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バスターク辺境伯
サーメイヤ王国の南に位置し、西の一部をローラシア王国と接し、南はゴンドワナ帝国と国境を接する。
サーメイヤ王国の防衛の要、王国の盾と呼ばれているのがバスターク辺境伯だ。
常に他国からの圧力に晒され、何度となく敵を退けて来た、バスターク辺境伯軍は精強で知られていた。
ここはバスターク辺境伯領都のバンスにある領主邸の執務室。そこに置かれた重厚で豪華な机に積まれた、羊皮紙の束を処理しているのは、この屋敷の主人。ゴドウィン・フォン・バスタークその人だった。
分厚いドアをノックする音が響き、ゴドウィンが入るよう促すと、初老の男が入って来た。
「どうしたフレデリック」
フレデリックと呼ばれた初老男が、一枚の羊皮紙をゴドウィンに手渡す。
「ゴンドワナ帝国のチラーノス辺境伯領で、大量の食料、革、馬を集めているようです」
羊皮紙を見ながらフレデリックの報告を聞いて、思わず顔をしかめるゴドウィン辺境伯
「暫く大人しくしてたと思っていたら」
「まぁ散々繰り返して来た事ですが……」
フレデリックの顔色が良くない。
「どうしたフレデリック、何か悪い情報があるのか?」
「パブロ・チラーノスは、今回近隣の貴族から兵を借りてまで兵を集めたようです。その数一万」
この大陸の人口はそう多くない。それは魔物の脅威が日常にある世界で、食料生産量が多くない。
それ故、今までのチラーノス辺境伯との戦争では、五千対五千の拮抗した戦いだった。
「それでいつ頃仕掛けて来る」
「およそ二月後かと思われます」
「フレデリック、冒険者ギルドに依頼を出してくれ」
「かしこまりました」
一礼して部屋をあとにするフレデリック。
フレデリックが出て行ったあと、椅子に背を預ける。
するとノックの音がして、部屋に三十半ばの金髪の女性が入って来た。
「あなた、何かあったんですか?」
女性の名はレイラ・フォン・バスターク、バスターク辺境伯夫人だ。
「レイラか、……そうだな、レイラにも話さねばなるまい。……また、チラーノスと戦争が始まる。お前はクリストフを連れて王都へ避難しろ」
何時もと違う夫の様子に、レイラは不安になる。チラーノス辺境伯との戦争で、レイラを王都へ避難させる事はなかった。
「危ないんですか?」
ドガッ!
そこにノックもなしに、勢い良くドアが開く。
「父上!チラーノスと戦争と聞きました!」
入って来たのは、母親譲りの金髪に線の細い少年だった。
「ノックをしなさい。アルフォンス」
「父上、王都に援軍を要請しましょう!」
ゴドウィンが咎める声を聞かず、王都への援軍を提案する。
「王都の軍は動かせん。あれは王の親衛隊だ。代わりに冒険者ギルドへ依頼を出した。近隣の貴族家にも援軍要請を出している」
「父上!ギルドじゃ人数が揃えられません!」
「仕方あるまい、最悪籠城して援軍を待つ事になる」
「父上!それではバスターク辺境伯領が踏みにじられます」
チラーノスとの戦いでは、何時もは国境付近が戦場になる。互いに自領が荒らされるのを嫌うためだ。だが、攻め込む側は相手の領内で掠奪することも目的である為、国境付近で野戦での撃退が基本戦術だった。
「アルフォンスは儂とバンスを防衛する。辛い初陣になるが、お前もバスターク辺境伯の嫡男だ。王国の盾の名を継ぐ立場に生まれた責務を果たせ」
「……わかりました」
アルフォンスが部屋を出て行く。
「あなた……」
「エルレインに一目会いたかったな」
ゴドウィンは、自分の娘でバスターク辺境伯の長女、エルレインの事を思った。
エルレインは親の欲目なしにしても、美しい娘だった。ハーフエルフである妻のレイラに良く似た自慢の娘だった。
そんな美しい娘故に、中央の法衣伯爵から目に留まり、求婚されるのも仕方のない事だった。
その話をした翌日、エルレインは家を飛び出した。領内をくまなく探させたが、見つからなかった。
「あの子大丈夫でしょうか?とても一人で生きていけるとは思えないのですが……」
レイラが娘のエルレインを心配する。
エルレインはバスターク辺境伯の長女だけあって、箱入り娘として大切に育てられた。
そんなエルレインが、この厳しい世界で一人で生きていける訳がないとレイラは思っていた。
「生きていればサーメイヤ国内には居ると思うが、レイラ王都のギルドで人探しの依頼をだしてみればいい。
それにエルレイン付きのメイドのアンナが、暇を取ってまでエルレインを追い掛けたようだ。運が良ければアンナと合流しているだろう」
ゴドウィンは今更ながら後悔していた。貴族の婚姻とはそういうものだと、エルレインに父親より年上のオークのような男との婚姻話を持って帰った。恋愛結婚した自分とレイラの事を棚に上げて。
その事を、エルレインに家出されて初めて気づいた。
「あなた……、バスターク家はどうなるのでしょう」
「バスターク辺境伯軍は王国の盾。我等が敗れれば国が滅ぶ。必ず守り抜いてみせる」
バスターク辺境伯家は存亡の危機を迎えていた。
バスターク家の屋敷から、早馬が立て続けに各地に出発する。
辺境伯軍がバンスに軍が招集される。
レイラとクリストフは、王都へ向け出発した。
やがて王都にも戦争の情報が届くが、北の辺境の地ノトスに戦争の情報が届くのは、もう少し後の事になる。
