つ、熊人族の獣王グズルが、低い声でボソリと促す。

「……話を聞こう」

 魔大陸では僅かに交易が行われている程度で、国同士の交流は多くない。国家の元首自らが出向くなど滅多にない事だった。
 妙な緊張感が漂う中、ガンドルフが口を開く。

「智のフラール、賢のグズルならもう掴んでいるだろうが、ここ最近、どうやら魔物の数が増えているようなのだ。とりわけ、ゴブリン系、コボルト系、オーガ系、オーク系といった種族が増えているらしい。もちろん他の魔物もだが……人型が特にな」
「……オーク以外は食えん魔物ばかりだ」

 グズルの反応に、フラールが声を上げる。

「ちょっと、気にするのはそこなの? まあ、ワタクシはある程度情報を掴んでいるわ。でも、魔素の影響なのか、それともまったく違う理由なのかは分からないわ」

 元々全土が魔境のような大陸なので、魔物が増えたくらい大した事ではない。それにもかかわらず、ガンドルフは違和感を持った。フラールとグズルも同様に妙な胸騒ぎを覚え、ここに集まっていた。
 ガンドルフが眉間にしわを寄せながら言う。

「支配種が現れたわけではないと思うのだが」
「仮に支配種が現れたとしても、どうって事ないわ。ゴブリンキングやオークキングくらいなら問題ないんじゃないかしら?」
「……ゴブリンは臭くて食えない」
「同感だが……食う事から離れろ、グズル」

 この大陸に暮らす者にとって、人型の魔物はあまり嬉しくない存在だ。
 ゴブリンはグズルの言うように、臭くて食べれたものではないし、オーガはすじが硬く、食べられるとしても調理に手間がかかる。コボルトは味の癖が強く、それを消すためにハーブや香辛料が必要だ。
 唯一オークだけはどの種類も美味しい。上位種になるほど味が良くなるので、オークキングと聞いただけで、口の中を唾液でいっぱいにする者がいるほど。
 実際、オークの事を考えていたグズルは、こぼれ落ちそうになったよだれを誤魔化すようにガンドルフに尋ねる。

「……ライバー達には声をかけたのか?」

 ライバーという名を聞き、ガンドルフは忌々いまいましげな表情を浮かべた。そして、吐き捨てるように言う。

「奴らが我らに協力すると思うか?」
「……すまん」

 グズルが頭を下げると、フラールは肩をすくめた。

「鬼人族、獅子人族、虎人族……見事に脳みそまで筋肉で出来た種族だものね。ワタクシ達と一緒に何かするなんて、無理というものだわ」
「ああ。我が国もよその事を言えんが、奴らは戦闘しか頭にないからな」

 ガンドルフはそう言うと、深くため息をついた。
 実は今回の会談は、顔を見せていない三国の王にも打診してあった。だが、当然のように良い返事はなかった。
 しいて言えば、シュミハザールの王、鬼人族のジャイールは脳筋ではあるものの、じんの人だ。戦いしか頭にないライバーとディーガに比べれば話は通じるのだが……魔物討伐で遠征に出るからと断られていた。
 フラールが苛立たしそうに告げる。

「どちらにせよ、食肉に向かない魔物が増えるのはよろしくなくてよ」
「ああ、分かっている。だからといって、我らだけで対処するのは難しい」
「……人手が足りない」

 ため息交じりの二人の返答に、フラールも深く息を吐いた。

「そうよね。アキュロス以外の国は、食肉確保に人員を割いているわよね」
「ならば、アキュロスで、原因の調査を頼めぬか?」

 ガンドルフにそう言われ、フラールは首を横に振る。

「やめてよ。アキュロスは大陸の北端にあるのよ。大陸全土を調査するなんて無理だわ。アキュロス周辺だけならまだしも」

 フラールに同意するようにグズルも呟く。

「……道理どうりだ」

 それから議論は堂々巡りとなるばかりであった。
 三ヶ国の王が危機感を持てただけでも会談は成功と言える、そう結論づけた三人は、何か分かれば情報を共有すると約束し、話し合いを終えた。
 ガンドルフが、グズルとフラールに告げる。

「ひとまずそれぞれの国で、周辺の魔物の討伐を兼ねて調査するとしよう」
「……分かった」
「ワタクシもそれくらいがいいと思うわ。アキュロスには北の大陸から交易の商人が訪れるから、ごたついているイメージが付くのは良くないもの」

