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サーリット王国の受難
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その日、サーリット王国を覆う結界が突然消え失せた。
国中のエルフが突然の結界消失にうろたえる。
サーリット王国のフォランバード王は直ぐさま結界を再度張るよう指示を出し、同時に原因究明を指示する。
直ぐさま召集された長老六人により、結界は無事元通りに戻る。
結界を張り終え、魔力枯渇でふらつく長老達は、次の瞬間再び結界が消失した事に、その場で気を失ってしまう。
フォランバード王の狼狽はそれ以上だった。
結界が消失したという事は、森の外縁部より魔物が浸入するかもしれない。
フォランバード王は、宮廷魔道士を召集して結界を復元させる。
結界を発生させる巨大な魔導具の前で、魔力枯渇で倒れる二十人の宮廷魔道士達を見ながら、フォランバード王が騎士団団長スーロベルデに、結界消失の原因を聞く。
「それで、まだまだ切れる筈のない結界が、消失した原因は分かったのか」
「おそらくですが、外からの干渉により結界が強引に壊されたと推測します」
それを聞いたフォランバードが、何を馬鹿なという顔をする。
「このエルフの結界がその様な事で壊れるものか」
「いえ、陛下、実際に外から強力な魔力が干渉した形跡がありました」
「何者じゃ、我等エルフに出来ぬ事を、誰が成し得る!」
声を荒げるフォランバードに、スーロベルデが首を振る。
「陛下、エルフが出来る出来ないではないのです」
スーロベルデはフォランバードに、推測される可能性のひとつを話す。
おそらくこれは様々な魔法職を経て、上級職に至り、膨大な魔力量と魔力値を持つに至った者の仕業だと。
しかも二度に渡り結界を消失させたという事は、そんな存在が複数居るという事だと。
「そのうちの一人は、間違いなくルシエル様でしょう」
「何故、ルシエルが我が国に敵対する様な真似をする!」
そのフォランバードの言葉にスーロベルデは思わず溜息をつきたくなった。
「陛下、火傷でほとんど寝たきりのルシエル様を奴隷商に売ったのは我が国ですよ。それはすなわちフォランバード陛下が許可したという事ですよ」
「い、いや、じゃが、あの時のルシエルは使い物にならんかったし、神聖な森の一部を焼けるのを防げなかった」
「まあ、今はその話はやめましょう。
問題は、結界を消し去れる術者が複数居るという事。そしてそれを成したのがサーメイヤ王国ドラーク子爵の手の者だという事です。
そして、我が国とサーメイヤ王国が戦争になれば、我が国に勝ち目は無いという事です」
「なっ!」
フォランバードが驚愕の声をあげる。
「当然でしょう。我等が頼りにする結界が役に立たないのですから、攻められれば蹂躙されるだけですよ」
フォランバードは口を開けて呆けている。
「だいたいドラーク子爵本人が、ゴンドワナ帝国一万の軍に単騎で戦いを挑み撃退する力を持っているのですよ。私にすればドラーク子爵を我が国の使者が怒らせた様ですが、一角ウサギがドラゴンに噛みつくようなまねをよく出来たモノだと、逆に感心しました」
「なっ、何だ!一万の軍を単騎で撃退するじゃと、冗談も休み休み言え!」
フォランバードには、受け容れられない話のようだ。それはそうだろう、使者がルシエルを返すようにドラーク子爵へと申し入れた事は知っている。フォランバードが使者を送ったのだから当然だ。
それによって怒らせたドラーク子爵が、それ程の武人だとは……。
「ドラーク子爵の功績は本当ですよ。これはローラシア王国やゴンドワナ帝国経由で正確な情報を得ていますから」
フォランバードの顔が青を通り越して白くなる。
「陛下、兵を集めますか?」
「なっ、何故兵を集める?」
「サーメイヤ王国と戦争になれば、先鋒は必ずドラーク子爵軍でしょう。今回の結界消失は結界など役に立たないと知らしめる為です」
「いや、だがら何故ドラーク子爵の軍が攻めて来るのだ!」
スーロベルデはこの国は、いやエルフは大丈夫だろうかと心配になる。
「はぁ、陛下は使者を使って、ルシエル様をドラーク子爵に返せと要求されました。
ですが、今やルシエル様はドラーク子爵の第二夫人ですよ」
フォランバードは、ブツブツと独り言を呟きながら何かを考えている。
「陛下、ドラーク子爵への対応の前に至急取り掛からねばならない事があります」
「なんじゃ、このうえでまだ何かあるのか?」
「結界が二度に渡り消失しましたので、張り直した結界の内側に、魔物や野生生物が入り込んでいる可能性があります。直ぐに軍を動かして駆逐しないと国民に被害が出るかもしれません」
「なっ!大変ではないか!直ぐに軍を向かわせよ!」