サーメイヤ王国の防衛の要、王国の盾と呼ばれているのがバスターク辺境伯だ。
常に他国からの圧力に晒され、何度となく敵を退けて来た、バスターク辺境伯軍は精強で知られていた。
ここはバスターク辺境伯領都のバンスにある領主邸の執務室。そこに置かれた重厚で豪華な机に積まれた、羊皮紙の束を処理しているのは、この屋敷の主人。ゴドウィン・フォン・バスタークその人だった。
分厚いドアをノックする音が響き、ゴドウィンが入るよう促すと、初老の男が入って来た。
「どうしたフレデリック」
フレデリックと呼ばれた初老男が、一枚の羊皮紙をゴドウィンに手渡す。
「ゴンドワナ帝国のチラーノス辺境伯領で、大量の食料、革、馬を集めているようです」
羊皮紙を見ながらフレデリックの報告を聞いて、思わず顔をしかめるゴドウィン辺境伯
「暫く大人しくしてたと思っていたら」
「まぁ散々繰り返して来た事ですが……」
フレデリックの顔色が良くない。
「どうしたフレデリック、何か悪い情報があるのか?」
「パブロ・チラーノスは、今回近隣の貴族から兵を借りてまで兵を集めたようです。その数一万」
この大陸の人口はそう多くない。それは魔物の脅威が日常にある世界で、食料生産量が多くない。
それ故、今までのチラーノス辺境伯との戦争では、五千対五千の拮抗した戦いだった。
「それでいつ頃仕掛けて来る」
「およそ二月後かと思われます」
「フレデリック、冒険者ギルドに依頼を出してくれ」
「かしこまりました」
一礼して部屋をあとにするフレデリック。
フレデリックが出て行ったあと、椅子に背を預ける。
するとノックの音がして、部屋に三十半ばの金髪の女性が入って来た。
「あなた、何かあったんですか?」
女性の名はレイラ・フォン・バスターク、バスターク辺境伯夫人だ。
「レイラか、……そうだな、レイラにも話さねばなるまい。……また、チラーノスと戦争が始まる。お前はクリストフを連れて王都へ避難しろ」
何時もと違う夫の様子に、レイラは不安になる。チラーノス辺境伯との戦争で、レイラを王都へ避難させる事はなかった。
「危ないんですか?」
ドガッ!
そこにノックもなしに、勢い良くドアが開く。
「父上!チラーノスと戦争と聞きました!」
入って来たのは、母親譲りの金髪に線の細い少年だった。
「ノックをしなさい。アルフォンス」
「父上、王都に援軍を要請しましょう!」
ゴドウィンが咎める声を聞かず、王都への援軍を提案する。
「王都の軍は動かせん。あれは王の親衛隊だ。代わりに冒険者ギルドへ依頼を出した。近隣の貴族家にも援軍要請を出している」
「父上!ギルドじゃ人数が揃えられません!」
「仕方あるまい、最悪籠城して援軍を待つ事になる」
「父上!それではバスターク辺境伯領が踏みにじられます」
チラーノスとの戦いでは、何時もは国境付近が戦場になる。互いに自領が荒らされるのを嫌うためだ。だが、攻め込む側は相手の領内で掠奪することも目的である為、国境付近で野戦での撃退が基本戦術だった。
「アルフォンスは儂とバンスを防衛する。辛い初陣になるが、お前もバスターク辺境伯の嫡男だ。王国の盾の名を継ぐ立場に生まれた責務を果たせ」
「……わかりました」
アルフォンスが部屋を出て行く。
「あなた……」
「エルレインに一目会いたかったな」
ゴドウィンは、自分の娘でバスターク辺境伯の長女、エルレインの事を思った。
エルレインは親の欲目なしにしても、美しい娘だった。ハーフエルフである妻のレイラに良く似た自慢の娘だった。
そんな美しい娘故に、中央の法衣伯爵から目に留まり、求婚されるのも仕方のない事だった。
その話をした翌日、エルレインは家を飛び出した。領内をくまなく探させたが、見つからなかった。
「あの子大丈夫でしょうか?とても一人で生きていけるとは思えないのですが……」
レイラが娘のエルレインを心配する。
エルレインはバスターク辺境伯の長女だけあって、箱入り娘として大切に育てられた。
そんなエルレインが、この厳しい世界で一人で生きていける訳がないとレイラは思っていた。
「生きていればサーメイヤ国内には居ると思うが、レイラ王都のギルドで人探しの依頼をだしてみればいい。
それにエルレイン付きのメイドのアンナが、暇を取ってまでエルレインを追い掛けたようだ。運が良ければアンナと合流しているだろう」
ゴドウィンは今更ながら後悔していた。貴族の婚姻とはそういうものだと、エルレインに父親より年上のオークのような男との婚姻話を持って帰った。恋愛結婚した自分とレイラの事を棚に上げて。
その事を、エルレインに家出されて初めて気づいた。
「あなた……、バスターク家はどうなるのでしょう」
「バスターク辺境伯軍は王国の盾。我等が敗れれば国が滅ぶ。必ず守り抜いてみせる」
バスターク辺境伯家は存亡の危機を迎えていた。
バスターク家の屋敷から、早馬が立て続けに各地に出発する。
辺境伯軍がバンスに軍が招集される。
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やがて王都にも戦争の情報が届くが、北の辺境の地ノトスに戦争の情報が届くのは、もう少し後の事になる。
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