 次回の会談についても取り決めると、それぞれの国へ戻っていった。


 ガンドルフとグズルが帰った後、フラールは自室で書類と格闘していた。フラールはふと顔を上げ、護衛兼侍女の者を呼ぶ。

「リュカ、リュカ、そこにいて?」
「お呼びですか、陛下」

 隣室で控えていたリュカが入ってきた。
 彼女は脳筋の多い鬼人族に珍しく知性に溢れ、フラールの右腕として信頼されていた。フラールはリュカに尋ねる。

「この間見かけた、外套を被った三人を覚えていて?」
「はい、高度な認識阻害の魔導具と隠密系のスキルを持っていたと推測される者達ですね。私ではその存在すら気づきませんでしたが……」

 そう言うとリュカは悔しそうな顔を見せた。

「仕方ないわよ、リュカ。ワタクシはサキュバス族だから、僅かな魔力の違和感を捉えられただけ。それも偶然みたいなものだわ」
「しかし気づけていれば、その場で拘束する事も出来たかと……」
「ああ、無理無理。三人のうち二人は確実にワタクシよりも強かったわ。一人とは互角かもしれないけど、残りの二人とは勝負にもならなくてよ」
「なっ!?」

 リュカが愕然がくぜんとした表情を見せる。
 フラールは冷静な口調で告げる。

「落ち着きなさいな、リュカ。ワタクシので見ても危険な感じはしなかったから大丈夫でしょう……たぶんだけどね」
「……そ、そうですか」

 リュカが落ち着いたところで、フラールは話を続ける。

「あの者達はまだ国内にいる可能性があるわね。城下の兵達に、それらしい三人を見つけたら、ワタクシに知らせるよう手配しておいて。くれぐれも手は出さないように。ちょっと考えがあるの」
「……考え? 分かりました」

 リュカは何か言いかけたが、ぐっと我慢する。リュカは深く一礼すると、そのまま部屋をあとにした。
 フラールがぼそりと呟く。

「魔物が増えた件の調査、彼らなら適任かもしれない……」




 5 接触


 色々な国を巡って情報を集めていた僕達だけど、再びアキュロスに来ている。
 交易の中心であるアキュロスには情報が集まりやすい。いくつもの国に潜入するより、アキュロスで調べた方が楽だと気がついたんだ。
 ソフィアとマーニが独自に調べてきたという情報を報告してくれる。

「タクミ様、どうやら先日、このアキュロスで三ヶ国会談が開かれたそうです」

 ソフィアによると、ロドスのガンドルフ王とバーガードのグズル王がアキュロスを訪れ、フラール女王と話し合ったらしい。

「へえ、そうなんだ。でも、そんな機密きみつっぽい情報、よく掴んだね」

 僕がそう尋ねると、ソフィアは何でもない事のように答える。

「悪魔王ガンドルフは筋肉のよろいに覆われた2メートルを超える巨体。アキュロスにも悪魔族がいないわけではありませんが、王たる風格は誤魔化しようがないですから」
「……まあ、目立つよね」
「また、賢王と言われる獣王グズルは、3メートルを超える熊人族です」
「……確かに間違いようがないね」

 最初はソフィア達の情報収集能力の高さに驚いたけど、よくよく考えたら頷くしかなかった。それだけデカけりゃ嫌でも目に入るか。

「それに、大勢の護衛の兵士を引き連れていたんじゃ、さすがに誰でも分かるか」
「いえ、旦那様。護衛の兵士は少数だったようですよ」

 マーニに言われて思いだした。都市国家ってそもそも少人数からなる国なんだっけ。
 それに――

「……王自身が最大戦力だったね」

 都市国家の住民の戦闘力も大概だったけど、それ以上に王の戦闘力は飛び抜けているらしい。魔境のような土地を少人数で行き来出来るのだから、都市国家の王ってやはりすごいと思う。

「貿易の拠点であるアキュロスとはいえ、三ヶ国の王が集まって会談を開くなんて普通にある事なのかな」

 僕がそう尋ねると、ソフィアは首を横に振って答える。

「一般人の交流はあっても、王自身が足を運ぶのは珍しいそうです。今回はかなり異例のようですね」

 どうやら会談があった事自体、街でも噂になっているらしい。

「随分バレバレだったんだね。まさか会談の内容までは……伝わってないよね」
「さすがにそこまでは……」
「まあ、そりゃそうか」

 国家の元首同士による非公式な会談なんだから、内容が表に出るわけないか。
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