サーリット王国の国軍は、結界内に入り込んだ魔物の駆逐に長い期間と労力を費やす事になる。
フォランバード王のドラーク子爵へ、考えなしに使者を送った件で、国王の求心力は地に堕ちる事になる。
国中のエルフが突然の結界消失にうろたえる。
サーリット王国のフォランバード王は直ぐさま結界を再度張るよう指示を出し、同時に原因究明を指示する。
直ぐさま召集された長老六人により、結界は無事元通りに戻る。
結界を張り終え、魔力枯渇でふらつく長老達は、次の瞬間再び結界が消失した事に、その場で気を失ってしまう。
フォランバード王の狼狽はそれ以上だった。
結界が消失したという事は、森の外縁部より魔物が浸入するかもしれない。
フォランバード王は、宮廷魔道士を召集して結界を復元させる。
結界を発生させる巨大な魔導具の前で、魔力枯渇で倒れる二十人の宮廷魔道士達を見ながら、フォランバード王が騎士団団長スーロベルデに、結界消失の原因を聞く。
「それで、まだまだ切れる筈のない結界が、消失した原因は分かったのか」
「おそらくですが、外からの干渉により結界が強引に壊されたと推測します」
それを聞いたフォランバードが、何を馬鹿なという顔をする。
「このエルフの結界がその様な事で壊れるものか」
「いえ、陛下、実際に外から強力な魔力が干渉した形跡がありました」
「何者じゃ、我等エルフに出来ぬ事を、誰が成し得る!」
声を荒げるフォランバードに、スーロベルデが首を振る。
「陛下、エルフが出来る出来ないではないのです」
スーロベルデはフォランバードに、推測される可能性のひとつを話す。
おそらくこれは様々な魔法職を経て、上級職に至り、膨大な魔力量と魔力値を持つに至った者の仕業だと。
しかも二度に渡り結界を消失させたという事は、そんな存在が複数居るという事だと。
「そのうちの一人は、間違いなくルシエル様でしょう」
「何故、ルシエルが我が国に敵対する様な真似をする!」
そのフォランバードの言葉にスーロベルデは思わず溜息をつきたくなった。
「陛下、火傷でほとんど寝たきりのルシエル様を奴隷商に売ったのは我が国ですよ。それはすなわちフォランバード陛下が許可したという事ですよ」
「い、いや、じゃが、あの時のルシエルは使い物にならんかったし、神聖な森の一部を焼けるのを防げなかった」
「まあ、今はその話はやめましょう。
問題は、結界を消し去れる術者が複数居るという事。そしてそれを成したのがサーメイヤ王国ドラーク子爵の手の者だという事です。
そして、我が国とサーメイヤ王国が戦争になれば、我が国に勝ち目は無いという事です」
「なっ!」
フォランバードが驚愕の声をあげる。
「当然でしょう。我等が頼りにする結界が役に立たないのですから、攻められれば蹂躙されるだけですよ」
フォランバードは口を開けて呆けている。
「だいたいドラーク子爵本人が、ゴンドワナ帝国一万の軍に単騎で戦いを挑み撃退する力を持っているのですよ。私にすればドラーク子爵を我が国の使者が怒らせた様ですが、一角ウサギがドラゴンに噛みつくようなまねをよく出来たモノだと、逆に感心しました」
「なっ、何だ!一万の軍を単騎で撃退するじゃと、冗談も休み休み言え!」
フォランバードには、受け容れられない話のようだ。それはそうだろう、使者がルシエルを返すようにドラーク子爵へと申し入れた事は知っている。フォランバードが使者を送ったのだから当然だ。
それによって怒らせたドラーク子爵が、それ程の武人だとは……。
「ドラーク子爵の功績は本当ですよ。これはローラシア王国やゴンドワナ帝国経由で正確な情報を得ていますから」
フォランバードの顔が青を通り越して白くなる。
「陛下、兵を集めますか?」
「なっ、何故兵を集める?」
「サーメイヤ王国と戦争になれば、先鋒は必ずドラーク子爵軍でしょう。今回の結界消失は結界など役に立たないと知らしめる為です」
「いや、だがら何故ドラーク子爵の軍が攻めて来るのだ!」
スーロベルデはこの国は、いやエルフは大丈夫だろうかと心配になる。
「はぁ、陛下は使者を使って、ルシエル様をドラーク子爵に返せと要求されました。
ですが、今やルシエル様はドラーク子爵の第二夫人ですよ」
フォランバードは、ブツブツと独り言を呟きながら何かを考えている。
「陛下、ドラーク子爵への対応の前に至急取り掛からねばならない事があります」
「なんじゃ、このうえでまだ何かあるのか?」
「結界が二度に渡り消失しましたので、張り直した結界の内側に、魔物や野生生物が入り込んでいる可能性があります。直ぐに軍を動かして駆逐しないと国民に被害が出るかもしれません」
「なっ!大変ではないか!直ぐに軍を向かわせよ!」
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